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成果が生まれるオフラインイベントとは?SmartHRのエンタープライズマーケティング

法人営業
コンサルタント
細田 祐平

エンタープライズ向け事業にチャレンジする人や組織にフォーカスし、エンタープライズ向け事業を拡大するための取り組みや、おもしろさ、やりがいを発信する連載「エンタープライズ向け事業はおもしろい!」。

今回は、株式会社SmartHRでエンタープライズマーケティング部 部長を務める今西 佑太さんを取材しました。

エンタープライズ企業への提案を強化している同社では、セミナーや勉強会などのオフラインイベントを起点に、新規の顧客接点や商談、受注がうまれています。今西さんに、オフライン施策の設計方法や、熱量高く社内の他部署と協業する方法など、エンタープライズマーケティングの取り組みをうかがいました。

聞き手は、才流の細田 祐平です。

本記事におけるエンタープライズ企業の定義
エンタープライズ企業の定義は、各社で異なります。本記事では、取材先のエンタープライズ企業の定義に沿い、かつ決裁に複数人の関係者が関わり、商品・サービスやプロダクトの提案から導入までに、一定の期間を要する企業を、エンタープライズ企業としています。

株式会社SmartHR
ブランディング統括本部 エンタープライズマーケティング部 部長
今西 佑太さん

2020年にSmartHRへ入社。関西支社にてマーケティング業務に従事。セールス支援を担うマーケティングを経験したのち、2023年7月より現職。前職は、新卒で入社した大手鉄道会社で、複合施設の開発および開業後の運営管理を担当し、集客イベントの企画、広報宣伝等のマーケティング業務を担当。東京で、エンタープライズマーケティングの交流会を定期開催中。
今西さんのnote:https://note.com/yuta_imanishi
今西さんのX:https://x.com/yuta_imanishi

SmartHRのエンタープライズマーケティングの体制

細田 SmartHRでは、2024年1月に、これまでの機能別組織から、事業本部と統括本部を置く組織へと組織体制を一新しました。

また、それ以前の2022年末から、エンタープライズ企業へのSmartHR導入推進を目的に、マーケティング、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)を横断するプロジェクトをスタートしたとうかがっています。

現在、エンタープライズ企業への提案や導入はどのような状況でしょうか。

今西 佑太さん/株式会社SmartHR ブランディング統括本部 エンタープライズマーケティング部 部長
今西 佑太さん/株式会社SmartHR ブランディング統括本部 エンタープライズマーケティング部 部長

今西 おかげさまで、時間をかけながらも大きな成果が生まれ始めています。エンタープライズマーケティング部としても、エンタープライズ企業との新規の接点・商談の創出で、受注につながる貢献ができていますね。

細田 すばらしいですね。あらためて、エンタープライズマーケティング部の体制を教えてください。 

今西 まず当社は、ビジネス部門としてエンタープライズ事業本部、グロースマーケット事業本部、ブランディング統括本部、事業戦略統括本部の4つの部署があります。

私がマネージャーを務めるエンタープライズマーケティング部は、ブランディング統括本部にありまして、私の他にチームリーダーが1名とメンバーが6名いる8名体制です。

従業員規模2,001名以上をエンタープライズ企業と定義し、リード獲得から受注、そして既存のお客さまのアップセル・クロスセルといったエクスパンション(利用機会の拡大)まで、全フェーズに関わっています。

細田 祐平/株式会社才流 マーケティング部門
細田 祐平/株式会社才流 マーケティング部門 

細田 ホリゾンタルSaaSのプロダクトを展開するSmartHRの場合、ターゲットとなるエンタープライズ企業の数は多いと思います。どのようにセグメントしているのでしょうか。

今西 具体的には、従業員数2,001名以上の企業と、中でも超大手企業の2つに分け、それぞれにマーケティング担当者をアサインしています。

新規接点の獲得や深耕を目的に、セールスと密に連携しながら、「この企業向けにこの施策をやってみよう」というような個社支援を行っています。

エクスパンションをおもに担うのはCSですが、マーケティングとしてチャーン(解約)を回避するための施策や、アップセル・クロスセルを誘引する施策などの支援ができないか、あらたな関わり方を試しているところです。

セールスと一緒にマーケティングも受注金額を追う

細田 続いて、エンタープライズマーケティング部のKPIを教えてください。

今西 部として目指す大きなKPIは、セールスと同じ「新規の売上(受注金額)」です

あわせて、エンタープライズ企業とのビジネスは、認知獲得から契約・受注までが長いことを踏まえ、ISやCSなどの関連部門別にメイン担当者をつけ、それぞれが担当する部門のKPIの一部も追っています。

