「社内マーケティング」とは、社内の他事業部やグループ会社の営業に自社の商品・サービスを担いでもらうために、組織を動かし、意思決定を促す取り組みのことです。
本記事では、従業員5,000名規模の大手メーカー系商社で社内マーケティングに取り組んだ筆者の経験をもとに、社内マーケティングの具体的な手法とアイデアを解説します。
対象は、複数の商品・サービスを展開する企業で「事業部間の壁」に悩み、他事業部やグループ会社の営業網をいかしたいと考えるマーケティング担当者・営業企画担当者の方です。
【本記事で得られる知見】
- 組織を動かすための3つのKSF(重要成功要因)
- トップダウン・組織文脈・営業接点の各視点から実践できる具体施策
- 営業の脳内シェアを拡大する「わかりやすさ」の磨き方
本記事の内容をまとめたチェックリストもあわせて用意しています。ぜひ自社の取り組みにご活用ください。
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社内マーケティングとは
才流では、マーケティング上の目的を達成するために組織を動かすこと、意思決定を促すことを「社内マーケティング」と呼んでいます。
一般的に、組織は縦組織と横組織で成り立っています。
縦組織は、同じ組織内の上司と部下の主従関係や、部と課の主従関係を指し、大きな括りでの組織目標は共通しています。
一方の横組織とは、マーケティング部と営業部、A事業部とB事業部のような関係です。横組織では組織目標が異なるため、いわゆる「組織の壁」問題が発生しやすくなります。
社内マーケティングでは、こうした組織の特性を理解し、関わる部署の目標や戦略を理解し、シナジーが出せるようにプランを策定する必要があります。
組織を理解しメリットを提示しなければ、組織は動かない
ここからは、社内の他事業部・グループ会社の営業(横組織)に、商品・サービスを担いでもらうことにフォーカスを当てて解説します。
例えば、マーケティング戦略・施策を立案する際、顧客への理解を高めてから企画をすると成功確率が上がります。才流では顧客解像度と呼んでいます。
これは社内マーケティングでも同様で、他組織への理解を深めることで、連携がうまく進む確率は上がります。逆に、どんなに魅力的な商品・サービスでも、相手組織の目的や戦略に合致しなければ協力は得られません。
相手にメリットがなければ動いてもらえないのです。当たり前のことですが、自社のことになると意識が緩みがちになるので気をつけましょう。
具体的には、アプローチする組織について2つの点を把握します。1つ目は、組織の目的や年間方針、中期計画です。組織がどこに向かっているのか、何がメリットになるのかを理解します。2つ目は、各組織の評価制度の仕組みです。営業がどのような原理で動いているのか、何がメリットになるのかを理解しましょう。
組織を動かす、3つのKSF(重要成功要因)

社内の他事業部・グループ会社の営業組織に商品・サービスを担いでもらうためには、組織を動かす3つのKSFが必要です。
- 経営層からのトップダウンになっているか
- 事業部や部課単位の組織文脈に沿っているか
- 組織に所属する個人にアプローチできているか
1つ目のトップダウンは、会社の中期経営計画に合致し、指定銘柄になれば担いでもらえる確率が上がる、という考え方です。2つ目の組織文脈は、組織の目的や戦略に沿っていなければ見向きもされないことを意味します。そして3つ目の個人へのアプローチが必要なのは、顧客との接点が営業だからです。営業との接点を作り、顧客に話したくなる情報を提供することが大切です。
この3つの視点で社内マーケティングを展開すると、大きな動きにつながります。
ここからは、社内マーケティングの具体的な手法やアイデアを紹介します。
※KSF(Key Success Factor):重要成功要因
①会社の方向性に盛り込む(トップダウン)
社内マーケティングで最も重要な成功要因は、会社の方向性と合致することです。一般的には、事業の数に比例して社内競合が増えます。社内競合を勝ち抜くには相応のパワーが必要ですが、実現すれば大きなチャンスが巡ってきます。
