新規事業を成功させるには、テストマーケティングによる仮説の検証が欠かせません。しかし、どのような取り組みを行えば結果につながるのか、具体的にイメージしにくいという方も多いのではないでしょうか。
才流(サイル)では、10社以上のBtoB企業様に事業の成功事例を取材。今回はその中から4つの事例を取り上げ、背景や取り組み、成果を紹介し、テストマーケティングに活かせる学びについて解説します。新規事業の事業責任者や起業を目指している方の参考になれば幸いです。
才流では「仮説の検証に課題を感じている」「成果の出るテストマーケティングを実行したい」企業さまを支援しています。新規事業でお困りの方はお気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら
テストマーケティングとは
テストマーケティングとは、本格的な製品生産に入る前に限定的な範囲で試験販売を行うことです。製品のコンセプトや機能に関する仮説検証、市場投入前の最終調整などを目的として行われます。テストマーケティングの実施によるメリットは、以下の3つがあげられます。
テストマーケティングのメリット
- 売れないリスクを防げる
- 顧客ニーズの解像度が高まる
- フィードバックにより改善できる
テストマーケティングの手法と特徴
テストマーケティングはBtoCで実施するイメージをお持ちの方も多いと思いますが、BtoBにおいても有効です。テストマーケティングによって、初期投資を抑えながら顧客ニーズを探ることができ、製品・プロダクトの改良を重ねながら段階的に完成形に持っていくことができるからです。
BtoBにおけるテストマーケティングにはさまざまな手法があります。このあとの事例でご紹介する「コンセプト検証」「コンサルティングによる検証」「MVPによる検証」について、特徴を簡単に説明します。
コンセプト検証
コンセプト検証とは、製品開発の前にコンセプトが市場に受け入れられるかを調査する手法。製品のコンセプトについてまとめた資料を使って商談を行い、顧客からフィードバックを得ます。
初期コストをかけずに売れるかどうかを検証できる一方で、実際の使用イメージを持ってもらうことが難しいという側面があります。
コンサルティングによる検証
コンサルティングによる検証とは、コンサルティングの提供を通してどのようなサービスに価値があるかを検証する手法。顧客と深く関わるなかで、課題や予算感、導入までの意思決定プロセスを把握しやすいのが特長です。
コンセプト検証と同様、製品開発にかかる初期投資をおさえられる一方で、提供にあたっては相応の実績や知見が必要。また、コンサルティングサービスそのものに明るい必要があるので、実施へのハードルは高いといえます。
MVPによる検証
MVP(Minimum Viable Product/実用最小限の製品)による検証とは、機能を必要最低限に絞って製品化し、無償や低額で提供する手法。改善や機能追加を前提として、プロダクト提供をスモールスタートできるため、アプリケーションサービスに適しています。
解像度の高いフィードバックを得られる一方で、一定以上の開発コストが必要となります。
その他
その他のテストマーケティングの手法には、顧客インタビューや提案資料、LP・ティザーサイト、ビデオプロトタイプ、コンシェルジュ型サービスなどがあります。
※関連記事:BtoBのテストマーケティングで使える5つのプロトタイピング手法 | メソッド | 才流
事例から読み解く、テストマーケティングに活かせるポイント
才流では、PMF(ピーエムエフ/Product Market Fit)※を達成した企業へのインタビューを行っていますが、ここではその事例からテストマーケティングに活かせるポイントをご紹介します。
※PMF:商品が顧客のニーズを満たし、正しい市場に提供されている状態。
事例①コンセプト検証 株式会社TOKIUM
経費精算システムのなかでは後発だったTOKIUM社のサービス。キラーコンセプトの発見によって、受注率や単価の向上に成功しました。その事例から、コンセプト検証のポイントを解説します。
- 企業名:株式会社TOKIUM
- 業界・業種:IT/Web・通信・インターネット系
- 商材:経費精算システム「TOKIUM経費精算」
背景
家計簿アプリを主力事業としていた同社は、2015年に新たな事業の柱として、法人向けの経費精算システムをローンチ。経費精算システム自体は目新しいものではないため、既存サービスとの違いや自社サービスならではの強みを訴求していましたが、後発のため、なかなか認識してもらえませんでした。
取り組み
アプローチを模索する中で、担当者にとって負担の大きいオフライン業務を代行。次第に「作業負担を軽減すること」に価値があるのではないかと考えるようになりました。
そこで生まれたのが、「レシートをスマホで撮って、ポストに投函するだけ」というコンセプト。当時洗練されたサイトやLPがなかったため、商談の際にダンボール箱にカッターで切り込みを入れたポストを持参して、「(レシートを)スマホで撮った後、ここに捨てるだけで経費精算ができるようになったらどうでしょう?」とコンセプトを伝えました。
成果
コンセプトを話すだけでサービスの特徴を理解してもらえるようになり、受注率が向上。高い付加価値を訴求できるようになったことで、他社よりも高い金額を払っても良いと納得してもらえるようになり、価格勝負に巻き込まれることもなくなりました。
