1990年代に生まれたKPIは、現在も多くの企業で導入されている代表的な指標です。一方で約30年が経過した現在でもノウハウ関連の書籍やセミナーが開催されており、運用に苦慮されることの多い一面はあります。
「THE MODEL(ザ・モデル)」型の営業手法を導入するベンチャー(特にSaaS系)のみならず、エンタープライズ企業もオンライン営業の導入による分業化が促進されています。
それに伴い、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの各チーム、個人ごとにKPIが設定されているケースも増加しています。
また、マネジメントにおいても結果の管理だけでなく、プロセスの管理を重要視する企業の増加もあり、最近はKPIに関するご相談が増えています。
【専門商社の事例】
ある機械メーカーに原材料を販売している商社では、試作用の少量の材料は納品できるが、量産品は価格の安い中国企業に発注されてしまうという課題を持っていました。フィールドセールスのKPIは〝訪問回数〟としていましたが、顧客は「量産品は価格の安い中国企業に」と考えているため、いくら訪問回数を増やしても有効な商談が生まれず受注に繋がることはありませんでした。この企業が設定するべきKPIは「メーカー側の量産品に関する生産スケジュール、発注タイミングの把握」だったのです。
実はトップセールスだけは、これを把握することで中国企業へ発注される前に、納期・価格・生産工場ラインに関する擦り合わせを顧客と実施し、「案件を握っていた」のです。この点を、営業全員のKPIに設定したら業績は回復していきました。
本記事では、自社に適したKPIを抽出する方法を解説しています。そのうえで近年のケースに照らし合わせながら「KPIのメリット・設定・運用・管理」までを体系化させたので、今後の営業活動の参考にしていただけますと幸いです。
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KPIとは
KPIとは、KGI達成に向けた営業活動における〝CSFの特定〟と〝進捗具合が確認できる〟指標のことです。
※KGI:Key Goal Indicatior(最終的な目標達成指標)のこと。売上金額や受注件数など。
※CSF:Critical Success Factor(重要成功要因)のこと。提案書提出件数、デモ件数など。
よくあるケース
- KGIをKPIに設定している
- 何をKPIとするべきか不明
- 運用・改善ができない
KPIを聞くと「今期はチームとして5億円、個人では1億円です」と答え、「それはKGIですよね。KGI達成のためのKPIは設定していますか?」と伺うと「?」となってしまう営業の方がいらっしゃいます。
マーケティング部やインサイドセールス、カスタマーサクセスの方からすると信じがたい話かもしれませんが、フィールドセールスではそういったことが散見されます。
また、概念を理解していても「どの指標が正しいのか」に苦慮されているケースや、実際の営業活動に活かせず形骸化しているケースも少なくありません。
KPIを正しく設定するメリット
- とるべき行動が明確となる
- KGI達成までのプロセスが数値で可視化できる
- プロセスが可視化されてマネジメント・教育が行いやすくなる
- PDCA循環が可能となる
- 進捗状況の把握が容易となる(問題の早期発見による軌道修正が可能となる)
それでは、KPIの設定・運用・管理・修正といった一連のプロセスを10ステップに分解して解説します。
フィールドセールスのKPI設定~運用までの10ステップ
ステップを分類すると以下のようになります。
10ステップを順に説明いたします。
1.営業プロセスの分解
まずは営業プロセスを分解し、営業成果の因子を抽出します。
売上を因数分解する方法は複数ありますが、ひとつは以下です。
- 売上=販売数量×平均価格=①リスト数×②転換率×③価格
※この場合、①②③のいずれかを改善するしかありません(あくまで一例です)。
また「どこまで分解するか?」というご相談がありますが、一般論としては以下の流れでしょう。
- リスト選定▶︎アプローチ▶︎商談化▶︎初回面談▶︎案件化▶︎提案▶︎内示▶︎受注▶︎納品/検収
