ほとんどが失敗するといわれる新規事業。アビームコンサルティングが発表した調査結果によると、大手企業の新規事業が立ち上げに至る確率は45%、単年で黒字化する確率は17%、累損解消に至る確率は7%、中核事業にまで育つ確率は4%しかないそうです。
この結果は、2013年の調査と比較しても低い数値だといい、成功の難易度は上昇していることがわかります。
多くの経営者・事業責任者が優秀な人材を集め、さまざまな知見を投入して新規事業に取り組んでいます。それにもかかわらず、事業が成功しないのはなぜなのでしょうか。
本記事では、どのような取り組みがPMFを阻害し、事業の成功を遠ざけてしまうのか。よくある失敗のパターンを解説します。
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※関連記事:PMF(プロダクトマーケットフィット)達成ガイド~基礎から事例まで、新規事業を成功に導くためのコンテンツ集
- ① 顧客ニーズを検証せずに商品をリリースしてしまう
- ② PMF達成に必要ないことに時間を使ってしまう
- ③ 商品をリリースする前に社内の議論を重ねてしまう
- ④ PMF前に営業・マーケティング投資を始めてしまう
- ⑤ 見せかけのPMFに騙されてしまう
- ⑥ 安易に組織の人数を増やしてしまう
- ⑦ 意思決定や打ち手の成功確率にこだわりすぎてしまう
- ⑧ 虚栄の指標を追ってしまう
- ⑨ 市場規模を確かめずに参入してしまう
- ⑩ 競争戦略を描かずに参入してしまう
- ⑪ 「やってみないとわからない」と、思考停止で進めてしまう
- ⑫ スモールすぎるスモールスタート
- まとめ
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① 顧客ニーズを検証せずに商品をリリースしてしまう
新規事業が失敗してしまう1つ目の理由は、顧客ニーズを検証せず、自分たちの思いつきや思い込みのまま商品をリリースしてしまうことです。
実際にスタートアップの撤退要因を調べた調査でも、「市場が存在しなかった」が第1位の撤退理由にあげられています。「市場が存在しなかった」とは、自分たちの商品を欲しがる人がいなかったということです。
「資金が枯渇した」「価格と費用の課題」「顧客に好まれるプロダクトではなかった」などの撤退理由も、強い顧客ニーズを掘り当てられなかったと言いかえることもできるでしょう。
ものづくりができてしまうがゆえに、商品をつくることを優先してしまったり、最初から細かいUXやUIの磨きこみに時間をかけてしまったり。顧客ニーズの検証をおろそかにし、思いつきのままに作った商品が収益性のある事業に育つ確率はきわめて低いといえます。
② PMF達成に必要ないことに時間を使ってしまう
スタートアップの世界では「PMFするまでコードを書くこととユーザーの声を聞くこと以外、なにもするな」といわれています。予算を使いきる前にPMFを達成するために、顧客インタビューや商品開発にできるだけ多くの時間を使い、試行錯誤を繰り返す必要があるからです。
これは大手企業内の新規事業でも、同様です。社内調整や組織づくり、プロモーション、ブランディングなどはPMFを達成した後に取り組むべきものと考えましょう。
PMFを遠ざけてしまう行動の例
- ミッション、ビジョン、バリューの明文化
- 予算形成
- 仕組み化・業務効率化
- 組織づくり
- 現場への権限委譲
- メディア露出
- プロモーション予算の投下
- 営業パーソンの育成
- ブランディングへの投資
- 意匠的デザインへの投資
- カンファレンス参加
- 飲み会での人脈づくり
- 役員会や投資家向けの資料作成
- 資料作成のための度重なるリサーチ
③ 商品をリリースする前に社内の議論を重ねてしまう
成長戦略を描くためのフレームワーク「アンゾフのマトリクス」で考えてみると、特に新規の市場や製品を扱う場合、顧客や市場の情報は往々にして不足しています。顧客や市場への解像度を高めることに注力すべきでしょう。
しかし、社内メンバーでの議論に多くの時間を使い、市場や顧客に関する情報収集に時間を割かないケースが散見されます。初期フェーズであればあるほど、社内での議論ではなく、外に出て市場や顧客に触れることが重要です。
