営業力の強化は企業における最重要課題のひとつ。近年、営業力を強化するために多くの企業が「営業研修」を実施または見直し、もしくは導入を検討しています。
これまでも営業パーソンへの教育自体は多くの企業が実施していましたが、教育する内容が担当者によって異なり、属人化しやすいという課題がありました。
営業研修は、営業パーソンのスキルアップだけでなく、営業組織全体の強化を目指すための施策です。体系化したプログラムを組むことで教育の属人化を防ぐ効果があります。
本記事では、営業研修の概要や取り組み方、社内研修と外部研修のメリット・デメリットについて解説します。研修企画のヒントとなれば幸いです。
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営業研修とは
営業研修とは、セミナーやロールプレイングを通して、営業活動の知識やスキル、マインドセットを身につけるための研修です。営業組織が抱える課題やメンバーの役割に応じたプログラムを用意し、体系的な教育体制を構築することで営業力の強化を目指します。
営業研修によって成果を上げている企業は多く、営業人材を育成するための研修プログラムがある企業は、研修プログラムがない企業と比べて、10%以上の差をつけて増収増益の割合が多いという調査結果もあります。
※出典:ソフトブレーン株式会社「営業の人材育成についての実態調査」
営業研修が求められる背景
これまでも営業パーソンの教育は多くの企業で行われていました。ただ、体系化したプログラムを組んだ営業研修を実施している企業は多くありませんでした。
しかし近年は労働人口の減少や、人材の流動が活発となったことを背景に、企業は個人のスキルに頼るのではなく、組織全体での営業力の強化を図るようになりました。営業組織を強化するための包括的な仕組みづくり「セールスイネーブルメント」が注目され始めたのも、その一環といえるでしょう。
※関連記事:セールスイネーブルメント入門〜営業力を高めるテンプレート集〜
営業研修やセールスイネーブルメントが求められるようになった背景には人材の流動化や労働人口の減少という観点以外にも、以下のような点が挙げられます。
・営業手法が多様化している
・OJT(※)には限界がある
・人的資本経営の指標となる
※OJT:オージェーティー/On-the-Job Trainingの略。日常の業務に就きながら行われる教育訓練のこと。
それぞれについて解説します。
営業手法が多様化している
MA(※)やSFA(※)ツールの普及など営業活動のデジタル化が進み、コロナ禍以降はオンラインでの営業活動も一般的になりました。また急速に変化する市場において、顧客のニーズも複雑化しています。
従来の営業手法では対応しきれないケースは増えており、営業パーソンに求められるスキル水準も高くなっています。後述する「OJTには限界がある」にも通じることですが、これらの多様な営業手法やスキルを身につけるためには、研修という形式で体系的に学ぶのが理想的です。
※MA:マーケティングオートメーション/Marketing Automationの略。顧客データに基づくマーケティング施策の自動化をサポートするツール。
※SFA:エスエフエー/Sales Force Automationの略。営業活動の記録、進捗状況、顧客情報などを管理するシステム。
OJTには限界がある
日本では研修よりもOJTを重視する傾向があります。しかしOJTには、「指導者の負担が大きい」「指導者のスキルや時間的余裕によって教え方や内容が異なり、育成状況がバラつく」といった課題があります。
営業研修では、組織として必要な知識やスキルを定義し、それらを身につけるためのプログラムを組むため、属人的な教育にはなりにくい傾向があります。
また、最近の若手営業パーソンは、「とりあえずやってみる」よりも「お手本を見せてほしい」という傾向があるといわれています。若手社員のモチベーション維持、早期離職を防ぐ意味でも、まず最初に基本となる行動を研修で教えることは有効でしょう。
※出典:株式会社サプリ「“とりあえずやってみて”はもう響かない 。「若手営業パーソンの育成に関する調査報告書2022」を発表」
人的資本経営の指標となる
近年は人材を「資源」ではなく「資本」と考える、人的資本経営という考え方が広がりつつあります。人的資本経営とは、企業で働く人材を資本のひとつとして捉え、人材価値を最大限に引き出すことで企業価値を高める経営手法です。
