SaaS企業が飛躍的に成長するための戦略として、注目されているパートナービジネス。
才流(サイル)では、『先駆者に聞く、パートナービジネスのリアル』と題して、パートナービジネスの先駆者の皆さまを取材し、パートナービジネスを進めるうえでのポイントや仕組み作りのナレッジをご紹介しています。
今回ご紹介するのは、電話面談システム「bellFace」を提供する、ベルフェイス株式会社(以下、ベルフェイス)の清水 貴裕さんです。
パートナービジネスには、パートナーの販売網の活用や販売代理を意味するパートナーセールスや、プロダクトのAPI連携、業務提携などのアライアンスと、さまざまな座組が存在します。
ベルフェイスでは、パートナーセールスも含めたパートナーとの取り組みを「アライアンス」と定義し、多岐に渡るビジネスを展開しています。
その特徴は、ベルフェイスとパートナー企業が持つさまざまなアセットを掛け合わせ、新たな価値を生み出していること。とくに、エンタープライズ企業とのアライアンスに注力しています。
清水さんに、ベルフェイスのアライアンスの変遷や、「パートナーへのGIVEを考え抜く」というアライアンスの本質についてうかがいました。
聞き手は、才流コンサルタントの桂川 誠です。
[ベルフェイスのパートナービジネスの変遷]
- パートナー販売網による販売に苦戦
- 営業戦略の変更に伴い、エンタープライズ企業を対象としたアライアンスへシフト
- パートナーとベルフェイスのアセットを活用した、新しい価値の創出に尽力
ベンチャーから東証一部(当時)上場グループ企業まで、さまざまな企業での新規事業責任者を歴任。2019年にベルフェイスへ入社し、セールスイネーブルメント責任者、事業企画室長、エンタープライズ営業本部長を経て、現職。事業提携、パートナー展開の総責任者を務める。
ベルフェイスの考えるアライアンスとは
桂川 ベルフェイスとベルシステム24が共同開発している「オンライン窓口センター」、地方自治体のマイナンバーカードのリモート申請サポートとして、導入が続いていらっしゃいますね。ベルシステム24とのアライアンスは、清水さんが企画担当されているとうかがいました。
清水 ベルシステム24さんとは、2022年3月11日に業務提携をしました。オンライン窓口センターは、両社のリソースやアセットをすべて活用するという、協業だからこそ実現できた取り組みです。ベルフェイスのアライアンスとしてターニングポイントとなりましたし、これまでのアライアンスとは変化を感じる座組となりましたね。

桂川 あらためて清水さんの担当されている業務を教えてください。
清水 私は、パートナーを中心に置き、ベルフェイスと一緒に売上を伸ばす企画の考案や、新しいビジネスを考える事業開発の要素を含めた取り組みを行っています。
桂川 事業開発の要素。おっしゃる通り、ベルフェイスのアライアンスには、事業をつくるダイナミックさを感じます。どのような方針があるのでしょうか。
清水 一般的なアライアンスの考え方は、「自社とパートナーの経営資源をうまく融合して連携させ、売上を相互につくりましょう」です。たとえば、パートナー販売網を活用したセールスは、「このサービスを売りたい」と考えるパートナーや、「営業チャネルを持っている」パートナーと一緒に売上をつくる方法の1つになります。

清水 一方でベルフェイスのアライアンスは、営業チャネル以外の経営資源にも目を向ける点が、一般的なアライアンスとの違いであり、特徴です。
たとえば、お互いの営業リソースだけでなく、マーケティングチャネルも活用します。現在はまだ実現していませんが、技術のノウハウを共有しあうなども考えられるでしょう。パートナーと一緒に新しい価値を企画し、売上を上げることが、ベルフェイスのアライアンスなのです。
全国に販売網を広げても、売れなかった理由
桂川 パートナービジネスを考える企業の多くが、まずはパートナーセールスを検討します。ベルフェイスでは、いかがでしたか。
清水 以前は、ホリゾンタルSaaS(※)が行うようなパートナーセールスの取り組みをしていました。具体的には、パートナー販売網から全業種の企業に対して提案をしていたのです。
※ホリゾンタルSaaS:業種を問わず利用できるSaaSのこと。代表的なサービスに、会計システムや労務システムがある。
しかし実際にやってみて、当社はこのようなパートナーセールスとの相性が悪いことがわかったんです。
たとえば、勤怠管理システムや電子契約システムならば、誰が聞いても具体的な活用シーンが浮かびます。しかし当時のbellFaceは、「何ができるサービスですか」と聞かれるだけでなく、「オンラインの打合せツールですね」と解釈されがちでした。
桂川 bellFaceにとって、オンラインの打ち合わせができることは機能の1つ。実際は、CRMに接続したり、商談データが蓄積できたりと、営業活動のDX化も推進するツールです。しかし、ベンダーとパートナーとの間でサービス理解のギャップが起きてしまったんですね。