たとえば、粗い状態でもいいので1か月でターゲットの絞り込み、訴求メッセージの決定、営業資料やランディングページを作り、その状態で広告出稿や既存顧客への案内をはじめてみる。仮説をもとにとりあえずリードや商談を取ってしまい、振り返りを高速化するのです。
見込み顧客に、営業資料やランディングページを見ていただく方法もありますが、「お勉強」の域を出ないところがあります。本当の顧客からリードをとり、本気で商談し、受注・失注をするというサイクルを、半年~1年程度で高速で回し、プロダクトに足りないものや売れるセグメントを発見していくプロセスが重要です。
当社で新規事業の立ち上げを支援させていただく中でも、社内での議論ではなく、市場や顧客に関する情報を得ることを優先してプロジェクトを進めることで、成果が出ています。
④ PMF前に営業・マーケティング投資を始めてしまう
4つ目のよくある失敗は、PMFしていないにもかかわらず、営業やマーケティングへの投資をはじめてしまうことです。
PMFしていない事業では、どんなにWebサイトや広告運用を改善しても、問い合わせ数は伸びず、受注にはつながりません。一方、PMFしている事業であれば、サイトが未完成であっても、広告運用の設計に多少の穴があっても問い合わせや受注につながる可能性は高いでしょう。
これは営業についても同様です。営業力をどんなに強化しても、事業がPMFしていないと受注にはつながりません。
PMFしていない状態で投資しても効果が出ない施策
もしなにかがうまくいっていないときは、営業やマーケティング活動を見直すのではなく、まっさきにその商品が顧客ニーズにフィットしているかを見直すようにしましょう。当社では、「バケツの穴をふさぐ」と表現しています。
「営業、マーケティングに投資する前にPMFを見直す」「集客する前にわかりやすいWebサイトや営業資料をつくる」「受注を強化する前に顧客が満足する商品をつくる」など、バケツの穴をふさぐ行動をしておかないと、どんなに投資をしても成果は出ず、お金はすぐに溶けてしまいます。
ただし、勝者総取りになりやすいプラットフォームビジネスや、後からリプレイスが難しいビジネス、先にデータを取得した企業が後で勝ちやすいビジネスは例外です。
これらのビジネスでは、商品が多少未成熟でも、まずは瀬谷をとってしまい、その後商品を改良してPMFを達成したり、機能拡充に伴う値上げをしたり、アップセル・クロスセルなどであとからビジネスとして成立させていく方法もとれるでしょう。
⑤ 見せかけのPMFに騙されてしまう
「リードがまったくとれない」「商談してもまったく受注できない」場合、多くの方がPMFに向き合う危機感を持つでしょう。問題は、PMF前に中途半端にリードがとれたり、受注がとれてしまった場合に、本気でPMFに向き合うのが遅れてしまうことです。
とくに、大手企業で強い営業網や顧客基盤を持つ会社、スタートアップで社長や営業部長の営業力が強い会社などは、注意が必要です。初期の拡販がうまくいってしまうがゆえに、「自分たちは順調かもしれない」という錯覚が生まれてしまうのです。
BtoBのプロダクト開発の世界では「創業者が売った分の受注はカウントしてはいけない」という言葉があります。多くの創業者は人間的に魅力であり、人間力で商品が売れてしまうのです。その結果、PMFしていると勘違いし、プロモーションや営業に予算を投下してしまいます。
しかし実際はPMFしていないので、どんなに予算を投下しても成果は出ず、創業者は成果が出ない原因をマーケティングや営業現場の未成熟だと考え、現場のスキルアップに注力してしまう。こうした悪循環に陥り、PMFが遠のいている事業が後を絶ちません。
初期フェーズで順調だと感じでも、振り返りを徹底し、どういうセグメントに刺さっているのか、顧客は何に価値を感じているのか、現状の商品に足りないところはどこなのか、検証を欠かさずに行いましょう。
⑥ 安易に組織の人数を増やしてしまう
「②PMFに必要のないことに時間を使ってしまう」でも触れましたが、5つ目のよくある失敗はPMF前に組織づくりを行ってしまうことです。
PMF前に安易に組織の人数を増やしてしまうと、合意形成が必要なステークホルダーが増え、事業進捗のスピードが低下してしまいます。
たとえば大手企業の新規事業では「予算取り」の関係上、期初に多めに人数を確保し、期中での追加申請を避けようとする動きがあります。スタートアップ企業でも、調達した資金を人材採用にあてるため、必要以上に組織の人数を増やしてしまうことがあります。
