
「オリエン」する側、される側を15年体験してわかった、良いオリエンの仕方
「あのコンサルは役に立つものを何も出してくれなかった」
「評判のいいデザイナーだったから期待していたのに、アウトプットがしょぼかったし手直しにもすごく時間がかかった」
多くのビジネスパーソン、特に何かしらのプロジェクトを主導するような立場の方は、こういう経験を一度はしたことがあるのではないでしょうか。
先方の力不足というケースももちろん多々ありますが、大半の場合は発注時のオリエンテーション(以下オリエン)の中身を改善することで、こういった状況が生じるのを防ぐことが可能です。
私はこれまでの会社員人生約15年ほどにおいて、オリエンを「する側」(キャリアの半分はメーカーのマーケティング部門に所属→社内の研究所、広告代理店、調査会社、クリエイターなどにオリエンする)と「される側」(キャリアの残り半分はコンサルティングファームに所属→クライアントからオリエンを受ける)をそれぞれ経験してきました。
また、社外では音楽ライターとして約5年ほど活動してきましたが、そちらにおいても音楽メディアやレコード会社からオリエンを受けて文章を書くケースが多数あります。
本稿では、常に「オリエン」というものと向き合ってきた自身の経験を踏まえて、「あるべきオリエンの姿」について考えてみたいと思います。
「良いオリエン」の大原則
突き詰めると、オリエンを受ける側が知りたいのは「何をアウトプットしてほしいか=ゴール」「そのためにどう進めてほしいか=プロセス」の2点のみです。なので、「良いオリエン」というのはすなわち「ゴールとプロセスのあり方が正しく伝わるオリエン」ということに他なりません。
「ゴールとプロセスのあり方」はもちろん発注者側が決めるわけですが、その決め方にも「細かくガチガチに設計する」から「完全にお任せ」までグラデーションがあります。
よって、発注者にとってのオリエンとは、
- ゴールへのスタンス→どこまでゴールをかっちり固めているか?
- プロセスへのスタンス→どこまで作業の自由度を担保するか?
これらをはっきり表明するための段取りということになります。
プロセスとゴールのそれぞれへのスタンスを軸にとって、存在し得るオリエンのパターンをまとめたのが以下の図です。この4つのパターンについて、順に解説していきます。
①「丸投げ」
作業の自由度は高いが、結局何をすればいいのかわからないわからないオリエン。
このケースの場合は発注者側に明確な判断基準がないことも多く、余計な手戻りも多数発生しがちです(「なんか違うんだよね」)。
また、そういった状況を逆手にとって、「よその会社のお金で自分の好きなことをやってやろう」と考えるタイプの専門家も存在します。たとえば、「雰囲気はかっこいいけど商品の訴求には繋がらないCM」の多くは、こういったオリエンによって生み出されたものではないかと推察します。
②「無駄骨」
ゴールが緩いわりには、「〇〇についても調べてほしい」「〇〇のフレームワークを使ってほしい」といった細かなオーダー(≒思いついたタスク)ばかりが並ぶオリエン。
受け手が真っ正直であれば、それについて正面から答えて疲弊したにもかかわらず、最後になって「ええと…結局これは何に使うんでしたっけ?」という根本的な疑問にぶち当たることになります。
一方で、勘のいい受け手はそこに並んだタスクから「要はこういうことがやりたいんですよね?」と読み取って、適切なゴールを自ら設定しつつ納品まで持っていきます。こういう人と出会えればラッキーですが、そんな優秀な層は引く手数多なので、もっとストレスのかからないオリエンを受けられるプロジェクトを選ぼうとするはずです。
③「お節介」
かっちりゴールが定まっており、さらにプロセスについても指定のやり方が決まっているオリエン。
発注者側がその領域に対して深い理解があれば、つまり「指定したやり方が、プロフェッショナルが考える最適解と近しいものである」のであれば、このオリエンは機能します。
一方で、そうではない場合、進め方の指定は「プロフェッショナルの仕事を妨げる障害」となります。ゴールははっきりしているので、受け手側も「まあこのやり方でやれと言うなら…」と何らかの形で帳尻を合わせてくれるはずですが、それが「ベストのソリューション」だったのかは疑問が残ります。
④「いい湯加減」
