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100人規模の人員削減、会社存続の危機から「領域特化」のピボットで再起。ベルフェイスのPMFストーリー

新規事業
コンサルタント
小島 瑶兵

BtoB企業のPMF(Product Market Fit)ストーリーを紹介する連載「僕たちのPMFの話をしようか」。

第17回となる今回は、銀行や証券会社など金融機関を中心に活用が進む電話面談システム「bellFace」運営元のベルフェイス株式会社の事例を紹介する。

2015年設立のベルフェイスでは、対面営業が主流だった日本の営業スタイルを変革するべく、創業期から一貫してオンライン営業システムを展開してきた。「インサイドセールス」領域の広がりとともに勢いを増し、2020年2月には総額52億円の資金調達を実施。SaaS企業にとっての重要指標でもある「T2D3」の成長を続けていた。

そんなベルフェイスであったが、コロナ禍で状況が一変することとなる。ZoomやMicrosoft TeamsといったWeb会議システムが日本でも台頭したことで、解約する企業が急増。新規の顧客開拓も思うように進まず、一時は倒産の危機にも見舞われた。100人規模の人員削減をせざるを得ないところまで追い込まれていた同社が、いかにして再起を果たしたのか。

会社の命運をかけた「ピボット」とPMFの舞台裏を執行役員 第一事業部長 兼 事業戦略部長の岩田 恭行氏に聞いた。

本記事は、株式会社日立製作所様の事業創生に関する社内セミナー「FIBU Incubation Lab セミナー『私たちのPMFストーリー:存続危機からの起死回生』」での内容をもとにまとめたものです。

ベルフェイス株式会社  
執行役員 第一事業部長 兼 事業戦略部長
岩田 恭行氏

リクルートでIT製品情報メディアの広告営業からキャリアをスタートし、営業マネジメント業務を経験したのち、セールスフォース・ドットコムにてSFA・CRMを提案するインサイドセールスとフィールドセールスに従事。
その後、BtoBセールス&マーケティングのコンサルティング会社である2BCの立ち上げに参画し、執行役員 兼 コンサルタントとして多くの企業の営業変革/営業DX化プロジェクトを担当。MA/SFA/CRMの各種資格保有。
2019年12月よりベルフェイスへ参画。現在は、執行役員 第一事業部長 兼 事業戦略部長として、電話面談システムbellFace事業のビジネス&プロダクト組織全体を管掌。

「Zoomでやります」急成長の電話面談システムが陥ったコロナ禍の逆境

現在ベルフェイスは金融業界で勢力を広げている。なかでも引き合いが増えているのが、銀行や証券会社におけるリテール営業(個人顧客への営業)分野だ。岩田氏によると、その領域のシェアは「8割近いところ」まで伸びてきているという。

強みは金融×リテール営業に特化して作り込んでいるプロダクトだ。金融商品の提案だけではなく、提案後の書面交付や約定までをオンラインで完結できるのが特長。アプリのインストールやURL発行などの準備も必要ないため、Web会議システムに不慣れな人でも扱いやすい。こうした使い勝手の良さから支持を得て、メガバンクや大手証券会社、地方銀行などまで利用企業を広げている。

もっとも、ベルフェイスが金融企業向けに注力し始めたのは2021年以降のこと。最初から業界特化でサービスを展開してきたわけではない。コロナ前に事業が急拡大していた頃のベルフェイスの方針は、業界や組織規模、利用シーンなどを問わず「営業部門がある企業であれば、われわれのプロダクトをぜひ試してみてください」というものだった。

そんななかで訪れたコロナ禍によるオンラインシフト。顧客のオンライン営業を後押ししてきたベルフェイスにとっては、業界が一気に変わる可能性のある大きなチャンスに思えた。実際に2020年の上半期は問い合わせの件数が1か月で1万件を超えるような月もあるほどで、営業担当者が対応しきれない状態にまでなっていたという。

もともと直前の2020年2月には52億円の大型調達を発表。社員数を今後1年で100人強から400人規模まで増やす計画を掲げ、一気に採用を加速しているタイミングだった。

ただ、当初こそ追い風のようにも思えたコロナ禍における「オンライン営業へのシフト」だったが、次第に雲行きが怪しくなっていった。気がつけば、ベルフェイスにとって強烈な向かい風へと変わっていったのだ。

「世の中の企業が徐々にZoomやTeams、Google MeetといったWeb会議システムに慣れてくると、bellFaceをお使いいただいていた3,000〜4,000社のお客さまの中からも『わざわざbellFaceを使うのではなく、Zoomでやります』という方々が出てきたのです。

2020年の夏以降はまだ新規で売れてはいたものの、変化が早い業界のお客さまには更新のタイミングで解約されてしまうという状態でした。既存のお客さまの流出が止まらないまま、やがて新規の契約もどんどん取れなくなり、経営状況も悪化していったのです」(岩田氏)

