才流ではBtoBマーケティングの戦略立案や伴走支援を行っていますが、お客様からよくご相談をいただくのが「新規事業のマーケティング」に関する課題です。
「新製品が本当に売れるのか不安」「何から始めたらいいのかわからない」「早く成長軌道に乗せたい」……。
新規事業は、仮説検証を短サイクルで繰り返し、自社製品が売れる顧客セグメントや製品の価値を伝えるマーケティングメッセージを発見していくことが重要です。しかし、既存事業とはまったくアプローチが異なるため、課題を抱えている方が多いのです。
そこで才流では、新たに新規事業支援のコンサルティングサービスを立ち上げました。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら
才流の「新規事業マーケティングプロジェクト」が実際どのように進むのか、具体的に何をするのか。製品がない状態から、どのように顧客を獲得したのか。事例をふまえて、リアルにお伝えします。
ご紹介するのは、株式会社ディバータ様の支援事例です。「新規事業開発における仮説検証のノウハウがもっと広まるといい」と、企画趣旨に賛同いただき、記事制作にご協力をいただきました。代表取締役社長 加藤 健太様には、厚く御礼を申し上げます。
また加藤様に、本プロジェクトの成果や率直な感想をお寄せいただいた記事も公開中です。併せてお読みいただけますと幸いです。
新規事業マーケティングの共通課題
「まだ新規事業の段階で、そもそも売れる証明をできていない」
「特定市場では安定して売れているが、成長のための新市場を見つけなければいけない」
フェーズは違いますが、どちらも「自社製品が売れる、新しいセグメントを発見したい」と考えている事業責任者やマーケティングマネージャーの共通課題です。
新規事業を立ち上げ、軌道に乗せるまでの道のりは「落とし穴」の連続です。スタートアップ企業はもちろん、大手企業の新規事業でも資金やリソースは潤沢ではありません。
ノウハウが無いなかで、落とし穴を回避し、売れることを証明する。かつスピーディーに立ち上げ、社内外の協力を取り付けなければならないのです。
そこで新規事業支援では、仮説検証を短サイクルで繰り返し、売れるセグメントや売れるロジックを発見していくことが重要です。
プロジェクトの概要と成果
事例企業「株式会社ディバータ様」
本記事でご紹介する事例企業は、ディバータ様。純国産CMSの開発を手がけている企業です。
2021年10月。代表の加藤様から「新製品を作りたいが、マーケティング戦略を相談したい」とご連絡をいただき、プロジェクトはスタートしました。
この時点では、製品の構想はあれど、市場調査などは行っておらず、そもそも開発にも着手していない状態でした。
新規事業開発の背景と課題
ディバータ様の主力製品Kuroco(クロコ)は拡張性・柔軟性が高く、エンタープライズ企業を中心に支持を集めているCMSです。その裏返しとして、導入には時間をかけたプロジェクトマネジメントが必要で、小規模サイトには向いていない設計でした。
そこで
- Kurocoの基盤は採用しつつも、特定のユースケースに絞ることで、よりシンプルな機能群にまとめる
- 短期で低コストで導入できるプロダクトを作る
の2点をふまえた新規製品を開発し、既存製品の可能性を広げたいと考えていたそうです。
ただ、ディバータ様は「製品の構想はあるものの、マーケットのニーズが見えていない」ことに課題を感じていたそうです。
- ほんとうに顧客に興味や関心を持ってもらえるのか?
- そもそも、どのセグメントが顧客になるのか?
- どんな機能が必要とされるのか?
まったくわからない状態だったと言います。それを検証するにも、ノウハウやリソースがなかったのです。
そこで才流では、プロジェクトの要件整理を行いました。要件整理は、プロジェクトの初期に必ず上図のフォーマットで実施しています。
途中で軌道修正をすることもありますが、要件整理のスライドを用意することで、クライアントとの認識のズレを防いでいます。
全体スケジュール
2021年10月~22年3月まで。4か月半かけて、40件近い調査インタビューや、検証のためのコンテンツ作り、広告運用、実際の営業活動などを行いました。
さらに、一歩踏み込んだプロジェクトのタイムスケジュールは下図のように設定しました。
見込み顧客インタビューと仮説構築に想定よりも時間がかかってしまったものの、全体としては4か月半のスケジュールに収まりました。当初の想定では、最後にサービスのLP(ランディングページ)を作る予定でしたが、検証結果を踏まえ、サービス開発を優先することにし、サービスLPは作りませんでした。
本プロジェクトの成果
最終的に、売れるセグメントや勝てるコンセプトの初期戦略ができ、製品リリース(モニター版)に向かう意思決定を行えました。
製品がない状態でも、広告経由で6件、ご紹介で1件の商談を獲得。4件の有料モニター契約の口頭確約に至りました。
また加藤様は、「後半の商談中に聞いたお客様の声から、新しい発想が出てきたこと。ニーズが発見できたのは一番大きな収穫だった」と振り返っています。
1か月目【ヒアリング・ブレスト・調査】
ここからは、時系列に沿ってプロジェクトの具体的な動きをご紹介します。
最初の1か月で着手したのは、次の3つです。
- 情報のキャッチアップ
- 売れるセグメント候補のブレスト
- 調査インタビュー
情報のキャッチアップ
まずは情報のキャッチアップにひたすら努めました。ディバータ様より、既存事業であるKurocoに関するレクチャー、新製品の構想、優位性と考えている価値などを教えていただきました。並行して、CMS関連の市場調査や競合調査も行いました。
売れるセグメント候補のブレスト
次に、どんなセグメント候補があるのかをブレストしました。ディバータ様から2名、才流から2名が参加し、次のことを話し合いました。
- どんな業界?
