バリュープロポジション(value proposition)とは、「企業が顧客に提供する価値を表したもの」です。才流ではさらに、「自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したもの」と定義しています。
バリュープロポジションは、以下のような場合に役立ちます。
・投資家に対して自社商品・サービスの価値を伝えたい
・社内の新規事業プレゼンテーションで新商品の価値を表現したい
・抜けもれなく商品・サービスの価値を検討したい
今回、バリュープロポジションを自社のビジネスで検討・活用しやすいようにテンプレートを作成しました。テンプレートには、バリュープロポジションとバリュープロポジションキャンバスの2つのフレームワークが入っています。
自社の商品・サービスがいる市場環境によって、バリュープロポジションとバリュープロポジションキャンバスを使いわけてご利用ください。
■バリュープロポジションスライドテンプレート(Googleスライド)を開く
■バリュープロポジションスライドテンプレート(PowerPoint)をダウンロードする※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとファイルがダウンロードされます。
才流では「バリュープロポジションの策定」「新規事業のワークショップ」などの研修支援もおこなっています。新規事業でお困りの方はお気軽にご相談ください。⇒新規事業の研修・ワークショップについて相談する
バリュープロポジションとは?
バリュープロポジション(value proposition)とは、企業が顧客に提供する価値を表したものです。才流では、「自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したもの」と定義しています。
バリュープロポジションが明確なほど、マーケティングメッセージがつくりやすく、営業が説明しやすく、顧客に選ばれやすくなります。
バリュープロポジションの肝は以下の2点です。
- 顧客が望んでいる価値と、自社が提供できる価値を合致させること
- 競合他社が提供できない、自社独自の価値を提供すること
顧客が望んでいる価値と、自社が提供できる価値を合致させられないと、そもそも顧客に検討してもらえません。また、 競合他社が提供できない、自社独自の価値を提供しないと、競合と比較されて価格競争になったり、受注率が低くなったりしてしまいます。
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バリュープロポジションキャンバスとの使いわけ
インターネットで「バリュープロポジション」と検索すると2つの図が検索結果に出てきます。「バリュープロポジション」と「バリュープロポジションキャンバス」です。
才流ではどちらも、顧客に提供する価値を表現するフレームワークと考えており、以下のように使いわけをしています。
バリュープロポジション:使用するのは、すでに市場が存在しており、競合他社がいる状態のとき。顧客・自社・競合の3つの観点(3C)から価値を表現していきます。
バリュープロポジションキャンバス:使用するのは、まだまだ市場が出来上がっておらず、競合も参入していない状態のとき。新市場の開拓を行う必要があるので、顧客を深く理解する必要があります。
自分自身が行っているビジネスがどちらの市場環境にあるのかを考えたうえで、最適なフレームワークを選択しましょう。
バリュープロポジションのよくある落とし穴
経営者や事業責任者ならば、バリュープロポジションの概念を知っている方も多いでしょう。それにもかかわらず、顧客が欲しがらない商品をつくってしまい、手痛い失敗をしてしまうのはなぜでしょうか。
実は、バリュープロポジションをつくるときには、陥りがちな3つの落とし穴があります。
自分たちの想いが先行してしまう
1つ目の落とし穴は、自分たちの想いが先行してしまうことです。 以下のような点に気をとられすぎると顧客が望んでいる価値が置き去りになってしまいます。
・自分たちの原体験や想い
・競合企業が提供しているサービスへのアンチテーゼ
・テクノロジーの優位性
・未来予想や潮流
起業家・事業責任者の原体験や想いがどのようなものであろうと、どんなに最先端な商品であろうと、顧客が欲しがらなければ意味がないことを忘れてはいけません。
既存のアセットに引っ張られる
2つ目の落とし穴は、既存のアセット(企業資産)に引っ張られることです。例えば顧客データベース、技術、営業網、マーケティングノウハウなどがアセットの一例。自分たちが持っているアセットがあるがゆえに、それらを活かすことばかりを考え、「顧客が望んでいる価値」と合致しない商品をつくってしまうのです。
