• メソッド
  • ABMの不安、迷いを防ぐ、強い組織づくり|ABM 入門と実践ガイド第2回

ABMの不安、迷いを防ぐ、強い組織づくり|ABM 入門と実践ガイド第2回

法人営業
コンサルタント
政次 貴弘
コンサルタント
名生和史

「営業の生産性を向上したい」
「大手企業や特定企業との契約を獲得したい」

このようなビジネス課題を解決し、自社のビジネスを成長させる戦略に、ABM(Account Based Marketing アカウント・ベースド・マーケティング)が注目されています。

そこで才流では、全6回にわたり『ABM 入門と実践ガイド』として、ABMの基礎知識から実践方法までを体系的に解説します。

第2回は、ABMの組織・体制づくりです。

ABMでは、商談創出や受注などの成果が現れるまで、時間を要します。そのため、「このままABMを続けていいのだろうか?」という不安や迷いが生まれやすいといわれています。

ABMでは、営業とマーケティングの役割を明確にし、「今何をやるべきか」の道筋を示しながら、ターゲットアカウントに対する活動を中心に据え、両部の連携を深めることが重要です。

ABMを実践するうえで理想的な組織体制と、各部署の役割、管理職に求められる姿勢について解説します。

才流では、「ABMに興味があるか、自社に適しているかわからない」「ABMを始めているが、効果が見られない」とお困りの企業さまを支援しています。才流のABMコンサルティングは、マーケティングから営業までを一貫して支援できる点が強みです。ABMのお悩みや不明点がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら

ABMの役割を明確にするABMモデル別・施策マトリクス表

ABMは、成果が出るまでに時間がかかります。

ABMでは、ターゲットアカウントに絞って接点をつくり、ビジネスを拡大していきます。組織規模が大きく、案件金額も一定の額以上の顧客を対象とするため、成果が出るまでに時間がかかるのです。

才流が提案するABM3つのモデル

LTVは目安です。その他の要件も踏まえ、総合的にモデルを判断してください。

しかし、成果が得られない時期が続くと、「本当にABMを進めてよいのだろうか?」と不安になり、迷いやすいもの。綿密な計画を立て、長期的な視点を持って推進していくことが求められます。

ABMの組織設計で大切なことは、役割の定義です。営業とマーケティングはそれぞれ何を行うのか明確にしましょう。

次の図は、才流が推奨する、ABMモデル別の施策優先度と関わる部署・役職をまとめたABMモデル別・施策マトリクス表です。

たとえば、ターゲット選定フェーズは営業管理職とマーケティングが中心になって行います。一方、プランニングフェーズでのアカウントプランの作成は、営業がリードします。

このように、フェーズごとにリードする部署は変わります。しかし、リードする部署に任せきりにせず、各部署が連携しながら進めることが大切です。

ABMの専任担当者や専任部署を置く

営業とマーケティングが連携し、一丸となって動いていくうえで、強いリーダーシップは欠かせません。ABMに関する意思決定権を持ち、各部署をリードする専任の担当者や部署を置く体制もおすすめです。

既存の体制をいかし、ABMを始める場合の組織図例

なお、既存の部署に役割を増やすと、業務負荷になるほか、「なぜ忙しいうちの部署で新しいことをやらなければいけないのだ」と反発が起きるケースも少なくありません。

また、「どちらの部署でどの業務を持つのか」のように、部署間の利害調整が起きてしまうならば、ABM専任部署の新設も検討してみてください。

ABM専任部部署を新設する場合の組織図例

ABMにおけるマーケティングの役割

ABMにおけるマーケティングの役割は、大きく2つあります。ターゲットアカウントリストの作成とターゲットアカウントへのコミュニケーション活動です。

ターゲットアカウントリストの作成

ターゲットアカウントリストとは、自社の商品・サービスが課題解決や価値提供に貢献し、同時に自社の事業成長を促進する企業をセグメントし、優先順位をつけたものです。

くわしくは、第3回の記事で解説しますが、原則は「投資意欲がある会社か」「自社にとってビジネスのポテンシャルがあるか(LTVが高い可能性はあるか)」の2軸からセグメントし、決定します。

