多くの営業管理職が悩む、若手の育成。部下の成長を感じられない管理職の割合は、5年前の3倍に増えているというデータも出ています。そこで株式会社才流では「若手・新人営業が育つ営業組織の条件」というテーマでセミナーを開催しました。
このレポート記事では、本セミナーの内容を抜粋してご紹介します。
若手営業の育成に欠かせない「型化」の必要性と実際の「型づくり」に必要な要素、そして最短距離で「型」をつくる方法について、才流コンサルタントの原口拓郎が解説します。
スピーカー
株式会社才流 コンサルタント 原口拓郎
2013年にブランディングテクノロジー株式会社に入社後、西日本エリアの営業責任者として3拠点の営業マネジメントを経験。その後マーケティング部門の立ち上げを行い、不動産・建築業界特化のセミナーやカンファレンスに複数登壇する。
若手が育つ営業組織をつくるために必要なアプローチ
若手・新人育成に課題を抱える営業管理職は5年前の3倍に
本日のセミナーテーマ「若手・新人営業が育つ営業組織の条件」についてお話しする前に、管理職の意識調査に関するこちらの調査データをご覧ください。
「営業管理職として、どのようなお悩みを持っていますか」という質問に対し、半数以上が部下の育成に悩んでいると回答しています。また、部下の成長を感じられない管理職の割合が、5年前の3倍に増えていることを示すデータも出ていました。つまり、多くの営業組織で若手の育成がうまくいっていない状況が読み取れます。
※出典:管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」/”部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に
営業育成に欠かせない「型化」「研修・トレーニング」「OJT」
営業育成に対する主な打ち手は、「型化」「研修・トレーニング」「OJT」の3つです。
研修・トレーニングとは、ロールプレイングや勉強会、座学研修などの研修メニューを通じた営業教育を指します。
OJTとは、先輩・上司から1on1などを通じて商談、前外報、後外報をフィードバックすることを指します。
そして最後に型化です。おそらく多くの方は聞き馴染みがない概念かもしれません。才流では、営業の型化をこのように定義しています。
営業の型化とは、企業が保有する資産(知識・ノウハウ)を集約し、再現性と汎用性を持たせて組織全体の競争力を高めること
もう少し具体的に表現すると「成功パターンと失敗パターンが言語化され、商談において営業全員がどのような行動を取るべきか明確になっている状態」を型化と呼んでいます。
型を起点に、営業組織成長のはずみ車が循環している組織こそ、若手・新人が成長する営業組織の条件
「型化」、「研修・トレーニング」、「OJT」。これら3つが循環していることが若手の成長する営業組織の条件、と私たちは考えています。
営業組織成長のはずみ車の起点は、「型化」である必要があります。型化とは、いわば営業教育の指針であり、指針がない中でトレーニングやOJTを実施しても十分な成果が出ないからです。
経験上、若手が育ちにくい営業組織は以下2つのパターンに大別できます。
1つ目は、はずみ車の起点となる「型」が抜け落ちているパターンです。場当たり的に研修・トレーニングをしていたり、OJTでしか育成できていなかったりする組織がこれにあたります。このような組織では、まず営業の型づくりからスタートすることが大切です。
2つ目は、「型化」、「研修・トレーニング」、「OJT」の3つが連動していないパターンです。もし以下のサインがあったら、3つの打ち手が連動していないのかもしれません。みなさんの組織は大丈夫でしょうか。
- 営業マニュアルが形骸化している
- 営業研修が汎用的な内容に終始しており、実際の営業現場で必要な知識やスキルと乖離が生まれている
- どのように提案すればよいのか、若手を中心に正解がわかっていない。
- ベテラン営業中心に、「営業に正解(型)なんてない」というスタンスで、教育を諦めている
営業の型づくりで押さえるべき4つのポイント
才流では、型化にあたって押さえるべきポイントが4つあると考えています。それは「顧客」「商談プロセス」「選ばれる理由」「状況判断と対応方法」です。
営業の型化で押さえるべきポイント1.顧客
ターゲット属性
営業対象となる業界・業種など、ターゲット企業の属性や商談を行う相手について整理します。このとき、対象外の条件についても記載しておくことで、無駄な商談を避けられます。
ペルソナ
商談を行う対象のペルソナについてもまとめましょう。課題が顕在化するきっかけをペルソナごとにまとめておくと、商談の解像度が上がります。
また、ペルソナの詳細を整理しておくことも大切です。経験の浅い若手でも、お客さまの悩みや関心事に対する理解が深まり、どういった話題や提案が喜ばれるのかをイメージしやすくなります。