既存のアセットが大きければ大きいほど、成熟した産業や企業であればあるほど、この落とし穴にはまりやすい傾向にあります。
「自社が提供できる価値」と「競合が提供できない価値」だけで発想してしまい、独自で差別化はされているものの、顧客が欲しがらない商品を企画してしまうのです。
自社のケイパビリティが追いつかない
3つ目の落とし穴は、自社のケイパビリティ(企業が持つ組織的な能力)が追いつかないことです。
顧客が望んでいる価値を捉えていても、幅広く対応しようとしすぎると、自社が提供できる価値を届けきれなくなってしまいます。多くの場合、顧客が望んでいる価値は複数あります。セグメントや個社ごとに事情も異なり、千差万別といえるでしょう。
すべてに応えようとすると自社のケイパビリティを確保できなくなります。そこで、どのセグメントの、どのニーズに応えるかの取捨選択は必須です。
仮に自社では応えられないニーズがある場合、完全に切り捨てるのか、別の方法で対応するのかも決める必要があります。
【別の方法で対応する場合の例】
APIを解放し、外部のパートナー企業に対応してもらい、パートナー企業も含めた「自社が提供できる価値」で、バリュープロポジションを組み立てる
取捨選択をせず、すべての顧客ニーズに応えてしまうと、以下のような事態に陥る場合があるので注意しましょう。
・機能を開発しきれない
・営業パーソンが機能や価値を説明しきれない
・マーケターが訴求メッセージを絞りきれない
・カスタマーサポート担当も顧客をサポートしきれない
バリュープロポジションの作り方
上述の落とし穴を回避するためにも、正しい順番でバリュープロポジションを作ることが重要です。
自分たちの想いが先行してしまう、既存のアセットに引っ張られるという落とし穴に対する解決策はシンプルです。バリュープロポジションの優先順位を徹底し、顧客が望んでいる価値から考えるのです。
バリュープロポジションを作るための優先順位
①「顧客が望んでいる価値」
②「競合他社が提供できる価値」
③「自社が提供できる価値」
顧客が望んでいる価値を捉えるには、いろいろなアプローチがあります。
・顧客にインタビューをする
・顧客を観察する
・営業に同席する
・顧客と一緒に働く
・顧客データを分析する
・アンケートをとる など
これらを徹底的にやりきって、見いだすほかありません。
また、「自社のケイパビリティが追いつかない」の解決策は、顧客が望んでいる価値を“Must have”と“Nice to have” で切り分けることです。
顧客が望んでいる価値が業務を進めるうえで“Must have(なくてはならないもの)”なのか、“Nice to have(あるとうれしいもの)”なのかを見極め、“Must have”な価値を中心にバリュープロポジションを組み立てましょう。
“Must have”に応えるバリュープロポジションであれば、営業・マーケティング効率がよくなり、高付加価値・高単価になり、使い続けてもらえる商品になりやすくなります。
バリュープロポジションキャンバスの作り方
バリュープロポジションキャンバスでは、顧客が実現したいことに基づいて、自社商品・サービスの価値を記載していきます。記載していく順番は、以下のとおりです。
顧客セグメント
①顧客が実現したいこと
②ゲイン(顧客のメリット・恩恵)
③ペイン(顧客の障害・リスク)
顧客への提供価値
④製品・サービス
⑤ゲインクリエーター(顧客への利得を与えるもの)
⑥ペインリリーバー(顧客の悩み・障害を取り除くもの)
バリュープロポジションキャンバスは、バリュープロポジションよりもさらに、顧客のことを細かく考える項目が用意されています。
バリュープロポジションキャンバスのフレームワークを活用するのは新市場開拓のとき。一般的に情報が揃っていない状態であり、より深く思考するために項目が細分化されていると考えています。少ない情報をドリルダウンして考えることで、ヒントを見出しましょう。
顧客セグメント
バリュープロポジションキャンバスの右側部分は「顧客セグメント」をまとめていきます。
①顧客が実現したいこと
ターゲットの顧客は何を実現したいですか、抱えているタスクをどう解決したいですか?
②ゲイン
顧客がこうなったら嬉しいと思っていること、メリットや恩恵はなんですか?
③ペイン
顧客が抱えている課題、障害やリスクはなんですか?
記載をしてみると、「①顧客が実現したいこと」だけでも足りるのではないか?と思う方がいるかもしれません。しかし、ゲインやペインを記載するのは、より深く顧客を理解するためです。しっかりと記載しましょう。
顧客への提供価値
バリュープロポジションキャンバスの左側では、顧客への提供価値をまとめていきます。
④サービス
製品やサービスが提供していることはなんですか?