ターゲットアカウントリストは、営業と連携して定めていきます。

ターゲットアカウントの選定では、社内外のデータ分析が大切です。データ分析は、マーケティングの得意とする領域ではないでしょうか。

営業が持つ顧客の一次情報とマーケティングが分析した定量データから、双方で納得感のあるターゲットアカウントリストをつくりましょう。

ターゲットアカウントのリードを獲得するコミュニケーション活動

ABMのマーケティングには、ターゲットアカウントリストに対する各種のコミュニケーション活動が求められます。

ABM立ち上げ初期は、ターゲットアカウントの情報収集源や課題を把握し、適切な媒体への広告出稿やコンテンツの発信を行いましょう。ターゲットアカウントとの関係性を深める施策として、ターゲットアカウント固有の課題にあわせた勉強会の実施も考えられます。

営業とつねに情報を共有しあい、ターゲットアカウントとの接点の発見、コンテンツづくりに注力しましょう。

なかには、マーケティング部がない組織もあると思います。その場合は、営業内にマーケティングの機能を持たせる方法がおすすめです。実際に、営業推進部や営業企画部がマーケティングを担うケースは少なくありません。

インサイドセールスはテレアポ部隊ではない

ABMモデルのうち、LTVの目安が1,000万円以上となるミッドモデルとラージモデルでは、アウトバウンドでアプローチを行う、インサイドセールスのBDRをおすすめしています。

インサイドセールスというと「電話をかけてリードを獲得するテレアポの組織」のイメージが根強く、「メールでナーチャリングする」「CxOレターを送付する」など手法ありきになりがちな傾向があります。とくにBDRでは、「コールドコールをかけること」が主目的になりやすいでしょう。

しかし、インサイドセールスの本質は、非接触チャネルを使って顧客と接点をつくること。

ABMは商談化までに時間がかかりますし、すぐにキーパーソンと接点を持てるわけではありません。困難な状況ですが、顧問紹介や社内外のネットワークを活用する、相手や関係値に応じて、電話・メール・手紙を選ぶなど、方法はいくつもあります。

ターゲットアカウントとの接点をつくり、ターゲットアカウント内での自社の認知や貢献度を高めるための手法は何か?をつねに考え、適切なアプローチを行いましょう。

また、インサイドセールスでは商談を担当する営業(フィールドセールス)との連携が重要です。

ABMのインサイドセールスは、ターゲットアカウントのさまざまな立場の相手と接点をつくっていきます。担当者やキーパーソンと知り合ったのち、上司を紹介してもらうというケースもあるでしょう。また、違う部署の担当者につないでもらうこともあります。

このように、インサイドセールスがターゲットアカウントの組織内で培ったネットワークは、フィールドセールスにとって顧客を知るための貴重な情報源です。反対に、フィールドセールスが商談や面談で得た情報は、インサイドセールスの活動にも役立ちます。

定期的にフィールドセールスとの情報共有の場をつくり、お互いの顧客解像度を揃えましょう。

※関連記事:目指すは、商談をデザインするインサイドセールス。FSとの連携が進むSmartHR・エンタープライズISの現在地

部署を横断して意思決定できる管理職を置く

ABMで営業とマーケティングの連携を深めるには、まず両部署を一貫して管轄する管理職を置くことが大切です。

営業からマーケティング、カスタマーサクセスなど、収益に関わる部署を横断的にマネジメントするCRO(Chief Revenue Officer)のポジションや、CRO室を置く企業も増えてきています。

部門長が別々で、関わる部署の意見がまとめられないうちは、ABMの体制はつくれません。

さらに、各部の評価指標を双方の成功に寄与する内容に変えることも連携を促すポイントです。

たとえば、フィールドセールスのKPIがターゲットアカウントからの受注数の場合、インサイドセールスはターゲットアカウントとの有効商談数を追い、マーケティングはターゲットアカウントのリード数を追うという具合です。

