商品企画や営業企画を担当している方から、営業向けにサービスの説明資料を用意したのに、営業が新商品を売ってくれないというご相談をいただくことがあります。
営業が新商品を売らないのには、合理的な理由が存在します。その理由を理解せずに営業推進をしても、成果にはつながらないでしょう。
そこで本記事では、商品企画・営業企画の担当者に向けて、営業部門の外から営業推進を行う方法について解説します。ぜひ自社の営業推進の参考になさってください。
才流(サイル)では、「営業推進の手順がわからない」「営業が売ってくれない」という企業さまを支援しています。営業推進に関してお困りの方はお気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら
営業が新商品を売ってくれない理由とは?
営業は顧客に商品・サービスを提案するのが仕事です。しかし、新商品をリリースしたからといって、営業が積極的な提案活動を行ってくれるわけではありません。
営業部門の外からの営業推進が失敗する原因の一つに、営業に関する理解不足があります。営業推進をはじめる前に、まずは営業という組織について深く理解しましょう。
理由①:「売らない」選択が合理的だから
一般的な営業組織では、個人に複数の目標を設定して評価を行うケースが多いです。そして、それぞれの目標には重要度に応じた評価ウェイトが割り当てられます。それぞれの目標ごとに評価とウェイトを掛け合わせた数値が評価ポイントとなり、その合計が総合評価になります。
多くの会社や組織では売上が重要なので、そもそも新商品などの見立てが不明瞭なものは目標に組み込まれないケースが多く、営業にとっては提案メリットがありません。もし目標に組み込まれた場合でも、全体の売上目標のウェイトのほうが高くなるケースがほとんどです。
たとえば以下の図のように、全体の売上目標に60%、新商品の売上目標に20%、新人育成に20%のウェイトを割り当てた場合、それぞれの評価ポイントは2.4、0.2、0.6となり、総合評価は3.2となります。
ここで注視すべきは、新商品の評価をひとつ上げるよりも、全体の売上目標の評価をひとつ上げたほうが総合評価は高くなるということ。つまり、新商品を売るためのキャッチアップに時間を使うよりは、既存の商品の営業活動に時間を使ったほうが総合評価を上げるのに合理的だということになります。
これが、営業が新商品を売ってくれない根本的な理由です。
理由②:「売りやすい」状態になっていないから
新商品の販売対象(市場や業界、部門)や販売手法(販売価格や料金体系)が既存商品と異なる場合、営業は今までと同じように商品を売ることができません。新しい市場や新しい商品に関するキャッチアップが必要となるためです。
たとえば、新規の市場で売る場合は新しいエリア・属性の顧客を理解する必要があります。新規の商品を売る場合は、その商品の理解を深めて提案手法に慣れていく必要があります。つまり新規の市場で新規の商品を売るとなると、その両方を実行していかなければならないのです。
前述したとおり、営業には新商品を売らない合理的な理由があります。営業にとっては、キャッチアップに時間のかからない商品ほど売りやすいため、学習に時間のかかる新商品は余計に売りにくいものとなってしまうのです。
営業推進の大前提として必ずやっておくべきアクション
営業個人に「新商品を売りたい」という行動変容を起こさせるために、営業推進の大前提として必ずやっておくべきことがあります。それは経営層を味方につけることと、商品を売りやすくする工夫を行うことです。
経営層を味方につける
一番はじめに行うべきは、経営層を味方につけてトップダウンで推進の後押しをしてもらうことです。なぜなら、大人数の組織を動かすためには3つのKSF(重要成功要因)を順番にクリアしていく必要があるからです。
【組織を動かす3つのKSF】
①経営層の旗振りがある(トップダウン)
②各組織の文脈に沿っている
③営業個人への認知・価値提供ができている
経営層からのトップダウンのアプローチを期待するのであれば、新商品が会社の目標や方向性と適合していなければなりません。会社としてどこに向かっているのか、何がメリットになるのかを理解したうえで、新商品が成長事業であり時流に乗っていることを伝えましょう。
