人材の流動化、コロナ禍による営業スタイルの変化などにより、属人的な営業活動から脱却し、営業担当者を早期に育成する仕組みが再注目されています。セールスイネーブルメントです。
セールスイネーブルメントは、営業の効率化、営業組織の強化、営業パーソンの育成などにより継続的に成果を出す仕組み・取り組み全般のこと。
ただ、「具体的に何をすればいいのか」イメージが湧かない方も多いようです。
そこで今回は、営業プロセス設計やスキル向上の支援に携わってきた才流コンサルタントの宮戸にインタビュー。実際にご相談があった3つの課題に、どのような打ち手を打ったのか解説してもらいます。
本記事の事例で紹介する3つの課題
事例①商品企画と営業チームの目線が合っていない
事例②売上未達の営業パーソンが多い
事例③若手メンバーの育成に手がまわらない
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話し手
宮戸 章光/Miyato Akimitsu @akimitsu_miyato
繊維専門商社を経て営業特化のコンサルティング会社にて、個別企業支援、ミドルマネジメント層向けビジネススクール講師、シンクタンクでの講演を実施。営業プロセス設計、営業スキル向上の支援を中心にシニアコンサルタントとして従事。MBA(経営学修士)
【執筆記事】顧客から信頼を得るために営業パーソンがとるべきアクション/商談で活用できるヒアリングシート/「フィールドセールスのKPI設定」10ステップ
型化を通して「個人」の資産を「会社」の資産へ
ー 才流ではセールスイネーブルメントのコンサルティングを提供していますね。セールスイネーブルメントとは、具体的にどのようなことですか?
宮戸 セールスイネーブルメントという言葉が指す内容はとても広く「営業組織の強化・改善における包括的な取り組み」とまとめられます。
セールスイネーブルメントというと、営業強化のための研修や勉強会のようなイメージを持つ人もいますが、あくまでもそれらは手段の一つ。営業活動をより良いものにするための取り組みであれば、すべてがセールスイネーブルメントなのです。
なかでも当社では、「型の構築による営業活動の最適化」に力を入れています。
型と聞くと、「個性がない」「自由がない」といったネガティブな印象を抱く方もいるかもしれません。でも、ここでいう型は、これまで個人が持っていた成功体験やノウハウを発散させ、あらためて集約するということなんです。
宮戸 多くの企業で営業が属人化してきたのは、一人ひとりの工夫や個性が営業活動の成果を支えてきたからであり、これは紛れもない事実です。でも、ナレッジを個人でとどめてしまうと、その人が退職してしまうと同じ成果は出せなくなってしまいます。
ですから、個人のナレッジを資産として、組織で共有するために「型化」するんです。
営業活動の基盤となる型をつくることで、営業パーソンがもっと売りやすく、もっと成果を出せる環境を目指すことを目的としています。
「型化」を通して営業課題を解決した3つの事例
ー「型化」というのは、具体的にどのようなことをするのでしょうか。
宮戸 過去に実際にご相談をいただいた課題をもとに、取り組み事例を解説します。
課題①商品企画と営業チームの目線が合っていない
宮戸 新しく開発された商品の販売を任された某企業。新商品は、売上がなかなか伸びない状態が続いていました。
「市場分析もしっかりと行い、課題に対する提供価値もあるはずなのに、なぜ営業は売ってくれないのか?」商品企画チームは困惑していました。
しかし、営業チームは、まったく別のことを考えていたのです。
「この商品って、誰がターゲットなの?」「顧客目線で何のメリットがあるの?」「そもそも、私のお客様の課題には当てはまらなそうだし……」といったことです。
宮戸 営業成績が伸びない本当の理由は、プロダクトアウト型の設計により、商品企画と営業の視点がずれていたことでした。これは新規の商品を販売する場合に、往々にして起きがちなことだと思います。
そこで、部署ごとの思考アプローチに違いがあることを認識し、顧客視点で商品の価値を見直すことを提案しました。
商品の機能や有益性をどんなに訴求しても、顧客が価値を感じてくれなければ意味がないですよね。ですから、顧客がプロダクトを必要とするストーリーを探し、それを営業資料に落とし込むのです。
宮戸 次に、どの営業パーソンでも同じようにストーリーを伝えられるように、営業資料の一枚一枚に、説明のポイントやトークスクリプトをつけました。
宮戸 さらに、どのタイミングで顧客と商談を行うのが最適か、シナリオを設計して管理。チェックシートを作り、ロールプレイングも重ね、実行できる状態を作ったのです。
宮戸 特に意識したのは、部署間で認識の違いがあったプロダクトのセールスポイントを整理し、プロダクトの価値を必要な顧客に正しく伝える状況を生み出すことです。
顧客によって感じる価値や課題はさまざまですが、売れる商談をするためには、顧客がどこに価値を感じ、どんな情報を求めているかを追求するのが重要です。ただ自社が伝えたい機能や利便性ばかりを綺麗に並べても、形だけの資料になってしまいます。
課題②売上未達の営業パーソンが多い
宮戸 次に、某スタートアップの事例です。
