今回の「SAIRU NOTE」は、前回のfondeskに続く「最初の100社シリーズ」第2弾。Bizer株式会社の代表 畠山友一さんと、弊社コンサルタント黒須 敏行との対談YouTube動画を記事にしてお届けします。
Bizer社は、総務・労務・経理などの幅広い業務をまとめて管理できるバックオフィスのプラットフォーム「Bizer(バイザー)」と、チームのタスクを資産として蓄積し、生産性向上を実現する「Bizer team(バイザーチーム)」を提供しています。
2013年に創業し、パーソルグループに株式譲渡などを経て現在に至るBizer社。Bizer teamの最初の顧客100社をどのように開拓したのか、話を聞きました。
チームの生産性向上を後押しする「Bizer team」とは
黒須:まず、サービスの概要について教えてください。
畠山:弊社では「Bizer」と、「Bizer team」という2つのサービスを提供しています。Bizerはバックオフィスの困りごとを、タスク管理、情報共有、専門家への相談といった機能で支援するプラットフォームです。
そして2017年にリリースしたのがBizer team。少し規模が大きい会社さん向けに、チームのタスクや業務管理、共有機能などがあり、チームの生産性向上を支援するツールです。
Bizer teamを使うメリット チームの誰が何をしているかわからない ▶チェックリストでチーム内の業務プロセスを可視化できる 仕事が属人化し、マネジメントが機能しない ▶可視化した仕事をメンバーに振り分け、進捗管理を共有できる メンバーが短期的な仕事に追われている ▶仕事が可視化・整理され、中長期的な課題に取り組む余裕が生まれる |
畠山:もともとBizerは短期の開発期間でリリースをしたサービスなので、お客様からいただくご要望を折り込みながら、改善を重ねてきました。業務の整理やタスク管理だけではなく、株主総会の招集通知を自動で作るという隠れ機能まで、実はいろいろあるんです。
ただ、創業2~3年ぐらいのベンチャーのお客様には、こういう機能はいらないんですよね。逆にもっと規模が大きい企業のお客様からは要望が多かった。そこで、大きい企業向けに切り出したほうがいいかな、ということで作ったのがBizer teamです。
黒須:一言では表現しにくいサービスですよね。
畠山:そうなんですよね。チームのタスク管理と言っているんですけど、そのタスクをアクションベースに落としてリアルタイムに運用していくことで改善を目指す。それ自体は業務共有という言い方もできますよね。
でも、1番の特徴は、それをコピーしたり、テンプレート化したりできる所なんです。企業のノウハウって属人化していて、業務としてなんとなくやっていること自体がノウハウだったりするんですよね。
特にバックオフィスは、毎月、毎週8~9割ぐらい似たような業務をやっているわけです。それを1回書き出して、アクション管理とタスクまで落とし、コピーやテンプレートから呼び出してあげれば、0から始める必要がなくなる。仕事の再現性が高くなると思うんですよ。
あとは代替性。誰かが休んだときに、業務が分解されていれば他のメンバーに部分ごとに切り出して渡せるんです。Salesforceのバックオフィス版だというと、わかりやすいかもしれませんね。
サービス立ち上げは、ターゲットのリアルな声を集めた
黒須:Bizer teamの立ち上げは具体的にどのように行ったのでしょうか。
畠山:当時、すでにBizer の顧客基盤が1500社くらいあり、全体の8割が小規模ベンチャー、残り2割は大企業だったんです。Bizer teamではその2割をターゲットにしようと決めて、まずサービスを作り込むところからはじめました。
リクルートが運営する「サンカク」をご存知ですか。ビジネスパーソンと企業のマッチングサイトなんです。
黒須:はい。
畠山:サンカクで、「バックオフィスの働き方や業務課題について聞きたい」という募集を出したんです。そしたら、めちゃくちゃ集まってくれたんです。
最初は1on1でやっていたんですが、そのうちグループディスカッションになり。大手飲料メーカーさんとか、商社さんとか、いろいろな会社のバックオフィスの方が集まってくれて、みんなで横の課題を言い合うんですね。
みなさん「バックオフィス部門には今までこういう場がなかったから」と、すごく熱心に参加してくださいました。そこで大企業のバックオフィスの課題はある程度わかってきたんですね。
Bizerのお客様の声とサンカクで集めた声をミックスして、サービスを作りこんでいきました。
黒須:よくそのチャネルを発掘できましたね。
畠山:サンカクは偶然、立ち上げた方が知り合いだったので、声をかけていただいたんです。今でもけっこう案件を出していますが、上場企業の管理部門の方とか話を聞きたい層が本当に来てくださるので、良いサービスだと思います。
【最初の50社】ひたすら案内を送る“泥臭い”トップ営業
黒須:では、サービス立ち上げ後はどのようにアプローチしていったのですか。
畠山:先ほどお話ししたとおり、Bizerの既存のお客様と、サンカクでインタビューさせてもらっていた方たちがいたので、まずはその人たちにリリース前の案内を送りました。「少し特典をつけますので、事前登録いかがですか」と。最初の入り口は有償ではありませんが、まずは使ってみてほしいということでお願いしました。
その告知で100社集まったので、説明をして、ローンチ後に具体的なご案内をしました。それで20社くらいは契約していただいたというのが、最初ですね。
残りはめちゃめちゃ泥臭いやり方です。
基本的には50社くらいまでは全部知り合いです。Facebookでお付き合いのある方にご案内のメッセージを送りました。あまりに同じようなメッセージをたくさん送っていたので、途中でブロックかかっちゃうくらい(笑)。
あとは、弊社と出資元が同じ会社の経営者宛てに、親戚のような気持ちでメッセージを送ってみたりもしました。全然お会いしたこともないんですけど(笑)。意外とそこから担当者に繋いでくださることもありましたね。
黒須:プライシングは、当時から企業規模に関わらず1つでしたか?