経営層を味方につけたら、今度は各事業・組織の年間方針に新商品を組み込んでもらいましょう。各事業・組織の目的や戦略に沿うことで、その先の推進のパワーがより強くなります。
※関連記事:「営業が売ってくれない!」社員5,000人企業のマーケターが実践した社内マーケティングのすべて
売りやすくするための工夫をする
記事の前半で解説したように、キャッチアップに時間のかかる新商品は営業にとって売りにくいものです。しかし、販売対象(市場や業界、部門)や販売手法(販売価格や料金体系)を変えるのは容易ではありません。
そこで、新商品を売りやすくする工夫として、以下のような販売戦略をとることを検討してみましょう。
- 本命の商品につながる中間商品を用意する
- 既存商品とは別の販売ルートを用意する
- 2週間で売れる商品にする
1.本命の商品につながる中間商品を用意する
前述のとおり、営業にとって販売対象と販売手法の両方が異なる商品は販売までの負荷が高いもの。どちらかの負荷を減らした中間商品を作ることで、営業の強い抵抗感を和らげることができます。
たとえば、現在の主力商品が「採用広告」で、新商品が「エンジニア研修」の場合、簡単な「入社者向け研修」を中間商品として組成します。営業は現在の営業活動の中で「研修」という商品の売り方を学習することができるはずです。
エンジニア研修は対象が異なるだけなので、営業のメリット次第ではその後の販売で大きく提案数を伸ばしてくれる可能性が出てきます。
2. 既存商品とは別の販売ルートを用意する
新規の販売対象と販売手法に慣れていない営業の代わりに、別の販売ルートを用意して実績やナレッジを収集するという方法もあります。たとえば、新商品を販売する専任営業をおく、新商品の提案先にあたる職種や業態に精通している代理店に委託する、などです。
これにより一定の売上をつくりながら、活動の中で得た販売ノウハウを自社の営業に転用できるため、学習コストを下げられる可能性があります。
3. 2週間で売れる商品にする
月間の販売実績は営業評価に大きく関わることが多いです。このため、月末に目標に近づけるよう、効率的に早く売れる商品を優先的に売ろうとするものです。新商品を2週間程度で売れるような設計にしておくことで、月末に近づくほど積極的に販売される可能性があります。
また、売りたい商品の商談期間を2週間に縮めることが難しい場合は、売りたい商品につながるライトな導入商品を作ってみることも選択肢です。
営業部門の外から営業推進を実践するステップ
経営層を味方につける、商品を売りやすくする工夫を実行するなど営業推進のための準備が終わったら、営業個人への推進のステップに移ります。ここからのステップを成功させるために、必ず理解しておきたい重要なポイントを解説します。
個人の属性について理解する
営業に携わるメンバー全員に対して同じ営業推進をしてはいけません。営業を一面的に捉えてしまうと、推進が失敗する原因となります。
どのような組織でも、個人にはそれぞれ属性があります。三枝 匡氏の著書『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか』では、組織の構成員を6つのセグメントに分けて捉えています。
営業推進の実務においては、「イノベーター」「フォロワー」「アンチ」の3つ程度に大別して取り組みを行っていくのがよいでしょう。
イノベーター、フォロワー、アンチはそれぞれ特性が異なります。そのため、社内の営業組織においても市場へのマーケティングと同様に属性ごとの営業推進を行うのがポイントです。
フォロワーの推進の成功をゴールに設定する
イノベーター、フォロワー、アンチそれぞれの特性は以下のとおりです。
①イノベーター
- 特性
- リスクの許容幅が大きい
- 能動的に情報を取得する
- 協業のゴール
- トーク・ツールの磨き込み
- サービスのチューニング
- 協働方法
- 同行
- 細やかなフィードバックサイクルの設定
②フォロワー
- 特性
- 周りの売る雰囲気で動く
- 必要なタイミングにならないと情報を取得しない
- 協業のゴール
- 組織全体の売り上げの最大化
