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Goodpatchが10年間「デザイナーを魅了する記事」を出し続けられる理由

BtoBマーケティング
株式会社才流 代表取締役社長
栗原 康太

2020年6月、「デザイン会社」として初の上場を果たした株式会社グッドパッチ

そんな同社の認知を高めている情報発信チャネルの一つに、10年続くオウンドメディア「Goodpatch Blog」があります。

しかし驚くべきことに、立ち上げ当初から経営としてオウンドメディアのKPI報告を求めていないとのこと。その真意を探るべく、代表の土屋さんと広報の杉本さんに取材の機会をいただきました。

グッドパッチ社が10年間も良質な記事を出し続けられている秘訣を、ぜひご覧ください。

土屋 尚史 氏
株式会社グッドパッチ 代表取締役 兼 CEO

Webディレクターを経て、サンフランシスコに渡りデザイン会社でスタートアップ支援に携わる。2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。

杉本 花織 氏
株式会社グッドパッチ 広報

女性向けサービスを展開する事業会社で新規事業立ち上げを経験後、2017年にグッドパッチ入社。PR/People Experience担当として社内外のコミュニケーション施策を担当。

※当記事は才流代表の栗原がコンテンツ発信に成功している会社へ取材する連載『コンテンツマーケティング探訪』第五弾としてお届けします。

PVを追わないのは「続ける」前提だから

―― グッドパッチさんのオウンドメディアは、2022年10月で10周年を迎えられていますね。

土屋:「とにかくまずは続けよう」とオウンドメディアを立ち上げ、もう10年経ちますね。途中、執筆リソースをなかなか確保できず記事の公開頻度が落ちた時期もありましたが、2013年4月にスタートした「新しいものが大好きなGoodpatchで話題になったアプリ、サービス、デザインまとめ」という連載はいまだに毎月更新を続けています。

――  土屋さんがオウンドメディアのKPI報告を求めないのはなぜでしょうか。

土屋:なにがあってもブログは “続ける” と決めているから、ですね。仮に経営者が「オウンドメディアってやる意味あるの?」と懐疑的なのであれば成果をレポーティングする必要があると思いますが、うちはそもそもブログをやめるつもりがないので、KPIをベースにした存続可否判断をする必要がないんですよ。

長らくWeb業界にいてたくさんの企業ブログを見てきましたが、そのほとんどは、月間目標PV数が達成されなかったときに「これだけコストをかけているのにたった数千PVしかないのか」と経営者が投資をしなくなり、そして消えていきます。

グッドパッチでは、発信を続けていくことに意味があると考えています。月間何PVだとかブログ経由のお問い合わせが何件だとかは、改善材料として参考にはしますが、経営としてはいまだに追っていません。広く読まれる記事もあれば特定の人に刺さる記事もあるので、数百PVしかない記事があってもなんとも思いませんね。

―― なるほど。“続ける” と決めているからこそ、あえて数字を追わないんですね。

土屋氏を情報発信に向かわせるもの

―― そもそも「オウンドメディアを始めよう」と思ったのはどうしてですか?

土屋:制作会社でWebディレクターをやっていた20代の頃、僕は自社のリスティング広告も運用していました。こうしてお問い合わせいただくお客様って、ニーズは顕在化しているものの基本的には相見積りをとっていて、価格や機能重視で企業を選びますよね。

一方で、その後サンフランシスコでお世話になったbtraxというデザイン会社は、自らコンテンツを発信することでお問い合わせを獲得していました。これを見て、「将来起業したら、自分たちの仕事のやり方やこだわり・価値観を発信することで、自社に共感してくれるお客様からお問い合わせをもらえるようにしよう」と決意したんです。

こうした背景があり、会社が軌道に乗りはじめた2期目に真っ先に取り組み始めたのがオウンドメディアでした。

―― 土屋さんご自身は昔から情報発信に積極的だったのでしょうか?

土屋:学生時代の苦手科目は現国で、「自分で作文を書くなんて無理だ」と思っていたような人間ですが(笑)、僕は会社の誰よりもブログを書いていると思います。

25歳のときに「WordPressでブログを構築してみよう」とSEOブログを立ち上げたのがきっかけで、そこから文章を書くようになりました。当時何者でもなかった僕がシリコンバレーに渡り起業したストーリーも「Like a Silicon Valley」というブログにすべて残しています。グッドパッチの面接にくる人たちはいまだにこのブログを読んでくれていますし、これはもう僕の資産ですね。

土屋:起業までの道のりも組織崩壊や上場のストーリーも、「いまこのタイミングで僕の頭のなかにある言葉をインターネット上に残し、世の中に伝えねばならない」という使命感で書いています。インタビューで誰かに書いてもらうのではなく、自分の手で、自分の言葉で書かなきゃいけない、と強く思うんですよね。

―― 土屋さんご自身が情報発信を重んじるからこそ、「とにかくブログを続ける」という意思決定が生まれたんですね。

案件獲得を目指す < 大義名分を掲げる

―― いざオウンドメディアを立ち上げたあと、どのように運営し広がっていったのでしょうか。

土屋:立ち上げ当初、僕らのメイン事業である「UIデザイン」領域の情報は国内にまったく流通していませんでした。そこでまずは「そんな状況に困っているデザイナーの役に立つ情報を発信しよう」と、海外の翻訳記事や国内のアプリまとめ記事から作っていきました。

その後「なぜ日本のWebデザインはダサいのか?」という記事がバズったあたりから、情報感度の高いデザイナーの間で徐々に認知度が上がっていった感覚があります。 “UIデザインの情報を得られる数少ないブログ” として、SNSでフォローしてもらえたりブックマークしてもらえたりしたんじゃないでしょうか。

―― 素朴な疑問なんですが、“案件獲得” ではなく “デザイナーの役に立つ” ことを重視したのはなぜですか?