しかし「ナーチャリング」が入る企業もあるでしょうし、ルートセールス型であればリスト選定やアプローチは不要となるでしょう。唯一の解はなく「企業ごとに設定する」ことになります。
一例として「ゲームのステージ1、ステージ2・・」をイメージすると良いです。「現在はステージ〇です」と言えば、現在どのステージまで進んだのか組織間で齟齬なく理解できるように分類することが大事です。
※関連記事:クロスセルとは? LTV向上に役立つ5つの営業Tips【トーク例付き】
2.KPI設定の3つの軸と目標値設定
ここが重要ポイントになります。KPIは、以下の3つの軸で設定することを推奨します。
- ボトルネック
- CSF
- ボラティリティ
ボトルネックとは「営業プロセス上のボトルネック」のことです。一般的にテレアポの転換率は1%程度とされていますが、仮に自社が0.2%であればこの部分がボトルネックとなり、1%に近づけるためにテレアポの転換率を評価指標として設定します。
この際に注意することは「apple to apple(同一条件での比較)」です。全国展開している企業が東京支店と青森支店で比較した場合、市場環境・顧客属性・ニーズ等が異なることもあるでしょう。それは適切な比較対象ではありません。
CSFは、その商品/サービスにおける営業活動の肝となるプロセスです。このプロセスを通ることが成約の確度を高めます。食品メーカーであれば試食などが該当するでしょう。この「プロセスへの到達数を評価指標にすること」と、「プロセスまでの導線設計」は非常に重要になります。
ボラティリティは、パイプライン上の営業プロセスから特に変動幅の大きい因子を抽出します。例えばウェビナー集客数はテーマや登壇者により、数十名〜数百名まで幅が大きい因子です。あるいは、商談化率や見積提出率など営業プロセスの転換率が担当者により幅があった場合もボラティリティに該当します。
ボラティリティがあるということは、取り組み方によってはアップサイドの実績に到達できるということなので、評価指標にすると有効なケースが多いです。
以上の3点(ボトルネック・CSF・ボラティリティ)を特定したら、自社のあるべき数値やトップセールスの数値を参考に目標値を設定します。これでKPI設定が完了です。
モニタリング対象を必ず3点にする必要はなく、4点以上でも構いませんが、あまりに多くのKPI設定は管理が煩雑となりますので3つを推奨します。
3.活動KPIと対策立案
ここも非常に重要です。抽出したKPIを「活動KPI」に落とし込みます。仮にテレアポ取得率をKPIとした場合、この転換率はスキルや運にも左右される箇所であり達成できないケースもあります。つまり人に依存します。これを回避するための考え方が活動KPIです。
仮にテレアポ取得率が1%・目標件数10件ならば、1,000件架電が必要とわかります。
このように経験や能力に関係なく誰もが実行可能できる「1,000件架電」を活動KPIとすれば、目標達成の確度が向上します。
その上で、トークスクリプト作成などの対策を講じることで、その蓋然性はより高まるのです。
4.整合性の確認
設計したKPI・活動KPIの整合性を、5つの観点から確認しましょう。
【注意点】
抽象的で人の解釈が介在する目標、多くの人手が必要となる計測方法、現実的に到達不能な高い目標、経営戦略と無関係、期限がない……、このような場合には当然ながら運用・計測が困難となるので注意しましょう。
5.リスク対策の検討
問題発覚直後に対策の検討をはじめた場合でも、その間に営業活動は実施されており間違った活動を実行し続けていることになります。あらかじめ以下の基準を設定しておき、早期に軌道修正できる環境にしておきましょう。
【例】
月50件の新規アポイントをKPI設定とすると、半月後(時期)に25件(程度)へ届かなければ、リスト精査とトークスプリクト作成(対策)を行うといったイメージです。
6.関係者間での合意形成
全ての設計後に、本件に関わる関係者間で合意形成を図ります。仮に合意が得られなかった場合には計画を練り直します。
しかし、せっかく緻密(切れるナイフ)な立案をしたのに、周囲に翻弄され、玉虫色の折衷案を作り「切れないナイフ」にならないよう注意しなければいけません。