桂川 パートナーのサービス理解にズレがあるままだと、適切な提案は難しいです。また、SaaSの営業には、コンサルティング要素を含んだ提案から、導入後のカスタマーサクセスまで、幅広い知識とスキルが求められます。それは、パートナーの営業も同じです。
清水 そうです。しかし実態でいえば、パートナーの営業スキルを簡単にアップデートすることは難しく、うまくいかないことが多いのが現状です。当社もその点で、パートナーに当社と同様の営業をしてもらうことが叶わず、結果的に苦戦してしまいました。
桂川 パートナーセールスに苦戦するなかで、どのような施策を打たれたのでしょうか。
清水 ご存知のとおり、コロナ禍に起因する市場の変化によってベルフェイスは売上が減少し、SMBからエンタープライズ企業へのアプローチへシフトしています。
つまり事業戦略の変化にあわせて、アライアンスもエンタープライズ企業に向けた戦略に変わりました。よって、全国に販売網があればよいわけではなくなり、パートナーセールスは優先順位を下げることになったのです。
ターゲットが変わったので、アライアンスも一義的な方法ではなく、相手にあわせてやり方を変えました。マーケティングやセールスと一緒です。
とはいえ、エンタープライズ営業へのシフトは、正直なところ、ものすごく大変なことです。ベルフェイスはSMBで伸びてきた会社ですから、エンタープライズ領域のノウハウはありませんでした。
パートナーに「GIVE」し、ビジネス成長へ貢献する存在に
桂川 エンタープライズ領域のアライアンスのノウハウがないなかで、どのような取り組みをしてきたのでしょうか。
清水 売上だけではなく、「ベルフェイスがプロダクト以外に提供できるものはないか」を模索したんです。
これは責任者を務めている私の感情ですが、パートナーとせっかく腰を据えて一緒にビジネスをやるのに、売上以外にパートナーへ提供できるものがないのは、関係値としてイマイチだなと思っていました。

清水 たとえば、エンタープライズ企業と組むと、どう考えてもベンチャー企業である当社よりもエンタープライズ企業(パートナー)のほうが、アセットや経営資源を多く持ちます。つまり、私たちにGIVEしてもらえるものは多くあるのですが、ベルフェイスからGIVEできるものが少ない。
そこで、「GIVEできないからこそ、何ができるだろう」と悩んだ結果、企画提案やユースケースの提供などに取り組みました。
「パートナーへ何か返せるものはないか」「GIVEできるものはないか」と考え、探した結果、今のアライアンスの形になっていったんです。
桂川 GIVEできるものを探す。
清水 当社とのアライアンスから得られるbellFaceの売上は、エンタープライズ企業にとってぶっちゃけ大きなものではありません。ベルフェイスにとっては嬉しいですが、パートナー企業の現場の営業や担当は心から喜んではくれませんでした。そこで、「われわれができることは何か」を考えていったんです
たとえば、セールスフォース・ジャパンさんとは、AppExchangeパートナーとして、bellFaceとSalesforceを連携するアプリ「bellFace for Salesforce」を2019年から開発・運用しています。
実は、このアライアンスの入り口は、bellFaceをエンドユーザーのお客さまに使っていただくことではなく、Salesforceの営業課題を解決することでした。同社の目的は、お客さまへの貢献。Salesforce経由で複数のサービスを利用いただいてスティッキネスを高め、Salesforceがお客さまのビジネス成長に寄与する重要なツールになることが、同社にとって重要なのです。
Salesforceの営業が求めていたのは、お客さまにもう1回会うきっかけを作ること。そこで私は、「bellFaceを、お客さまに会うトピックに使っていただきたい」と考えました。つまり、パートナーの営業課題を、この取り組みで解決していたんです。

清水 ベルシステム24さんとの「オンライン窓口センター」も同様です。当社はID課金ですから、BPOを販売されているベルシステム24さんからしてみれば、大きな利益にはなりにくい。
しかし、お互いの経営資源をうまくアライアンスすると、課題解決や新しい価値の創出ができるとわかり、「一緒に取り組むべきだ」と判断を変えていくことができたんです。
桂川 収益以外のGIVEを提案したんですね。
清水 ベルシステム24さんとは業務提携の運びとなり、その一環としてbellFaceの新しいユースケースを率先してお届けしてきました。そうして、「大阪府泉佐野市にマイナンバーカードのオンライン窓口センターを導入」という事例が生まれたのです。
このような関わりを続けていくと、パートナーが「ベルフェイスは、自分たちのビジネスを大きくさせてくれる存在」だと思ってくれるようになる。そして、真のパートナーになっていくのです。
アライアンスの本質は、パートナーの課題を解決すること
桂川 真のパートナーになるためには、ベンダー側にどのような姿勢が必要でしょうか。
清水 一般的なパートナーセールスでは、自社のサービスを売ろうとしすぎていると思います。でもパートナーは、サービスを仕入れて売りたいわけではなくて、自社やお客さまの課題を解決したいんです。
「パートナーは何が嬉しいのか」を考え、彼らの課題をちゃんと聞く。そして、その課題を解決するような座組を、われわれは提案してきました。つまり私は、パートナーの事業課題を解決することを職務においてやっています。その結果、bellFaceが売れているだけなんです。
桂川 清水さんが「アライアンスとはパートナーの課題を解決すること」の考えに至ったのは、なぜでしょうか。
清水 やっぱり、売上以外の面でも、パートナーにGIVEを届けたい。なにより、ベルフェイスのミッションは、勘と根性による営業の領域を変えていくこと。勘と根性が影響しているパートナーの課題をどうやって解決するかを考えることが、ベルフェイスが導き出したアライアンスです。

