「YouTubeチャンネルは開設したけど、どう運用してよいか分からない」というBtoB企業のマーケターは多いのではないでしょうか。
私・才流(サイル)のコンテンツ部門へ入社した前田も、その1人。才流のYouTubeを盛り上げたいとは考えるものの、何から着手していくべきか手探りで模索しています。
そこで先人の知恵を借りるべく、開設から2年で登録者数を1万人近くまで伸ばしているスマートキャンプ株式会社のYouTubeチャンネルBOXIL CHANNELさんに、成功の背景をうかがうことにしました。回答してくださったのは、チャンネル責任者のメディア本部メディア戦略部部長の畑智香子さんと、立ち上げから関わっている担当者の田之上柚子さんです。
畑 智香子 氏
スマートキャンプ株式会社 メディア本部 メディア戦略部 部長
2016年スマートキャンプ入社。2020年よりメディア本部メディア戦略部部長を務める。BOXIL CHANNELをはじめSaaS比較サイトBOXIL SaaSを軸とする各種サービス、メディアの運営、SEO、コンテンツマーケティングを担当。
田之上 柚子 氏
スマートキャンプ株式会社 メディア本部
2018年スマートキャンプ入社。メディア本部でBOXIL Magazineなどのメディア運営を行う。2020年よりYouTubeチャンネルBOXIL CHANNELを立ち上げ、動画の企画運営に携わり事業を牽引。
YouTubeチャンネル BOXIL CHANNEL
登録者数9,950人(2022年11月時点)。SaaS比較サイトBOXIL SaaSのYouTubeチャンネルとして2020年に開設。
YouTubeチャンネルを立ち上げるときの考え方や手順として、開設時の決めごと、動画のテーマ選定法、確保するべきリソースの目安などを教えていただけました。1つの成功事例としてぜひご覧ください。
YouTubeチャンネルを開設した理由
―― YouTubeチャンネルを十分に運用できているBtoB企業がまだ少ないなかで、「BOXIL CHANNEL」は2020年に開設して、すでに軌道に乗っていますよね。
どんな経緯で開設されたのでしょうか?
畑:私たちは、もともとBOXIL Magazineというオウンドメディアで300以上の記事コンテンツを公開しており、Google経由で多くの検索流入を得ていました。そのノウハウを応用して、YouTube内での検索ニーズにも応える動画をつくれば、新しい集客チャネルを開拓できると考えたんです。
―― すでに有益な記事コンテンツという資産があったのですね。
田之上:オウンドメディアを運用している企業は、すでに記事という形でコンテンツの元ネタがあるはずです。記事を動画化するという方法なら、YouTubeに挑戦しやすいと思いますよ!
―― 動画コンテンツは制作ハードルが高く見えるんですよね。一般的に、予算はどれぐらいかければよいのでしょうか?
畑:回答が難しいですね……。これは一般論ですが、企画次第では社内メンバーの工数を除けば費用はかけずにスタートできると思います。たとえば社員が解説するノウハウ動画なら、出演料はほぼかかりませんよね。撮影もiPhone11以降のスマートフォンなら十分にきれいです。編集は、CapCut(キャップカット)などの無料アプリで編集できる社員がいればよいですが、これは難しいかもしれません。社内に適任者がいなければ、動画の編集クリエイターに外注しましょう。
予算をおさえるなら、制作会社ではなくクラウドソーシングサービスやSNSで地道に探します。プロフィールを見て3〜4名に候補をしぼり、まずは1本ずつ発注すればスキルや相性がわかるので安心ではないでしょうか。
BtoB企業がYouTubeチャンネルを運用するメリット
―― 2年間YouTubeチャンネルを運用して感じる、メリットは何でしょうか?
田之上:YouTube最大のメリットは、影響力の大きさです。実感できる成果が1つじゃないんですよね。リード獲得やリードナーチャリングはもちろん、採用、社内の新人教育にも役立ちます。
自社サービスの解説動画をつくったときは、「商談を効率化できる」と営業部門からも感謝されて嬉しかったです。
―― すごいですね!でも、それは記事コンテンツにも言えることではないですか?
畑:動画は、文字と比べて圧倒的に多くの情報を伝えられると感じています。出演者やアニメキャラクターによる表情の違い、音の変化、インパクトの強弱など質の異なる情報を1つのコンテンツで伝えられるため、難しい内容であっても視聴者の理解を促すことができます。
顕在化されたニーズはもちろん、まだ世の中に認知されていない概念やサービス、プロダクトを広めたいときも動画は有効だと思いますよ。
BtoB企業のYouTubeチャンネルは、明確なベストプラクティスがまだありません。早く始めれば先行者利益を得られる可能性も高いです。
YouTubeチャンネルを立ち上げる手順
―― 企業がYouTubeチャンネルを立ち上げるには、何から着手すればよいのでしょうか?