会社方針、中期経営計画に組み込んでもらう
まず、経営層に、成長事業であり時流に乗っていることを理解してもらいましょう。事業の数が多い会社の場合は、自分の事業だけでなく他事業も含めて、潮流に合ったテーマとして扱ってもらうことがポイントです。たとえば「DX銘柄事業」「SDGs事業」のような位置づけが理想で、「既存事業」「レガシー事業」という位置づけのままでは選ばれにくくなります。
②各組織の組織文脈に沿う
組織は年間方針と評価制度のもとで動いています。「When in Rome, do as the Romans do.(郷に入れば郷に従え)」という有名なことわざのとおり、営業組織を動かすには年間方針と評価制度を変えることが大切です。
組織のトップを説得し、年間方針に入れる
最初に、組織のトップに、成長事業であり顧客の関心が高いプロダクトであることを理解してもらいます。あわせて、組織内にキーパーソンを立てましょう。キーパーソンには情報伝達や情報収集など、ハブの役割を担ってもらいます。メルマガの転送もキーパーソン経由にします。顔がわからない人からのメールは読まれないためです。
そのうえで、該当プロダクトの拡販について営業プロジェクト化します。ターゲットリストを作成して共有し、定例会を開催しましょう。
組織の評価制度に加える
組織の責任者に確認し、営業がどのような原理で動いているのか、何がメリットになるのかを把握します。具体的には、プロダクトの契約数、紹介数、売上などです。評価制度が個人売上粗利予算やメインプロダクトの契約数のみであれば、メインプロダクト以外にクロスセルプロダクトを設定してもらいましょう。
組織に入り込む
組織が異なると壁が生まれやすくなります。「遠くの親戚より近くの他人」と言われるように、いざというときに頼りになるのは物理的に身近な人です。
具体的には、事業部門内に組織を作ってプロダクト担当を置く、組織内の席を借りて半常駐する、といった方法があります。
③営業接点を押さえる
マーケティングでは顧客接点を押さえることが大切ですが、これは社内であっても同様に大切なこと。組織文脈に沿ったアプローチをしても、顧客と話す個々の営業と接点を持たなければ成果にはつながりません。
個々の営業にアプローチできる仕組み、営業が情報を求めているときにすぐにアクセスできる仕組みを構築しましょう。
勉強会を開催する
社内の他事業部・グループ会社の営業への勉強会は鉄板施策の1つです。勉強会に参加する営業が欲している情報を提供しましょう。どの顧客に何を話せば案件が生まれるか、簡潔に伝えること。勉強会で話すネタは参加者の属性に合わせてチューニングしましょう。
勉強会は基本的に組織ごとに実施し、15〜30分で行います。スライドは端的にまとめてください。盛り込む項目は次のとおりです。営業資料のテンプレート(PowerPoint)を参考にまとめましょう。
- 時流
- 市場の将来性
- ターゲット市場・ペルソナ
- 商品・サービスの概要(エレベーターピッチ)と特長
- 選ばれる理由
- 実績・シェア
- 事例
- よくあるFAQ
- アプローチトーク
参加者は、各組織の責任者にキーパーソンを選定してもらい、少数精鋭で行います。案件紹介後に、該当プロダクトの部門側で支援することを明示し、紹介後の営業負担が少ないことを訴求するのも大切です。勉強会の感想は個別に1on1インタビューでヒアリングし、次回の改善につなげましょう。参加者はチャットグループやメルマガのリストに追加しておきます。
コンテンツを公開する
まず、ターゲット市場の解説資料を作成します。解説資料とは、ターゲット市場や時流、顧客の課題や解決策をまとめた資料を指します(資料のおもな内容は上述の勉強会スライドを参照)。この資料の目的は、営業の顧客解像度を上げることです。
あわせて、営業がすぐに動けるように、リーフレット・提案書・導入事例といったセールスマテリアルを用意します。売り方を解説する動画も作成しましょう。
コミュニケーションチャネルを活用する