政府は2023年3月決算期から、有価証券報告書を発行する大手企業に対して、人的資本に関する情報開示を義務化しました。
開示しやすく実施しやすい点から研修に関する項目、たとえば「研修時間」「研修費用」などは、人的資本経営の指標に挙げられています。
営業研修は人的資本経営の指標をつくるために実施するわけではありませんが、近年のトレンドに沿った取り組みといえます。
主な研修の形式
研修の形式は、セミナーや勉強会などの座学研修と、ロールプレイング、営業同行などの実践研修の大きく2種類に分けられます。営業研修では、必要な知識やスキルを体系的に学べるように座学研修と実践研修を上手に組み合わせて設計しましょう。
セミナー・勉強会
セミナーや勉強会などの座学研修では、講師やトレーナーが営業に関する知識やスキルを講義形式で伝えます。
この形式のメリットは、講師やトレーナーの専門的な知見や経験に関する情報を多くの受講者に効率よく伝えられることです。一方、デメリットは、実践的なスキルは教育できないこと。後述する実践研修と連動する内容にしたほうが効果的です。
また、座学研修では基本的に講師やトレーナーが一方的に話をするため、営業研修を企画する際は、受講者の理解を深めるために質疑応答の時間を確保することも大事。受講者が自主的に作業をする「ワークショップ」を導入するのもよいでしょう。
ロールプレイング
ロールプレイングとは、実際の営業活動を想定して、受講者同士や講師を相手に模擬商談を行うことです。
この形式のメリットは、実践を通して現場で必要となるスキルを教育できること。一方で、指導者によってフィードバックにバラつきがあるなど、実施にあたって難しさを感じる企業も少なくありません。
ロールプレイングを実施するにあたっては、評価方法が指導者によってバラつかないように、正しいトークを定義し、評価シートを活用するのが効果的です。
ロールプレイングの評価シートは下記からダウンロードできます。
※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。
なお、ロールプレイングを一過性の取り組みではなく、社内文化として定着させるために、定例化するのがおすすめです。
※関連記事:営業ロープレの正しい運用方法【評価シート付き】
営業同行
営業同行には大きく2パターンあります。ひとつは、研修の初期段階に、新人・若手が上司や先輩社員の商談に同行するパターン。現場を通して顧客理解を深め、営業トークを学べます。
もうひとつは、上司や先輩社員が新人・若手の商談に同席し、アドバイスや指導を行うパターン。具体的なフィードバックが可能で、必要であれば助け舟を出すこともできます。
ただし、営業同行は顧客からすると2人を相手にすることになり、負担を感じるかもしれません。同行する場合は、その旨を事前に顧客へ伝えておきましょう。
営業研修で得られる成果
では、実際に営業研修に取り組むことでどのような成果を得られるのでしょうか。
① 新人・若手の早期戦力化
新人・若手の育成は、多くの営業組織が抱えている課題です。2020年に株式会社ラーニングエージェンシーが管理職1,070人を対象に行った調査によると、半数以上が部下の育成に悩んでいると回答。また、部下の成長を感じられない管理職の割合は、5年前の3倍に増えているという結果も出ています。
※出典:株式会社ラーニングエージェンシー「管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」/”部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に」
才流にご相談いただく企業においても新人・若手に関して、以下のような課題感を持っているケースが多いようです。
新人・若手が順調に成長しない原因は、先述したOJTのみに頼った育成体制にあると考えられます。正解がわからないままに、実践経験を積んだとしても思うような成果が得られないのは当然です。
営業研修では、セミナーや勉強会を通じて基礎的な知識やスキル、模範となる行動を学ぶことからはじめます。基礎的な知識やスキルを身につけた後に実践の場を経験するので、育成効率も高くなり、新人・若手の立ち上げを早められます。
② 組織の営業力の底上げ
営業スキルは、個人の経験やノウハウに依存していることが多く、属人化しやすい傾向があります。営業スキルが属人化すると、売上が一部のハイパフォーマーに偏ってしまいます。とくに、中途採用の人材を中心に構成されたチームだと、個人のスキルに依存しやすい傾向が強くなるでしょう。