【関係者間で合意形成が図れない要因】
よくあるのは、部分最適(個人や各部署の視座)に陥っているケースです。人間は自分の仕事に対して防衛的・感情的になり大切なことを見失うことがあります。全体最適(組織全体の視座)で推進するために、組織全体で「売上」をKPI/評価基準のひとつとする、組織横断の統括を置くといった「風景を合わせる」対策が考えられます。
7.パイロットによる実践
まずは一部の部署からスタートしましょう。そこでPDCAサイクルをまわし、早期の成功を達成させることが重要です(スモールスタート▶︎クイックヒット▶︎全社展開)。
取り組み内容にもよりますが、3か月以内に全社へ共有できるような成果を目指したいところです。
短サイクルでPDCAをまわすために、KPIは週次で測定できるものが望ましいです。
月次での計測では3回しかサイクルが回りません。まずは自社の営業活動上、週次計測できるものを抽出してみてください。
8.モニタリング
週次で計測し、問題が発生していないかをモニタリングします。内容によっては週次での計測は難しいケースもあると思いますが、月次の計測では軌道修正が遅くなるリスクがあります。
状況に合わせながら、可能な限り早いタイミングでの計測を実施しましょう。
9.結果の検証
隔週を目途にデータなどの事実に基づき、数値の推移や実践内容などの問題点を抽出します。目標未達の際、「施策」 or 「運用」のどちらに起因するのか見誤らない注意が必要です。
「施策が間違っていた」と考えて別の新たな施策を実施するケースは多いですが、「施策は正しく、運用が間違っている」ケースが見落とされがちです。
例えば、案件管理を向上させるために施策としてSFAを導入したものの、営業パーソンが多忙で入力を怠ったことで解約してしまうケースは枚挙に暇がありません。
SFA(施策)と営業(運用)どちらを改善するべきなのか、冷静な判断が求められます。
10.改善策の策定
結果の検証を踏まえた改善策を策定し、すぐに実行に移しましょう。「KPIは未達だが施策は正しかった」と判断したときには、ステップ5のリスク対策の検討で策定した対策内容を実施します。
本記事の冒頭でご紹介した専門商社の事例では、メーカー側の発注タイミングを把握できなかった営業に関して、上司がメーカー側の上層部との月次会議で案件の生産状況を聞き出したうえで、部内にフィードバックを行いました。
罠と成功ポイント
最後に「陥りがちな罠」と「成功へのポイント」をまとめます。
陥りがちな罠
- 手段の目的化
(例:訪問回数を活動KPIとした場合、無意味に訪問すること) - カウントの定義が曖昧のまま運用
(例:リードからの問い合わせ件数をKPIとした場合、電話やメールでの問い合わせをカウントするか、資料請求があってカウントするか、担当者でバラつきがある) - 不信
(KPIそのものに対して、営業パーソンが不信感を抱いている) - 成長痛
(短期的には業績が下降するケースがあり、すぐに元の木阿弥に戻してしまう)
対策(成功へのポイント)
- SFA/CRMの活用
- 評価制度への組み入れ
- 組織としてのコミットメント
SFA/CRMを導入すれば、負荷をおさえて正確な計測が可能となります。SFAの登録や活動KPIの達成率を評価制度に組み入れれば、運用は促進できるでしょう。
また、経営陣は「短期間での業績負荷は織り込む」などのコミットメントが必要になります。
まとめ
今回は、KPIの設定から運用法、管理や改善まで体系的にご紹介しました。
営業プレイヤー、マネジメント問わずに取り入れられる汎用性の高い内容になっています。自社に最適なKPIを抽出し、PDCAを回すことでKGI達成に寄与していくので、取り組んでいただければ幸いです。
KPI設定で迷うことがあれば、お気軽に才流(サイル)へお問い合せください。
例えば以下のご相談をお受けしています。
- 数字ではなくプロセスを管理したい
- 正しいKPIを設定して運用を実施したい
- 実践に連動したKPI運用をしたい
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