テストマーケティングに活かせるポイント
TOKIUM社の事例では、マーケットにフィットした強いコンセプトを提示できれば、市場や顧客からの反応は一気に変わり、売れることが示唆されています。
売れるかどうかはコンセプトだけでも検証できます。製品の完成を急ぐのではなく、まず顧客からの手応えを得ることに注力して、仮説の検証を行うことが重要です。
※関連記事:“パワポ一枚で売れる”強いコンセプトの発見で、導入が加速。BEARTAILのPMFストーリー | メソッド | 才流
※2022年3月31日より商号をBEARTAILからTOKIUMへと変更。また、ペーパーレス経費精算システム「レシートポスト」を「TOKIUM経費精算」へと名称変更。
事例②コンサルティングによる検証 ノバセル株式会社
テレビCM広告のプラットフォーム「ノバセル」は、コンサルティングと営業活動によってコンセプトが受け入れられるかを検証し、プロダクトへ落とし込みました。その事例から、コンサルティングによる検証のポイントを解説します。
- 企業名:ノバセル株式会社(ラクスルグループ)
- 業界・業種:IT/Web・通信・インターネット系、コンサルティング
- 商材:テレビCM広告のプラットフォーム「ノバセル」
背景
テレビCMの活用で急成長したラクスルは6年間で売上高を30倍し、CPAを半減させることに成功。その評判から、ラクスルのCMOである田部正樹氏のもとにテレビCMの活用に関する相談が舞い込むようになりました。
取り組み
2018年5月、テレビCMの制作・放映を50万円から実施できるコンサルティングサービスの提供を開始して、後に事業化。「テレビCMの企画・制作・出稿・分析までを効率化し、成功施策に再現性を持たせる」というコンセプトを打ち出し、コンセプトが受け入れられるかどうかを、コンサルティングと営業活動によって検証しました。
「事業責任者が営業活動を通じて顧客の一次情報に触れること」を重視し、1人で年間500件もの商談を行いました。
成果
営業とコンサルティング活動により、コンセプトが受け入れられている実感を得た後に、プロダクト化。テレビCMの効果分析ツール「ノバセルアナリティクス」は、現在300社もの企業が導入しており、高リピート率を維持しています。
テストマーケティングに活かせるポイント
コンセプトが市場に受け入れられるかどうかは、コンサルティングや営業活動などの「手売り」で検証でき、それだけで売り上げが立つこともあります。
ノウハウによって課題解決するサービスの場合、コンサルティングの提供から取り組むことで、製品を提供するよりも多くの顧客情報を得られます。ペルソナや製品に関する仮説の検証はもちろん、売り上げ予測の精度を高める上でも有効です。
※関連記事:1年に500回の商談で「誰に何を売るか」を徹底分析。運用型テレビCMサービスで急成長のノバセルに学ぶ、PMFの鉄則 | メソッド | 才流
事例③MVPによる検証 コミューン株式会社
日本におけるコミュニティ運用支援の草分け的存在であるコミューン社。2022年から米国進出など事業拡大を進めている同社は、無償のプロダクト提供から段階的に事業をスケールさせていきました。その事例から、MVPによる検証のポイントを解説します。
- 企業名:コミューン株式会社
- 業界・業種:IT/Web・通信・インターネット系
- 商材:コミュニティサクセスプラットフォーム「commmune」
背景
同社のCEOである高田優哉氏と共同創業者の橋本翔太氏は、以前サプリメントのD2Cブランドを展開していたとき、顧客とのコミュニケーションの大変さを肌で実感。「企業とユーザーの距離が生む損失」に気づいた経験がアイディアとなり、オンラインコミュニティの企画・構築・運営をサポートするプラットフォーム「commmune」の開発に着手しました。
取り組み
2018年9月、一部の企業に対して無償でプロダクトを提供。約10社の初期顧客の声に耳を傾けながら一緒に開発を進めました。約4か月後にプロダクトを有償化し、「10社のうち3社に使い続けてもらう」という目標を達成。導入社数が増えた後は、より高い価値を提供できる顧客に対象を絞り、価格の引き上げを実施しました。
成果
無償提供から有償化、そしてターゲットの絞り込みと価格の引き上げと、段階的に事業をスケールさせていくうちに、プロダクトが「勝手に売れるような感覚」を得るようになったと同社CEOの高田氏は語っています。
2021年には19.3億円の資金調達に成功し、2022年から米国での本格的な事業展開に踏み切るなど、事業を拡大させています。
テストマーケティングに活かせるポイント
コミューン社では、無償提供からスタートし、顧客ニーズの有無を確認、明確化するとともに有償化、価格引き上げを行いました。
MVPやベータ版を用いたテストマーケティングでは、顧客の反応を得ながら段階的に軌道修正ができます。「実際に使ってもらえるか」「お金を払ってもらえるか」「使い続けてもらうために何が必要か」など、事業のフェーズに合わせて検証を重ねることでPMFに近づくでしょう。
※関連記事:「みんなにとって50点」の状況から抜け出すために。2つの決断でPMFを手繰り寄せたコミューン | メソッド | 才流
事例④顧客インタビューによる検証 株式会社Photosynth
toC向けのスマートロック「Akerun」を手掛けるPhotosynth(フォトシンス)社は、初期ユーザー100社へのヒアリングによってサービスの方向転換に成功し、後に上場を果たしました。その事例から、顧客インタビューによる検証について解説します。
