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「インバウンド」なマーケティングの体現者であれ。HubSpotブログの裏側

BtoBマーケティング

コロナ禍で急速にデジタルシフトが進むセールス・マーケティング領域において、ますます業績を伸ばしているソフトウェア「HubSpot」。

インバウンドマーケティングの提唱者である同社において、それはいかにして実践されているのか? という素朴な疑問のもと、今回はHubSpot 日本語公式ブログ編集長の水落 絵理香さんにお話をうかがいました。

まるで教科書のように厚みのある記事はどのようにして生まれているのでしょうか。コンテンツの質と量、どちらも高めていきたいとお考えの経営者・マーケターのみなさまは特に必見です。ぜひご覧ください。

※当記事は才流代表の栗原がコンテンツ発信に成功している会社へ取材する連載『コンテンツマーケティング探訪』の第二弾としてお届けします。

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水落 絵理香 氏
HubSpot Japan株式会社 HubSpot 日本語公式ブログ 編集長

CMS制作会社の営業職に従事した後、Webマーケティングメディア「ferret」の立ち上げから参画し、ライター・副編集長を経て独立。「MarkeZine」や「ITMedia Marketing」「AMP」など複数のビジネスメディアで執筆活動する傍ら、BtoB、BtoC複数企業のオウンドメディア支援を行う。2020年1月より現職。

注目を浴びる「トピッククラスターモデル」の実情

―― HubSpot 日本語公式ブログでは骨太な記事が数多く公開されていますよね。こうしたコンテンツの制作にはどれほど時間をかけていらっしゃるのでしょうか。

HubSpot 日本語公式ブログでは、HubSpot本社が生み出したSEO戦略「トピッククラスターモデル」にもとづいて記事を制作しています。例に挙げていただいた上記の記事は「ピラーページ」と呼ばれる、軸となるコンテンツです。

【参考】トピッククラスターモデルとは
特定のトピックを中心に、関連性のあるブログ記事をグループ化することで検索エンジンからの評価を高めるSEO戦略。そのトピックに関する全般的な概要をまとめたWebページ(ピラーページ)を柱に据え、同じエリアに分類される具体的で掘り下げたブログ記事(クラスターコンテンツ)をハイパーリンクで連結する。

1つのトピッククラスターを構築するのには3〜4ヶ月程度かかっています。1ヶ月前後でトピックを選定し、その後クラスターコンテンツを6〜8記事+ピラーページを1記事制作していく、という流れです。

―― トピッククラスターモデル、ぜひ弊社でも実践してみたいと考えています。軸となるトピックはどのように選定しているのでしょうか?

トピックは四半期ごとに候補を洗い出し、そこから一定の検索ボリュームがある、かつHubSpotとして価値提供できる余地があるものを選定します。トピック候補は市場のトレンドや競合の動き、HubSpotが今期注力したい製品などから洗い出すだけでなく、お客様の声をひたすら聞いて回って抽出しています。

検索トラフィックを向上させるためには、結局検索ユーザーがなにを求めているのか、つねに理解しようとする動きを止めないことが欠かせません。そのため商談の録画音声を聞いたり既存顧客にヒアリングしたりと、お客様がいまどんな課題感を持っているのかしっかり拾うようにしていますね。

―― 参考までに、トピッククラスターモデルを実践するなかで失敗したエピソードがもしあれば教えていただけますか。

1つのトピッククラスターが大き過ぎていろんな検索意図が混ざってしまい、結果として誰向けに何を伝えたいのかよくわからないトピックができあがってしまったことはありました。コンテンツと検索意図の一致度が下がるとやっぱり読んでもらえませんし、Googleからも評価されません。そのため最近では1トピックの方向性を明確にしたうえで、クラスターコンテンツが6〜8記事におさまるようなボリュームとなるように心がけています。1つ1つのトピッククラスターを筋肉質にしていくようなイメージです。

また、HubSpot 日本語公式ブログはとにかく記事が長い、という課題もありました。検索意図に応えようとするあまり、コンテンツを詰め込みすぎてしまっていたんですよね。自社より上位表示されている記事はもっとコンパクトにまとめられているものが多いと気づいて以来、1記事あたり5,000文字という目安を設けることにしました。なかには長くても読んでもらえるキーワードもありますが、5,000文字を超える場合は編集・ライターさんにその理由を説明してもらうようにしています。