たとえば、ISの商談獲得をKPIにしているメンバーがいるほか、商談の前進をKPIにしているメンバーもいます。

細田 マーケティング部門として、セールスと同じKPIを追うというのは、エンタープライズ企業の開拓で重要な点だと思います。一方、エンタープライズ企業を担当するとき、評価軸の設計が難しいといわれます。今西さんの部署では、評価についてどのように考えていますか。

今西 正直なところ、今も悩んでいます。自分が関与した施策と結果を明確に紐づけられないこともありますから、単純にリード獲得単価や商談獲得単価のような指標では測りきれないんですよね。

たとえば、創出した商談からのどのくらいの収益が見込めるかを算出するロジックを組み立てる。また、マーケティング起点で人事担当役員層と接点を創出できたら、顧問紹介サービスなどと比べて費用対効果はどうなのか、といった評価軸をつくることなども考えられます。まだまだ、模索しているところです。

エンタープライズマーケティングを当たり前の存在に

細田 市場の動きや事業成長に合わせ、組織をどのように最適化していくかは、大きな課題だと考えます。エンタープライズ企業向けのプロジェクトが始まり、エンタープライズマーケティング部として部署ができるなかで、どのような点を意識してきましたか。

今西 「エンタープライズマーケティングを当たり前にしたい」という思いがあるんです。エンタープライズマーケティング部のミッションですね。

私たちはもちろんのこと、FSからIS、CSまで、エンタープライズ企業へSmartHRの提案や導入を推進したいという思いはひとつです。しかし、「エンタープライズセールスにおいて、マーケティングは不可欠な存在だ」という状況には、まだ至っていないのが現実です。 

だからこそ、「マーケティングの力なくして、高い目標は達成し得ない」という認識を社内に定着させたい。エンタープライズマーケティングを当たり前のものにしたいんです。

細田 やや単純化した表現になりますが、中小企業向けのアプローチにおけるマーケティングの役割は「認知を獲得し、リードを取ること」です。

しかし、エンタープライズ企業へのアプローチでは、複数の接点をつくる必要がありますし、接点を深めて商談を前に進める支援なども求められます。マーケティング部門の役割を認知とリード獲得だけに閉じずに、他部署とのより深い連携が重要になりますよね。

今西 そうです。他部署への越境は重視していますね。そもそもエンタープライズマーケティング部を立ち上げる際に、マーケティング機能をまとめたブランディング統括本部とエンタープライズ事業本部のどちらに置くかで、議論がありました。

細田 ブランディング統括本部内にいると、エンタープライズに限らないマーケティングの情報やノウハウが蓄積できる。一方、エンタープライズ事業本部内に部署がある場合は、エンタープライズへのアプローチに集中できますね。どちらにも、利点があります。

2024年1月時点のSmartHRの組織図。エンタープライズ事業本部に、プランニング、IS、セールス、CSの部署がある。今西さんたちエンタープライズマーケティング部は、2024年10月現在ブランディング統括本部内にある。(引用:事業を支える、SmartHRのあたらしい組織体制について

今西 結果として私たちがブランディング統括本部になった背景には、少し離れた立ち位置にいるからこそ、エンタープライズ事業本部のメンバーとは違う目線で顧客理解ができるのではないか、という狙いがあります。ブランディング統括本部内で蓄積したマーケティングのノウハウを、エンタープライズ企業向けにも還元したいと考えました。

とはいえ、私たちはエンタープライズ事業本部と一蓮托生。マーケティング領域のみに活動を制限して、凝り固まる必要はまったくありません。エンタープライズ事業本部の動きに合わせて、アメーバのごとく柔軟に変えていければいいと思っています。 

新規接点の創出や商談が前進するオフラインイベントとは?