- どんな用途?
- どんな会社?(具体的な社名)
- どんな人?
これを書き出すことで、顧客やターゲットに対する解像度高く議論を進めることができます。
ブレストの中で20以上のユースケースが出てきましたが、最終的には4つのユースケースに絞り、調査インタビューをすすめることが決まりました。
調査インタビュー
調査インタビューでは、これまでご縁のあった方やご紹介、SNSの活用、ビザスクなどでご協力者を募りました。
(参照)SAIRU NOTE「見込み顧客インタビューの効果を高める26のチェックリスト~ビザスク活用編」
インタビューは1セグメントにつき、最低2名は実施しました。2名に話を聞いてすぐに検討中止になったセグメントもあれば、7名に話を聞いて新たな調査セグメントの発見につながることもありました。
2か月目【調査・仮説構築】
2か月目に行ったのは、次の2つです。
- 調査インタビューの続き
- 仮説構築
調査インタビューの続き
調査インタビューは合計で23名に実施しました。インタビューは1名、約1時間で実施しています。
(参考)SAIRU NOTE「顧客理解に役立つ、見込み顧客インタビューシート」
対象者は主にマーケターやホームページ管理者。デジタルマーケティングの取り組みを伺うとともに、サイトの会員化に関して過去の検討内容をヒアリングしました。
また、5枚ほどのサービスコンセプトのラフ資料を突貫で作成し、「もしこんな製品があったら、どう感じるか?」といったヒアリングも行いました。
仮説構築
インタビューを繰り返していくと、明らかにセグメントによって反応が異なることがわかりました。良い反応だったセグメントの共通項を洗い出し、顧客にとっての商品価値、代替手段との差異(ポジショニング)、訴求メッセージを初期仮説として構築しました。
また、インタビューと並行して製品名の検討もすすめました。製品名に関しては
- わかりやすさ
- 覚えやすさ・響き
- 意味合い
などをふまえて、ディバータ様、才流からどんどん案を出し合いました。
ボツ案としては、「IDList」「資料ダウンロード増えるくん」「会員オン」などがありましたが、最終的に資料を届けてくれる犬をイメージした「DocDog(ドックドック)」を採択しました。
最終的な製品のポジショニングをまとめたのが、次の図です。
「DocDog」の顧客の価値は、会員サイトを作るよりも手軽に情報蓄積ができることであると判断しました。
コンセプトを示すキャッチコピーは才流のコンサルタント16名(当時)全員で、アイデアを出し合いながら、ディバータ様と一緒に決めていきました。
キャッチコピー作成は、次のプロセスを経て決定しました。
- 才流コンサルタント全員でブレスト
- コンサルタントが出したキャッチコピー案に入っている要素を分解
※「早さ」「手軽さ」「機能」など全8要素に整理 - 要素に優先順位をつけて取捨選択
- 「最もわかりやすく、適切に要素を表す言葉」を選択
また、一つ工夫した点は、新しい製品を「どう活用したら良いのか?」顧客によりわかりやすくイメージしてもらうために「モデルケース」を作ったことです。
本来は「事例」として出せるのがベストですが、まだ開発前の製品なので、当然導入企業は0社です。それでも、調査インタビューを経て「どういった企業が、どういう課題を持ち、新商品でどう解決できるのか?」の仮説は構築されていたので、それをモデルケースとして具体化しました。
ここで作ったモデルケースは後に、モニター募集時に大活躍してくれました。
3か月目【検証の設計~オペレーション・広告運用の準備】
3か月目からは、主に新プロダクトのコンセプトの検証を行いました。
- 検証の設計
- 検証コンテンツづくり
- 検証オペレーションづくり
- 広告アカウントの準備
検証の設計
検証は定性検証と定量検証を1か月間、並行して行いました。定性検証はターゲットセグメントへのプレ営業、定量検証はGoogleやFacebook広告への出稿です。
GoogleとFacebook広告の比率は柔軟に調整する前提で、最初から細かく決めてはいませんでした。実際に初期設定はGoogle20万円、Facebook10万円でしたが、1週間も立たないうちに予算消化ペースに差が現れ、最終的には逆転してGoogle5万円、Facebook20万円の出稿量になりました。
検証コンテンツづくり
「実際にこの製品は売れるのか?」この問題を解決するため、検証コンテンツを2つ作りました。営業資料と、モニター募集のティザーサイト(簡易LP)です。
営業資料は才流が出しているテンプレートを使って作成しました。
(参考)SAIRU NOTE「営業資料の作成・改善に使える62のチェックリスト【テンプレートあり】」
あくまでも検証のための営業資料なので、細かく作り込むことはしません。10分でサービス紹介を行えることを意識し、全15ページの資料としました。