- 協働方法
- 盛り上げ
- 各種情報の提供
③アンチ
- 特性
- 強烈なペナルティがなければ基本的には動かない
- 協業のゴール
- 組織全体の士気の維持
- 協働方法
- トップダウンアプローチ
組織全体の売上の鍵を握るのはフォロワーであるため、フォロワーへの推進の成功を中心においたゴール・順番を設定するのが望ましいです。フォロワーにとって重要なのは受注までにかかる時間が短いこと。そのため、できるだけ営業の手間がかからない状態をつくることを心がけましょう。
続いては、イノベーター、フォロワー、アンチの3つの異なる属性に対する営業推進のステップを解説します。
ステップ①:イノベーターへの営業推進
まずはじめに取り組むのが、イノベーターへの営業推進です。イノベーターは新しいことにチャレンジすることに抵抗感が少ないため、商品のリリース初期にトークやツールの磨き込みに巻き込んでいくのがポイント。商談に同席しながら、料金体系や機能、フォロワーに展開するための営業資料を磨き込んでいきましょう。
- 目的
- フォロワーが売るためのトークやツールを磨き込む
- 達成のめやす
- 適切な資料が顧客に届き、営業して受注ができる状態
- 作成・磨き込みをするもの
- 料金体系や機能
- 営業資料(商談ストーリ、ワード)
- キラートーク集(想定課題とトーク)
- トークスクリプト
- 想定Q&A集
- 事例集
- 達成するための手段の例
- 商談同席・録画確認で一時情報を取得する
- 個人と定期的なフィードバックを行う
- ミーティング
- テキスト情報
- 専任営業部隊を組成する
- 同行営業部隊を組成する
ステップ②:フォロワーへの営業推進
続いて、全体の売上の鍵を握るフォロワーへの営業推進を行います。フォロワーは周囲の雰囲気次第で行動が変わってくるため、営業活動をしやすい環境を構築しておくのがポイントです。フォロワーにとってやるべきことが明確になっている状態を目指しましょう。
- 目的
- 組織全体の売上の最大化
- 達成のめやす
- 継続して6割以上の個人が提案し、広く受注が出ている状態
- 個人にやってもらうこと
- 商談時の“ついで”提案の徹底
- 顧客リストへの提案を網羅
- 必要な資料を顧客に提供
- 達成するための手段の例
- 迷わない、アクセスが容易な資料を用意する
- 提案状況を可視化する(SFA※などを活用)
- 想定課題を明示した顧客リストを配布する
- 販売事例を定期配信する
- 社内キャンペーンを実施する
- フィードバック窓口を設置し、全体への改善報告を行う
- 同行営業部隊を組成する
※SFA:エスエフエー/Sales Force Automationの略。営業活動の記録、進捗状況、顧客情報などを管理するシステムのこと。
ステップ③:アンチへの営業推進
最後に、アンチへの営業推進を行います。アンチは強制力やペナルティがない限り、積極的に動いてはくれません。そのため、トップダウンのアプローチが有効となります。ただ、費用対効果の面から、アンチへの営業推進は行わないことが多いです。
- 目的
- 組織全体の士気の維持
- 達成のめやす
- ネガティブな発言がチーム内に横行していない状態
- 個人にやってもらうこと
- ネガティブキャンペーンをしない
- 達成するための手段の例
- トップダウンのアプローチ
まとめ
営業部門の外からの営業推進を成功させるためには、経営層を味方につけること、営業が売りやすくなる工夫をすることが大前提として必要です。そのうえで、以下のポイントを意識して進めてください。
- 学習コストや受注までの工数を削減し、営業活動に必要な時間を短縮する
- 営業推進は3つの属性ごとに目的を分けて行う
- イノベーター:フォロワーに展開するための磨き込み
- フォロワー:提案の網羅と受注の最大化
- アンチ:士気の醸成
営業部門外からの営業推進がうまくいかない背景には、営業や個人の属性に対する理解が不足しているケースが多いです。本記事を参考に、営業が売ってくれない原因を理解し属性ごとに対策を行うことで営業推進を成功させましょう。
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