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元キーエンスのトップセールスが語る。トップセールスを生み出す営業組織の条件|セミナーレポート

法人営業
イベントマーケティング責任者
轟 拓哉

2022年11月15日、元キーエンスのトップセールスでイタンジ株式会社の執行役員、増田 直大氏をお招きし、「トップセールスを生み出す営業組織の条件」というテーマでセミナーを開催しました。

本記事では増田氏が実践する営業組織のマネジメント手法のうち、以下3つのテーマをダイジェスト版でお届けします。

  • セールスベーシックフォースの明文化
  • 組織マネジメントのベースとなる、リーダーシップの正しい理解
  • 型の習得でトップセールスを育成する

スピーカー
イタンジ株式会社 執行役員 増田 直大氏

新卒で株式会社キーエンスに入社。数年間トップセールスを記録した後、最年少で所長に昇格。全国屈指の規模の仙台営業所長も務め、プレイングマネージャーとして活躍。2019年、イタンジ株式会社に執行役員として入社。現在はセールス部門の責任者、人事部の責任者を務める。 

ファシリテーター
株式会社才流 コンサルタント 宮戸 章光

繊維専門商社を経て営業特化のコンサルティング会社で従事。株式会社 才流(サイル)では営業コンサルタントとして法人営業支援、メソッド開発、講演登壇、勉強会講師を担当。MBA(経営学修士)

セールスドリブンのSaaS企業を目指して

宮戸:強い営業組織を作るというのは、我々も含めて多くの組織が日々試行錯誤をしているテーマだと思います。今回はキーエンスの最年少所長に抜擢され、現在はイタンジ株式会社の営業トップとして事業成長を率いている増田さんをゲストにお招きし、売れる営業組織の作り方をテーマにお話いただきたいと思います。増田さん、よろしくお願いいたします。

増田氏(以下、増田):ご紹介にあずかりました増田と申します。2002年に株式会社キーエンスに入社し、営業所を変えながら責任者をしてきました。2019年にG.A.Technologiesに入社し、現在はそのグループ会社であるイタンジ株式会社にて執行役員をしております。

イタンジは“テクノロジーで不動産取引をなめらかにする”というミッションを掲げ、不動産テック領域でSaaS事業を展開しています。最新の決算では、ARRが前年比164%と成長著しく、DX銘柄には3年連続で選ばれています。

SaaS事業はデータドリブン、プロダクトドリブンと言われますが、私個人としてはセールスドリブンを世の中に広めていきたい、セールスの立場をもっともっと上げていきたいという思いで日々取り組んでいます。

セールスの基礎的な素養を「セールスベーシックフォース」として明文化

増田:本日のテーマは、トップセールスという個人に焦点を当てた軸と、そのマネジメントや組織論という2つの軸に分けてお話をしたいと思います。まずはトップセールスについてです。

営業は総合格闘技とも言われますが、トップセールスは一流のビジネスパーソンです。ビジネスパーソンとしての素養を磨くために私が大切だと考えているのが「心技体」です。心は仕事へのスタンスやプロ意識、技は知識やProfessional Selling Skills(PSS)面談スキル強化(※)といったものの理解、体は営業スタイルのようなものをイメージしていただければと思います。

※Professional Selling Skills(PSS)面談スキル強化:アメリカで開発された、営業面談のあらゆるスキルを体系的に習得するためのプログラムのこと。

この「心技体」を構築し、ビジネスパーソンとしての素養を育むために必要な要素を、弊社では「セールスベーシックフォース」として言語化しています。

多くの企業では理念やミッション、バリューを言語化し、掲げていると思います。セールスはセールスでそういったものを持っていると良いと考え、イタンジの営業組織では13か条のセールスベーシックフォースを設定しています。メンバーに共有し、何かあったときに立ち返る場所として、また会話の下敷きとしても活用しています。具体的にいくつかピックアップして詳しくお話します。

目標設定に必要なのは、「達成可能な道筋を見つける」というマインド

増田:たとえば、目標設定の考え方について言語化したものがこちらです。

営業目標は、全社戦略に基づいて決めることが多いので、マネジメント層であっても自分で設定できないケースは多分にあります。そうなると目標値の妥当性を議論するより、目標に向かっていかに走るかが重要になってきます。

しかしメンバーからは、「こんな高い目標は達成できません」という声が上がってくる。そういうときに、「セールスベーシックフォースにも書いてあるけど」と会話の下敷きとして活用します。「会社と共に人が成長する」という考え方を変え、「会社が成長を目指しているので営業目標が上がるのは当然」という考え方を明文化することで、コミュニケーションがとりやすくなります。またこのような考え方を持つことで、メンバーは早くリーダーへと成長できると考えています。

宮戸:全社戦略から営業目標が設定されるというのは、ロジック的にはわかるものの、納得はできないという声もあると思います。ロジック以外の部分で、増田さんが何かされていることはありますか?

増田:目標というのは、普通の会社であればいつか辿り着けます。そこに期限が区切られているから難しいわけですよね。時間軸が長ければ達成できる目標を、いかに早く達成するか。山登りに例えると早く山に登りたいが、登り方は任せるよ、と。ただPDCAの回し方については、しっかり教えています。

たとえば若手のメンバーであれば、KPIをシンプルに。目標成約数を達成するために必要な商談数と、そこから逆算した必要架電数を一緒に決めて日々の進捗を追うようにしています。

宮戸:会場からも「明文化したセールスベーシックフォースは形骸化しないか」といった質問がきていますが、まさにこれが答えですね。リーダーが伴走して、考え方を行動に落とし込んでいく、と。

増田:おっしゃる通り、形骸化しないよう伴走し、事あるごとに立ち返る場所として活用しています。イタンジのセールス組織ではかなりの頻度で、それも100回や200回ではすまないほど、セールスベーシックフォースの内容を持ち出しています。

当たり前の小さなことの繰り返しで、当たり前ではない大きな結果がついてくる

宮戸:会場からの質問です。成約目標からの逆算で、天文学的な数字の行動目標が出たときは、ある程度手法を用意するべきですか?

増田:そうですね、手法はある程度用意してあげるべきだと思います。たとえば弊社でも先月、インサイドセールス部門が天文学的な架電をしないと目標に届かないという話になり、マーケティングチームに相談してインバウンドを増やす施策を追加することにしました。行動目標はセールス組織で握れるところなので、「ここだけはやろう」とみんなで決めることが大事だと思います。

実はこの話は、セールスベーシックフォースの「ウルトラCを狙わずに『当たり前なこと』にこだわろう」に繋がります。

天文学的な行動をしないと、営業目標を達成できない。こういった事実に直面すると、誰もがウルトラCを狙いたくなります。ここで出てくるのが「厚さ0.1mmの紙を何回折れば月まで届くと思いますか?」という質問です。答えは驚くべきことに、たったの42回。営業に大切なのは、実は毎日の当たり前なんだという話です。

共有と競争が強い組織を作る

増田:少し話が変わりますが、強い営業組織をつくる上で、重要だと考えているのが共有と競争です。営業同士は良きライバルでありつつも、有益な情報は共有した方がいい。キーエンス時代もそうでしたが、強い組織では共有と競争の原理が健全に働いています。イタンジでもこの観点を大切にしたいという思いから、セールスベーシックフォースで明文化しています。

宮戸:営業が成績を競い合いつつ共有をするというのは、トレードオフな一面があるように思います。共有と競争をバランスさせるために、マネジメント層はどのような支援をするべきでしょうか。

増田:イタンジでは、営業に支給するインセンティブを個人単位ではなく、あえてチーム単位にしています。競争原理は必要なので、営業個人のランキングは出していますが、インセンティブはチームごとに付与しています。

というのも、営業にはどうしても波がありますよね。良い月、悪い月があるはずで、「今月は厳しいから助けて」とか「今月は任せておけ」とか、そういったコミュニケーションが生まれ、自分の状況を共有するのがスタートラインと考えています。

そして、そこから競合がこういう営業をしてきたとか、新しい情報まで組織内で共有できるようになると、あらかじめ手が打てるようになります。セールスミーティングでそういった情報発信はかならず褒めますし、その情報をみんなが知っている状態にします。情報発信者にならないとリーダーにはなれないよ、という話もしています。

宮戸:情報発信はリーダーに必要な条件ですね。会場から1つ質問が挙がっています。共有を評価するための具体的な基準はありますか?

増田:弊社では目標設定の際に個人の目標とチームの目標を書いてもらうのですが、チームの目標として、どうチームに影響力を発揮するか?という項目をかならず1つは入れてもらっています。数を数えるに近いですが、質と量でカウントしています。

組織マネジメントのベースとなる、リーダーシップを理解する

増田:ここからは本日2つ目の軸であるマネジメントに話を移します。マネジメントと言うと、KPI管理といった話になりがちです。しかし、大切なのはリーダーシップというベースがあった上で、マネジメントをしていくことです。

リーダーとは、ビジョンを提示する人

増田:リーダーと聞いて、どのような人を思い浮かべますか。ドラッガーは、リーダーとは「付き従う人」すなわちフォロワーがいる人だと言っています。だからこそ人間力が求められます。

また別の本では、リーダーとは靄がかかった海の向こう側に島が見えている人だと言います。フォロワーには見えていない海が見えている人、という定義です。

さらに別の本では、幼稚園児の砂場遊びを例にリーダーを説明しています。あそこに川を作ろうとか、お城を作ろうと言い出す人がリーダーだと。そこでみんなが「やろうやろう」と賛同して砂遊びが始まるわけですが、ここで大事なことは、リーダーとは役職ではないということです。砂場にいる子供達はみな、同じ立場であって、リーダーシップをとる人こそがリーダーであるということです。

リーダーに必要なのは、メンバーからの信頼貯金

もう一つ、リーダーに必要なのは、メンバーからの信頼貯金を貯めていくことだと考えています。信頼というのは、0やマイナスになると取り戻すのは非常に難しいものです。だから、コツコツ貯めていく。そしてマネジメントをしていると、いつかかならず訪れる「厳しいフィードバックをしなければならないとき」に、この信頼貯金を使います。

信頼貯金も含めた人間力をマネージャーは持っている必要があり、ポジションパワーだけを使ったマネジメントはうまくいきません。

宮戸:信頼貯金を貯める。本当にその通りだと思います。増田さんは信頼貯金を貯めるために、日々どのようなことに気をつけていますか?

増田:メンバーの目を見て挨拶をし、一人一人の状態を知るように努めています。平時を1としたとき、いまどの状態にあるのか。たとえば成約がたくさん取れているときは、1.5まで調子が上がっていて、どんな課題を与えられても「頑張ります」というマインドになっていることが多いと思います。そういうメンバーには、「良くやっている」というフィードバックと共に、「もう少し頑張ればもっと凄い」と1.8の目標を与えるようにします。

一方で、あるメンバーはミスが続き0.7の状態になっているとします。いつもは目を見て挨拶をしてくれるのに目を見てくれない。そんなときは、過度なストレスを与えないようコミュニケーションに気をつけます。0.7の人に1.8の目標を与えてしまうと「そんなの無理です。なんでこんなときに言うんですか」と信頼を失ってしまいます。こういう状態のメンバーには「まずはここまでやってみよう」と0.9の目標を提示します。

つまり、メンバーの状態によってコミュニケーションを変えること。そして、ときには目標設定そのものを変えることで、調子が戻ったときに「良いコミュニケーションをとってくれた」と信頼貯金に繋がると考えています。

型の習得でトップセールスを育成する

増田:ここまで、マネジメントのベースとなるリーダーシップについてお話ししました。ここからは先ほどの図の右側、マネジメントについてお話しします。マネジメントにおいて、私がもっとも重要だと考えているのが育成です。

トップセールスの営業トークを完全コピー。型を身につけることが、一番の近道

実はキーエンスはかなり育成に力を入れている会社です。一人の営業メンバーにつき毎日1時間は使っていると思います。具体的に何をしているのかと言うと、営業ロープレ(ロールプレイング)です。営業としての型を身につけさせることが、育成の一番の近道だからです。

イタンジの営業組織では、お客さまの許可を取った上で、トップセールスの商談を録画することがあります。営業トークを完全コピーするためです。ただし、完全にコピーしても絶対にうまく行きません。それはなぜか?営業のキャラクターが違うからです。

それでも1度、完全にコピーしてからオリジナルの営業トークを作った方が成長は圧倒的に早い。このような型の習得は大切にしています。

ロープレでは商談のゴール設定にこだわる

宮戸:会場から質問がきています。増田さんのおっしゃる通り、まずは「守」からやらせたいのですが、若手に守破離の重要性を伝えるのが難しいです。この点について何か実践していることはありますか?

増田:若手は格好いいところだけを真似する傾向があると思います。そこはあえて封印し、真似を続ける、真似に徹することが大切です。あとはProfessional Selling Skills(PSS)面談スキル強化でいうオープニングにこだわってロープレをすることです。オープニングさえできれば、コピーした営業トークでも形になるからです。

宮戸:オープニングというのは?

増田:お客様と握るべき、打ち合わせのゴールです。これが甘いと、「今日はAというプロダクトを紹介させていただきます」で終わってしまいます。実はこれ、ゴールではありません。営業にとってサービスを紹介し、導入してもらうことはゴールですが、お客さまにとっては手段です。お客さまには何かしらの目的があり、その達成手段としてサービスを使うわけです。

お客さまの目的をヒアリングした上で、オープニングを設定します。たとえば、「人件費の課題を持たれていて、そこに対して何か良いアプローチがないか検討されているのですね。では手段として弊社のサービスを利用した場合、弊社の競合サービスを利用した場合、現状通りという3つのアプローチでご説明しますね」と。これがオープニングです。オープニングさえ握れていれば、その後の説明は営業トークのコピーで問題ありません。

宮戸:ある程度の型を設計し、ロープレを繰り返すことで営業を育成しているのですね。今回は貴重なお話、ありがとうございました。

増田:こちらこそ、本日はありがとうございました。このような機会をいただくことで、私自身の思考も整理されました。セールスドリブンな組織を作るべく、まだまだ試行錯誤しているところです。今ぶつかっている壁やそれをどう乗り越えたか、また次の機会にお話しできればと思います。

(文:藤井 恵、編集:轟 拓哉)

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