桂川 つねに、GIVEを考えていらっしゃるんですね。
清水 売上をつくる以外にも、会社のブランドや事業価値を高める取り組みが一緒にできれば、パートナー担当者は社内で評価されるものです。実際にベルシステム24さんでは、革新的なテクノロジーを展開したとして、ベルフェイスとの取り組みが社内賞になったそうです。
そこまでの影響を生みだせると、パートナーと一緒に事業を作っている感じがよりつかめますよね。私は、アライアンスに人と人が関わっている手触り感を得たいですし、どうせやるなら、パートナーの関係者に出世してほしいと考えています。
これは、エンタープライズだからSMBだからではなく、本来パートナーに対しては、そのように関わっていくべきだと思います。
パートナーの成功を信じ、長期的な視野で取り組む
桂川 ここまで、「アライアンスは人と人の関係である」と実感するエピソードや知見をうかがってきました。
一方で、清水さんは大変なご苦労をされてきたと思います。エンタープライズ企業とのアライアンスに取り組むうえで、ベンダー側で整えるべき体制や評価基準などのポイントをお聞かせください。
清水 まず、エンタープライズ企業の事業課題を解決するには、リードタイムがかなりかかります。営業活動が直接的な数字にならないことや、表立って見えないことも少なくはないでしょう。
そしてベルフェイスはベンチャーですから、数字を上げなくてはいけません。対して、アライアンスは短期的に取り組むことではないため、ここにジレンマはあります。
自分の決断を信じて、1年間やり続けるんです。もちろん、できない可能性はありますし、100の企画を提案しても、1つか2つ残るだけ。そんな世界ですから、しんどくないわけがありません。
でも「このパートナーと一緒に組めると、大きな仕事ができる。絶対幸せになるぞ」と決めて、やり切るんです。
会社に、チャレンジを推奨し、失敗を許容し、次につなげられるような土台がなければ、エンタープライズ企業とのアライアンスは難しいです。アライアンスを担当する上司の方は、ぜひ数字と、中長期的な取り組みを分けて、評価・サポートしてあげるとよいのではないかと考えます。

才流コンサルタントが要点を解説

パートナービジネスの成功の鍵は、パートナーの先にいる顧客の成功にどれだけ関与できるかです。顧客の成功に関与する動きとは、パートナーの課題を解決すること。
つまり、パートナービジネスは、パートナーの課題を解決する座組を考え抜くことから始まります。
才流では、このパートナーの課題解決を考える際の着眼点を、PPF(プロダクトパートナーフィット)と呼んでいます。
ベルフェイスの清水さんは、次のようにおっしゃっていました。
一般的なパートナーセールスでは、自社のサービスを売ろうとしすぎていると思います。でもパートナーは、サービスを仕入れて売りたいわけではなくて、自社やお客さまの課題を解決したいんです。
「パートナーは何が嬉しいのか」を考え、彼らの課題をちゃんと聞く。そして、その課題を解決するような座組を、われわれは提案してきました。つまり私は、パートナーの事業課題を解決することを職務においてやっています。その結果、bellFaceが売れているだけなんです。
ベルフェイス 清水さん
清水さんは、パートナーの課題を解決するため、できることは何でも取り組む、すべてやりきるという意思のもと、同社のアライアンスを作り上げてきました。
そこには、前例のないチャレンジを推奨し、失敗を許容し、次につなげるというベルフェイスのカルチャーがあったのです。
「特定の人、組織だからできる」は、思考停止にしかなりません。「顧客の課題解決をすること」は、すべてのビジネスパーソンが持つべき心構えです。そして、現場のチャレンジを推奨するカルチャーは、非連続な成長を目指す企業にこそ、求められるのではないでしょうか。
ベルフェイス清水さん、ありがとうございました。
(撮影/ヤマダヤスヒコ 取材・文/水谷真智子)
書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』のご紹介
最後に、本対談でファシリテーターを務めた桂川の著書をご紹介します。
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【目次】
第1部 基本編 パートナービジネスの全体像をつかむ
第1章 パートナービジネスの基本を理解する
第2章 パートナービジネスの立ち上げ方を理解する
第2部 戦略編 立ち上げの設計図を描く
第3章 パートナー戦略を策定する
第4章 パートナープログラムを設計する
第5章 コンテンツを整備する
第6章 パートナー候補にアプローチする
第7章 最初の成功者を生み出す
第3部 実践編 信頼・集中・共創で協業を拡大する
第8章 接点を広げ・深め、協業を拡大する
第9章 注力パートナーに集中し、仕組みで拡大する
第10章 ロイヤルティ