※関連記事:BtoBマーケで役立つペルソナ作成3つのステップ
購買活動の流れ
ペルソナがどういった購買活動を行うのか、流れを整理しておきましょう。商談フェーズごとに提供するべき情報が明確になります。また、できるだけペルソナごとに整理しておくことも大切です。
検討開始の背景・きっかけ
お客さまにはどのような検討開始の背景があるのか、具体例と共に整理しておくことで事前準備の仮説を立てやすくなります。その結果、ヒアリングの精度アップも見込めます。
主な評価軸
お客さまがどういった視点でサービスを選ぶのかをまとめておきましょう。案件を前に進める上で「どの項目の理解が不足しがちなのか」「手厚く説明するべき内容はどこなのか」などが明確になります。
顧客インタビュー集
顧客解像度を高める上で、顧客インタビューはとても効果的です。インタビューした情報をまとめておくと、新人営業の顧客理解に役立ちます。
いずれも手間はかかりますが、お客さまについての情報をまとめることが型化の最初のポイントです。
※関連記事:見込み顧客へのデプスインタビューの効果を高める26のチェックリスト~ビザスク活用編~
営業の型化で押さえるべきポイント2.商談プロセス
基本的な営業フローの設計
まず最初に、商談プロセスにおける基本的な営業フローを設計しましょう。商談獲得から契約に至るまでの理想の流れとお客さまの状況、各ステップの目的、さらには目標期日を定めることで、商談のネクストアクションを決める際にスケジュール感を統一できます。
ちなみに、アポ打診から契約までのフェーズをどう設計すべきかは、サービスや組織に応じて異なります。記載している例はあくまで参考程度にしてください。
いずれにしろ、フェーズを区切ることで「売り上げ予測が立てやすくなる」「パイブラインマネジメントがしやすくなる」「メンバー・商談ごとの分析が可能になる」などのメリットがあります。
初回商談の流れ
それぞれのフェーズに対して、商談進行イメージを時間配分と共に設定しましょう。時間配分を設定すると、商談の振り返りが容易になります。たとえば、イメージ通りの商談ができなかった際、どこに時間がかかってしまったのか、本来はどこに時間をかけるべきだったのか、といった仮説の立案に役立ちます。
初回商談のポイント
流れや時間配分に加え、初回商談で最低限おこなうべきこと、余裕があったらおこなうべきことを定めておくことも大切です。
初回商談前の準備は時間をかけようと思えばいくらでもかけられるものですし、手を抜こうと思えばいくらでも手を抜けます。準備でやるべきことをまとめておくと、事前準備における量と質の均一化を図れます。
ヒアリング項目
ヒアリングシートを準備しておきましょう。質問の順序に違和感がないよう、質問項目を準備することが大切です。各項目のヒアリングの目的、ゴールも明確にしましょう。
また、企業によっては商談にあたり予備知識や専門用語を押さえておく必要があります。若手の用語理解が進まず、よいヒアリングができないというお悩みもよく聞きます。そういった場合はトークスクリプトまで準備しておくと、実際の商談現場で利用しやすくなります。
※関連記事:商談で活用できるヒアリングシート【テンプレート付き】
営業の型化で押さえるべきポイント3.選ばれる理由
競合比較表
まず最初に、競合比較表をしっかり固めましょう。競合サービスとくらべて、自社サービスのどの項目が優れていて、どの項目が劣っているのかを整理します。競合比較表は、受注・失注分析や、ベテラン営業へのインタビューをもとに作成していきましょう。
この競合比較表は、あくまで社内向けです。そのため、自社が有利になる項目だけを整理せず、できるだけ多くの項目を列挙することが大切です。
業界のポジショニングマップ
競合数が多い場合は、業界のポジショニングマップを整理するとよいでしょう。視覚的にまとめることで、若手が市場の全体感を理解しやすくなります。
※関連記事:ポジショニングマップの作り方~肝となる軸の決め方をテンプレート付きで解説~
そしてこのポジショニングマップを参考に、個社ごとの競合情報も整理しましょう。
営業の型化で押さえるべきポイント4.状況判断と対応方法
よくある停滞と対応方法
商談が停滞するよくあるパターンを洗い出し、対応のポイントと最低限おこなうべきことを整理します。一つひとつの精度はもちろん、どれだけのケースを組織として網羅できているかが重要です。どのような場面でも、対応のポイントと最低限行うべきことが言語化されている状態を目指しましょう。
最短距離で型をつくる方法
ここまで営業の型化において押さえるべき4つのポイントについて、その内容を詳しく解説しました。型化が完了すれば、若手が商談で最低限やるべきことが明確になります。
しかし一方で、通常業務をこなしながら営業の型化に取り組むのは困難です。