⑤ゲインクリエーター
顧客に利得を与えるものはなんですか?
⑥ペインリリーバー
顧客の悩みや障害を取り除くものはなんですか?
ゲインクリエーターとペインリリーバーの内容が似てしまうという相談をよくいただきますが、考え方次第で、明確な違いが見えてきます。
ゲインクリエーターは「顧客が0の状態から自社商品を使うことで、1や10の状態になること」。ペインリリーバーは「顧客が現在マイナスの状態で、自社商品を使うことで0以上の状態になること」を、それぞれ想像してみてください。
ゲインクリエーターは0→1以上、ペインリリーバーはマイナス→0以上というイメージを持つことで、異なる観点から価値を書き出せます。
バリュープロポジションキャンバスまとめ
バリュープロポジションキャンバスは、顧客が実現したことに基づき、顧客への提供価値を整理し、最終的に自社が提供できる価値を導き出しましょう。
テンプレートを使った作成例
バリュープロポジション、バリュープロポジションキャンバスの作り方例をそれぞれ紹介します。どのようにテンプレートにまとめていけばよいのか、どんな粒度で記載をしていけばいいのか、ヒントになれば幸いです。
例①製造業の企業とサプライヤーを仲介するサービス「CADDi」
キャディ株式会社が創業初期に投資家に説明をしていた内容を、DCMベンチャーズの原健一郎さまのnoteを参考に、バリュープロポジションにまとめました。
CADDiとはCADデータで見積材料を生成し、受注するサプライヤーを仲介するサービスです。
投資家に対してCADDiが説明していたバリュープロポジションは以下のように集約されています。
この内容をもとに、才流のバリュープロポジションテンプレートにまとめたのが以下のスライドです。競合他社が提供できる価値には、昔ながらの業務のやり方であるFAXやメールを置いています。
①顧客が望んでいる価値
(顧客)
・高止まりするコストの削減
・リードタイムの短縮化
・調達管理工数の削減
(サプライヤー)
・収益の1社依存体制からの脱却
・赤字体質からの脱却
・機械の稼働時間の増加
・見積もり工数の削減
②競合他社が提供できる価値
・FAXとメールによる直接発注
・手計算による見積もり
③自社が提供できる価値
・CADの独自の分解アルゴリズム
・加工会社のコスト計算プログラム
・自動見積りと最適事業者選定サービス
【CADDiのバリュープロポジション】
CADの分解アルゴリズムと各加工会社のコスト計算による自動見積もりと事業者選定
例②某Web接客ツール
某Web接客ツールについて、才流でバリュープロポジションを作成してみました。テンプレートを記載する際の参考にしてください。
①顧客が望んでいる価値
・DXの成功体験をつくりたい
・問い合わせ対応工数の削減/解決速度の向上
・運用部門がかんたんにメンテナンスできる使い勝手の良さ
②競合他社が提供できる価値
・コールセンターシステム連携
・多言語対応
・複数部門管理機能 など
③自社が提供できる価値
・現場決済で済むほどの低価格
・最短2日の導入期間
・ノーリスクな30日のトライアル
・使い慣れたExcelで顧客のQ&Aデータ管理
・Webサイトへの設置が容易
【某Web接客ツールのバリュープロポジション】
導入に社内負担が少なく、最短でDXの成功体験を作り出す取り組みができる
例③プロダクトマネージャー向けのカンファレンス
プロダクトマネージャーカンファレンスで作成した企画プロセスの事例が、slideshareで公開されています。その内容をもとに、バリュープロポジションキャンバスをまとめてみました。
プロダクトマネージャーカンファレンスとは、プロダクトマネジメントに携わる人たちの組織をこえた交流や情報共有の場です。Tably株式会社が主催しています。
①顧客が実現したいこと
・実践できる学び
・他社の事例を見つける
・仲間を見つける
・これから何を学べばいいか知る
②ゲイン(メリット・恩恵)
・成長の実感
・相談相手が見つかる
・KPIを達成し、会社で認められる
③ペイン(障害・リスク)
・自身の課題と話が合わない
・事例が大企業の前提で、自社では真似できない
・抽象的な話で、具体的なイメージが持てない
④製品・サービス
・トークセッション
・パネルセッション
・ネットワーキング
・スポンサーブース
⑤ゲインクリエーター(顧客への利得を与えるもの)
・尊敬できる人の意見を聞ける
・同じ課題を持つ人と知り合う
・うまくいった知見を聞ける