畠山:そうですね、1ユーザーあたり月2000円のワンプライスでした。当時のお客様は、企業規模でいうと200名くらいまでの会社が多く、1社あたりの平均ユーザー数は5~10人という感じでした。
最初の50社へのアプローチ ●Facebookメッセンジャーでメッセージを送る ●Bizerの既存顧客にメッセージを送る ●サンカクでインタビューした人にメッセージを送る |
【50~100社まで】全株式譲渡で課題解決を目指す決断
黒須:50社を超えて変わってきたことはありますか。
畠山:契約社数が50社を超えたあたりから、少しずつエンタープライズのお客様が入り始めました。1社あたりのユーザー数が1~2桁上がってきて、ユーザー数が一番多いところだと1,000人を超える。
そうなると、これまでのお客様とは組織の規模が違うので、機能が全然足りないとか、セキュリティは大丈夫なのかとか、いろいろな問題が出てきましたね。また、導入後にうまく成果が出せないお客様が出てきて、導入支援の必要性も感じました。
うまく使って成果が出ているお客様にインタビューをしてみたところ、そういう会社にはマネジメント層や影響力のあるキーマンがいて、その人がきちんと必要なノウハウの書き出しをしたり、使い方を社内で教えてくれたりしていたんです。逆にキーマンがいない会社は、なかなか成果を出せていない。
黒須:最初に「ノウハウを書き出す」作業をする人が重要になるわけですね。
畠山:はい。結局は、Bizer teamはマネジメントツールだと思うんですよ。個人に宿っているノウハウを可視化して、組織のノウハウとしてちゃんと運用していく。だからこそ、マネージャーとか部長クラスの人がキーマンになり、個人のノウハウを書き出し、推進できるとうまく運用できるんです。
導入支援までできていないというのが、我々の課題でした。
契約件数50社を超えたころの課題 ●大企業の機能やセキュリティ要件に足りない部分が出てきた ●定着支援、導入支援まで手がまわらない |
そんなときに、今親会社になっているパーソルプロセス&テクノロジーの人と話をする機会があったんです。
RPAのライセンスを売り、導入支援をするコンサルティングの過程では、業務可視化がとても重要になります。そこで、Bizer teamは非常にマッチするのではないかという話になったんです。我々も、彼らの中に入れば、今持っている課題も解決できるのではないかと思いました。
そこで、最終的に全株式を譲渡するという決断をしたわけです。
黒須:パーソルがBizerの株式を買うかどうか決める際に、1ヶ月トライアルの期間があったと伺いました。
畠山:そうです、よく御存じですね。
パーソルのガバナンスが凄いと思ったのは、20人くらいの役員会で議論して、本当にその場で決議するんです。最初に役員会に出してもらったら「ちょっとこのサービスよくわからない」という風に言われて、試しに1か月売ってみて、目標より売れたらいいんじゃないかという話になりました。
その後1か月お試し期間として、実際にパーソルでRPAを売り、業務コンサルを行っている方々が、業務の中にうまく組み込んで売ってくださいました。目標よりはるかに売れましたね。
そこで、2回目の役員会で、グループとしてやっていこうと決まりました。そこから1年半、一緒に作った事業計画を追いかけている形です。
黒須:パーソルグループに入って変わったことはありますか。
畠山:エンタープライズに行く時って、どうしてもキーマンの人に会わなくちゃいけない。経理でいえば経理部長さんとかです。パーソルは、人事も経理もすでに入っていたので、アプローチが格段に早くなりましたね。
エンタープライズの上層部の方は、これを入れたらコストが下がる、工数が削減できるというP/Lの話ではなく、「皆さんの資産がたまり、最終的にはP/Lに転化していくんです」というB/Sの話をすると響くんですね。そうすると、導入後もしっかりと運用してくれると思います。
最近はエンタープライズのお客様が多くなっていますが、一方で税理士事務所さんやスタートアップ系の経理の方などは、ユーザーさん同士で広げてくださっています。転職先でもBizer teamを使ってくださるという方もいますね。
直営業以外の販路としては、パートナー制度も行っています。税理士・社労士事務所向けのコンサルティングをやっている会社さんが、Bizer teamでテンプレートを作って、テンプレートごと導入してくれるケースもあります。そうすると僕らはツール利用料でちゃんと課金してもらえるわけです。
サービスの基盤を提供していますが、上に乗るソフトウェアとしては、そのコンサルの方の頭の中を可視化し、そのまま納品するっていう形になっています。
Bizerの「最初の100社」、顧客基盤を作るまで
黒須:もともと「Bizerの顧客基盤があった」とおっしゃいましたが、Bizer自体はどうやって伸ばしたんでしょうか?