細田 次に、具体的なマーケティング施策についてうかがいます。現在、注力している施策を教えてください。

今西 エンタープライズ企業向けに設計した、オフラインイベントが成果をあげています。

イベントは、目的別に3種類展開しています。1つ目は、SmartHRのユーザーさまにご登壇いただいて、活用事例をご紹介いただくセミナーです。私やエンタープライズマーケティング部のメンバーが、ファシリテーターとしてユーザーさまにインタビューする形式です。

2つ目は、エグゼクティブ向けのイベントです。組織開発や人材育成領域の著名人や有識者の方をゲストにお招きして、エグゼクティブ層の興味が高いトピックについて講演いただくものです。

3つ目は、特定の企業向けに1to1の施策として行っている個社向け勉強会です。

たとえば、SmartHRのユーザーさまを起点に、グループ企業や関連企業のご担当者さまにもお集まりいただき、「SmartHRをどんなふうに活用しているのか、みんなで話を聞きましょう」というイベントがあります。

このイベントは、都市圏に限らず開催実績があり、全国展開へ向けて注力しているところです。

今西さんいわく、イベントタイトルには「従業員◯万人」などエンタープライズ企業の関心を引き付けるキーワードがマスト。

細田 イベントからは、どのような成果が出ていますか。

今西 とくに、ユーザー企業さま登壇の事例紹介セミナーと個社向け勉強会は、お客さまとの新規の接点や商談創出といった成果が出ています。 

やはり、大手企業になればなるほど、「SmartHRは大手企業での利用に耐え得るのだろうか」という点が、導入検討時の懸念点としてあがってきます。

ですから、実際に導入されている同規模のユーザー企業さまから直接「ちゃんと使えていますよ」とお話しいただけると、セールスのメンバーにとっても強力な後押しになるんです。

個社向けの勉強会にも似たような効果があります。「同じグループのあの企業が導入している」というお墨付きがあると、信頼度が格段に上がるんです。イベントからの商談化率は、他の施策とは比較にならないほど高くなりますね。

ユーザー企業登壇イベント「約25%のコスト削減!ブックオフによる労務手続きの効率化と運用の全貌」より。今西さん自らモデレーターを務め、顧客のリアルな声を引き出す。(写真提供:SmartHR)

今西 他にも、商談が前進した、受注できたという成果があります。

たとえば、あるお客さまとの商談において、課長職の方と話はできているが、より上位の役職の方と会えていないという課題がセールスにありました。

そこで、「今度、SmartHRのお客さまである大手企業の役員の方が登壇するイベントがあるので、よかったら部長さんも一緒にお越しいただけませんか」とご案内したんです。

すると、部長職の方が参加されただけでなく、イベントの開始前に面談の機会をいただきました。キーパーソンの方が参加しやすい場をつくることで、商談を前進させられるのだなと大きな手応えを感じました

イベントには「双方向のコミュニケーション」「ここだけの話」をつくる

細田 イベントを運営するうえで、どのような工夫をしていますか。

今西 双方向にコミュニケーションできる場をつくること、SmartHRのイベントでしか得られない情報を設計することです。

実は、過去にウェビナーの開催を重視していた時期があるんです。ウェビナーは、「〇〇人の申込みがあったね」と定量的な成果が見える施策ですが、どうしてもコミュニケーションが一方通行になりやすい。そのため、オフラインイベントでは、交流会やディスカッションの場をセットにし、参加者やSmartHR社員とのコミュニケーションが生まれるような設計をしています

あわせて、「SmartHRのイベントでしか聞けない話」も意識しています。とくに、業界の著名人が登壇するセミナーでは、「前に他のセミナーで聞いたことがある」というケースも考えられます。

ですから、「人数限定です」「講師とディスカッションできます」のような設計を取り入れています。オフレコになると、やっぱり皆さん本音を話してくださいますし、「ここだけの話ですが」という雰囲気にもなりやすいです。

細田 オフラインイベントの醍醐味ですね。

今西 オフラインのイベントは、終わったあとも余白がありますよね。SmartHRでは、自社のイベントスペースを使うことが多く、イベント終わりも自由にお過ごしいただけるんです。

「セールスとちょっと話したい」ができますし、参加者同士が名刺交換や雑談をされている様子を見ると、私たちも嬉しいです。偶発的なコミュニケーションが生まれるんですよね。

ウェビナーでは、参加者の様子がわかりませんし、プログラムが終わったら画面が切れてしまう。ウェビナーにはウェビナーの良さがありますが、お客さまとの関係性を深めたいエンタープライズマーケティングの施策としては、優先度は低いという考えです。

マーケ部との窓口「大臣」に聞く一次情報から、顧客理解を深める

細田 エンタープライズマーケティングでは、細かい粒度での顧客理解が求められます。イベントのテーマ設計も、顧客理解が大前提となりますが、今西さんたちは、どのようにして顧客理解を深めていますか。

今西 2つの方法があります。1つ目は、エンタープライズ事業本部内の各部署に「大臣」を置くこと。2つ目は、イベント開催時にお客さまの声を直接聞くことです。

大臣とは、マーケティング部との窓口になる人のこと。マーケティングで何か施策をやろうと考えたとき、まずは大臣に「こんな施策はどう?」と投げかけてみるんです。いきなり部署の全体に聞くと、率直な反応をもらいづらいじゃないですか。