営業研修は、営業に関する基礎知識やプロセス、トークなどを組織内に浸透させる役割を果たします。社内の共通認識としても機能するので、メンバー同士のコミュニケーションがスムーズになり、組織全体の営業力強化に大きく貢献します。
なお、外部の企業に委託する「外部研修」を活用すれば、自社内にはない知見やノウハウを取り入れられます。高度な知識や経験が必要とされるリーダー・マネージャー研修は、外部リソースをうまく活用するのもよいでしょう。
営業研修で注力すべき内容
営業研修では基本的な知識やスキルを教育することが目的ですが、とくに注力すべき内容は、以下の3つです。
- 「商材」を理解する
- 「顧客」を理解する
- 「営業活動の進め方」を理解する
1.「商材」を理解する
営業パーソンとして顧客からの信頼を得るためには、商材について深く理解し、的確な提案・質疑応答ができなければなりません。営業研修では、商材の概要や事業を取り巻く外部環境、顧客への提供価値を体系的に学べるようにしましょう。
ポイントは、機能・サービス内容にとどまらず、バリュープロポジション(※)や訴求ロジックを言語化すること。広い視点で商材を理解できると、商談で話せる内容も広がります。
※バリュープロポジション:企業が顧客に提供する価値を表したもの。才流ではさらに、「自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したもの」と定義している。
※関連記事:バリュープロポジションとは?作り方と事例~テンプレート付きで解説~
2.「顧客」を理解する
営業で成果を出すには、自社の商材を理解しただけでは不十分です。新人・若手の営業パーソンが成果を出せない背景には、「顧客の発言の背景を理解できない」「顧客が困っているポイントを想定して先回りできない」という課題があります。
営業研修では、自社商材のターゲットやペルソナを定義し、顧客ごとの検討背景や購買プロセスなどケーススタディを含めて学ぶことが重要です。顧客像や困りごとについて言語化して学習可能な状態にすることで、顧客理解のスピードを早められます。
※関連記事:顧客理解を深めるための12の手法
3.「営業活動の進め方」を理解する
営業活動の進め方は、属人的になりやすい傾向があります。研修では営業プロセスや営業フェーズ、具体的な進め方、よくある対応について、基本となる進め方を定義しましょう。進め方の基準を設けることで、新人・若手の育成の効率がよくなり、マネージャーやOJT担当者の負担も軽減できます。
おおまかな営業の流れだけではなく、「アポ獲得」「初回商談」など各アクションの準備方法や進め方の指針をまとめておくのがおすすめです。また、営業研修では営業活動の進め方と並行して、各プロセスで必要となるスキルを教育することも重要です。
【各プロセスに焦点を当てたスキル例】
・顧客分析
・事前準備
・ヒアリング
・プレゼン
・クロージング など
※関連記事
・導入事例を競合分析や顧客理解に役立てるためのテンプレート
・失注商談顧客の掘り起こしがうまくいく事前準備のポイント
・商談で活用できるヒアリングシート
営業研修を企画する際の手順
営業研修を企画する際のステップは以下の2つです。
- 営業組織の課題を整理する
- 研修方法を検討する
手順1.営業組織の課題を整理する
最初に、営業組織が持っている課題を洗い出します。研修は、あくまで課題解決の手段。実現したい理想からブレイクダウンして課題を整理しましょう。
課題を洗い出したら、それぞれの課題の原因を考察します。その際、短絡的な考え方をするのは危険です。なぜなら、課題の原因を深く分析しないと、筋違いの解決策になってしまう可能性があるからです。
課題の原因を整理・分析したことが課題解決につながった、ある企業の事例を紹介します。その企業では、マネージャーが多忙のため、部下の育成・事業成長ができないという課題がありました。
しかし、部下の育成や事業成長がうまくいかない根本の原因はマネージャーが多忙だからではなく、マネジメントの方法、マネージャーの教育方針にあることがわかったのです。
「若いうちは失敗してもよい」というマネージャーに対して、若手は「失敗したくない」という気持ちが強く、失敗を続けるうちに学習意欲がそがれていたのです。
この企業は課題の原因を特定し、研修プログラムを見直しました。若手の自主性に頼るのではなく、マネージャーが伴走する方針で施策を進めるようになり、育成の成果が改善されたといいます。
手順2.研修の実施方法を検討する