畠山:最初に伸びたのがTech Crunchのピッチイベントに出たことですね。その後IVS(国内最大級のスタートアップカンファレンス)にも出て、その2つだけで数100社と接点がありました。当時はITスタートアップという流行りもありましたし、注目度が高かったんですね。
これから起業する人に使ってもらいたいと思っていて、そこに焦点を当てて開発したので、凄く上手くいったと思います。
その後は、Web広告をやったり、中吊り広告を出したりいろいろやりましたが、毎月同じようなペースでしか伸びませんでした。サービスの作り方、マーケの手法もあったし、プライシングの問題もすごくあったと思いますね。
ターゲットがスモールビジネスだったので、思うようなマーケ活動がはまらなかったわけです。
黒須:なるほど。
畠山:あとは、似たサービスの他社さんから流入があるとか、送客し合うということもありました。
freeeさんが我々の1年くらい前に起業されて、すごく勢いがあったんです。初期に一緒にディスカッションさせてもらったりしましたし、関連するサービスだったので、freeeさんからの流入がけっこうありました。税理士さんを検索すると、上位TOP3に必ずBizerが出てくるみたいな。
僕らは僕らでfreeeさんより前に会社設立の文書自動生成機能を出していたので、Bizerで会社を作った後に、freeeさんやマネーフォワードさんに送客する方もやっていました。
相互送客をして、チャネルとして使わせてもらって、最初は伸びたというのはありますね。
黒須:面白いですね。汎用性はありそうです。
畠山:ほかにも、Bizerはめちゃくちゃ色んな事をやりました。例えばCoffee Meetingとか、タイムチケットとか。
コーヒーを一緒に飲みながら、「起業相談30分やります」というのを出したんです。25分起業相談を受けて、最後の5分にBizerをお薦めする。会社設立の文書作成とか、税理士の話も聞けるよと。
そうすると、相談した方の半分は入ってくれました。5分間の営業チケットを、むしろ有料で買ってもらうっていうことですね。スタバとかタリーズに朝から夕方まで入り浸りで、30分ずつ人が変わっていくっていう(笑)。
黒須:そもそもCoffee Meetingで、チケットをどうやって売っていたんですか?
畠山:Coffee Meeting内のサーチ対策はかなりやりましたね。タグ付けどうするとか。
タイムチケットでも、どうやったら目立つか、どの価格だと1番来るのかを分析しました。サーチ、広告の運用みたいなことを1人でやっている感じですね。
黒須:凄いですね。
畠山:めちゃめちゃ大変でしたけどね、コーヒーでお腹タプタプでしたし(笑)。でも、それで結構ユーザーさんが増えました。当時は従業員数は4名しかいなかったですし、私意外はプロダクトのほうだったので、マーケも営業もなかった。とにかく自分の時間を切り売りしてやっていっましたね。
Bizerの「最初の100社」獲得チャネル ●スタートアップのピッチイベント ●近いサービスとの相互送客 ●Coffee Meetingやタイムチケット |
Bizer立ち上げの反省と現在の取り組み
黒須:Bizer teamは、今すごくうまくいっていますが、もしパーソルの営業チャネルやBizerの顧客基盤がない状況だったら難しかったですか。
畠山:でも、Facebookで4000人くらい友達がいたので、そこを全部上からやっていったという感じでしょうね。SNSでフォロワーが多い人は、やっぱりやりやすいと思うんです。フォロワーさんは本当にその人が持っている1つの資産なので。起業家は最大限それを使わないといけないと思いますね。
黒須:もともと4000人いたんですか?
