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「営業が売ってくれない!」社員5,000人企業のマーケターが実践した社内マーケティングのすべて

BtoBマーケティング
コンサルタント
桂川 誠

複数の商品・サービスを展開する大手企業で、よくある悩みの1つが「事業部間の壁」。

  • 社内の他事業部/グループ会社の営業に、商品・サービスを担いでもらいたい
  • 新規事業を立ち上げたが、専任営業が不在。顧客基盤を活かせていない

大手企業の強みである顧客基盤や営業網を活かしきれておらず、機会損失を招いているとのお悩み相談が後を立ちません。

筆者は以前、大手メーカー系商社で従業員5,000名(単体)の会社に所属し、あるBtoB事業のマーケティングを管轄していました。その後、全社デジタルマーケティング部門で事業部のデジタル活用の推進やオウンドメディア運用のために、社内マーケティングに奔走した経験があります。

本稿では他事業部の営業に売ってもらう社内マーケティングの手法やアイデアをまとめました。当時の実践経験をベースに、同社のマーケターの取り組みを加えています。

本記事の内容をまとめたチェックリストもあわせて用意しています。ぜひ自社の取り組みにご活用ください。

社内マーケティングのチェックリスト(Excel)をダウンロードする
※個人情報の入力なしでダウンロードできます

社内マーケティング 手法

社内マーケティングとは

本稿で出てくる「社内マーケティング」とはマーケティング上の目的を達成するために組織を動かすこと、意思決定を促すことを指しています。

一般的に、組織は縦組織と横組織で成り立っています。

縦組織は、同じ組織の場合は上司と部下の主従関係、異なる組織の場合は部と課の主従関係になります。この場合は大きな括りでの組織目標は同じです。

一方で横組織は、マーケティング部と営業部、A事業部とB事業部の関係です。この場合は組織目標が異なるため「組織の壁」問題が発生しやすくなります。

縦と横で組織目標が同じか否かの違いはありますが、社内マーケティングのはじめの一歩は、相手方の組織を理解することから始まります。

  • 縦組織では、意思決定のメカニズムを理解する
  • 横組織では、相手の戦略や方針を理解してシナジーが出せるようにプランを策定する

※「社内マーケティング」は造語であり、厳密な定義はありません

組織を理解しメリットを提示しなければ、組織は動かない

ここからは、社内の他事業部・グループ会社の営業(横組織)に、商品・サービスを担いでもらうことにフォーカスを当てて解説します。

例えば、マーケティング戦略・施策を立案する際、顧客への理解を高めてから企画をすると成功確率が上がります。才流では顧客解像度と呼んでいます。

これは社内マーケティングでも同様で、他組織への理解を高めることで、連携がうまく進む確率は上がります。逆に、どんなに魅力的な商品・サービスでも、相手組織の目的や戦略に合致しなければ協力は得られません。

相手にメリットがなければ動いてもらえないのです。当たり前のことですが、自社のことになると意識が緩みがちになるので気をつけましょう。

具体的には、アプローチする組織の次の点を把握します。

  • 組織の目的や年間方針、中期計画
    • 組織がどこに向かっているのか、何がメリットになるのかを理解する
  • 各組織の評価制度の仕組み
    • 営業がどのような原理で動いているのか、何がメリットになるのかを理解する

組織を動かす、3つのKSF(重要成功要因)

社内マーケティング 手法

社内の他事業部・グループ会社の営業組織に商品・サービスを担いでもらうためには、組織を動かす3つのKSFが必要です。

  1. 経営層からのトップダウンになっているか
    • 会社の中期経営計画に合致し、指定銘柄になれば担いでもらえる確率が上がります
  2. 事業部や部課単位の組織文脈に沿っているか
    • 組織の目的や戦略に沿っていなければ、見向きもされません
  3. 組織に所属する個人にアプローチできているか
    • 顧客との接点は営業のため、営業との接点を作り、顧客に話したくなる情報を提供することが大切です