しかしPMF前は問い合わせや商談がない状態です。営業パーソンを暇にさせておくわけにはいかないので、(受注できない可能性が高いが)商談獲得のために展示会に出展するなど、「仕事のための仕事」を生んでしまうこともあるのです。そして「仕事のための仕事」が、PMFに本来必要な仕事に影響を及ぼすことがあるので注意が必要です。
PMFする前は、PMF達成に向けて必要な仕事にだけ集中しましょう。
⑦ 意思決定や打ち手の成功確率にこだわりすぎてしまう
新規事業の初期はパズルでいうとまだ始めたばかり。ピースがそろってくる後半になるとようやく全体像がわかり、進めるのが容易になってくるように、新規事業もフェーズが進むほど意思決定や打ち手の成功確率は高くなります。
それにもかかわらず、新規事業の初期において既存事業のような精度を求めて業務を進めてしまうとPMF達成が遅れてしまいます。
たとえば、以下のような行動に力を入れてしまうと、時間やコストを消費してしまうので注意が必要です。
これらは売上数十億、数百億の事業であれば正しい行動かもしれませんが、売上がほとんど立っておらず、商品も未成熟な事業では望ましくありません。
新規事業は往々にして「カオス」の中にいることが多いものです。そもそも意思決定や打ち手の成功確率が低いという前提に立ち、打ち手の数とスピード、そこからの学習に比重を置いた仕事の進め方を心がけましょう。
一方で「収束期」では成果を最大化するために計画的にリソースを投下していく必要があります。
⑧ 虚栄の指標を追ってしまう
虚栄の指標とはvanity metrics(バニティメトリクス)ともいわれ、事業の本質からは逸れているにもかかわらず、あたかもうまくいっているかのように見えてしまう数値のことを指します。
虚栄の指標例
PMF達成の指標になるのは受注数であり、カスタマーサクセスしている顧客の有無や数です。虚栄の指標は、組織に勢いや高揚感をもたらしてくれますが、PMF達成までの探索とは切り分ける必要があります。
⑨ 市場規模を確かめずに参入してしまう
市場規模を確かめずに参入してしまうのも、よくある失敗のひとつです。PMFの定義に「正しい市場にいること」がありますが、正しい市場というのは十分な規模がある市場です。
仮説でもいいので、最初に以下の事柄は考えておくとよいでしょう。
- 対象顧客数はどの程度いるか
- 十分な売上、利益を見込めるか
- 十分なサイズのある他の市場やセグメントに広げられるか
- 他の市場やセグメントに広げる際、どの程度、カスタマイズや追加開発が必要になるか
大手企業が新規事業をリリースする際、先行企業との差別化を意識して商品開発を行うあまり、ニッチなターゲット向けのニッチな商品になってしまうことがあります。市場規模が小さいと、売上も頭打ちになってしまうのは当然です。
事業戦略の観点では、フィリップ・コトラーが提案した競争戦略理論である競争地位戦略(※1)から考えると、ほとんどの場合、後発企業はニッチャー戦略(※2)を取らざるをえません。
しかし、ニッチセグメントの市場が大きすぎれば競合が参入してきてしまいますし、小さすぎれば自分たちが十分な収益を上げられなくなってしまいます。
つまり競合にとっては魅力的ではなく、自社にとっては魅力的なちょうど良い市場を見つけるか、まずは小さい市場から参入して、段階的により大きい市場に向けて歩みを進めていくかを選択する必要があるのです。
最初から大きな市場に参入する方法もありますが、競合他社との競争に必要な資本力や競合商品と比較したときに勝てる圧倒的な優位性のどちらかが必要でしょう。
※1:競争地位戦略とは、米国の経営学者フィリップ・コトラーが提唱した競争戦略理論。マーケットシェアの観点から企業をリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つに分類し、競争地位に応じた戦略目標を提示したもの。
(参考:https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ka/kotlers_compe)
※2:ニッチャー戦略とは、競争地位戦略の中でも、ある特定のセグメントに特化することで超過収益を目指す方法。
⑩ 競争戦略を描かずに参入してしまう
競争戦略を描かずに参入してしまい、競合との競争の中で利益をあげられずに撤退を余儀なくされるケースもあります。