事業が思い描いていたように伸びない一方で、人員は増え、組織は肥大化していく。会社は悪循環に陥っていた。

さまざまなコスト削減策を講じたものの、もはや人員に手をつけなければ、会社が持たない状況にまで追い込まれていたという。半年で約200名を採用したベルフェイスだったが、そのわずか半年後にはビジネスサイドやコーポレート部門から希望退職を募集。自然退職も含めて100人以上が会社を去ることになった。

そこからの半年間は、文字どおり生き残りをかけた期間だった。ベルフェイスでは2021年9月に30億円の資金調達を実施。徹底したコスト削減と並行して、再び会社を成長軌道に乗せるべく、それまでの考え方や方針を捨て、ピボットすることを決断した。

「冗談ではなく、本当に会社が倒産するかもしれないと思ったくらいの危機でした。とはいえ会社として諦めるわけはなく、とにかく今までのやり方を変えなければならない。

お客さまの解約が続くなかでも、ずっと使い続けてくださる方や新しく契約してくださる方はいます。そういった方々は何を求めていらっしゃるのかを分析して、ものづくりのリソースも、プロダクトの機能も、すべてそこだけにフォーカスすることを決めました。それが金融×個人営業のユースケースだったんです」(岩田氏)

ベルフェイスが「金融×リテール営業」に絞った理由

なぜベルフェイスは複数の顧客セグメントの中から、金融×リテール営業という領域に活路を見出すことができたのか。岩田氏は「自分たちがお客さまと向き合うなかで得られたインサイトと、中立な立場の第三者から得られた示唆のストーリーが一致した」ことがその一因だったと話す。

当時ベルフェイスでは再起のシナリオを描くにあたり、顧客だけではなく、複数の調査機関にヒアリングを実施していた。ある調査機関からは「Web会議システムの台頭の影響により、オンライン商談システムの市場はこれから縮小していく」というデータが出ていたという。ただ、アナリストに詳しい話を聞いてみると「必ずしもすべてのプレーヤーが打撃を受けるわけではない」という返答があった。

たとえば、BtoBの営業はWeb会議システムに置き換わる可能性が高いが、BtoCの営業には伸びしろがある。Web会議システムに不慣れで不安を抱えるユーザーもいるほか、商談後に書面での手続きや契約が必要な取引の場合には、専用のツールが求められるかもしれない。金融×リテール営業はまさにその代表例だったわけだ。

「並行して複数の調査機関から知見をいただくなかで、BtoCの用途で、とくに金融領域は可能性があるのではないかという兆候をとらえることができました。

実際にわれわれのシステムを継続的に利用いただいていたお客さまの中で、DXに取り組む金融機関は多いです。さまざまなITリテラシーの方々と接しながら、セキュリティ面の課題などにも直面していました。

『Web会議システムでは埋められないギャップを、bellFaceであれば埋められるのではないか』。お客さまからもそのように言われて、向かうべき方向性がはっきりとしてきたのです」(岩田氏)

それまでのベルフェイスは、セールスを強みとしたトップダウン型のスタイルだった。創業者で代表取締役の中島一明氏のアイデアをプロダクトに落とし込み、持ち前の営業力を武器に展開していく。実際に当初はそれで成果が出ていたのだ。

「これまでのやり方が機能しなくなったときに、考え方を柔軟に変更できる経営者はとても優れていると思います。

本人もブログに書いているのですが、オンリーワンのときは着想と営業力で勝てたけれど、コロナ禍による市場の変化でそれでは勝てない状況になってしまった。これからは自分たちが作りたいものではなく、お客さまが真に欲するものを追求していくべきだと方針を変えました。そのくらい、崖っぷちだったのです」(岩田氏)

お客さまから教えてもらったbellFaceの独自価値

岩田氏の話にもあるとおり、コロナ禍以降の数年でWeb会議システムの市場は一気にレッドオーシャンと化した。海外の強力な競合とも比べられるなかで、ベルフェイスはどのように独自の提供価値をとらえ、磨いていったのだろうか。

「なぜWeb会議システムがあるのにあえてbellFaceを使い続けていただけているのかをお客さまに尋ねてみたところ、『Web会議システムで必要な、メールアドレスを送ってログインをするといった一連の手順が、エンドユーザーにとってはまどろっこしく、使いづらい』とおっしゃったんです。

電話で金融商品を案内しながら、そのままスムーズに進められるのが良いという声は、それまで自分たち自身でも明確には気づいていない価値でした」(岩田氏)

画面共有機能についても同じような気づきがあった。ベルフェイスのシステムには、あらかじめ顧客企業の管理部門が許可した資料のみをクラウド上にアップロードし、画面上に表示できる機能が組み込まれている。