Slack、Salesforce Chatter、ChatWorkなどで商品・サービスに関する質疑応答、よろず相談に対応するチャネルを作成し、営業を招待します。他の営業からの質問や相談に対応しながら、定常的な情報提供をしていきましょう。
社内メルマガを配信する
勉強会の参加者に定期的に情報を送ります。営業がメルマガをコピペして、顧客に送れるような本文の書き方を意識してください。商品・サービスの機能説明は最低限にとどめ、営業が顧客と会話する際のネタや事例、鉄板トーク、売れていること(成長率)を伝えましょう。
社内報に掲載する
最新事例やトレンド情報を社内報に掲載するのも有効です。
プロダクトアンバサダーを作る(ファン化)
プロダクトアンバサダーとは、該当プロダクトをよく売ってくれて周囲に推薦してくれる人のこと。他組織に協力者が入るほど、心強いものはありません。営業組織に限らず、他組織からの発信は聞く耳を持たず、優先度が下がる傾向があります。営業組織内部から、商材の情報を発信してくれるアンバサダーを創出しましょう。
具体的には、当該プロダクトを年間で一番売った営業にインタビューし、鉄板トークや仕掛け方(商談事例)を聞いて撮影します。インタビューは導入事例コンテンツのように体裁を整えて、営業組織に発信しましょう。営業の生の声のため、他の営業が興味を持ってくれる確率が上がります。また、インタビューを受けた営業はMVP表彰されている気分になり、当該プロダクトのファンになりやすいのもポイントです。「当該プロダクトについてはあの人(アンバサダー)が詳しい」といった想起も生まれます。
当該プロダクトを売っている営業は、セールスポイントや商談の進め方のノウハウを持っています。セールスへのインタビューは、マーケティング担当者にとって良い気付きが得られることが多いので、強く推奨します。
番外編. わかりやすさを磨く
多くの商品・サービスを売らなければならない営業の場合、1つひとつの商品・サービスを詳しく覚えることはできません。営業の記憶に残らない限り、顧客に話されることはないのです。
ですから、わかりやすさと手離れの良さを徹底的に追求すること。営業の脳内シェアを拡大できるよう、STPやUSPを研ぎ澄ましてわかりやすさを磨きましょう。
※STP(Segmentation/セグメンテーション、Targeting/ターゲティング、Positioning/ポジショニング):商品・サービスが誰に、どのような価値を提供するのか。効果的に市場を開拓するためのマーケティング分析。
※USP(Unique Selling Proposition):商品・サービスが持つ強み
顧客に、つい話したくなるワードを開発する
まず、わかりやすいワードを発明し、そのワードだけを覚えてもらいます。たとえば「印刷1枚5円」のような表現です。
あわせて、簡単なヒアリング項目を教え、案件化の目安を伝えましょう。「月間の処理件数が○○なら投資対効果が高い」「ポスター1枚○○円で外注しているなら導入メリットが出せる」といった具合です。
さらに、見込み顧客が強制的に体験できる、勝手納品を作るのもおすすめです。実物サンプル、デモ画面、診断シート、概算シミュレーションシートなどが該当します。
まとめ
社内の他事業部・グループ会社の営業に、商品・サービスを担いでもらうための社内マーケティングの具体的な手法、組織を動かす3つの視点を紹介しました。①経営層からのトップダウンになっているか、②事業部や部課単位の組織文脈に沿っているか、③組織に所属する個人にアプローチできているか、の3つです。
組織と人を動かすには相応の労力がかかります。中には、社内調整に時間をかけたくないと考える方もいるかもしれません。しかし、社内マーケティングの一環として作るコンテンツの多くは、営業活動にも流用できるので無駄にはなりません。
複数の商品・サービスを展開する企業で、「事業部間の壁」問題に悩んでいる担当者のヒントになれば幸いです。
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※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます