2023年7月11日(火)、当社主催で「PMF CONFERENCE 2023」を開催いたしました。ご参加いただいたみなさま、ご登壇企業のみなさま、誠にありがとうございました。
本記事では、PMFカンファレンス2023のセッション3「市場がない事業の広め方〜未開拓市場をゼロから創るPMF事例〜」をレポートします。
株式会社ビザスクの宮崎 雄氏と株式会社カオナビの平松 達矢氏を迎え、それぞれのPMFストーリーや新しい市場をゼロから開拓する原動力を語っていただきました。
※PMFの基本的な考え方と他のセッションについては、以下の記事でご紹介しています。
【PMFカンファレンス2023】開催レポート|マツリカ・NTT東日本グループ・ビザスク・カオナビ・NewsPicks・キャディ・susworkが登壇
登壇者プロフィール
2006年にリクルートHRマーケティングに入社し、営業、新商品開発、リクルートホールディングス・リクルートジョブズの経営企画部門の責任者として従事。2019年3月にビザスクに参画、CEO室長とビザスクlite事業部長を兼任し法人向けマーケティングの立ち上げとビザスクliteの成長を推進。2022年3月より法人事業部 事業部長、2023年3月より日本共同代表就任。横浜国立大学卒業。
モバイルサイト開発業務に従事した後、コロプラにてプラットフォームの運営及び開発を担当。その後、ゲーム会社の新規開発部門にてマーケティングとアライアンス業務に従事する。2017年にカオナビに入社し、プロダクト部門責任者を経て、2022年にCPO就任。
マーケティングコストをかけずに最初のPMFを達成したビザスク
本セッションのテーマは、「市場がない事業の広め方〜未開拓市場をゼロから創るPMF事例〜」。登壇したのは、ビザスクとカオナビです。
ビザスクは、新規事業創出やDX推進といった変革に挑む企業のニーズに応じて、必要な知見をマッチングする「ビザスクinterview」などの多様なスポットコンサルサービスを提供しています。
一方カオナビは、社内の人材情報を一元管理し、組織運営に活用するタレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供する企業です。
両社の共通点は、新しい市場を開拓しPMFを達成したことです。どのような経緯でPMFを達成し、事業を成長させてきたのでしょうか。
ビザスクは2012年に創業。翌2013年に、ビザスクを正式リリースしました。当時からビザスクは、セルフマッチング型とフルサポート型のインタビューサービスを提供していました。
サービスの提供形態
- セルフマッチング型のインタビューサービス(現在のビザスクlite):アドバイザーとクライアントが自分たちで相手を見つける
- フルサポート型のインタビューサービス(現在のビザスクinterview):ビザスクスタッフがマッチングに介在する
2016年に入ると、コンサルティングファームから、一次情報の調査・収集用途で需要が大きく増えます。まったくマーケティングコストをかけていないにもかかわらず、PMFのシグナルが点灯したわけです。
ビザスクの宮崎氏は、「(たくさんの需要のうち)どの需要に注力していくかを考えることが、重要なポイントだった」と当時を振り返ります。
創業期から2019年まで、取扱高10億円を超える規模に成長したビザスクは、2020年3月に東証マザーズ(現・東証グロース)に上場。現在、登録アドバイザーは国内外で56万人を超えました。顧客も、コンサルティングファームや金融機関、大手事業法人の新規事業など広がりを見せています。
PMFをきっかけに社名を変更したカオナビ
カオナビは、2012年にタレントマネジメント事業を開始し、翌年に社名を変更しました。
社名変更のきっかけは、PMFが影響していたといいます。
「PMFする前後の訴求メッセージが、“顔と名前が一致しないを解決する”だったんです。組織の規模が大きくなってくると、どうしても全員を覚えていられないという課題が出てきます。でも実は、顔と名前が一致していたほうが成長に寄与するという研究結果もあって。ここが顧客に刺さるポイントなんだと思ったんです。そこで、一言で商品名やサービス内容がわかるように、カオナビという社名へ変更しました」(カオナビ 平松氏)
2018年までに、利用企業社数1,000社をマイルストーンに置いていたというカオナビは目標を達成。翌年に東証マザーズ(現・東証グロース)へ上場します。
以降、HR業界での存在感を増しているカオナビ。現在の利用企業者数は3,000社(2023年3月末時点)を突破し、事業会社だけでなく、官公庁にも利用が広がっています。
市場がない状態から、最初の顧客をどのように開拓したのか?
ビザスクもカオナビも、創業時やサービスローンチ時には、日本に市場がない状態でした。両社は、どのようにして市場を開拓していったのでしょうか。
まずは、ビザスクの宮崎氏が「市場開拓の苦労」について語りました。
ビザスクのように知見を取引するサービスは、アメリカを中心に海外では存在していました。しかし日本には、自分の知見に金額をつけ、他者に提供するという習慣はなかったのです。
「最初のハードルは、アドバイザーの登録でした。自分たちで地道に行動し、アドバイザーを増やしていきました」(ビザスク 宮崎氏)
ビザスクでは、カンファレンス・ビジネスプランコンテストなどの審査に参加していた有識者に直接コンタクトを取り、アドバイザー登録につなげていたそうです。サービスインした初期は、アドバイザーのほとんどが、ビザスクCEOの端羽 英子氏の知り合いだった、という時期もあったほど。
アドバイザー登録の大きな転換点になったのは、社会の変化でした。働き方改革や副業推奨の流れに後押しされ、ビジネスパーソンの間で自分の知見を活用したり、自社以外に活躍の場を求めたりすることが、一般化してきたのです。
それにともない、広告ではなくオーガニックによる登録が増え、アドバイザーの層が厚くなりました。
ビザスクと同様にカオナビも日本には市場がない状態からのスタートだったと平松氏は語ります。
初期の段階では、知り合いの人事担当者に利用してもらい、フィードバックをもらいながらプロダクトをブラッシュアップ。転換点となったのは、のちに「カオナビ」のもっともコアな機能となる「シャッフルフェイス」の開発に注力できたこと。この機能のファンが一人ふたりと増えていき、手応えを感じたといいます。
「当時は、“クラウド上に社員の写真や個人情報をあげるなんてだめでしょ”という認識が強かった。シャッフルフェイスという機能の強烈なベネフィット、“これがあったほうが絶対にいい”という強みがなければ、最初のハードルは越えられませんでした」(カオナビ 平松氏)
PMF後、マーケティングに投資するタイミングは?
新規事業の場合、マーケティングへの投資はPMF後に始めるのがセオリーだといわれています。2社はどのようなタイミングで、マーケティング投資を行ったのでしょうか。
ビザスクは、新しいセグメントに広げるためのマーケティングを実施。一方、カオナビは市場の認知拡大を目的としたマーケティングを展開します。
ビザスクの場合、コンサルティングファームからの需要は、マーケティングなしで伸びたと宮崎氏はいいます。「しっかりとビザスクを活用してくれる」ユースケースを見つけることに専念し、オペレーションやデータベースの磨き込みで、需要が増えていったのです。
一方で、2019年に始めた事業会社向けのマーケティングは苦労しました。
そもそも事業会社には、他者に知見をヒアリングする習慣がありません。事業会社がビザスクで何の課題を解決できるのか。顧客に十分に理解してもらえていないと感じていました。
さらにアドバイザーのデータベースが充実してきたことを、「どんな課題にも対応できるスポットコンサル」と訴求していたことで、何の課題を解決するサービスなのかわかりにくい状態があったといいます。
事業会社の継続率は低く「どうすればビザスクを継続して利用してくれるのか?」模索していました。
そこで、継続利用している顧客と離脱してしまった顧客の傾向を分析し、複数のセグメントにわけました。そして、セグメント別に少額で広告を配信し、契約数や継続率を継続してモニタリングしたのです。
「広告を活用して、顧客のニーズと利用状況を見ながら、どの課題にビザスクが価値を提供できるかを探っていきました」(ビザスク 宮崎氏)
あわせてクライアントインタビューや商談同行も行いました。
すると、Nice to have(あると嬉しい)のクライアント群と、とても感謝されるMust(なくてはならない)のクライアント群があることに気づいたそうです。
定量と定性の両方を見比べながら勝ち筋を見つけることが、事業会社向けのマーケティングの苦労した部分だと、宮崎氏は話します。
カオナビの平松氏は、カオナビがマーケティングを意識しはじめたのは「顔と名前が一致しないを解決する」というコアメッセージを見つけたタイミングだったといいます。
さらに、そのアクセルを踏み込んだのは、評価機能を開発したときでした。
「カオナビ」には、もともと評価機能がありませんでした。利用顧客から「評価機能がほしい」という声は多かったものの、社内では「タレントマネジメントシステムに評価機能は必要なのか?」と意見が分かれたほどでした。