田之上:目的・体制・テーマ・編集フローを決めることが大事です。BOXIL CHANNELで進めた流れをお話しますね。
STEP1.目的を定める
BOXIL CHANNELの目的は、リード獲得・サービス認知の2つです。そのため、動画内や概要欄にサービスサイトの問い合わせフォームにつながるリンクを設置しています。
サービスの認知度は、「サービスを知ったきっかけは?」という質問項目を入れたユーザーアンケートやブランド浸透度調査を定期的に実施して推移を見ています。
ただ、いま振り返って考えると、目的は1つに絞ったほうがよかったかもしれません。リード獲得とサービス認知はアプローチが違うので、いっぺんに考えると結構大変です。
まずはリード獲得に絞って動画のテーマを考え、その目的が達成したあとにサービス認知に寄与する動画をつくるほうが精神的に楽だったでしょうね(笑)。
STEP2.体制をつくる
YouTubeチャンネルの運用は、予算よりも人的リソースの確保が大事です。私たちは、軌道に乗せるために週2本はコンスタントに動画を公開しようと考えたので、社員2名+非常勤スタッフ2名というチームを発足しました。
肩書き | 人数 | 役割 |
マネージャー | 1名(社員) | 意思決定、予算管理、クオリティチェック、企画 |
ディレクター | 1名(社員) | 動画シナリオ作成、クオリティチェック、企画 |
動画編集者 | 2名(非常勤スタッフ) | 動画の編集 |
弊社はコンテンツへの理解がある企業なので、最初から体制を確保できたという利点はあります。しかし定期的に動画を公開していくなら、どんな企業でも専任者として社員1名ぶんのリソースは確保したほうがよいでしょう。
STEP3.動画のテーマを決める
私たちの場合、おもしろそうでも「自社サービスと関連しないテーマには手を出さない」というルールを設けました。目的からブレないよう、以下の優先度で動画のテーマを決めていったんです。
優先順 | 動画のテーマ |
オウンドメディアでCV(コンバージョン)が出ている記事の検索キーワード | |
SaaS業界に関連するニュースや時事ネタ | |
基礎用語や概要の解説(〝SaaSとは〟〝RPAとは〟など) | |
ビジネスマン全体を対象にした大きなテーマ(〝パワーポイントの使い方〟など) |
BtoB企業のYouTubeチャンネルは、課題解決につながるテーマが相性よいでしょうね。高品質で分かりやすい動画をつくれば、YouTube内での検索結果に自社の動画が上位表示します。
たとえば電子契約システムの使い方や比較を解説した動画は、YouTube内はもちろんGoogleの検索結果にも表示された結果、再生数が17,000回以上にも伸びています。
このような成功体験を重ねてからは、V-SEO(Video Search Engine Optimization)と呼ばれる、検索ユーザーに役立つための動画づくりを意識するようになりました。
STEP4.編集フローを確立する
BOXIL CHANNELはアニメーション動画にしているので、テーマが決まればディレクターが動画のシナリオを書きます。台本やトークスクリプトみたいなものですね。それを社員が読みあげ、その音声データを編集するという流れです。
編集は、VYOND(ビヨンド)というビジネスアニメーション制作ツールを使い、音声に合わせてイラストや字幕を配置していきます。
実写よりも手間はかかりますが、社員が出演すると属人化する可能性があります。異動や退職が発生した場合なども想定して、アニメーション動画にしました。BtoB企業向けの動画は課題解決のために観てもらうことが多いので、誰が出演するかよりも何を伝えるかのほうが大事だと考えたんですよね。
編集は、スライドや図解、字幕にこだわると5分程度の動画1本に対して3〜5日以上かかることもあります。個人的にはディレクターは編集の実作業を行わず、編集クリエイターにお任せすることをおすすめします。
BtoB企業のYouTubeチャンネル運用で一番大切なこと
―― 最後の質問です! これからYouTubeに注力したい企業は、何を一番大切にするべきでしょうか?
畑:BtoB企業の場合、一番大切なのは最初の戦略策定だと思います。BOXIL CHANNELは開設2ヶ月前から準備していたんですが、今思うと、YouTubeチャンネルをどうビジネスにつなげるか?という点にもっと時間をかけた方が良かったと思います。私たちは、リード獲得・サービス認知という2つの目的への進み方を自分たちだけで設計したので、初期は迷走することもありました。
当時は、企業のYouTube施策を支援する会社は数社程度だったのですが、今は1,000社近くあるとも聞いています。戦略策定や目標設定に迷う場合は、初期だけベンダーやコンサルティング会社に相談するのも1つの手。自分たちだけでつくる必要はないと思えば、気が楽になりますよ。
さらに、BtoB企業のチャンネル運用に限ってはバズらせるための企画力やセンスは必要ありません。視聴者の課題解決につながるコンテンツをつくれば、どの企業にも等しくチャンスがあるので、まだ参入企業が少ないうちにチャレンジすることをおすすめします!
―― ビジネスパーソンの課題を解決できるBtoB企業だからこそ、多くの情報を伝えられるYouTubeでコンテンツを発信する意義があると感じました。
BOXIL CHANNELさん、本当にありがとうございました!