ですから、まずは大臣を通じて、各部署が持っているお客さまに関する一次情報を取りに行く工夫をしています

細田 大臣を置くというのは、良いアイデアですね。他部署に信頼できて気軽に相談できる仲間がいるというのは、すごく心強いと思います。

今西 めちゃくちゃ心強いです。実は、ISやCSで大臣だったメンバーが、エンタープライズマーケティング部へ異動しているんです。

異動時点でマーケティングの経験はなくても、ISやCSで活躍していたメンバーたちですから、お客さまのことをよくわかっています。それに、他部署の人たちが日頃どんなことを考えながらマーケティング部門と接しているのかも、リアルにわかっている。

彼らが来てくれたことで、うちのチームはすごく強くなったと思います。

細田 エンタープライズマーケティングの経験者は、多くはありません。人材育成という観点からも、良い取り組みだなと感じました。 

今西 SmartHRも従業員数が1,000名を超える規模の組織になってきました。個人的な意見ではありますが、今後はもっと人材の流動性を高めていくべきだと思っているんですね。

チームメンバーには、その先陣を切って、「社内にはいろいろなチャンスが広がっているし、自分の意志でキャリアパスを切り拓けるんだぞ」と示してもらいたいという思いもあります。

イベントの目的は商談創出だけじゃない

細田 続いて、「イベント開催時にお客さまの声を直接聞くこと」について教えてください。

今西 イベント当日は、私たちも積極的に話しかけるようにしています。たとえば、「今日はご参加いただき、ありがとうございました」とお声がけしたあとに、「今後どんなイベントがあったらうれしいですか?」や「日頃、どこで情報収集されていますか?」などの質問をする。

また、ラウンドテーブルにオブザーバーとして入るときは、みなさんの熱量の高い議論に聞き入っていますね。

お客さまと直接話せる機会があると、つい商談の機運がありそうかどうかにアンテナを立ててしまいます。しかし、SmartHRに直接関係のないテーマから、お客さまの考えや会社のビジョン、思いを知ることは、お客さまの解像度を高めるための絶好の機会です。

お客さまの言葉の端々に表れている興味・関心のタネを見つけたいと、強く意識しています

イベント「日本一は通過点。5,000名の組織を“最効率”に導く人事総務DXの全容」が終わったあとの交流会の様子。登壇者のほか、登壇者企業の社員、参加者、SmartHRの社員が参加し、大きな盛り上がりに(写真提供:SmartHR)

成果の出る施策の実行が他部署からの信頼につながる

細田 続いて、他部署との連携について教えてください。「社内でエンタープライズマーケティングを当たり前の存在に」を掲げて取り組んでいらっしゃるとのことでしたが、日頃の情報共有は、どのように行っていますか。

今西 Slackでのやりとりのほか、エンタープライズマーケティング部の各メンバーが、担当する部署の大臣と定例ミーティングをしたり、各部の定例ミーティングに不定期で参加しています。

たとえば、ユーザー会の集客開始が近づいている時期であれば、CSの週次の定例に参加するというように、状況にあわせています。

細田 他部署との関わりのなかで、工夫している点を教えてください。

今西 他部署から信頼してもらうには、成果がすべてです。「マーケティングチームのイベントは成果が出る。積極的に活用しよう」と思ってもらえるようにならないと、信頼関係を築くのは難しいと考えています。

「マーケティングチームがこんなイベントを企画したから、お客さまに案内してください」ではダメ。イベントを設計する際は、集客リストをつくってISやCSに依頼しています。

また、「このイベントは、このような態度変容を想定しています。登壇者は〇〇さんで、トークテーマは〇〇。〇〇のような課題をお持ちのお客さまにとても関心を持っていただける内容です」という企画メモもセットにして、集客をお願いします。

そこまでやったうえで、ようやくスタートです。

細田 大臣のみなさんが、マーケティング部へ異動してきたことも、信頼関係構築に効果的ではないでしょうか。社内を上手にまとめているのでは?と感じます。

今西 そうですね。とはいえ、1年前は施策に対して社内からまったく反応がなかったんです。無風、無風で。やはり、いくらマーケティング目線で「これは良い施策だ」と考えても、セールスやCSの立場ではどうか?の視点がなければ、良い施策ではないということに気づきました。