顧客のニーズに対応することを優先し、評価機能を開発したところ、評判は上々。このタイミングで、マーケティングに投資をしたといいます。
また評価機能は、解約防止の施策や広告プランニングの参考にもなっています。
「評価のシステムには、複数のコア機能があり、実は“この機能とあの機能を使っているお客さまは、絶対に解約しない”という組み合わせがあるんです。そのため、コア機能に対してニーズがあるセグメントには、ガンガン広告を出しても大丈夫だとわかり、マーケティングへ投資する勇気が持てました」(カオナビ 平松氏)
競合は市場を開拓する仲間であり、自社の強みを映す鏡でもある
新しい市場を開拓すると、先行者利益は得られますが、のちに競合企業が参入してくることは避けられません。
ビザスクの宮崎氏は今もマーケットを広げていくフェーズだとしたうえで、以下のように語りました。
「まだまだ外部の知見を活用する習慣がない事業会社がある。そこにアプローチするうえで、同業他社は仲間のような存在。もちろん、ビザスクが第一想起される状態をつくるため、引き続きデータベースやオペレーションの質をみがくことを意識しています」(ビザスク 宮崎氏)
また、カオナビの平松氏は「ここ2〜3年は競合他社が増え、かなり緊張感が高まった」と打ち明けます。
「カオナビは、世の中にない価値を訴え、顧客ごとの成功をイメージして提案し、利用いただくことが得意でした。しかし、競合他社は、データドリブンな提案を行っており、定性要素だけでない提案が重要になっています。企業規模によって、人材マネジメントの課題は大きく違います。カオナビが価値提供できる企業群はどこか?を明確にし、強みを磨いていくことが、生き残るやり方だと考えています」(カオナビ 平松氏)
マーケットはあると信じ、仮説を持った検証を続けよう
セッションの終わりに、未開拓市場を攻略するうえで重要なことをうかがいました。
ビザスクの宮崎氏は、「マーケットはあるんだと信じること」と語りました。同社のCEO 端羽氏も「マーケットがないことを疑うのではなく、うまくいってないのは、自分たちのやり方が悪い」と言い続けてきたといいます。
「ストロングスタイルですが、新しいことをするときは不安がつきもの。マーケット自体を信じて疑わないという人が、熱い思いを持っているということがとても大事です」(ビザスク 宮崎氏)
さらに、“ビザスクが成長すると、アドバイザーもクライアントも喜び、新規事業がどんどん進む世界が待っている”という世界観の共有が、未開拓市場を進んでいく原動力になったといいます。
カオナビの平松氏は、「未開拓市場攻略の最初のフェーズでは、“いいね”と言ってくれる1社目のフォロワーの存在が重要。あわせて、自社のサービスを使い倒す機会をつくることも大事」と話します。
一人のユーザーという立場から、サービスの良さや課題を顧客と共有する。すると、まだない市場にサービスを広げたいという思いが強くなるのです。
宮崎氏と平松氏は、自分たちと同様に未開拓市場に立ち向かうマーケターや事業担当者へ向けて、以下のようなエールを送り、セッションをしめくくりました。
「未開拓市場に向かう当事者は、不安ですし、短期的に数字が出ずに苦しい立場になるかもしれません。しかし、先に市場を開拓することは、ニッチな領域で大きなシェアをとり、高収益なビジネスへつなげられるアドバンテージになります。大変ですが、一緒に知見を交換しながら頑張っていきましょう」(ビザスク 宮崎氏)
「現在私は、次の新規事業を立ち上げるフェーズにいまして、みなさんと同じような悩みにぶち当たっているところです。0→1のフェーズでは、フォロワーを見つけましょうとお話しましたが、社内の仲間を見つけることも大切です。
“いいね”と言ってくれる人を1人でも見つけると、やる気も出てきますし、アイディアも膨らみます。自分のアイディアを大事に進めていきましょう」(カオナビ 平松氏)
「PMFの実態調査」も公開中
当社で実施した「PMFの実態調査」レポートを公開中です。同調査は、2023年4月にインターネットによるアンケート方式で、BtoB領域でビジネスのグロースにかかわったことがある134名の方を対象にPMF達成までの期間や組織、必要な取り組みなどを聞いたものです。
また、PMFの経験がない方にも、当時の組織体制や取り組みについて聞き、PMF未達の要因を探っています。これからPMF達成を目指す方、新規事業が軌道に乗らず課題を抱えている方は、ぜひPMFへの理解を深めていただければ幸いです。
調査レポートの詳細は、以下の記事から個人情報の入力なしでダウンロードできます。
【PMFの実態調査レポート】PMFを達成できた事業は、顧客視点で商品・サービスを見直していた