
業界シェア80%を超える「クラウドサイン」の強みはどこにあるのか?【BtoBマーケティングの事例分析】
初めまして。株式会社才流の金森です。
本記事では、業界シェア80%の実績を誇り、現在急成長しているクラウド電子契約サービス「クラウドサイン」(弁護士ドットコム株式会社の提供)について分析していきます。
※注:当記事は、こちらの記事のサマリー版となります。
まず、簡単に弁護士ドットコム株式会社の概要から見ていきます。
■ 会社の概要
- 企業名:弁護士ドットコム株式会社
- 市場:東京証券取引所マザーズ市場(2014年に上場)
- 創業年:2005年7月4日
- 創業者:元榮太一郎
- 従業員:172名(2018年9月末時点)
- 経営理念:「専門家をもっと身近に」
世界中の人達が「生きる知恵=知的情報」をより自由に活用できる社会を創り、人々が幸せに暮らせる社会を創造するため、「専門家をもっと身近に」を理念として、人々と専門家をつなぐポータルサイト「弁護士ドットコム」「税理士ドットコム」「ビジネスロイヤーズ」、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」を提供。
■ 直近の業績ハイライト
■ 弁護士ドットコムの一事業である「クラウドサイン」にフォーカス
①クラウドサインとは?
弁護士ドットコムが運営するクラウド電子契約サービス。契約書の作成から締結、保管まで Web 上で行うことができる。利用者は契約書のファイルをクラウドサイン上にアップロードし、相手方がクラウドサイン上で契約内容を承認するだけで、契約締結が可能です。また、従来紙で締結を行う際に発生していた郵送代、印紙代、紙・インク代、契約締結後の原本保管スペースなどのコスト削減に加え、契約締結を簡単かつスピーディにすることができます。
②クラウドサインの実績
- 業界シェアは80%超
- 2018年10月には、クラウドサインの導入企業数が30,000社を超える(詳細はこちら)
- 契約締結件数は時期により変動はあるが増加基調
ここから、「クラウドサイン」をとりまくマクロ環境について見ていきます。
③マクロ環境分析
▼3C分析
顧客はだれで、市場規模、ニーズはどのようなものか?
- 顧客:機密保持契約書や雇用契約書、業務委託契約書などの締結業務を行う企業、個人事業主。
- 市場規模:日本における市場規模は不明。(cf.アメリカにおけるリーガルテックの市場規模は5,000億円)
- ニーズ:従来の契約業務にかかる諸々のコストカット等
自社の強みと、その根拠となる経営資源は何か?
- 弁護士ドットコムなどの既存事業で培ってきた士業ネットワーク。(弁護士ドットコムの登録弁護士数は16,000人超。)
- ネットワーク効果のきくサービス( ※「周囲からの高い評価」という当記事の最下部辺りで詳細説明。)
- 豊富な業務提携数(ex.キャスター、AI-CON 、ランサーズ)
- 弁護士業界及びリーガルテックに特化している点
- 法律に詳しい(ex.法律ガイド)
- 意思決定過程、スピード、組織全体のモメンタム等のソフト面
競合他社はどこか?
▶︎競合他社
・GMO Agree
・Adobe Sign
・DocuSign
・Holmes(比較記事)
・クラウドコントラクト
※ DocuSign:競合サービスであるDocuSign(2003年創業)はカナダ発の企業。2018年、ナスダックに上場している。
▼PEST分析
事業に影響を与えている(与える)政治的な要因は何か?
- 法律環境の整備(電子帳簿保存法、電子署名法、e-文書法、IT一括書面法)
- 2019年4月より、労働条件通知書の電磁的方法による提供が認められることに。政府による規制緩和が事業の追い風に。
事業に影響を与えている(与える)経済要因は何か?
- クラウドの普及(2018年は「SaaS元年」という報道も。)
- 競争環境の激化→コストカットできる部分はコストカットしたい
事業に影響を与えている(与える)社会要因は何か?
- リモートワーク、働き方改革などによる従業員の雇用形態の多様化。人材の流動性も高まったことにより、契約手続きなどの回数も増えた?
- 前近代的な契約手続きへの懐疑
- 日本に強く残る「紙と判子文化」
事業に影響を与えている(与える)技術要因は何か?