- 企業名:株式会社Photosynth
- 業界・業種:IT/Web・通信・インターネット系
- 商材:スマートロックを用いたクラウド型の入退室管理システム「Akerun」
背景
「Akerun」は2015年4月にリリースし、多くのメディアで取り上げられ売れ行きは好調でしたが、3か月後にはセットで提供していたアプリのアクティブ率がどんどん低下していき、方向転換の必要に迫られました。
取り組み
方向転換にあたり、初期ユーザー100社に対してヒアリングを実施。ヒアリングをもとに、「どこの市場で、誰に向けてサービスを提供していくか」を整理し、製品が売れる仮説を複数パターン作成しました。
続いて、ターゲット候補となる顧客セグメントで、自社サービスを知らない10人にヒアリング。10人中10人がその商品を欲しいと考え、そのうち4人がすぐにでも買うものを「Must have」だと定義し、最も反応が良かったセグメントだけに向き合うことを決めました。
成果
中小企業から大企業まで幅広く導入が進み、累計の利用企業数は7,000社超。2021年11月には、東証マザーズ市場(※)に上場しています。
※東京証券取引所による市場区分見直しにより、2022年4月からグロース市場。
テストマーケティングに活かせるポイント
Photosynth社の事例では、製品の方向転換をする際に大量の顧客インタビューを行い、仮説の精度を高め、強いニーズがある顧客セグメントを特定していきました。
ヒアリングをもとに仮説検証を繰り返すことで、市場やペルソナ、顧客ニーズについて、仮説の精度を高められます。漠然とヒアリングするのではなく、目的を明確化して検証結果を定量的に分析することが重要です。
※関連記事:営業をサボらずやり切ることがPMFを手繰り寄せる。徹底的な顧客ヒアリングで方向転換、AkerunのPMFストーリー | メソッド | 才流
事例に学ぶ、新規事業を成功させるポイント
前章では4つのPMF事例をご紹介しましたが、事業を成功させた企業の取り組みにはいくつかの共通点があります。その共通点の中から、新規事業の成功に欠かせないポイントについて解説します。
ポイント① 顧客と強固な関係性を築く
困難にぶつかった際に、突破口となるのが顧客からのフィードバックです。PMF事例でも、初期ユーザーと強固な関係を築き、顧客の声を開発や改善に生かして事業を成功させた例が多くあります。
例えば、先述したコミューン社は約10社の初期顧客が製品開発に大きく関わっていたり、Photosynth社は製品のターゲットを方向転換する際、初期顧客の100社に対してヒアリングを実施しています。
とくに新規事業では、市場が成熟していないために、市場及び競合他社の情報が乏しいケースも珍しくありません。事業成功のヒントを得る上で、顧客起点の発想や要望は重要な役割を果たしてくれるでしょう。
ポイント② コンセプトを磨き上げる
市場に受け入れられるキラーコンセプトを見つけ出した企業は「コンセプトだけでも売れる」といいます。強いコンセプトには、次のような特徴があるからだと考えられます。
- 顧客がお金を払ってでも解決したい、強いニーズをとらえている
- 解決策のイメージが沸く
- 自社サービスの独自性や特徴が伝わる
「顧客課題」「解決策」「独自性」が市場にフィットするかはコンセプトだけでも検証可能です。事前調査のみで良いコンセプトを作るのは至難の業なので、実際にリードを取って商談をしながら、コンセプトをブラッシュアップするのが成功への近道といえます。
※関連記事:PMFの到達に必要なアクション・考え方とは?【8社の事例をまとめて解説】 | メソッド | 才流
まとめ
新規事業の成功確率を上げるには、テストマーケティングによる仮説検証が欠かせません。仮説検証にはさまざまな手法があります。今回はPMF事例をもとに、コンセプト検証やコンサルティングによる検証、MVPによる検証、顧客インタビューによる検証をご紹介しました。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、新規事業の立ち上げからPMFに至るまで一気通貫で支援しています。新規事業で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)
また、以下のようなご相談もお受けしています。
- 製品開発前に仮説検証を通じて勝ち筋を見つけたい
- テストマーケティングを効果的に行いたいが、ノウハウを持っていない
- 新製品の売れる証明をしたい
- 成長した事業の「次の売れるセグメント」を見つけ出したい
個別相談も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
(文:大江 健七郎)
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監修
2013年にWebコンサルティング事業を行う株式会社GENOVAへ入社。営業部長として100件以上のマーケティング支援を行う。その後、新規事業開発を行う部署を立ち上げ、医療メディア「Medical DOC」をローンチ。公開から2年で年商10億円を達成。現在は才流にて上場企業やスタートアップのマーケティングコンサルティングを行う。
Twitter:@yooheykoji