口頭でいくら「連携が重要だ」「ターゲットアカウントのみを開拓しよう」と発信しても、人は過去の成功体験や思い込みにより、行動を変えることが簡単ではありません。そこで、目的や評価指標をABMの推進に最適化し、個人の心がけではなく、仕組みによって連携を促しましょう。

営業とマーケティングの定例会議を行う

営業とマーケティングの連携としておすすめの方法は、互いの考えを聞いたり、情報を共有したりする「場」の設計です。

週1回で定例会議の場を設け、各部の管理職は必ず参加し、ターゲットアカウントに対する各部の活動状況を把握しましょう。当たり前の施策のように感じますが、実は各部の管理職が参加する定例会議ができていない企業は多いのです。

会議を設計するときは、会議の目的やゴールを決めましょう。そして、そのために「誰の意思決定が必要か?」を考え、会議の参加者を決めます。

営業とマーケティングの定例会議では、ターゲットアカウントの契約数、ターゲットアカウントとの商談数、ターゲットアカウントからの獲得リード数の目標と実績を記した表を見て、活動の状況を振り返ります。

そして、改善策を話し合い、次のアクションにつなげます。各部の管理職は、データを見て営業やマーケティングの状況を読み取り、施策の評価を行ってください。

会議では、定性的な情報共有も行います。

「ターゲットアカウントから何名、新しいコンタクト情報が得られたか。どのような話をしたか」「顧客と接するなかでマーケティング部に連携したほうがよい情報はあったか」など、営業活動の具体的なエピソードも確認します。

あわせて、カスタマーサクセスやサポート部門などの他部門の参加も有効です。顧客と直接接する部門には、営業やマーケティングが知らない顧客の一次情報が蓄積されています。多角的なディスカッションを行い、顧客解像度を高めましょう。

オペレーションの最適化

ABMのオペレーションとは、ABMを実践するための日常的な活動や機能のことを指します。

その目的は、顧客情報の管理、コンテンツの配信など、各種のプロセスを整備し、営業やマーケティングの生産性を向上させ、効果的な活動を実現することにあります。本記事では、ABMのオペレーションでとくに意識したい点として、顧客情報の一元化、バリューポジションの整理、コンテンツの整理の3つを取り上げます。

顧客情報の一元化

ABMでは、1人のキーパーソンからターゲットアカウント内の関係者をつないでいく活動が求められます。「今、社内の誰がターゲットアカウントの誰とつながりがあるか」、過去の取引履歴などがわかるよう、顧客情報を一元化します。

顧客情報一元化の第一歩として、名刺の登録を徹底しましょう。登録した顧客情報は、定期的に見直し、更新が必要です。なお、登録ルールがあっても次第に登録されなくなっていくものです。名刺管理の状況を把握し、改善を行う責任者を置きましょう。

顧客情報の管理は、エクセルやスプレッドシートなどの表計算ツール、CRMやSFAといったクラウドツールの利用が一般的です。顧客情報とは、顧客名簿ではありません。ABMでは、顧客との関係性を可視化し分析していくため、データを扱いやすいCRMやSFAの利用をおすすめします。

並行して、データのクレンジングも行います。データのクレンジングとは、データの間違いや重複、表記ゆれなどを正しくすることです。さらに、営業やマーケティングが保有する顧客情報が異なる場合も、一元化して1つのデータベースを管理していきましょう。

バリュープロポジションの整理

各担当者が統一したメッセージを発信するためには、商品・サービスのバリュープロポジション(Value Proposition)を整理する必要があります。

バリュープロポジションとは、「企業が顧客に提供する価値を表したもの」です。さらに才流では、「自社が提供でき、競合他社は提供できない、顧客が求める独自の価値のこと」と定義しています。

バリュープロポジションを整理するとは、商品・サービスの伝えるべきコアメッセージを言語化する作業です。コアメッセージが明確になると、発信する情報が統一されます。また、説得力を持って顧客が知りたい情報を伝えられるようになり、顧客への提案もスムーズに進められます。