- サイバーセキュリティ関連技術の向上(リスクも常にある)
- SaaSの浸透
- インフラ環境の整備
▼ビジネスモデル分析
- フリーミアムモデル(ex. Dropbox、Apple music)
個人的に、スタンダードプランの契約書送信件数ごとの費用:「100円」というところが気になります。仮に、1日に1千件の契約が全ての課金ユーザーの間でなされたとします。それだけで10万円(100円 × 1000件)になるということですよね。ネットワーク効果により、今後も加速度的に契約締結数が増加すると見込むと、それだけでも凄いことになりそうです。
④ ミクロ環境分析
▼組織全体による積極的な情報発信
- クラウドサイン事業責任者:橘大地 氏
- クラウドサインカスタマーサクセス部門マネージャー:岩熊勇斗 氏
ここでは、橘氏と岩熊氏を挙げさせていただきましたが、他にも多数の方々が、Twitterで発信をしているようです。自社プロダクトを誇りに思っていることがよく伝わってきます。
2017年8月頃には導入企業数1万社を記念して、こんなキャンペーンサイトも制作しています。「クラウドサイン浸透の歩み」や「クラウドサインが大切にしていること」、そして「クラウドサインが与えた社会的影響」をインフォグラフィック等を用いて説明しています。従業員個人としても、組織としても、発信がかなり上手い印象を受けますよね。
▼ユニークな取り組み
- ボードゲーム製作(後述するタクシー広告のCMでもボードゲームを使用)
- SUZURIでグッズ販売(ステッカーやパーカーなどを販売)
▼ユーザーからの機能要望と開発ロードマップを全公開
ユーザーからの機能要望と、開発状況の最新情報開発状況・リリース時期などをGoogleスプレッドシートで全公開しています。
この施策に込めた思いや、背景はこちらの記事をご覧ください。
▼カンファレンス施策
-
クラウドサイン3周年イベント
他に、第2回契約書タイムバトルも11月末に開催される予定です。
▼メディア露出
たとえば、こちらの記事。
以下のようなことが、事業責任者の橘氏によって語られています。
- 日本における判子の歴史、判子での契約取引がまだ流通している理由
- ネットワーク効果
- グレーゾーン解消制度
- 100パーセント債権回収ができるスキーム
▼ 動画広告
▼タクシー広告
2018年10月1日より、タクシー動画広告をスタート。「電子契約といえばクラウドサイン」という認知を向上させる施策。
■ 周囲からの高い評価
①クラウドサインが「2018年度グッドデザイン賞」を受賞
②元・楽天株式会社執行役員のシバタ ナオキ氏からの評価(詳細はこちらの記事)
- PayPal創業者のピーター・ティールが言うところの「縦に独占せよ」というポリシーに従っている?
- 一つの会社の中で異なる2つのネットワーク効果を上手に作り上げている弁護士ドットコムのビジネスモデルは、非常に美しいモデル。
※ 2つのネットワーク効果とは?
【1】弁護士ドットコムにおける「ネットワーク効果」
「弁護士」と「ユーザー」の2層におけるネットワーク効果 より多くの弁護士が登録して回答する => より多くのユーザーにとって魅力的な法律相談データベース => 更に多くの弁護士にとって魅力的なプラットフォームになる。
【2】クラウドサインにおける「ネットワーク効果」
「法務部同士」の1層におけるネットワーク効果。クラウドサインを利用して「契約書を送る」という行為そのものが新規顧客獲得につながる。
■ 所感
弁護士ドットコム株式会社の一事業である「クラウドサイン」に、フォーカスを当ててリサーチをした所感は以下のようになります。
- 「紙と判子で契約締結する今までの契約締結のあり方」を抜本から変えていきたいという目的がある。
- このゴールを成し遂げるには、日本にずっと沈着している「紙と判子」の文化や「規制外の規制」など高い壁がある。
- それを達成するための一つの手段として、積極的な情報発信(市場への投げかけ・市場啓蒙的位置付け)をしているのではないか?
- 「ユーザーのため / 社会のために自社サービスを広める」という熱い想いがあるからこそ、スッと情報が入って来やすく印象も良い。
以上です。