
インバウンドマーケティング提唱企業「HubSpot」のマーケティング分析から考えるサブスクリプションビジネスの成功ポイントとは?
本記事では、マーケティングオートメーション(MA)ツールの雄「HubSpot」のマーケティングを分析します!
HubSpotはサブスクリプションビジネス、SaaS企業として非常に面白い成長をしてきているので、そのマーケティング活動を分析することで、日本のサブスクリプションビジネスを実践する方にとっても、きっと役に立つことでしょう!
目次
①HubSpotのサービス概要整理
②MA業界の競争環境を整理
③Hubspotの財務構造
④注目すべきセールス&マーケティング投資
⑤サブスクリプションビジネスの競争優位性は組織文化
⑥自分がHubSpotのCMOだったら?
⑦HubSpotのマーケティング分析まとめ
①HubSpotのサービス概要整理
まず、HubSpotの概要を整理していきます。
HubSpotはMAベンダーとしてだけではなく「インバウンドマーケティング」という概念を提唱したことで有名です。
インバウンドマーケティングとは?
有益な情報を企業が提供し、その企業を認知してもらうことで、商品やサービス利用につなげる考え方を「インバウンドマーケティング」と呼びます。
そんなインバウンドマーケティングを、HubSpotは自社で実践し続けています。
下記はHubSpot JAPANの「Similarweb」のチャネル概要です。
オーガニック検索とソーシャルメディアから大半のトラフィックを集めていることから、インバウンドマーケティングを自社で着実に実践していることがわかります。
インバウンドマーケティングは有料チャネルと組み合わせて成果に繋がるものだと自分は考えているので、有料チャネルとの関係性も示しておきます。
HubSpotのマーケットシェアは?
ツールのシェア数などを調査する「Datanyze」によると、HubSpotのマーケットシェアは14.96%とのことです。
2018年3Q現在、世界90カ国以上で50,000社以上に導入にされており、現在も成長率(ユーザー数の伸び率)は40%増のペースで伸び続けています。
市場シェア
①Oracle Marketing Cloud:25.24%
②Adobe Marketing Cloud:13.76%
③Beeketing:7.5%
(参照元:こちら)
上記の通り、Oracleに次ぐマーケットシェアをもつMAベンダーです。
全世界で従業員数は約2,400名で、世界で拠点を増やして拡大し続けています。
下記のような機能を全てオールインワンで活用できることが、Hubspotの魅力です。これらの機能をSMB(中堅中小企業)の市場向けに提供し成長しています。
HubSpotの機能
①ブログ作成機能
②ランディングページ作成機能
③Eメール送信機能
④パーソナライズ機能
⑤リード管理機能
⑥アナリティクス機能
⑦ウェブサイト構築機能
⑧ソーシャルメディア連携機能
⑨SEO対策機能
⑩Calls-to-Action機能
⑪広告出稿機能
⑫セールスフォースとの連携機能
②MA業界の競争環境を整理
MAの業界は、競争が激化しています。
Adobe(Marketoを買収)、Oracle、Salesforce(Pardotを買収)、簡易MAツールなど、プラットフォーマーを中心に強いプレイヤーは多数存在しています。
最近、AdobeのMarketo買収が話題になりましたよね。
5Forces分析でマクロ環境を整理してみます。
HubSpotの5Forces分析
5Forces分析で整理すると、下記の通りとなります。
5つの視点で業界構造の概要を掴んでいきましょう。
・競合
- Adobe+Marketo
- Oracle
- Salesforce – Pardot
※資本力のある企業は買収・提携をして領域拡大を行う。
・買い手の交渉力
MAツールがマーケティング業務の基盤になる可能性が高いため、データ連携先のツールは交渉力が低い。
・売り手の交渉力
業務の基幹ツールとなるため導入企業側の交渉力は低い。
・新規参入
国産のMAツール、MAの一部機能を切り出したツールなど。
・代替品
Adobe SenseiのようなAIツールが予想もできないレベルの自動化を実現。
マーケターの仕事を奪う可能性はあり。
※現状は大きな脅威になる可能性は低い
この業界構造の中でHubSpotが生き残るためのポイントは何でしょうか?