メンバーや各部署の大臣の力を借りつつ、1年以上も地道に試行錯誤を続けてきて、だいぶ理想の形になってきたと思います。

イベントに成果と熱量を生み出す「モメンタム」

細田 SaaSのエンタープライズシフトや、エンタープライズ向けビジネスが増えるなか、今西さんが思う、エンタープライズマーケティングに大切なことを教えてください。

今西 イベントという施策に関して言いますと、最近チームでは「モメンタム」の話をしています。モメンタムとは、勢いや熱量が高い状態のことです。

私たちがモメンタムを持って、IS、FS、CSを巻き込みながら、イベントという「祭り」を盛りあげることが重要。そのために、まだまだエンタープライズマーケティング部としてできることがたくさんありますし、「そこまでやる?」という細部まで徹底したいと考えています。

細田 「イベントはお祭り」という表現は、とても実感があります。

他のチームの協力なくしては成り立ちませんし、参加する方たちの満足度も高くしたい。商談にもつなげたい。全員が共感できる理想的なゴールのバランスが重要だなと思います。

なにより、主催する側に熱量がなければ、まわりも参加してくれませんね。

今西 やっぱり、僕らが一番に熱を持ってないと、伝播はしません。だからといって「協力してね、お祭りだから」といっても、魅力的な企画で成果が出なければ、協力も得られないでしょう。

成果を出して信頼を得たうえでの祭りですから、そのための企画づくりや集客の設計などは手間を惜しまず、真摯にやっていくことが大切です

お客さまの課題はもちろん、社内の各部の課題や悩みに対して、いくつもの引き出しを持っているような強いチームにしていきたいと考えています。

細田 最後に、今後のSmartHRのエンタープライズマーケティングの展望についてお願いします。

今西 「エンタープライズマーケティングを当たり前に」を早く実現したいです。

多くの人が関わるエンタープライズマーケティングでは、部署を超える越境がとても重要。「よろしくね」では、ものごとは進みません。「まずはマネージャーから話をしよう」「ISにはこのタイミングで相談しよう」のように、根回しをすることが求められます。

大変だなと感じることはありますが、やりがいがあります。マーケターとしてもビジネスパーソンとしても、求められるレベルが高いぶん、やりきれると、組織や自分自身の強みになる。そのようなことを意識しながら、チームのみんなと日々楽しく仕事をしています。

社外的なところでは、「エンタープライズマーケティングといえばSmartHRでしょ」という世界観をつくっていきたいです。エンタープライズセールスのノウハウはいろいろなところで見聞きするようになりましたが、マーケティングはあまり見かけないんですよ。

だからこそ、僕らが第一人者になって、エンタープライズマーケティングの輪を広げていけたら、と考えています。他社にも、エンタープライズマーケティングに対して同じ課題や気持ちを持った方がいらっしゃいますし、先日勉強会も実施しました。

エンタープライズマーケティングの議論が交わされ、知見が共有されていくと、「エンタープライズマーケティング」への投資も増えていく。大きな展望ですが、そのような土壌をSmartHRから作っていけたらいいなと考えています。

才流のコンサルタントが解説

才流 細田

「エンタープライズマーケティングを当たり前にしたい」というミッションを掲げ、部署横断でオフラインイベント施策に取り組む、SmartHRの事例をうかがいました。

ポイントは、次の3つです。

  1. 「双方向のコミュニケーション」と「ここだけでしか得られない情報」を意識したオフラインイベント施策
  2. イベントを「祭り」として捉え、マーケティングチームが中心となり、IS・FS・CSなど他部署と協力する運営体制
  3. 他部署との信頼構築につながる、「マーケティング部の窓口となる大臣」と、セールスと同じく「受注金額」を成果として追うKPI設計

少人数のオフラインイベント施策から、部署を横断した協力体制、そして協力を得るための成果創出とKPI設計まで、すべての活動がつながっている点が印象的でした。

もっとも重要だなと感じたのは、今西さんの「成果がすべて」という考え方です。

他部署の協力が欠かせないエンタープライズマーケティングでは、「マーケティングチームのイベントで成果を上げられた」と実感してもらうことが、信頼構築の基礎となるというお話は、エンタープライズシフトやエンタープライズ企業への営業を強化する組織が参考にしたいポイントです。

まだまだ事例の少ないエンタープライズマーケティングにおいて、とても示唆に富む取り組みを聞かせていただきました。今西さん、ありがとうございました!

(執筆:野本 纏花 撮影:ヤマダ ヤスヒコ 取材・編集:水谷真智子)

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