この3つの視点で社内マーケティングを展開すると、大きな動きにつながります。

ここからは、社内マーケティングの具体的な手法やアイデアを紹介します。

 ※KSF(Key Success Factor):重要成功要因

①会社の方向性に盛り込む(トップダウン)

社内マーケティングで最も重要な成功要因は、会社の方向性と合致することです。一般的には、事業の数に比例して社内競合が増えます。社内競合を勝ち抜くには相応のパワーが必要ですが、実現すれば大きなチャンスが巡ってきます。

会社方針、中期経営計画に組み込んでもらう

  • 経営層に、成長事業であり時流に乗っていることを理解してもらう
  • 事業の数が多い会社の場合は、自分の事業だけでなく他事業も含めて、潮流に合ったテーマとして扱ってもらう
    • ◯:DX銘柄事業、SDGs事業
    • ✕:既存事業、レガシー事業

②各組織の組織文脈に沿う

組織は年間方針と評価制度のもとで動いています。「When in Rome, do as the Romans do.(郷に入れば郷に従え)」という有名なことわざのとおり、営業組織を動かすには年間方針と評価制度を変えることが大切です。

組織のトップを説得し、年間方針に入れる

  • トップに、成長事業であり顧客の関心が高いプロダクトであることを理解してもらう
  • 組織内にキーパーソンを立てる
    • キーパーソンには情報伝達や情報収集など、ハブの役割を担ってもらう
    • メルマガの転送もキーパーソン経由とする(顔がわからない人からのメールは読まれない)
  • 該当プロダクトの拡販について営業プロジェクト化する
  • ターゲットリストを作成し、共有する
  • 定例会を開催する

組織の評価制度に加える

  • 組織の責任者に確認し、営業がどのような原理で動いているのか、何がメリットになるのかを把握する
    • プロダクトの契約数、紹介数、売上など
  • 評価制度が個人売上粗利予算やメインプロダクトの契約数のみであれば、メインプロダクト以外にクロスセルプロダクトを設定してもらう

組織に入り込む

組織が異なると壁が生まれやすくなります。「遠くの親戚より近くの他人」と言われるように、いざというときに頼りになるのは物理的に身近な人です。

  • 事業部門内に組織を作り、プロダクト担当を置く
  • 組織内の席を借りて、半常駐する

③営業接点を押さえる

マーケティングでは顧客接点を押さえることが大切ですが、これは社内であっても同様に大切なこと。組織文脈に沿ったアプローチをしても、顧客と話す個々の営業と接点を持たなければ成果にはつながりません。

個々の営業にアプローチできる仕組み、営業が情報を求めているときにすぐにアクセスできる仕組みを構築しましょう。

勉強会を開催する

社内の他事業部・グループ会社の営業への勉強会は鉄板施策の1つです。勉強会に参加する営業が欲している情報を提供しましょう。どの顧客に何を話せば案件が生まれるか、簡潔に伝えること。勉強会で話すネタは参加者の属性に合わせてチューニングしましょう。

  • 基本的に組織ごとに実施する
  • 15〜30分で行う
  • 勉強会のスライドは端的にまとめる
    • 時流
    • 市場の将来性
    • ターゲット市場・ペルソナ
    • 商品・サービスの概要(エレベーターピッチ)と特長
    • 選ばれる理由
    • 実績・シェア
    • 事例
    • よくあるFAQ
    • アプローチトーク

営業資料のテンプレート(PowerPoint)を参考に上記項目をまとめましょう

  • 各組織の責任者にキーパーソンを選定してもらい、少数精鋭で行う
  • 案件紹介後に、該当プロダクトの部門側で支援することを明示し、紹介後の営業負担が少ないことを訴求する
  • 勉強会の感想は個別に1on1インタビューでヒアリングし、次回の改善につなげる
  • 勉強会参加者をチャットグループやメルマガのリストに追加する

コンテンツを公開する

  • ターゲット市場の解説資料を作成する
    • 解説資料とは、ターゲット市場や時流、顧客の課題や解決策をまとめた資料のこと(※資料のおもな内容は上述の勉強会スライドを参照)
    • この資料の目的は、営業の顧客解像度を上げること
  • 営業がすぐに動けるように、セールスマテリアル(リーフレット提案書導入事例)を用意する
  • 売り方を解説する動画を作成する

