開設から約2年で登録者数1.2万人超え、リード獲得を目的とした動画ではCVR(※)2%を叩き出す株式会社CINCのYouTube SEO研究チャンネル。開設当初こそ試行錯誤を繰り返したそうですが、今では発信する動画はすべて高い再生回数を記録しています。
※CVR:シーブイアール/Conversion Rateの略。資料請求や問い合わせなど、企業が目的としている成果にどれくらい至ったかの割合を示したもの。「CV率」とも呼ばれる。
企業として実感しているYouTubeのメリット、目標、動画のエンゲージメント(視聴維持率・再生回数など)を高める工夫について、運営と出演を担う、取締役副社長の平 大志朗さんに聞きました。
平 大志朗 氏
企業のWebマーケティング支援などをおこなう、データソリューションカンパニー・株式会社CINC 取締役副社長・R&D事業開発室 室長
YouTubeチャンネル SEO研究チャンネル
登録者数1万2900人(2023年4月時点)。実践的なSEOや、コンテンツマーケティングの最新情報を発信するYouTubeとして人気を博している。
インタビュアーは、BtoBマーケティングやセールス領域のノウハウを発信する才流のYouTube、才流のBtoBチャンネル 新人ディレクターの前田絵理です。
YouTube最大のメリットはCV(コンバージョン)
前田 CINCさんと言えば、SEOなどのWebマーケティング支援事業で有名ですよね。自社マーケティングの一環として、YouTubeを始められたのでしょうか?
平 そうですね。2020年頃から、海外で動画タイプのオウンドメディアが流行し始めたんです。たとえばahrefsさんとかBrian DeaさんのYouTubeですね。勉強になるし、企業のオウンドメディアとして十分機能しているチャンネルだと感じました。そこで、弊社でも「SEO研究チャンネル」を開設したという経緯です。
前田 開設から約2年を経た今、YouTubeのメリットをどんなところで実感されますか?
平 リード獲得やサービスへのお申し込みといった直接的なメリットから、認知拡大や社員採用への好影響という間接的メリットまで、広範囲で感じております。
弊社の主力サービスは、Keywordmap(キーワードマップ)というSEOツールなのですが、最近はYouTubeを通して知ったというお客様が増えました。毎月のお問い合わせや受注にもつながっているので、ありがたいことですね。
前田 夢がありますね! とは言え、YouTube運営を始めたばかりだとリード獲得といったCV(シーブイ/Conversion)を目標にするのは、難しいと感じてしまいます。
平 はい、いきなりは難しいかもしれませんね。弊社の「SEO研究チャンネル」も、最初からCVが出ていたわけではありません。目標設定は時期によって変わっていきました。
立ち上げ期の目標・工夫
前田 どのくらいの期間を目安に、どんな目標設定をされましたか?
平 チャンネルを立ち上げて最初の1年目は、継続的にエンゲージメントの高い動画を発信することを目標にしました。YouTubeのアルゴリズムを理解して、反応のよいコンテンツをつくるための知識を得たかったからです。
運用フローの構築 |
最大の難関は継続発信です。週1本ペースの公開を維持するのは意外と大変なので、続けられる工夫をしなければ達成できません。いろいろ試した結果、私の場合は動画のテーマ選定のフロー確立と撮影の簡略化が効きました。
テーマ選定のフロー確立
前田 平さんは、どのように動画のテーマを決めているんですか?
平 記事型のオウンドメディアと同様、YouTubeもニーズのあるテーマでノウハウを提供し、視聴者の役に立つことが重要です。
とは言え、ニーズのあるテーマといっても幅広いので迷ってしまいますよね。私は、あまり時間をかけないようにTwitterやはてなブックマークを活用しています。とくにTwitterは「SEO研究チャンネル」のコンセプトである最新のSEOやコンテンツマーケティングに対し、求められている情報をタイムリーに見当をつけられるので便利なんです。
1. Twitterで「SEO」と検索
2. どんな投稿が多いか、反応率の高い話題は何かをチェック
3. 候補をiPhoneのメモ帳に記録
4. その中から「自身も興味のある内容」をピックアップ
前田 ニーズがあるだけでなく、平さんも興味をもてるテーマを選ばれているんですね?
平 はい。モチベーションを維持しないと週1発信はキツイので、出演する私自身も乗り気になれるテーマであるというのは、実な大事なポイントです。
撮影の簡略化
前田 私は「SEO研究チャンネル」を開設時から見ているのですが、途中から撮影スタイルを変えられたとは思っていました!
平 モチベーション維持と同時に、負荷に感じる部分を削いでいく工夫をしたんです。
私の場合は顔出し撮影にすごく負担を感じたので、そこを改善しました。顔を出すとなると、画質のよいカメラや三脚、リングライトを用意しなきゃいけないし、撮影中に自分の映りや髪型へ気をとられてしまいます。
前田 わかります。表情やポーズにも注意したくなりますよね?
平 はい、多方面を意識するぶん負荷は高くなります。そこで、思い切って顔を出さずにスライドだけ投影して話す撮り方に変更したところ、すごく準備が楽になりました。そのうえ、再生回数や視聴維持率といった動画のエンゲージメントは全く下がらなかったんです!
弊社の「SEO研究チャンネル」しかり、BtoB企業やビジネス系のYouTubeに求められることは、課題解決のためのヒントやノウハウ提供である場合が多いですよね。私の顔は必要じゃなかったということでしょう。これに気が付いてから、制作フローも固めていけました。
前田 フローがしっかり決まっているんですね!