土屋:全記事に「お問い合わせください」と入っていたら、「これは案件をとるためのブログなんだな」と萎えるじゃないですか(笑)。幸いなことに当時はこちらのリソースに対し多くのお問い合わせをいただいていたので、案件獲得に焦る必要がなかったという背景もあります。それにオウンドメディアは、大義名分のもと役立つ情報を発信して “共感してもらうこと” のほうが大切だと考えます。

結果として、採用にはすぐに効果があらわれました。情報感度の高いデザイナーがブログを読んで応募してくれるようになりましたね。問い合わせ数は厳密にカウントしていませんが、Money Forwardさんリンクアンドモチベーションさん(モチベーションクラウド)の事例記事を出すようになってから反響を感じるようになりました。

―― 採用効果が高いとなると、ビジネス全体への貢献度も非常に高いと言えそうですね。

情報発信に社員を巻き込むために

―― 現在はどのように社内を巻き込み、運営しているのでしょうか。

杉本:執筆者には金銭的なインセンティブも支給していますが、ただそれだけで動機付けするのではなく、「発信することでセルフブランディングにつながりますよ」と社内に呼びかけています。また、「この記事をきっかけにこんな反響・お問い合わせがありました」といった成功事例を紹介しながら、「自分たちがやってみたい仕事を引き寄せるためにも、みんなで発信しましょう」と繰り返し伝えていますね。

あとは執筆の負担を下げるために、約3万件のナレッジが溜まっている社内wikiから「このナレッジ、ブログにしませんか?」とよくスカウトしています。「対外的に発信するのってちょっとハードル高いな」と感じるメンバーに対しては、「社内wikiにちょっと手を加えるくらいの気持ちで大丈夫ですよ!」とフォローを入れて一緒に記事を作るようにしています。

―― 社内wikiからブログ化する流れ、とても理想的ですね。

土屋:社内wikiも定着するまでかなり時間がかかりましたけどね。2017年当時、「グッチパッチはUIデザインに強い」とマーケットから認識されはじめていたにもかかわらず、会社に蓄積されているノウハウがなにもなかったんですよ。「いざ入社してみたら体系的なノウハウがなく、みんなも困ったよね。だから社内にちゃんとナレッジを溜めていこう」と何度もしつこく呼びかけました。

最初は誰も書いてくれませんでしたが、経営企画室の社員中心に地道に声をかけていくことで、次第にナレッジがドキュメント化される文化に変わっていきましたね。

―― 社内wikiもブログも、経営者である土屋さんの確固たる方針共有と、運営チームによる地道な声かけによって社員を巻き込めているのだな、と感じました。

長期の合理を見据え、短期では非合理な選択もする

―― 最後に、グッドパッチさんが情報発信をする上で大事にしていることを教えてください。

杉本:1つめに、「人と人とのコミュニケーションである」という前提に立つことを心がけています。オウンドメディアってつい大勢に向かって発信するイメージを持ちがちですが、1つ1つのコンテンツには「書いた人」と「受け取る人」が存在します。なので公式アカウントからの情報発信であっても “ちょっと人っぽさを残す” ことを意識しています。

2つめに、「伝え方をデザインする」ことを大事にしています。たとえ同じ内容であっても、それを誰が言うのか、どう表現するのかによって、受け取り手の印象は変わりますよね。そのため広報としては、経営者やマネージャーをうまく巻き込んで発信していくことも重要だと考えています。

そして3つめは、「まずは他者の役に立つことから始める」というgiveの精神です。たとえば先日とあるブログに対して「この記事、要点をチェックリストにしてくれないかな」という引用RTをいただきました。そのとき、すぐに社内でチェックリストを作成してくれたメンバーがいて、お返事をしたらとても喜んでいただけたんですよ。

杉本:正直そこまでやらなくても、目の前の売上に影響が出ることはありません。でもそこまでやり切ることで「さすがグッドパッチさんだね」と、チリツモでブランドへの信頼が生まれると思っています。短期的に見れば非合理だけど、長期的に見れば合理的だから、giveし続ける。それがグッドパッチに浸透している考え方だと思います。

―― 目の前のKPIに追われることなく「デザイナーの役に立つ」というオウンドメディアの大義名分をブラしていないからこそ、これらを徹底できるのではないかと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

まとめ

Goodpatchが10年間「デザイナーを魅了する記事」を出し続けられる理由

  • 「とにかく続ける」と決めているのであえてKPIは見ない
  • 案件獲得を目指すより、大義名分を掲げる
  • 「まずは他者の役に立つことから始める」というgiveの精神を持つ

オウンドメディア成功の鍵は「まず経営者が “続ける” と決めること」である、と確信を得た取材でした。

そのためコンテンツ発信の目的は「毎月何件の案件を獲得する」といった短期的なものよりも、「ノウハウを言語化して人材を育成する」「情報発信を通して業界を盛り上げる」といった、重要度が高く終わりのないものを掲げたほうが続けやすいと言えるでしょう。

ぜひこの機会に、自社のコンテンツ発信の目的が “掲げ続けられるもの” になっているか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

今後もコンテンツ発信成功企業に取材し、成功要因を探っていきます。どうぞお楽しみに。

(写真:矢野 拓実、文:まこりーぬ

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