次に、3C分析をしながら考えてみます。
HubSpotの3C分析
3C分析を要約
ポイントは下記3点です。
①インバウンドマーケティングの思想をどこまで強化できるかが鍵になる。
②SMB市場にどこまで優位性をもったアプローチができるかが鍵になる。
③AdobeやSalesforceのような巨大プラットフォーマーより先に、SMB市場のシェアを獲得することが鍵になる。
③Hubspotの財務構造
次に、財務構造を分析し、マーケティングとファイナンスを接続しながらHubSpotの事業構造を読み解いていきます。
HubSpotは2014年にIPOをしている上場企業です。
注目すべきは、直近の決算でも最終利益は大きくマイナスとなっている点。
HubSpotのBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)をビジュアル化したのが下記の図になります。
※販管費の細かい数字は入れていません。
これは驚くことではなく、海外でIPOしているSaaS企業の多くは赤字で突っ走っていて、海外IPO市場の先進性を感じるところです。
CS(キャッシュフロー計算書)からは、上場時に獲得した資金をガンガン投資に回していることがわかります。
2015年に投資キャッシュフローが大きくマイナス(大きく投資)しているのは、有価証券報告書からM&A投資であることがわかります。
④注目すべきセールス&マーケティング費用
セールス&マーケティング費用では大きく投資(1億6262億ドル)をし続けていることが財務データからわかります。
下記の図では、売上が赤の部分、紺色の部分がセールス&マーケティング費用です。
セールス&マーケティング投資は1億6262億ドル
約178億円(1ドル110円で計算)のセールス&マーケティング予算をもって、Hubspotは世界のユーザー獲得に向けて動いているわけです。
大規模なセールス&マーケティング投資では何をしているのか?
一言でまとめると、「熱狂的なコミュニティづくり」だと考えています。
コミュニティ構築に投資し、下記ボリュームまで成長しています。
定量的にコミュニティを分析すると凄まじい質と量です…。
- ユーザーグループ150以上
- パートナー数200以上
- INBOUND参加者2.1万人以上
- HubSpot Academy14.9万人以上
- ユーザーグループ数150以上
- ブログの閲覧ユーザー数450万人以上
サブスクリプションビジネスで成功している企業は、先行投資をしてユーザーも巻き込んだコミュニティを構築しています。
このコミュニティ構築を目的としたマーケティングに投資をできるかが、持続的に成長し続けるサブスクリプションビジネスになるかの別れ道になります。
サブスクリプションビジネスの投資感覚を掴むために
こちらの『サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル
』という本は、サブスクリプションビジネスのマーケティングやファイナンスを理解するのに有益です。
下記はサブスクリプションビジネスの投資感覚を掴むのに、参考になる引用文です。
サブスクリプション・ビジネスにおける営業およびマーケティング費は、将来のビジネスを推進するために行使される、将来に向けた戦略的な支出と考える必要がある。
つまり、サブスクリプション・ビジネスにおける営業およびマーケティング費は、伝統的な会計用語で表現すれば、〝資本支出〟のような位置づけになるということ。
サブスクリプション・ビジネスにおいては、バケツから水が漏れていない限り、利益のすべてを将来の成長のために使うことは完全に理にかなっているということ。
HubSpotは競争が激しいMA業界で、早いタイミングでシェアを獲得するために、戦略的投資をし続けてきていることが、財務諸表とマーケティング施策を分析すると見えてきます。
投資の内訳を分析すると、
①M&A→機能拡張
②セールス&マーケティング投資→コミュニティ拡張
これら大きく2つの投資から、SMB市場でシェア獲得→最終的に大きな成長曲線を描けるモデルとなっているわけです。
⑤サブスクリプションビジネスの競争優位性は組織文化
ここまでのHubSpotを対象にしたマーケティング分析から、SaaSやサブスクリプションのビジネスにおける成長モデルについてまとめていきます。
赤字を垂れ流しながら、プロダクトやセールス&マーケティングに投資をし続けているHubSpot。
なぜ、このような投資が可能なのでしょうか?
この答えは、サブスクリプションビジネスの競争優位性は組織文化にあると考えています。
3C分析のところで言及したように、HubSpotは、ボストンで最も働きたい会社として選ばれています。
この独自の組織文化こそ、HubSpotの競争優位性の源泉になっていると考えています。
SmartHR、Salesforce、Adobeなどサブスクリプション型のビジネスモデルで成功している全ての企業は、組織文化が優位性に繋がっています。
サブスクリプション/SaaSビジネスは、土台に強固なカルチャーがないと成功しません。
だから事業の初期フェーズで強い・独自の組織文化をつくっておくことが重要なわけです。
参考:HubSpotのカルチャーコード
- 公休なし(誰の許可を得ることなく、自分の判断で休暇をとったり働いたりできる)
- オフィスにドアがない
など、独特のカルチャーコードがある
組織文化が鍵になる旨は、baigieのSogitaniさんもツイートされていましたね!