平 YouTubeに限りませんが、コンテンツマーケティングが成功するかどうかの分かれ道は継続できるかどうかです。クオリティも大事ですが、こだわり過ぎるとキリがありません。とくにモチベーション維持が難しい立ち上げ期は、負荷のかからない制作フローを構築してルーティン化することが大事ですね。
動画のエンゲージメントを高めるコツ
前田 継続発信できる体制を整えてから、視聴維持率や再生回数に意識を移されたのでしょうか?
平 はい。動画のエンゲージメントを高めるためにはテーマ選定が重要ですが、わかりやすく編集することも大事です。一概には言えませんが「SEO研究チャンネル」は不要な間(ま)を徹底的にカットして本論だけの構成にしていくことが、エンゲージメント向上の決め手になりました。
- 自己紹介はカットする
- 「えー……」などの不要な間や、冗長的な箇所を徹底的にカットする
- すぐに本題に入り、結論→根拠という流れを繰り返す
- スライドは図解も入れて、動きをつける
- 難しい専門用語は避け、初心者にも伝わる表現を選ぶ
- 1.2倍速にして公開する
前田 どこでカットするべきか、迷わないものでしょうか?
平 始めたばかりの頃は「ここはカットしてよいか、残すべきか」などと悩みましたが、テンポの遅い動画は共通して離脱率が高かったんですよね。
「なくても伝わる」という間を大胆にカットする編集方針に改めたら、視聴維持率がどんどん伸びていったんです。チャンネルのコンセプトによりますが、「SEO研究チャンネル」の場合はテンポを速めたことが正解でした。
運用期の目標・工夫
前田 軌道に乗り始めたあと、目標も変化していったと思います。CVなどの事業貢献につながる数字を意識され始めたのはいつ頃からでしょうか?
平 2年目くらいでしょうか。動画の反応がよくなり、意図せずサービスへのお問い合わせが出るようになった頃からです。売り上げへの貢献度やリード獲得といった事業につながる運用ができるようになったので、新しい目標を定めました。
前田 CVR2%は、かなり高いのではないでしょうか?
平 記事型のオウンドメディアだとCVR2%は高めですよね。でもYouTubeだと、すごく無理のある目標ではありません。
動画はテキスト以上に多くの情報量を伝えられるので、提供できるノウハウのほかに話し方などの雰囲気も視聴者にイメージしていただけます。つまり、YouTubeって仮の商談をやっているような状態をつくれるんですよね。「この会社になら相談できそう」と、信頼を抱いていただきやすいのではないかと思います。
CVR向上につながったポイント
前田 CVは、YouTubeから直接得られたリードということでしょうか?
平 はい、でも最初からうまくいったわけではありません。もともとは、SEOツールの無料トライアルをCVとして設けていたんですが数字は伸びませんでした。
サービス紹介のような動画を出しているわけでないので、ツールを利用することで課題が解決できるというイメージを視聴者も抱けなかったのだと思います。
そこに気が付いてからは、CVを「SEO相談窓口」という無料コンサルティングのサービスへ変更し、概要欄にはるリンクも改めました。
前田 なるほど! それでも見込み顧客と接触できる貴重な機会を得られますよね。ちなみに、そういったリード獲得を目的とした動画というのはどんなものなのでしょう?
平 SEOの実践的ノウハウや最新情報をテーマにした動画からは、よくCVが出ますね。たとえば、Googleのコアアルゴリズムアップデートに関するものです。
前田 SEO界隈で話題になるテーマですよね。業界ニュースのような動画は、需要があるんでしょうか?
平 ええ、このテーマを発見できたことは大きなターニングポイントになりました。営業色はまったくない動画ですが、具体的に解説しているので「SEOで困ったら、この会社に相談してみよう」と信用していただけるのかもしれません。業界に動きがあれば、すぐに撮影して公開する速さも信頼獲得につながっていると感じています。
失敗したこと・成功したこと
前田 最後に、YouTubeを運営してきて感じる失敗と成功を教えてください。
平:私にとって失敗だったなと感じるのは、やはり立ち上げ期の顔出し撮影です。今思えば、ニーズをはき違えていたのかもしれません。私自身、人前に出るのが得意なほうではないので、無理して顔を毎回出す必要もないと感じました。
前田 本日はすみません、顔出ししていただいて!
平 たまになら全然よいんですよ(笑)。お声がけくださり、ありがたいです!
前田 一方で、成功ポイントはどこだと感じますか?
平 需要のあるテーマを選ぶためのフローを確立できたことでしょう。そして、高速PDCAに付き合ってくれる動画編集者やサムネイル担当のデザイナーと出逢えたことです。そういったパートナーとの、めぐり逢いには本当に感謝しています。
これからYouTubeチャンネルに注力する企業様は、まず何人かのクリエイターさんに依頼してみて相性を確認するとよいかもしれませんね。制作方法も色々試して、自社に合う方法をぜひ模索してみてください。「才流のBtoBチャンネル」も応援しています!
前田 平さん、ありがとうございました! 今回の取材にあたり、たくさんの資料や情報を準備してくださり感謝しています。そういうギブ(give)の精神がYouTueの視聴者さんにも伝わっているので、「SEO研究チャンネル」は成功しているんだなと感じました。
取材協力
株式会社CINC SEO研究チャンネル 平大志朗 氏
インタビュー
株式会社才流 才流のBtoBチャンネル 前田絵理
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