コミュニケーションチャネルを活用する

  • Slack、Salesforce Chatter、ChatWorkなどで商品・サービスに関する質疑応答、よろず相談に対応するチャネルを作成し、営業を招待する
  • 他の営業からの質問や相談への対応を通じて、定常的な情報提供をする

社内メルマガを配信する

  • 勉強会参加者に定期的に情報を送る
  • 営業がメルマガをコピペして、顧客に送れるような本文の書き方を意識する
  • 商品・サービスの機能説明は最低限にする。営業が顧客と会話する際のネタ、事例、鉄板トーク、売れていること(成長率)を伝える

社内報に掲載する

  • 最新事例やトレンド情報を社内報に掲載する

プロダクトアンバサダーを作る(ファン化)

プロダクトアンバサダーとは、該当プロダクトをよく売ってくれて周囲に推薦してくれる人のこと。他組織に協力者が入るほど、心強いものはありません。営業組織に限らず、他組織からの発信は聞く耳を持たず、優先度が下がる傾向があります。営業組織内部から、商材の情報を発信してくれるアンバサダーを創出しましょう。

  • 当該プロダクトを年間で一番売った営業にインタビューをする
    • 鉄板トークや仕掛け方(商談事例)を聞き、撮影をする
  • インタビューは導入事例コンテンツのように体裁を整えて、営業組織に発信する
    • 営業の生の声のため、他の営業が興味を持ってくれる確率が上がる
    • インタビューを受けた営業はMVP表彰されている気分になり、当該プロダクトのファンになりやすい
    • 「当該プロダクトについてはあの人(アンバサダー)が詳しい」といった想起が生まれる

当該プロダクトを売っている営業は、セールスポイントや商談の進め方のノウハウを持っています。セールスへのインタビューは、マーケティング担当者にとって良い気付きが得られることが多いので、強く推奨します。

番外編. わかりやすさを磨く

多くの商品・サービスを売らなければならない営業の場合、1つひとつの商品・サービスを詳しく覚えることはできません。営業の記憶に残らない限り、顧客に話されることはないのです。

ですから、わかりやすさと手離れの良さを徹底的に追求すること。営業の脳内シェアを拡大できるよう、STPやUSPを研ぎ澄ましてわかりやすさを磨きましょう。

※STP(Segmentation/セグメンテーション、Targeting/ターゲティング、Positioning/ポジショニング):商品・サービスが誰に、どのような価値を提供するのか。効果的に市場を開拓するためのマーケティング分析。
※USP(Unique Selling Proposition):商品・サービスが持つ強み

顧客に、つい話したくなるワードを開発する

  • わかりやすいワードを発明。そのワードだけを覚えてもらう
    • 例:「印刷1枚5円」
  • 簡単なヒアリング項目を教え、案件化の目安を伝える
    • 例:「月間の処理件数が○○なら投資対効果が高い」
    • 例:「ポスター1枚○○円で外注しているなら導入メリットが出せる」
  • 見込み顧客が強制的に体験できる、勝手納品を作る
    • 例:実物サンプル、デモ画面、診断シート、概算シミュレーションシート

社内の他事業部・グループ会社の営業に、商品・サービスを担いでもらうための社内マーケティングの具体的な手法、組織を動かす3つの視点を紹介しました。

  1. 経営層からのトップダウンになっているか
  2. 事業部や部課単位の組織文脈に沿っているか
  3. 組織に所属する個人にアプローチできているか

組織と人を動かすには相応の労力がかかります。中には、社内調整に時間をかけたくないと考える方もいるかもしれません。しかし、社内マーケティングの一環として作るコンテンツの多くは、営業活動にも流用できるので無駄にはなりません。

複数の商品・サービスを展開する企業で、「事業部間の壁」問題に悩んでいる担当者のヒントになれば幸いです。

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