次に、整理した課題や現場の状況に合わせて、研修の内容や形式を考えます。研修を内製化するか外部に依頼するかも含めて検討しましょう。
手順1で紹介した企業では、実現可能性や費用、時間、部下の成長を軸として、社内育成と外部研修を比較。その結果、アウトソーシングする方が現実的だという判断に至ったといいます。
研修方法は課題や現場の状況に応じて柔軟に選択することが重要です。社内研修と外部研修それぞれのメリット・デメリットを踏まえて、判断しましょう。
※社内研修と外部研修のメリット・デメリットについては後述します。
【社内研修で使えるマニュアル資料・トークスクリプト】
社内研修を行う場合、前提として「自社商材の売り方の基礎」を定義する必要があります。以下のリンクでは社内研修で使える、マニュアル資料の作り方やトークスクリプトの作成方法を解説し、テンプレートを配布しています。ぜひ業務にお役立てください。
※関連記事:
・営業マニュアルの作り方【テンプレート付き】
・チームの営業力を底上げするトークスクリプトの作成・運用方法 【テンプレート付き】
社内研修と外部研修の違い
営業研修を実施するにあたって、もっとも迷うポイントが研修を社内の人間のみで実施するか、外部に委託するかの選択です。適切な判断を下すためには、社内研修と外部研修のメリット・デメリットを理解しておく必要があります。
メリット・デメリット
社内研修と外部研修、それぞれのメリット・デメリットを内容、費用、リソース、客観性の4つの観点で比較し、以下の表にまとめました。
社内研修は内容の柔軟性やコスト面で優れていますが、研修担当者のリソースが割かれるというデメリットがあります。外部研修は、サービスによる幅が大きいため、自社に合った研修会社を見つけることが重要です。
社内研修を実施する場合の注意点
社内研修では、ベテラン、ハイパフォーマー、マネージャーの意見がそろわず、社内の協力を得にくかったり、かえって反発を招いてしまったりするケースがあります。
また、上層部のメッセージが前面に出過ぎて、客観性が欠けた研修内容になる可能性もあるので注意しましょう。
外部研修会社の選び方
外部研修の場合、研修内容が講師の経験や力量によって大きく左右されるため、その見極めは重要です。
外部の研修会社は、以下のようなポイントで比較検討するとよいでしょう。
- 業界、競合、営業スタイルへの理解があるか
- 営業・講師の両面で、講師に豊富な実務経験があるか
- プログラムにカスタマイズ性があるか
- 研修後のサポートがあるか
外部の研修会社を上手く活用できれば、チームの負担軽減と営業スキルの底上げを同時に実現できます。
まとめ
営業研修を企画する際は、自社の営業組織の課題を整理して、必要となる知識・スキルを定義することからはじめます。
営業研修の内容は会社によって異なるものの、「商材」「顧客」「営業活動の進め方」の理解に重きを置くことをおすすめします。本記事を参考に、自社にとって最適な営業研修を企画いただければ幸いです。
法人向け事業に特化した、才流の営業研修の特長
才流の法人向け営業研修は、企業コンサルティングで培ったメソッドを個社ごとにチューニングして提供しています。プログラムの特長は以下の4つです。
【研修内容の一例】
プログラム | 内容(抜粋) |
営業の基礎知識 | 顧客と信頼関係を構築する方法、自社の強みの理解、価値訴求などの 営業活動に必要な要素・行動を体系的に理解します |
商談シナリオの規定 | 自組織に最適な商談シナリオ(プロセス・時間配分)の設定方法を レクチャーします |
商談ステップごとのスキル | 顧客の訪問前から訪問後のすべての商談プロセスを細分化し、 各プロセスで必須となるスキルを習得します |
商談同席・フィードバック | 実商談の同席を通し、学習したプログラムの理解・習熟度合いを 踏まえたフィードバックを実施し、成長を促進させます |
スケジュール例
才流の営業研修について、さらに詳しくはこちらのページで紹介しています。
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繊維専門商社を経て営業特化のコンサルティング会社にて、個別企業支援、ミドルマネジメント層向けビジネススクール講師、シンクタンクでの講演を実施。営業プロセス設計、営業スキル向上の支援を中心にシニアコンサルタントとして従事。MBA(経営学修士)
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