―― 一生懸命作るあまりコンテンツを詰め込み過ぎる問題はあるあるですね。我々も気をつけようと感じました。

HubSpotブログが目先のROIだけを追わない理由

―― HubSpot社がここまでSEOコンテンツに注力する理由をぜひ教えてください。

HubSpotはインバウンドの思想を提唱している会社だけあって、ほぼすべての受注がマーケティング活動で得たリードから生まれています。

インバウンドの思想とは、相手の課題を解決するような価値あるコンテンツをこちらから率先して提供し、良好な関係を築いて、結果として自社にもなにかしらの利益が返ってくる状態を目指します。このインバウンドの思想に基づいたマーケティングの実践において、コンテンツは肝です。当然HubSpotは創業時からブレずに発信し続けています。

なかでも “SEOを意識したブログ” は、ビジネスにおける課題の解決策を探している人へ最もコンテンツを届けやすいチャネルです。現にお客様との初期接点の大半はブログであり、この間口をどれだけ広げられるかがマーケティング全体の成果を左右します。そのため、あらゆる施策のなかでもブログには最も多くの予算を投じています。

―― 思想を体現する上でも成果を伸ばす上でも、ブログのインパクトは大きいんですね。編集部としてはどのようなKPIを追っているのでしょうか。

「検索トラフィック」、そして記事に満足いただけたかどうかを確認するために「リード創出数」をウォッチしていますが、ブログ経由のリード創出のみでROI(投資対効果)は判断していません。ブログのコンテンツは、直近の新規売上だけではなく、認知拡大やHubSpotファンの創出、既存顧客とのエンゲージメント向上にも広く影響するからです。これは日本法人だけでなくグローバル全体の方針です。

もちろんKPI関連の数値は日々チェックしていますが、あくまでブログは「ビジネス成長に携わる人たちへ課題解決のヒントになるようなTIPSを提供することに徹する」と決めています。短期的な採算は度外視している、とも言えますね。

―― インバウンドの思想において当然ブログはやるべきである、というHubSpot社の気概が伝わってきました。

数十名のコンテンツパートナーと良質なコンテンツを生み出す秘訣

―― 現在はどれほどの記事本数を、どれくらいの人数で制作しているのでしょうか。

月に30〜40本、新規記事とリライト(公開済みの記事内容のアップデートや修正)をおよそ半々の割合で公開しています。運営に携わっているのは約50名で、社内のメンバーに加え外部のパートナーさんにもご協力いただいています。外部に依頼する際は、弊社からライターさんへ直接発注するのではなく、複数のコンテンツ制作会社さんを介して記事制作を進めています。

―― BtoBのオウンドメディアとしては大規模なチームで驚きました。外部パートナーにも協力していただいているとのことですが、完全内製化はしないのでしょうか?

アメリカ本社はほぼ内製しているのですが、日本法人含め規模の小さい支社においては、外部パートナーさんにも協力いただいて記事を制作する方針をとっています。少ない人数でも量も質も担保できる仕組みが作れてスケールしやすいと考えるからです。

私自身、以前は「オウンドメディアの記事制作は内製じゃないと無理でしょう」と思っていました。しかしいざ実際にHubSpotで外部パートナーさんと組んでみると、「いいコンテンツを作っていきましょう」という目線さえ合っていれば、社内か社外かで線引きする必要はないと感じています。リモートワーク下においてはコミュニケーションの頻度にもそこまで差が出ませんしね。

―― コンテンツの質を落とすことなく、体制を拡大する秘訣があればぜひ教えてください。

新しいパートナー会社さんと取り組みをスタートするときは、HubSpotの理解を深めていただくためのコンテンツ一式(通称HubSpotアセット)をまるごとお渡しして、プロジェクトマネージャー・編集者・ライターさん全員に目を通してもらいます。その上で私から直接HubSpotの理念やブログの意義を話すキックオフミーティングを実施します。

その後トライアルとして3記事だけ進行し、記事の品質や進行管理に問題がないか、両社にとって無理がないかを確認し合い、継続の有無を決めます。このようにしっかりオンボーディングしても、スムーズに記事制作できる体制になるまでには半年ほどかかる印象ですね。

―― 自社とマッチするパートナー会社はどのように見極めているのでしょうか?