畠山:もともとそんなにいなかったですよ。起業してから、イベントとか、登壇することもあれば、参加するだけでも、とにかくいろいろ行きました。マーケ、営業、広報、バックオフィスも、全部の勉強会に出て、いろいろな方とお会いしました。
発信力がある方にお話しをすると、そこからまたユーザーさんに繋がる。そういうことの積み重ねですね。
黒須:税理士検索サイトとかバックオフィス系のコンテンツを作って、リストを集めるようなインバウンド施策はやっていらっしゃいますか?
畠山:もちろん、正攻法もやっています。バックオフィス系のお役立ち情報を発信しています。
当時、freeeさんやマネーフォワードさんが週に何本もバンバンコンテンツをあげているのを知っていたので、自分たちは本数では到底勝てないなと思ったんです。
そこで、あえて素人目線という切り口で、差別化しました。税理士さんや社労士さんとの繋がりが多かったので、私がわからないことを話を聞いて記事にして。そうしたら意外とSEOも効いて、PVも10万を超えるくらいとれるようになりました。
更新はなかなかできていないんですが、7年前の記事でもまだ上位に出てきますし、そういう意味では今はノンプロモーションですね。
黒須:10万PVぐらいだと、そこからどれくらいの有料ユーザーが入るんですか?
畠山:月に10ユーザーくらいですね。
黒須:凄いですね。10件も入るんですね。
畠山:そうですね。でもチャーンもやっぱりそれなりにあるんですよね。それもあって、Bizer teamでもう1本大きい柱を立てないとなというのはありました。SMBは成長角度も緩いし、チャーンもあるし、1社あたりの単価は増えませんから。
色んな世の成功パターンを見て勉強して、Bizerの時の反省点を洗い出したことで、Bizer teamはうまくまわっているんじゃないかと思います。
黒須:Bizerでは反省点がいろいろあったんですね。もし今Bizerの立ち上げ初期に戻れるとしたら、どのような戦略をとりますか。
畠山:やり方を変えるとしたら、もっとオープンなやり方でやっていたかもしれませんね。コクヨさんがやっているような総務の森みたいなイメージです。
一方で、税理士のマッチング事業というのは当時からすでに何百個もあったんですよね。そんなに儲かってないという話も知り合いの社長さんから聞いていたので、普通のマッチングサイトだと上手くいかないんじゃないかという思いもありました。
あとは、「BtoB SaaS」らしさを大事にしたかったというのも大きかったですね。freeeさんとか、今上場されている皆さんが同じような創業しているのを見てきたので、ただのクラウドソーシング事業ではなく、BtoB SaaSとしてやっていきたいと。
今考えれば、謎ですよね(笑)。ちゃんと分析したらやらなかったこともたくさんやりました。起業家の思いが先行していたんだと思いますね。
さいごに
黒須:ありがとうございました。最後に伝えたいメッセージはありますか?
畠山:弊社は、パーソルグループの中に入ってはいますが、会社自体は10名規模のままで、独立してやっています。エンジニアも単体で採用をしています。
大企業の資本が入っていて、エンタープライズもどんどん営業はしていくけれども、開発はスモールチームでスピード感があると思います。仲間を増やしたいので、興味がある方がいましたら、ぜひご連絡をいただきたいです。
黒須:Bizer社にはどんな方が向いていると思いますか?
畠山:小さい規模なので、本当にやれる範囲は広いです。かなりビジネスサイドにも関れるので、自分のスキルを活かして、どんどんやってみたいという方はウェルカムですね。
あとは、就業時間とか規則は結構おおらかなので、パパママも多いですし、副業やプライベートの時間にも充てられます。自分で責任を持って動ける方は、充実して過ごせると思いますね。
新しい取り組みでいうと、若い人向けの入門編みたいな感じのVTuberを準備しています。BtoBのセールスやマーケとかを、基礎から楽しく学んでもらうためのものです。サニマルといキャラクターと楽しみながら学んでいけるものなりますので、ぜひ見ていただきたいです。
黒須:これは楽しみですね。本日はありがとうございました。
話者紹介
Bizer株式会社 代表取締役社長 畠山 友一
株式会社才流 BtoBマーケティングコンサルタント 黒須 敏行 @kurosutoshiyuki
<文=安住久美子 @081123tadatama>