才流の法人営業支援では、プロジェクト形式でお客さまの型づくりをご支援しています。型化について課題感のある方はぜひ一度才流にご相談いただければと思いますが、本日のセミナーではみなさまが最短距離で型づくりを進められる方法をご紹介します。
それは顧客事例の整理から型化を始めることです。
顧客事例には、型化すべき4つのポイントがすべて詰まっている
顧客事例には、先ほど説明した型化において押さえるべき4つのポイント「顧客」「商談プロセス」「選ばれる理由」「状況判断と対応方法」がすべて詰まっています。
そのため、顧客事例をベースに型づくりを進めるのがおすすめです。
具体的には、実際に自社サービスを導入いただいた企業さまの商談事例を、4つのポイントの観点で分解します。
どんな顧客に、どんなプロセスで商談し、なぜ選ばれ、どう対応したのか。これらを順を追って整理し、体系化・資料化・言語化することで類似商談で転用できるようになります。
ここからは型づくりにあたり顧客事例をどう分解・整理すればよいのか、4つのポイントに即して解説します。
顧客事例から型をつくるポイント1.顧客
会社概要と契約しているサービス名、顧客単価、契約日を記載します。
成果が出ているお客さまについては、営業資料に使えるような体裁にまとめるとよいでしょう。
成果スライドをつくる上で重要なのは、導入前の課題と導入後の効果をできる限り定量・定性で語ることです。これにより導入前の課題が類似した企業さまと商談をする際、この事例を使おうという1つの勝ちパターン、型へとつながります。
次に、担当者の一覧もまとめておきましょう。
担当者ごとの接触回数や部署役職、興味関心、決裁への影響度を整理しておくことで、商談への巻き込み方がわかりやすくなります。
顧客事例から型をつくるポイント2.商談プロセス
顧客情報を踏まえ、どのような商談プロセスだったかを整理しましょう。
いつ、誰に何をして、どうなったのか。プロセスごとに類似するシーンが発生した際、どう案件を進捗させるべきかの知見となります。営業担当が過去のケースを思い出しながら、1件ずつ蓄積していくだけでも育成に使える材料になります。
顧客事例から型をつくるポイント3.選ばれた理由
「検討の背景」「発注いただいた理由」をまとめましょう。この際、可能であればお客さまにインタビューをすることを推奨しています。というのも、究極的には「選ばれた理由」はお客さまさましか正解を持っておらず、営業担当が思っていた内容とは違う事実によって決定されていることが多々あるからです。
実際過去に、競合比較をしていないと言うお客さまが、受注後のインタビューで競合を検討していたことがわかりました。それも、競合として捉えていなかった企業に相見積もりをとっていたのです。このようなケースもあるため、お客さまへのインタビューはぜひ行っていただきたいと思います。
また、インタビューでは購買プロセスごとの詳細もヒアリングするとよいでしょう。
認知・理解・検討・選定というプロセスごとに、お客さまの心理状況やどういう行動をしたのかをまとめます。どのプロセスのお客さまに何を説明したらいいのか、どうアクションを取ればいいのか、どういう資料をお渡しすればいいのか整理することができます。
顧客事例から型をつくるポイント4.状況判断と対応方法
状況判断と対応方法については、実際の商談をベースにまとめることで事実が浮かび上がります。
いつ、誰に、何を目的としてどんなアクションを取ったのか、その結果何が起こったのか、という事実を事例ごとにまとめておきましょう。
たとえば、(いつ)本提案の前に(誰に)担当者に(目的)アジェンダや資料に違和感がないかを確認するために(アクション)電話した結果こうなりました、といったようにまとめておくことで、営業がとるべきアクションを型として蓄積できます。
また、よくある「投資対効果は見えたので検討します」と言われたときに、どう切り返すべきかについても整理しておくとよいでしょう。
このような内容について、成果が出たお客さま、成果はまだだけれども受注したお客さまの事例としてまとめることで型化が進みます。
さいごに
お客さまの事例をまとめて整理することは、型化の一歩目であると同時に、型づくりの最短ルートです。なぜなら、事例には型化するべき4つの項目、すなわち「顧客」「商談プロセス」「選ばれる理由」「状況判断と対応方法」がすべて詰まっているからです。
そして若手・新人営業が育つ営業組織の条件とは、型を起点としてはずみ車が回っていることである、というのが本日お伝えしたかった内容です。
最後に、本記事で触れた内容については才流でご支援が可能です。4か月のプロジェクト形式で各種分析調査を実施した上で、型の設計、各種マニュアルやコンテンツの整備まで行っています。ぜひお気軽にご相談ください。
(文:藤井恵、編集:轟拓哉)