やはりHubSpotのビジネス領域であるBtoBビジネスに対して知見を持っていることは大前提ですね。この基準はライターさんの選定時にも当てはまります。基本的なライティングスキルも当然チェックしますが、BtoB領域での業務経験があるかどうかを重視しています。この経験がないとなかなかHubSpotへの理解が進まないんですよね。

あとは打ち合わせの場で「記事制作で大事にしていることはなんですか?」といった質問をしたときに、“主語がユーザーかどうか” はよく観察するようにしています。普段の会話からユーザー視点が感じられるような、「ユーザーにいいコンテンツを提供しよう」という姿勢を持ったパートナーさんであれば、クオリティのすり合わせは後からどうにでもできると思っているんですよ。一方でトラフィック向上やリード獲得にフォーカスしすぎているパートナーさんだと、弊社とは合わないだろうな、と判断しますね。

―― 仕組みやルールが明確ですね。非常に勉強になります。

いえいえ。体制を整えるためにいろいろと仕組み化してきましたが、いいコンテンツを作り上げていくために最終的に必要なのは、「1つ1つの原稿に対して地道に細かくフィードバックを入れること」だとも感じています。どれだけ仕組みを作っても、ここだけはめちゃめちゃ泥臭くやらなきゃいけない部分ですね。

―― なるほど。自分はまだまだ気合いが足りていないなと反省しました。

我らこそが、きれいごとでビジネスを成り立たせよう

―― 水落さんのお話からは終始「ユーザーへ価値あるコンテンツを提供する」という姿勢が伝わってきました。このブレないインバウンドの思想こそ、HubSpot社の強みですね。

ありがとうございます。HubSpotは、自社もお客様も、その先にいるお客様もみんながいい方向へ成長できる社会の実現を目指しています。だからこそまずは我々がこの “きれいごと” をやり切って、ビジネスを成り立たせたい。決して簡単なことではないし、正直私たちも試行錯誤しながら日々取り組んでいるのですが、そう強く感じています。

企業としてブログを運営している方の中には、「ユーザーのことを考えると本当はやりたくない」と心のどこかで思いながらも、リード獲得のために突然のプッシュ通知や過度なポップアップをいやいや設置している方がいらっしゃると思います。

「そんなことしなくてもちゃんと売上は伸ばせるんだ」というロールモデルとなれるよう、HubSpotブログ編集長として今後も励んでいきたいですね。

―― 非常にカッコいい意気込みですね。水落さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

まとめ

HubSpot社がコンテンツ発信に成功している理由

・インバウンドマーケティングの実現に向けて、ビジネス成長に携わる人たちへ課題解決のヒントになるようなTIPSを提供することに徹している
・ブログ単体のROIは追わない、ブログに満足していただけたかを測るためにリード数を追うなど、目的と成果指標が連動している
・HubSpot発のSEO戦略「トピッククラスターモデル」を実践し、検索エンジンを通じてコンテンツをユーザーへ届けている
・外部パートナーをきっちり選定&オンボーディングして量も質も担保できる50人規模の体制を作り上げている
・セールスやカスタマーサクセスと連携してお客様の声を聞き、トピック選定や記事制作へ活かしている

これから数十人、数百人規模でコンテンツ発信をおこなうチームを作っていきたいと考えていた私にとって、すでに実践しているHubSpot社の話は非常に勉強になりました。

また、いわば短期的な採算度外視で「相手に価値あるコンテンツを率先して提供すること」をやり切っているHubSpot社の姿は、インバウンドマーケティングをこれから実践したい企業様にとって目指すべき基準となるのではないでしょうか。

今後もコンテンツ発信成功企業に取材し、成功要因を探っていきます。どうぞお楽しみに。

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ユニークで緻密な、ホットリンクのコンテンツ戦略

(文:まこりーぬ、編集:森 駿介)

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