ゴールが固まっているうえで、プロセスについてはある程度の裁量が認められているタイプのオリエン。
おそらく、この形が「良いオリエン」というものの骨格になるのではないかと思います。「何を作るかは明確になっている」「そのやり方については自分の力を自由に使ってよい」という状況は、プロフェッショナルにとって最もモチベーションが高まるシチュエーションです。また、発注者側も、最終的なアウトプットの管理にフォーカスすることができるので、業務上の負荷も軽減されます。
オリエンの基本、それは「ゴールを固める」「プロセスは問わない」です。どのレベルまで「固める」「問わない」必要があるかは後述しますが、オリエンの内容を整理する際にはこの原理原則から離れないことが非常に重要です。
専門家を気持ちよく動かす「ゴール」と「プロセス」の設定手引き
「ゴールを固める」「プロセスは問わない」という原理原則に基づいて、それぞれの内容をより詳細化すると以下のようになります。
ゴール
「いつまでにいくらで」
納期と予算は基本中の基本です(が、多くのオリエンでこの部分がないがしろにされています)。ここがあやふやだとトラブルになることが多いので、お金の話も含めてあらかじめしっかり合意しておいた方が間違いなく良いです。
「何をアウトプットしてほしいか」
さすがにこれが抜けることはないと思いますが、たとえば、
- 「分析」→定量的な視点と定性的な視点のどちらを重視するか
- 「施策案」→求められているのは手堅いプランなのか目新しいアイデアなのか
など、お願いする内容が正確に伝わる状態になっているか留意すべきです。
「何に使うか」
成果物の使用用途を明らかにしておくことも重要です。
- 会議で意思決定のために使う
- 商談でその場を盛り上げるために必要である
- 実は「やってる感」を醸し出すためのアリバイ的な素材として使いたい
こういった「出口」によって、注力するポイントがだいぶ変わってきます。
「どんな“読後感”を期待しているか」
たとえば、
- 「意思決定者の〇〇さんがこう思って、結果として△△というアクションをとってほしい」
- 「競合の〇〇と並べた時にユーザーから△△と思われたい」
など、「そのアウトプットを介してステークホルダーにどんな感情を持ってほしいか?」という情報は、プロフェッショナルの力を引き出す上で非常に重要な役割を果たします。
こういった観点をオリエンに盛り込むためには発注者にも高度な言語化能力が求められますが、静的な情報にとどまらない血の通った言葉はプロフェッショナルのインスピレーションを大いに刺激します。
プロセス
「どのタイミングで何が出てくるか」
前述の通り、オリエン時点で進め方そのものに細かい制限を設けるのは得策ではありません。ですが、「提示したゴールに対してどうやって向かっていくか」についてはオリエン後に双方で合意しておくのがベターです。
特に合意しておきたいのは
- どのタイミングでどんなものが出てくるか
- それは最終アウトプットとどうつながるのか
といったあたりです。
ここでの発注者の役割は、細かな進め方に目を光らせることでなく、示された進め方がゴールにしっかり向かっていくものになっているかを判断することです(不明点があればこの時点でじっくり質問して不安を解消しておくべきです)。
「良いオリエン」は「プロジェクトの“原点”」になる
「何を」「いつまでに」「いくらで」「何のために」アウトプットし、「その結果どういう状況を生み出したいか」について、わかりやすく言語化されている。そのゴールへの道筋は基本任せつつ、途中のチェックポイントについて的確に設定されている。
これらを満たすことができれば、プロフェッショナルの力を最大限に引き出す良いオリエンができるはずです。
もちろん、「誠心誠意お願いする」「先方へのリスペクトを伝える(「業者」扱いしない)」といった発注者としてのメンタルのあり方も非常に重要です。ただ、ここで述べたような情報が盛り込まれていないオリエンは、どんなに熱い気持ちがこめられていてもアウトプットの品質向上には残念ながらつながりません。
ゴールとプロセスについて合意できるオリエンは、何かあったときに立ち返る「原点」としてプロジェクト終了まで機能します。単に仕事をお願いする場ではなく、「プロジェクトの原点」を明示する重要なステップとしてオリエンを捉え直すことこそが、アウトプットの品質向上に大きく寄与するのではないかと思います。