⑥ペインリリーバー(顧客の悩み・障害を取り除くもの)
・個人の状態に合わせた解決策のヒントを渡せる
・具体的な課題を他人に相談できる
・わかりやすく、すぐに試せるTipsを得られる
【結論】
参加者の具体的な質問に対して、知見のある人が丁寧に答えていく知恵袋企画を実施するカンファレンス
例④某マーケティングツール
某マーケティングツールについて、才流でバリュープロポジションキャンバスを作成してみました。
①顧客が実現したいこと
・売上を増やす
・新規顧客を増やす
②ゲイン(メリット・恩恵)
・CVRが上がって売上が増える
・顧客のクチコミを手軽にマーケ施策に活用できる
・PDCAをまわして効果が毎月上がっていく
③ペイン(障害・リスク)
・サイト改善はたくさん実施しており、他に新しい施策がない
・企業目線でのコンテンツ作成は限界がある
・広告クリエイティブの枯渇、作成に手がまわらない
④製品・サービス
・顧客のクチコミを自社サイトに掲載できるプラグイン
・効果測定ツール
⑤ゲインクリエーター(顧客への利得を与えるもの)
・顧客のクチコミをサイトに簡単に組み込める
・施策の数値管理が簡単にでき、PDCAを早く回せる
・成果を上げるためのネクストアクションを提示する
⑥ペインリリーバー(顧客の悩み・障害を取り除くもの)
・クチコミをWebサイトで活用し、CVRが改善する
・ユーザー目線のコンテンツが作れる
・広告クリエイティブが無限に手に入る
・初めてのクチコミ活用でも支援してもらえる
【結論】
顧客のクチコミを活用することでCVRを改善し、売上アップに貢献する。顧客のクチコミの活用・管理・効果測定が用意されており、マーケティング施策のPDCAを継続的に行える
「バリュープロポジション」のよくある質問と回答
才流のコンサルタント野田がお答えします!
Q.バリュープロポジションはどのような時に使えますか?
才流ではBtoBマーケティング戦略や新規事業戦略を考える際に、必ず使っています。バリュープロポジション、バリュープロポジションキャンバスともに、作成することで顧客に提供する価値を明確に表現していくというのが目的です。
Q.バリュープロポジションとバリュープロポジションキャンバス、どちらを使えばいいでしょうか?
「バリュープロポジションキャンバスとの使いわけ」の段落でも説明しましたが、自社の置かれている市場環境、競合などの状況をふまえて使いわけましょう。すでに市場がある場合はバリュープロポジション、市場がまだなく、競合がいない場合などはバリュープロポジションキャンバスを使用することをおすすめします。
Q.どうしても、自社都合から考えてしまいそうです。
現実問題として、自社の組織都合から考えることを求められている方もいるかもしれません。しかし、そもそもの目的は、顧客に価値を提供し、事業を成功させること。ぜひ1度、顧客の目線で考えてみてください。きっと、新たな発見があるはずです。
Q.顧客は自社に必要なもの、欲しいものがわからないのでは?
顧客が望んでいる価値に応えることは、顧客に欲しいものを聞くこととイコールではありません。顧客の御用聞きではなく、顧客が望んでいる価値を私たちが見つけ出し、商品に乗せていくことが大切です。
Q.自分たちがやりたいことをやらないと続かないのでは?
たしかに、自分たちのやりたいことを無視して、商品開発や事業開発を継続していくことは難しいです。まずは中長期的でやりたいことを決め、それに沿ったバリュープロポジションをつくっていきましょう。ロマンとソロバンを両立させるのが経営者・事業責任者の腕の見せどころです。
おわりに
バリュープロポジションの肝は、以下の2点です。
- 顧客が望んでいる価値と、自社が提供できる価値を合致させる
- 競合他社が提供できない、自社独自の価値を提供する
当たり前のことのようですが、言語化できているといないでは、営業やマーケティング活動の質は変わってきます。ぜひテンプレートを活用し、自社の商品・サービスのバリュープロポジションを作成してみてください。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、新規事業の研修支援もしています。新規事業で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒新規事業の研修・ワークショップについて相談する
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