SaaS系プロダクトはアップデートや模倣が容易であるが故に機能による優位性は失われやすい。そのため短期的には採算度外視でシェアを奪いつつ、中長期的には運営会社の文化やポリシー、働いてる人、推薦者やファン、コミュニティ等で競合や新規参入者への障壁を構築するのが一つのセオリーになる。
⑥自分がHubSpotのCMOだったら?
HubSpotは独自の組織文化をもとに、プロダクトマーケットフィット状態をつくり、戦略的なセールス&マーケティング投資をし続けて成長してきていることが、ここまでの分析でわかってきました。
では、このフェーズから次の成長に繋げるために必要な戦略とは何でしょうか?もし、自分がHubSpotのCMOだったらどうするか考えてみました。
①インバウンドマーケティング思想のローカライズ
インバウンドマーケティングの思想をローカライズすることは、進出国のシェアを獲得できるかの鍵になると考えています。コンテンツの質は、その国の文化的差異が大きく影響してくるはずですので。加えて、HubSpotは中堅中小企業がメインターゲットなので、ローカルビジネス比率も高いでしょう。
「この国であれば、この考え方でインバウンドマーケティングを実践すれば成功する。
このノウハウを蓄積→提供する」という風にできれば、進出国のシェアを獲得できるはずです!
②SNS領域のプレイヤーとの提携
FacebookやTwitterなどとの提携・データ連携をして、得意なインバウンドマーケティングを、オーガニック領域で上位表示するだけではなく、SNSでブーストさせることができるノウハウが蓄積されると、HubSpot独自の価値が強くなるのではないかと考えています。
SNSのマーケットは今後も市場成長はしていくはずなので、この領域との親和性を強めることは必須だと思います。
(この部分は、大なり小なり既に進めている気もします。)
③コンテンツマーケティング領域のプレイヤーを買収/提携強化
MA導入で失敗するケースは、シナリオを組んでも、「コンテンツをつくれない=ユーザー体験に落とし込めない」というものが多いです。
そのため、コンテンツ制作を徹底的にサポートできるサービスが強化されると、HubSpotのインバウンドマーケティングという思想が競争力に繋がりやすくなるはず。
AdobeがMarketoを買収した意味は、クリエイティブとマーケティングの統合であり、この流れが業界全体で強化されていくことは間違いありません。
ということで、HubSpotもクリエイティブ、コンテンツ領域を買収なり、提携なりでの強化は必須だと思います。
わかりやすいシナリオとしては、コンテンツマーケティングに強いプレイヤーとパートナー契約を結び、ローカライズをしながら市場に浸透させていく流れになると考えています。
⑦HubSpotのマーケティング分析まとめ
以上がHubSpotのマーケティング分析でした!
簡単にポイントを振り返ります。
- HubSpotは利益は見た目上悪いが、理にかなった事業成長モデルである
- 独自の市場領域+強いプロダクト+セールス&マーケティング投資は成長の3点セット
- サブスクリプションを中心とした今後のビジネスでは強固な組織文化が鍵になる
総じて、組織文化がマーケティングと密に紐づいていて、組織文化を無視して流行りのマーケティング施策に乗っかっても上手くいかないことをHubSpotは教えてくれます!
日本でもHubSpotのような、IPO後も挑戦的な投資ができるサブスクリプションビジネスを増やしていきたいと、個人的には考えていきたいですね!
HubSpotのマーケティングで優れている点をパターン抽出
最後に、栗原と開発したマーケティングパターン(優れたマーケターの行動特性)と、HubSpotのマーケティング/セールス活動を重ね合わせてみます。
実務に落とし込む際の参考にして頂ければと思います。
①どのセグメントでNo.1になるか決める
HubSpotは中堅中小企業のセグメントに対してのアプローチを進めてきており、BtoBの基本である顧客レイヤーを明確にする点は、事業の初期フェーズから明確です。
②カンファレンスを開催する
HubSpotは年に一度、「INBOUND」という名前の通りインバウンドマーケティングのカンファレンスを開催しています。
自社の思想とノウハウをコミュニティに共有する場をつくることは、サブスクリプションビジネスの基本です。
③事例コンテンツを充実させる
HubSpotのオウンドメディアは、事例の量と質ともに優れています。このレベルは見習いたいです。
E-Bookや料金表などのレベルも、さすがインバウンドマーケティングの本家です。
(参照:お客様の声はこちら)
マーケティングパターンの一覧はこちらのnoteにまとまっているため、ぜひ実践でご活用ください!
最後まで読んで頂きありがとうございます!