もう1つ作ったのは広告を出稿した際に、ランディングページとなるティザーサイトです。
正式リリース時には使うものではないので、費用を抑え最短で作ることを意識しました。STUDIOというノーコードでサイトが制作できるツールを利用し、ランディングページのテンプレートを参考に約3週間で制作しました。
(参考)SAIRU NOTE「BtoB商材のLP(ランディングページ)の標準ワイヤーフレーム」
限られた工数のなか、最短で営業資料やティザーサイトを作るため、才流でもゼロから作ることはせずに、テンプレートをおおいに活用しています。
検証オペレーションづくり
コンテンツ作りと並行して、実際に問い合わせが来た場合のオペレーションを整備しました。
「問い合わせが来たら対応」と簡単にいっても、実際のオペレーションでは、「誰が連絡する?」「メール文面は?」「追客は何回?」「トークスクリプトは?」「商談調整の方法は?」など考えることがいくつもあります。
これらを整理し、ルール化しました。
本プロジェクトでは、ディバータ様で問い合わせ対応を行うリソースがなかったため、問い合わせの一時対応は才流で行い、本商談は才流とディバータ様同席で実行しました。
広告アカウントの準備
広告アカウントも、細かく作り込まず、多少粗くともスピード感を持って検証を行い、学びを得ることを重視しました。
用意した広告クリエイティブは4パターン、これもABテストではなく「どの訴求軸がはまるか?」を意識して分けるだけにしました。
4か月目【検証・広告運用・実商談】
4か月目は制作したティザーサイトや営業資料をもとに、さらに検証インタビューを行いつつ、広告運用や実際に商談を行いました。
- 検証インタビュー
- 広告運用
- 実商談
検証インタビュー
検証インタビューは約30分、次のステップで実施しました。
- 事前にティザーサイトを見てもらう
- アイスブレイク 2分
- 会員サイトへの意向などのヒアリング 8分
- 営業資料を使ったプレ営業 10分
- フィードバック 10分
フィードバックの際は、まず次のアンケートを提示し、回答してもらいます。そうすることで率直な意見を引き出せるとともに、なぜその判断になったかを深堀りしやすくなります。
広告運用
広告出稿は1か月間実施しました。当初見込みとは異なりGoogle広告からの流入は少なく、代わりにFacebookが伸びました。最終的には約25万円の広告費で12件の問い合わせが発生しました。
この結果から、検索ニーズの有無、反応するクリエイティブ、問い合わせの動機(魅力に感じたポイント)など多くのインサイトを得られました。
実商談
広告からの問い合わせ12件の中で商談に至ったものは6件、ご紹介から発生した1件を加え、7社と商談を行いました。最終的には4社から有料モニター利用のご希望をいただきました。
真剣な実商談をすることで、検証インタビューでは得られなかった「具体的な検討にともなうニーズとハードル」を生々しく知ることができました。
この実商談には全件、ディバータ様に同席していただくことで、事業性の判断も手触り感を持って行うことができました。
5か月目【初期戦略の構築と今後の方針決定】
5か月目は、製品を販売するための戦略を立て、方針を決定するフェーズ。プロジェクトの最終工程です。
初期戦略の構築と今後の整理
モニター利用希望社も正式に決まり、4か月目の仮説検証は上々の結果となりました。検証を経たインサイトをふまえ、「売れるセグメント」「勝てるコンセプト(キャッチコピー)」「拡販の方針」を初期戦略として決定できました。
現在は、口頭確約を頂いているモニター利用希望4社と連携し、モニター版の開発を進めています。(2022年4月現在)
プロジェクトを終えて
新規事業は千差万別なので、すべて同じようなスケジュールで進むわけではありません。結果もさまざまでしょう。それでも、見込み顧客に接し、解像度を高め、仮説を作り、検証をして、精度を上げる一連のプロセスには再現性があります。
この記事を通して、才流で実際に取り組んだプロジェクトのリアルな様子が少しでも伝われば幸いです。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、新規事業の立ち上げからPMFに至るまで一気通貫で支援しています。新規事業で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)
- 製品開発前に仮説検証を通じて勝ち筋を見つけたい
- 新製品の売れる証明をしたい
- 成長した事業の「次の売れるセグメント」を見つけ出したい
などのご相談もお受けしています。個別相談も行っておりますので、ぜひ気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら