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BtoBの代表的なカスタマージャーニー5つと対応施策を解説

BtoBマーケティング
コンサルタント
長谷川 智史

BtoBマーケティングにおいて、顧客解像度を高め、顧客のフェーズに沿った施策を実施するために有効なのが「カスタマージャーニー」です。

才流でご支援をしていると、「カスタマージャーニーに基づいた施策やKPIをうまく設計できない」というご相談をよくいただきます。BtoBの購買行動は、複数のステークホルダーが非同期に情報収集し、行ったり来たりを繰り返す非線形ループ構造です。そのため、どこに重点を置くべきか理解が難しいと考える方が多いのでしょう。

そこで本記事では、あえて1人の購買者が線形で進む場合を想定し、BtoBの代表的な5つのカスタマージャーニーを紹介します。まずは代表的なカスタマージャーニーと自社の顧客を照らしあわせ、重点を置くべきポイントを理解しましょう。そうすることで、複数のステークホルダーの影響などを考えやすくなります。

BtoBの代表的な5つのカスタマージャーニーにおけるタッチポイントやCTA、コンテンツなどの例も紹介していますので、参考にしてください。

BtoBの代表的なカスタマージャーニー5つのスライド(PowerPoint形式)をダウンロードする

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BtoBの代表的なカスタマージャーニー5つ

BtoBで代表的なカスタマージャーニーを、以下の5つに分類しました。「顧客の特徴」の項目と、自社の顧客を比較してみると、どのパターンに近いか判断できるはずです。

カスタマージャーニー
のパターン
顧客の
課題感
製品・サービス
の認知
顧客の特徴顧客接点の
ポイント
①課題潜在型非常に低いなし・他社と比較検討していない
・商談時に「そもそも何ができるの?」「何を聞けばいいのかわからない」
 と聞かれることが多い
・導入後「使い方がわからない」という問い合わせが多い
啓蒙・認知獲得
教育的アプローチ
②ソリューション探索型低いなし・問い合わせフォームの自由記入欄に「現場が大変」「属人化」「Excel管理」
 などのキーワードが多い
・検討〜商談化まで平均3か月以上かかることが多い
・初回商談では「情報収集段階」が多く、即決しづらい
課題啓発
気づきを促す
③比較検討型高いあり・商談で「競合と比べてどう違うか」を聞かれることが多い
・「比較」「レビュー」といったキーワードで検索し、コンバージョン
 することが多い
製品の差別化
競合比較
④外圧緊急型非常に高い両方・(法律施行前など)特定の時期に問い合わせが急増する
・「〇月までに導入したい」と期限を示す顧客が多い
・「法改正対応」「義務化」「規制強化」の検索や広告をクリックしている
対応期限の訴求
迅速な対応
⑤複合ステークホルダー型高いあり・商談から受注までに複数の部門や階層の人がかかわる
・子会社や関連会社への展開、グローバル展開を検討している大企業
・1件あたりの平均契約額が大きい
個社カスタマイズ
意思決定支援

①課題潜在型

課題が顕在化しておらず、製品・サービスを探していない顧客、あるいは課題の有無は関係なく新しい領域に関心がある顧客を「課題潜在型」と分類します。

AI・IoT・ブロックチェーンなどの先端技術から、ノーコード開発、クロスインダストリー型のソリューションなど、比較的新しい領域や認知されていない製品・サービスを扱っている企業の顧客は、このカスタマージャーニーに当てはまることが多いです。

課題潜在型の顧客には、課題を明確にすること、そして商品・サービスのユースケースを知ってもらいイメージを持ってもらうことが重要です。開発・カスタマーサクセス・マーケティング部門が連携し、ユーザーの導入事例を発信したり、業界のオピニオンリーダーや先進企業を巻き込んで成功事例を作ったりするのが有効です。

また、検討段階に入ってからも、無料デモやトライアルなどを用意したり、ユースケース別の導入シナリオを作成したり、具体的に使い方や導入イメージを持ちやすいように顧客をフォローすることを重点に置きましょう。

BtoBの代表的なカスタマージャーニーのパターン①課題潜在型

投資対効果の高い施策とKPIの例は、以下のとおりです。

投資対効果が高い施策

  • ユーザーコミュニティの形成
  • 啓蒙的なコンテンツ(ホワイトペーパー、動画、ブログ記事など)
  • 無料デモやトライアルの提供


KPI例

  • 短期:資料ダウンロード数、イベント・ウェビナー参加者数
  • 中期: 問い合わせ数、PoC(Proof of Concept、概念実証)、事例数、商談化率
  • 長期:エバンジェリスト(導入推進者)の増加、口コミ拡散度、ユーザーコミュニティ参加者数

②ソリューション探索型

なんらかの業務課題を抱えているものの、はっきりとした解決策を見いだせていない状態の顧客を「ソリューション探索型」の顧客と分類しました。

リソース不足が喫緊の課題になりやすいSaaSスタートアップ向けのサービスや、大企業の特定部門の業務効率化をかなえる製品・サービス、全社DXプロジェクトや福利厚生ソリューションなどを提供する企業に多い顧客タイプです。

ソリューション探索型の顧客には、課題を具体的に言語化して共感を得たり、気づきを促すことで、製品・サービスの検討段階を進めてもらう必要があります。

課題別のキーワードのSEOコンテンツや業界セミナー、ホワイトペーパー、SNS投稿などでタッチポイントを作り、課題と解決策を認識してもらうコンテンツを作成しましょう。

BtoBの代表的なカスタマージャーニーのパターン②ソリューション探索型

投資対効果の高い施策とKPIの例は、以下のとおりです。

投資対効果の高い施策

  • 課題啓発コンテンツ(ホワイトペーパー、ブログ記事、SNSなど)
  • ROI(Return on Investment、投資収益率)計算シミュレーションツールの提供
  • 役職・立場別アプローチ

KPI例

  • 短期:トライアル申込数、資料ダウンロード数、内部アンケートでの導入賛成率
  • 中期:商談化率、受注率、部門リーダー賛同率
  • 長期:コスト削減額、社内評価指標(満足度・離職率)、継続利用率

ソリューション探索型は、さらに細かくすると2つのパターンがあります。1つ目は現場で担当者の困りごとがあり、改善を望んでいる場合。2つ目は経営層からトップダウンで「DX推進」や「業務改革」などの号令がかかり、対応する場合です。

「現場担当者向けか」「経営層向けか」、どちら向けの施策なのかを意識しておくと、成果につながりやすくなります。

現場担当者と経営層に対する施策の違い

観点現場担当者経営層
決定スピード遅い(稟議・承認が必要)比較的早い(経営判断が先行)
主な訴求ポイント使いやすさ、現場効率ROI、経営指標への貢献
施策の焦点現場担当者の説得材料提供経営層向け成功事例・数値効果
検討プロセスが進まないパターン予算承認されない現場が使いこなせない

現場担当者の場合は、社内の承認を得るために時間がかかる場合があります。検討期間中は、定期的なフォローを怠らないようにしましょう。課題を共有する相談会や、決裁者向けのROI資料を用意するなど、顧客が社内で承認を得やすくなるように支援を続けることが重要です。

③比較検討型

課題を明確に認識し、既存の製品やサービスで比較検討を行うことに軸を置いている顧客を「比較検討型」と分類します。

たとえば製造業の大企業が、展示会や代理店経由で複数ベンダーの見積もりを一斉取得し、価格・機能・サポート体制などを細かく比較したうえで最終決定を下すケースなどが典型的な例です。自社の顧客が「比較検討型」の場合は、検討段階で競合との具体的な差別化ポイントを明確にする必要があります。まずはバリュープロポジションを再確認してみるのがよいでしょう。

競合と横並びで評価され、価格競争に巻き込まれやすいという懸念がある場合は、「業界特化ノウハウ」「導入支援」「連携拡張性」など、価格比較だけでは測れない価値を言語化できるとよいでしょう。TCO(Total Cost of Ownership、総所有コスト)の観点から長期的なコスト優位性を示すことも効果的です。

BtoBの代表的なカスタマージャーニーのパターン⑤比較検討型

投資対効果の高い施策とKPIの例は、以下のとおりです。

投資対効果が高い施策

  • 比較表・導入事例の充実(機能・価格だけでなく定量的成果を示す)
  • 無料トライアル・デモの提供(実際に使い、差別化点を体感してもらう)
  • 価格以外の付加価値を訴求(サポート体制や連携拡張性など)

KPI例

  • 短期:比較資料のダウンロード率、展示会リード数
  • 中期:デモ後の継続商談率、商談化率
  • 長期:受注率、平均受注金額、複数年契約率

④外圧緊急型

法改正や業界規制の変更など、外的要因によって緊急性の高いニーズが生じている状態の顧客を「外圧緊急型」と分類しました。

金融、保険、医療、製造業など、規制や業界ルールが大きく影響する領域の顧客はこのタイプになります。

外圧緊急型の顧客には、特定の期日までに解決しなければならない課題があります。迅速かつ明確な対応策を提示し、期限までに導入可能であることを強調することが重要です。

このタイプの場合、法改正などの期限を過ぎると問い合わせが激減することがあります。一段落したら「ソリューション探索型」「比較検討型」に重点顧客をシフトしていくのが定石です。次の法改正前に先回りした啓蒙を行うのも効果的です。また、初期導入の顧客のアップセル施策を強化することで、一時的な売上減少を緩和できます。

BtoBの代表的なカスタマージャーニーのパターン⑤外圧緊急型

投資対効果の高い施策とKPIの例は、以下のとおりです。

投資対効果が高い施策

  • 法改正・規制対応セミナーの開催問い合わせ直後の即フォローと短期導入プラン(期限内に間に合うことを明確にする)
  • 期限カウントダウンを含むLPや広告(具体的期限を打ち出す)

KPI例

  • 短期:問い合わせ件数、ウェビナー参加数、関連資料ダウンロード数
  • 中期:商談化率、導入完了率、失注理由(導入期限超過など)の把握
  • 長期:アップセル率(例:導入後の追加機能)、リピート契約率

⑤複合ステークホルダー型

最後は、複数の部署や階層の意思決定者が関与する大企業における組織的な導入のパターンです。大企業向けのシステム導入、コンサルティング、ハイエンドSaaS、全社規模のプラットフォーム導入などを提供する企業の顧客は、このタイプになります。

導入プロセスが複雑で、各部署のニーズに合わせたきめ細かな個社カスタマイズが求められます。全社的な意思決定プロセスを支援する仕組みを構築するのが重要です。

BtoBの代表的なカスタマージャーニーのパターン⑤複合ステークホルダー型

大企業の顧客だと、意思決定者が多すぎてどこに焦点を当てればいいのか判断が難しいことがありますが、 「ビジネススポンサー」「技術評価者」「利用者」など役割別にペルソナを設定し、各層に響くメッセージと資料を用意するとよいでしょう。

また、導入の「チャンピオン」となる社内キーパーソンを見つけ、その方を通じて社内展開を図ることが成功への近道です。

投資対効果の高い施策とKPIの例は、以下のとおりです。

投資対効果が高い施策

  • 個社別のコンテンツ制作・プログラム設計(特定企業の課題や戦略に合わせた提案資料、専用イベント)
  • 役員レベルでの関係構築(主要キーマン・役員との定期コミュニケーション計画)
  • 成功事例の横展開促進(同一企業グループ内での拡大を支援するツール・資料の提供)

KPI例

  • 短期:キーマンとの接触頻度、アカウントプランの進捗
  • 中期:商談化率、契約金額・期間、追加提案の成約率
  • 長期:企業グループ全体への導入拡大、長期リテンション率

よくある質問(FAQ)

Q.5つのパターンに当てはまらないケースはありますか?

たとえば、5つのパターンから派生していたり、複合していることもあります。

(例)

  • 法改正が絡む新領域のソリューション
    「課題潜在型」と「外圧緊急型」の施策から優先順位をつける
  • 大企業でツールの大規模なリプレース案件
    「比較検討型」と「複合ステークホルダー型」の施策から優先順位をつける
  • 小規模チームで検討し、オンラインで即日導入を決める
    「ソリューション探索型」だが、セルフサーブに必要な情報提供が求められる
  • 代理店・SIer が提案を主導し、エンドユーザーに届くチャネルモデル
    顧客の特性を理解したうえで、代理店・SIerに認知される必要がある

まずは自社が5つのパターンのどれに近いかを確認し、5つのパターンとの違いや足りない施策などを洗い出してみるとよいでしょう。

Q.施策が多すぎて優先順位を決められません。どうすればいいでしょうか?

次の三段階で上位3つに絞りましょう。

  1. 外圧(期限)がある施策 → 最優先に対応する
  2. 投資対効果が高い施策 → ROI が高いものを優先する
  3. 社内リソースで今すぐ着手できるか → 担当者と工数を確認

上記を考慮したうえで、「リードタイム短縮」効果が大きい施策を優先すると成果を体感しやすくなります。

Q.カスタマージャーニーは、どのタイミングで見直すべきでしょうか?

定期的な見直し会議を、四半期ごとに設定するとよいでしょう。また、定期の見直し以外にも、大きな市場の変化や競合の変化があった場合には、見直しを行ってください。

顧客の行動やニーズがカスタマージャーニーに合致しているか、CRMデータやMAツールの分析結果、商談ログ、顧客へのインタビューなどをチェックします。

また、カスタマージャーニーをうまく活用するためには、マーケティング、営業、カスタマーサクセスなどの各部門が合意したうえで、施策のPDCAを回すことが重要です。一緒に会議を行い、「実際の顧客の行動と設定したジャーニーとのズレはないか」「施策が狙い通りに機能しているか」などを議論し、成功事例や改善点を洗い出すとよいでしょう。

まとめ

本記事では、BtoBマーケティングにおいて重要な「カスタマージャーニー」を効果的に活用するため、5つの代表的なカスタマージャーニーと対応施策を紹介しました。自社のカスタマージャーニーと照らし合わせて、確認してみてください。

本記事で紹介したカスタマージャーニーとアプローチ方法を参考に、自社の顧客に合わせた最適なマーケティング戦略を構築し、成果につなげていきましょう。

カスタマージャーニーの基本については、以下の記事で解説していますので、あわせて参考にしてください。

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