ほとんどの新規事業には、間接にせよ、直接にせよ、競合が存在します。まったく新しい市場を創出するような商品であっても、そこが儲かる市場であれば、新規参入企業が続々と入ってきて、最初はブルーオーシャンの市場であっても、すぐにレッドオーシャンの市場になってしまうものです。
その中で事業を成立させていくためには、商品に競争優位がなければ難しいでしょう。新規事業の相談を受けていると、競合に対する優位性がない商品が想像以上に多いことに驚きます。
競争優位をどう築くのか、その競争優位は頑健なものなのかは事前に仮説を持つべきですし、もし事前につくれなくても事業を立ち上げながら議論する必要があるでしょう。
以下の観点が、競争優位を考えるヒントになります。
- 既存の競合企業が満たせていないニーズはなにか
- 自社はそのニーズをどのように満たすのか
- 業界内で一定のシェアを取るまでに必要な条件はなにか
- その条件をどのような順番で達成していくか
- 競合企業がせめてきたときにどのように勝つか
⑪ 「やってみないとわからない」と、思考停止で進めてしまう
起業家や新規事業の責任者は高い熱量で仕事に取り組むがゆえに、周りの意見が耳に入りにくくなっているときがあります。業界の先人に話を聞きに行き「ここがボトルネックになる」といわれても、自分たちは特別なケースだから大丈夫、と思い込んでしまうのです。
企業の栄枯盛衰には明確なパターンがあります。新規事業を立ち上げる企業や事業責任者であれば、成功事例や失敗事例を常にリサーチし、避けられた失敗をしないようにしたいものです。
ときには思い込みが成功を引き寄せることもありますが、常に冷静に情報を吟味し、意思決定する姿勢は忘れないようにしましょう。
以下のことを徹底すると、多くの情報を得られます。
- 顧客にインタビューする
- モックアップやプロトタイプ段階で顧客に見せる
- 国内外の競合のWebサイト、IR資料、社長のインタビュー記事を読む
- 類似ビジネスモデルの企業に話を聞きに行く
- 営業やマーケティング、開発手法を先人に聞きに行く
とくに競合企業や類似ビジネスモデルの企業が上場している場合は、IR資料に顧客獲得単価や解約率、粗利率、年平均成長率、原価や原価構造などが記載されており、貴重な情報源となります。
⑫ スモールすぎるスモールスタート
最後に注意したいことは、スモールすぎるスモールスタートです。
新規事業の世界ではMVP(Minimum Viable Product)、つまり顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトをつくろう、スケールしないようにしようという言説があり、小さく始めて大きく育てることが推奨されています。
それ自体は正しいのですが、ただ小さく始めればいいわけではないのです。小さすぎるスタートには、大きく2つの弊害があります。
1つ目は検証に耐えうる十分なデータが集まらないことです。10件商談をしただけでは、商品がPMFするのかは判断がつきませんし、月に10万円を広告費に投資しただけでは、マーケティングチャネルとして有効なのか判断できません。
また、市場にその商品がフィットしているのか、1つのセグメントに対して検証するだけでは不十分です。仮に市場が50個のセグメントに区切れ、1つのセグメントではPMFしなかったとしても、残りの49個のセグメントのどこかで、PMFを達成できるかもしれません。
2つ目の弊害は、得られる情報が少なくなるために、PMFにつながる新しい学びを得づらいことです。
たとえば検索広告を10万円分出稿した場合と100万円分出稿した場合では、新しい見込み顧客に出会える数は当然後者のほうが多くなります。
多くの見込み顧客と接点を持つことで、見込み顧客が抱える課題や課題の強さ、商品に必要な機能や購入にあたってのボトルネックなどを把握できます。
まとめ
「成功はアート、失敗はサイエンス」といわれるように、事業の失敗には再現性があります。失敗のパターンを学び、失敗を避けることで事業の成功確率を上げていきましょう。
才流では、PMFを体系的の学びたい方向けのコンテンツを用意しています。併せて参考にしていただければ幸いです。
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