
納品物にバグがあった場合、どんな対応がとれるのか? 民法改正を踏まえて解説
システムやソフトウェアの開発を委託する場合など、現在のビジネス取引において、請負契約が締結されることが多くなっています。
しかし、もし、ベンダが納品したシステムやソフトウェアにバグがあったら・・・クライアントは、どのような手段をとることができるのでしょうか?
現行の民法でも、クライアントはベンダに対して、瑕疵の修補や契約の解除、損害賠償請求ができることが明記されています。しかし、現行の民法は大きく改正され、改正後の民法(一部の規定を除き、平成32年(2020年)4月1日から施行)ではベンダが納品したシステムにバグがあった場合にクライアントがとることができる手段について、重要な変更が生じることになっています。
そのため、今回の民法改正は、クライアント・ベンダの双方にとって重要な改正といえます。そこで、今回は、「納品されたシステムにバグ等があった」場合にクライアントがとることができる対応策について、民法の改正も踏まえて、見ていきたいと思います。
1 対応策(代金減額も可能に)
それでは、「納品されたシステムにバグ等があった」場合、クライアントはどのような手段をとることができるのでしょうか。
現行の民法でも、瑕疵担保責任という規定があります。
納品されたシステムにバグがあった場合に、クライアントはベンダに対して、瑕疵の修補を求めたり、契約を解除したり、損害賠償請求ができるというのが、瑕疵担保責任です。
今回の民法改正により、この「瑕疵担保責任」の内容が変わります。
まず、今回の民法改正では、「瑕疵」という言葉が、「契約不適合」(目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないこと)という言葉に変わりました。
ただ、「瑕疵」から「契約不適合」という言葉にかわっただけで、その内容にほとんど変わりはないと考えられています。システムに重大なバグがあることは「契約不適合」にあたるでしょう。
大きく変わったのは、とることができる手段についてです。
現行の民法では、瑕疵担保責任の内容として、①修補請求、②解除、③損害賠償請求ができるだけでした。
それが、今回の改正により、
①追完請求(目的物の修補や代替物の引渡し)
②解除
③損害賠償
に加えて、
④代金の減額請求
ができるようになりました。ベンダが納品したシステムにバグがあるなどの「契約不適合」が認められた場合、クライアントはベンダに対して、不適合の程度に応じて、ベンダに支払う報酬の減額を請求できるように、改正されたということです。
2 期間制限の変更に要注意
但し、上記の手段をとるにあたって期間制限があることには注意が必要です。
具体的には、クライアントがその不適合を知ったときから1年以内に不適合であることをベンダに通知しないときは、上記の請求ができません。バグがあることに気がついたら速やかにベンダに伝える必要があるということです。
この点については、現行の民法では、成果物の引渡後1年以内に責任追及をする必要があることになっています。
しかし、システムやソフトウェアについては、後から不具合が発見されることが多いですので、「成果物の引渡し」が基準になっていることはクライアントにとって厳しい面がありました。その意味で、「不適合を発見したとき」が基準になったことは、ベンダへの責任追及期間がのびたと見ることもできます。
今回は、民法改正がシステムの開発等に与える影響について見てきました。
しかし、ここでもう1つ、重要なポイントがあります。
それは、これらの民法の規定は、原則として、当事者の合意(=クライアントとベンダの契約)によって、自由に変更することができるという点です。
つまり、契約により、民法の規定を、クライアントに有利にも不利にも修正できるということです。
例えば、上記のとおり、改正民法では、期間制限について「クライアントが不適合を知ったときから1年以内に」と規定されますが、契約により、現行の民法のように「引渡しから1年」と定めれば、こちらの契約内容が優先されることになります。
改正民法の概要を把握しておかないと、クライアント側であるにもかかわらず、ベンダ側に有利な契約書を使ってしまうことにもなりかねません。
そのため、改正民法の内容を把握した上で、その契約書が自分の立場にとって不利な契約となっていないか、チェックできるようにしておくことが重要といえるでしょう。