※関連記事:バリュープロポジションとは? 作り方と事例〜テンプレート付きで解説〜

コンテンツの整理


ここでのコンテンツとは、営業資料や提案資料、顧客事例など、商談時に顧客へ提示する情報や資料(セールスマテリアル)を意味します。


営業はスピードも肝心です。ターゲットアカウントとの商談がつくれたら、すぐに提案できるよう、コンテンツを用意しておきましょう。

理想は、顧客の状況に応じて渡すべきコンテンツが整理されている状態です。また、汎用性の高い基本の資料や過去の提案資料を共有する仕組みをつくると、同じような資料を営業パーソンそれぞれがつくるという非効率な作業が減り、商談・提案に時間をかけられます。

コンテンツは、接点を持つ相手別に内容を変えてつくります。まずは、用途別に汎用性の高いコンテンツを用意しておき、 提案先にあわせてカスタマイズしていく方法が効率的です。

ABMをやり切る組織をつくるため、管理職は発信し行動しよう

ABMの体制をつくり、軌道に乗せるには最低1年はかかります。しかし、営業パーソンは目の前の案件に集中しがちです。「ABMをやります」と周知しても、なかなか思うように活動してくれないとなりやすいでしょう。

また、新しい取り組みを始めるにあたっては、不安がつきものです。とくに、成果が出るまでに時間がかかるABMでは、営業にかかるプレッシャーも大きいもの。そのようななか、組織が一丸となって同じ目標へ向かうには、経営層が「ABMをやりきる」ことへコミットし、トップダウンによる一定の強制力が求められます

経営層ならびに管理職層は、発信と行動でコミットメントを表してください。たとえば、ABMの立ち上げ期には、全社会議で「ABMを行う」と大々的に伝え、その後も会議で言い続けることが大切です。

コミュニケーションには、感情と具体性を込めることが大切です。

感情とは、熱意や思いのこと。ABMでは成果が現れるまでに時間がかかります。メンバーのモチベーションを保ち続けるためにも、管理職層が盛り上げていかなくてはなりません。小さな変化も見つけ、前に進んでいることを言葉にしましょう。

また、「ちゃんとやっているか」「がんばってますね」などの抽象的なコミュニケーションでは、現場には伝わりません。

「今月の名刺獲得数が多いですね。工夫している点を教えてください」
「ターゲットアカウントへの開拓活動が今月は少ないですね。他の活動で負荷がかかっていますか?」

上記のように、具体性を持ったコミュニケーションを心がけます。すると、現場には「上司は自分を見てくれているな」「ABMに本気なのだ」という認識が生まれます。

部下やチームメンバーの活動を観察・分析し、適切なコミュニケーションを行いましょう。

※関連記事:営業の課題解決から信頼を育む。ABMの実践を加速するBtoBマーケティング組織の作り方(NECソリューションイノベータ株式会社)


ABM 入門と実践ガイド第2回として、ABMの組織・体制づくりを解説しました。
第3回では、ターゲットアカウントの選定(ターゲット設定)について取り上げます。

才流では、ABMの基礎知識から実践方法を1つのコンテンツとしてまとめた『ABM 入門と実践ガイドブック』を無料でダウンロード配布しています。ABMを実践し、成果を出している企業の事例を交えながら、ABMの基礎知識、実践方法、組織体制と評価指標の設計を解説しています。ぜひ、ご参考にしてください。

『ABM 入門と実践ガイドブック』をダウンロードする(無料)→

メルマガ登録
BtoBマーケティング・法人営業・新規事業に役立つメソッドをはじめとして、
セミナー開催情報、支援事例などをお届けします。
この記事をシェア
資料請求
才流のサービス資料をダウンロードいただけます。BtoBマーケティング支援や営業支援のサービスをご検討の方はぜひご一読ください。
ご相談・お問い合わせ
お客様のBtoBマーケティングや営業活動における課題解決をサポートします。お気軽にご相談ください。
メルマガ登録
BtoBマーケティング・法人営業・新規事業に役立つメソッドをはじめとして、セミナー開催情報、支援事例などをお届けします。
閉じる
画像