事業の拡大にともない積極的な採用を行ったものの、経験が少ない若いメンバーが多く、なかなか営業成績が上がらないという課題を抱えていました。短期離職が多いためメンバーが定着せず、資金調達の約6割を採用に投下する事態になり、早急な対策が求められていました。
宮戸 採用しても多くの方が退職してしまい、再び採用するために資金がかかる。このループに陥っているスタートアップは、多いのではないでしょうか。
ご相談をいただき、私はまず営業現場で起きていることを知るために、営業パーソンにヒアリングを行いました。
すると、営業成績が伸びていないメンバーは「あるべき営業方法がわからない」と感じており、顧客側も営業への信頼感が醸成されておらず、商品のメリットを理解できていない状態でした。
これまでは、ボードメンバーの個人的な魅力や高いスキルによって売上を伸ばしてきたところに、採用だけが進み、ナレッジは共有されない。新しく入ってきたメンバーや若手メンバーは「どうやって売ればいいのかわからない」状態だったのです。
宮戸 そこで私は、ボードメンバーにヒアリングを行いました。これまでの勝ちパターンを洗い出そうと考えたのです。
しかしボードメンバーに話を聞くと、彼ら自身も本当の成功要因を認識できていないことがわかりました。実は、成功パターンを間違って認識しているケースはよくあるんです。
そういうときこそ、客観的な視点で自社の商品や顧客を見つめなおし、「なぜ、この商品は売れるのか」「顧客が一番困っていることは何か」「どんなトークが、顧客に刺さるのか」などを整理する必要があるんですよね。
宮戸 ボードメンバーが売れる「本当の理由」を整理し、そこに紐づくナレッジを営業資料に落とし込みました。
また、応酬話法と呼ばれる、顧客からの質問や反論に対する回答集も作り、メンバーのロールプレイングも実施。実際の商談で「使える」状態を目指しました。
宮戸 準備をしっかりすると、メンバーは自信を持って商談にのぞめます。結果、これまでよりも教育コストが格段に減り、営業成績も向上しました。マネジメントの負荷軽減にも効果がありました。
課題③若手メンバーの育成に手がまわらない
宮戸 最後にご紹介するのは、「若手の教育に時間をかけられない」と悩むとある企業の事例です。
この企業にはプレイングマネージャーが多く、忙しさのあまり若手育成の優先度が下がってしまうという課題がありました。
宮戸 マネージャーは、若手メンバーの自主性に任せる方針をとっていましたが、失敗が続くと誰しも自信をなくしてしまうものです。自分には合っていないという不安や、無力感を抱いてしまい、それが上司や会社のせいだと思うようになる。
最悪の場合、退職してしまうケースもありました。
宮戸 とはいえ、現実的にマネージャーの業務を減らし、育成にリソースを割くのは難しい状況でした。そこで、長年見直されていなかった研修プログラムの改善に着手したのです。
ベテランの営業マネージャーが成果を出している営業手法をヒアリングし、成果が出るナレッジとして集約。われわれが持つノウハウも加えて、研修を受ければ明日の商談からすぐに使える、実践的なプログラムに変えました。
宮戸 研修を受けたあと、実際に若手メンバーの商談に同席もさせていただきました。実践できているかをチェックし、フィードバックする。研修の場合、やりっぱなしで終わりにしないことが重要です。
若手メンバーの方からは「営業の方法がわかった」「自信がついたのでやってみたい」などの前向きな声をいただきました。数か月後には、数億単位の大型受注に成功したと連絡をくださった方もいます。
彼ら・彼女らは、能力がないわけではなかったんです。進め方がわからない、正しい手法がわからないことで、立ち止まってしまったいた。これは非常にもったいないですよね。
セールスイネーブルメントがもたらすのは「売上」だけではない
─ セールスイネーブルメントで、チーム間の認識を共有したり、ナレッジを型化することでマネジメントの課題も解決される。組織として好循環が生まれるのですね。
宮戸 セールスイネーブルメントは、売上を上げたり、競争優位性を高めたりするために行う組織が多いですが、結果として営業に携わるメンバーの一人ひとりが、胸を張って仕事に取り組めるようになる。ナレッジを型化することの大きなメリットは、ここにあると思うんです。
型化のプロセスで、自分たちが売っている商品への理解、顧客への理解、自分がいる会社への理解も深まる。これがメンバーにとっては、自信になる。早期退職が相次いでいる企業で定着率が向上したのも、こうした副次的な要素があるからですよね。
コロナ禍で、多くの企業が訪問営業からオンライン商談に移行しましたが、オンライン商談のナレッジがなく、苦戦した方も多かったようです。さらにリモートワークが一般化したことで、営業組織のマネジメントの難易度も上がりました。
こうした変化を目の当たりにし、組織内でナレッジを共有することの重要性に気づきはじめた方も多いのではないでしょうか。
営業に確固たる正解はないかもしれません。事業内容や組織規模が変われば、方法論も変わることがあるでしょう。だからこそ、それぞれの課題や状況に合わせて、必要な型を作ることが大事だと思います。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、営業活動型化の支援をしています。営業活動で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)
(取材・執筆 鈴木 詩乃、編集 安住 久美子)