Web会議システムにおいて画面共有機能は標準的なものだが、金融業界においては、それでは不十分なのだという。

「金融機関の方々にとって、画面共有は顧客情報の漏洩などの観点でリスクのある行為とされています。そのため、各担当者が自由に画面を共有して相手に見せることはできません。

そういった悩みを抱えていらっしゃるお客さまから、『Web会議システムでは画面共有ができず、何も資料をお見せできないのですが、bellFaceの仕組みのおかげで資料をお見せしながらプレゼンできるんです』と言っていただくことがありました。

先ほどの話とも共通するのは、お客さまから教えていただいたおかげで、差別化となっているプロダクトの価値に気づけたということです」(岩田氏)

特許を取得しているリモートコントロール機能は、その過程で生まれた機能の1つだ。これは営業担当者側が表示している画面を、顧客が遠隔で操作できるというもの。顧客の署名や同意が必要な手続きをオンライン上で完結させるうえで、重要な役割を果たしている。

プロダクトカンパニーへの大胆な投資

業界問わずどんなシーンでも使える電話面談システムから、金融×リテール営業のニーズにフォーカスした特化型のシステムへ。狙うべき市場・プロダクトを見直したのと並行して、ベルフェイスでは組織体制にもテコ入れをした。

ピボットにあたって組織の規模を大幅に縮小したことは先述したとおりだが、組織のカルチャーもセールス主導からプロダクトを軸にとらえた「プロダクトカンパニー」へと転換を計った。

以前は実質的に中島氏がCPO(プロダクト責任者)を兼任しているような体制だったが、経営メンバーにCTOやCPOを招へい。全体としては人員を削減したが、プロダクト側に関してはむしろ人員を増やし、体制を強化した。

「あまりにも急激な変化だったこともあり、プロダクトとビジネスの間でちょっとしたあつれきがあった時期もありました。もともと営業が強い会社だったところからプロダクトカンパニーへ、反対方向に振り切ったわけですから。

ただ最終的には自発的にワンチームにまとまっていきました。希望退職者を募る過程で、本心ではまだベルフェイスで挑戦したいことがあったはずなのに辞めざるを得なかった人たちもいたんです。私個人としては勝手に責任感のようなものを感じていましたし、同じような思いを持っていたメンバーも多かったように思います。そのような一体感が組織の団結の前提にあったのかもしれません」

顧客に背を向けてはならない

大胆なピボットから約3年。現在ベルフェイスでは金融業界の企業とディスカッションする際、システム導入前の段階から、エンドユーザーごとの課題感やその解消シナリオについて業務フローに落とし込みながら詳細にヒアリングをする。

そこには過去の反省も影響している。実は逆境のなかで金融×リテール営業に可能性を見出した頃、ベルフェイスでは他の金融領域や不動産など別の業種への展開にもチャレンジしたことがあった。ただ、結果的にPMFの手応えを得られたのは、金融の中でも「銀行と証券の、なおかつ個人営業の領域」(岩田氏)だった。

必ずしも最初の反応が悪かったわけではない。むしろシステムを見せると積極的に導入してくれる業界もあった。ただPMFした領域の顧客と比べると、現場の熱量や目的意識が乏しいように感じるケースも少なくなかったという。そのような企業からは、受注はできても導入後にあまり活用されず、更新のタイミングで解約されてしまう。

「金融のお客さまにはプロダクトの独自の価値がすごくフィットしていますし、金融DXという文脈のなかで、具体的な導入シーンや機能の使い方、目指すべき方向性などが合意しやすいです。

PMFしていない他の領域のお客さまも導入してはくださるのですが、最後に『やっぱりZoomでも十分みたいです』と解約されてしまうことがあります。それは結局、独自の提供価値からズレた売り方をしてしまっているということです。

お客さまに販売する際、プロダクトを売ってからがスタートではありません。プロダクトの具体的な利用シーンや求める価値、費用対効果などを含めて、売る段階からしっかりと突き詰めていかなければならないと改めて学びになりました」(岩田氏)

ベルフェイス自身、再び成長軌道に乗るまでに2年以上を要し、さらなる成長に向けて今も試行錯誤を続けている段階にある。そんな岩田氏に、改めて同社のピボットからの再起について振り返ってもらった。


「いま本当に向き合うべき顧客セグメントを特定し、そのお客さまに対して社内のリソースを集中させることに注力すべきです。しかし、その点では私たち自身もまだまだ未熟ですし、ここに至るまでに多くの時間を要しました。

ただトップも管理職のメンバーも、『顧客に背を向けてはならない』ということを、念仏を唱えるがごとく、ことあるごとに繰り返し言い続けてきました。結果として少しずつそのようなカルチャーが醸成されてきていると思っています。

会社や事業によって状況は違うかもしれませんが、『顧客に背を向けてはならない』という理念を追い続けることは、誰であっても共通して挑戦できることではないでしょうか」(岩田氏)

(文:大崎 真澄)


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