産業機器メーカーや加工業など、BtoB製造業でもマーケティングに取り組むケースが増えてきました。一方で、業界特有の商習慣があることから「一般的なマーケティングの話は自分たちにはしっくりこない」と感じたことがある方も多いと思います。
本記事ではBtoB製造業に特化して、マーケティングの役割と効果的な施策を解説します。
なお、成果が得られる施策はビジネスモデルによって大きく異なるため、自社のビジネスモデルを特定するためのフローチャートも用意しました。フローチャートで自社のビジネスモデルを特定したあとに、該当するパターンの項目をお読みください。
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フローチャートの使い方
はじめに、フローチャートで合計3つの質問に回答し、自社のビジネスモデルを特定します。
ここでは各質問と意図について解説するので、回答に迷いそうな場合は一読ください。なお、複数の商材を取り扱う企業は、対象とする商材を1つ選んでください。
質問1:商材の単価が20万円以上か
商材1つあたりの価格についての質問です。価格帯が複数ある商材の場合は、最も売れている価格帯を想定して回答してください。
この質問の価格帯は、商談ではなく商材の単価で設定しました。会計上、消耗品として費用を処理できる「20万円以上」をしきい値としています(厳密には中小企業向けに優遇などもありますが、ここでは割愛します)。
質問の目的は顧客の製品選定プロセスを明らかにすることで、主に以下を確認しています。
- 備品であるか、消耗品であるか
- 選定に関わる人の数
- 検討期間の長さ
- 購入頻度
多少の金額の変動があっても、上記の特性を踏まえて回答してください。
質問2:カスタマイズ品か、規格品か
顧客ごとにカスタマイズが必要か、カスタマイズが不要な規格品かどうかについての質問です。両方ある場合、どちらの売上比率が高いかを想定して回答してください。
この質問の目的も顧客の製品選定プロセスを明らかにすることです。主に以下を確認しています。
- 詳細な打ち合わせの必要性
- 打ち合わせの実施回数
- 顧客別の情報管理の重要度
質問3:新規顧客の開拓が中心か、既存顧客のリピートが中心か
営業体制とビジネスモデルに関する質問です。
- 商材の単価は3万円だけれど、まとめて売れるので案件規模は300万円が中心
- 商品の特殊性が高くターゲットが狭いが、常に新規顧客を開拓しないと売り上げのベースが作れない
上記のように新規案件の発掘に時間を割いているビジネスを「新規顧客の開拓が中心」としています。
一方で、以下のような既存顧客の対応に時間を割いているビジネスを「既存顧客のリピートが中心」としています。
- 顧客からの見積もりや在庫、納期の問い合わせに対応する時間が長い
- 顧客基盤があり、一定の売り上げベースができている
- 単価が3万円程度の複数の商材を持っており、1日に複数の既存顧客を訪問している
「両方ある」という企業がほとんどだと思いますが、どちらの売上比率が高いか、という観点で回答してください。
自社のビジネスモデルを診断する
上記を踏まえて、フローチャートでビジネスモデルを診断してください。パターンA・B・Cのいずれかにたどり着くため、次の章でそれぞれが取り組むべきマーケティング施策を解説します。
パターンA:高単価・案件獲得型
いわゆる設備投資の案件を獲得するための取り組みに該当します。
商材の例
ハンディターミナル、自動化設備、顕微鏡、レーザーマーカー、産業用ロボットなど。
ビジネスの特徴とマーケティングの役割
商材が高単価なので顧客との商談が複数回にわたります。商材の説明から技術仕様の確認、デモや実機確認など、検討に数か月、数年かかるようなケースも多くあります。
新規案件を獲得し続ける必要があるため、マーケティング活動は「案件を営業に供給し続ける」ことが大切になります。
初回接触から商談化まで一年がかりになることもあるので、定期的な情報発信などを通じて顧客の検討タイミングを逃さずに把握し、営業へ連携することが重要です。
取り組みのポイント
- 顕在層向けの施策だけでなく、潜在層向けの施策にも積極的に取り組む
- 顧客の検討シグナルを早期にキャッチする
- 1件1件の商談を丁寧に、確実にクロージングする
取り組むべき施策
現在の取り組み内容や事業上の課題などによって実際の施策は異なりますが、以下のようなテーマに優先的に取り組んでおくと良いでしょう。
商材の単価に加えて、サポートや保守部品なども含めた顧客生涯価値(LTV)が高いので、リード獲得単価も高くなる傾向があります。たとえば100万円以上の商材であれば、リード獲得単価が数万円でもよい、と判断できるケースもあります。
また、東京ビッグサイトや幕張メッセなどで開催される展示会に出展して、認知・リードの獲得を強化することも重要です。商材にマッチする展示会は年に1、2回程度の開催になると思いますが、商談に近い見込み顧客だけでなく、次年度以降に購入する可能性がある見込み顧客もリードとして獲得できます。
コンテンツマーケティングについては、潜在層も興味を持ちやすい基礎知識、ノウハウ、選定ガイド、用語集などを整備していくと、検討初期の見込み顧客のリード情報を獲得できるようになります。
そのうえで顧客との定期的な接点をメールマーケティングやインサイドセールスで構築し、商談化のタイミングで安定的に営業へ案件を供給できる状態をつくっていきます。
ツールはSFA(エスエフエー/Sales Force Automation)※を優先的に導入しましょう。1件ずつの商談管理、営業マネージャーのレビューを強化して受注率を高めることが重要です。
※SFA:Sales Force Automationの略。営業活動の記録、進捗状況、顧客情報などを管理するシステムのこと。
パターンB:低単価・案件獲得型
単価はパターンAほど高くないものの、顧客ごとにカスタマイズが必要で、新規顧客を開拓し続ける必要があるビジネスを想定しています。
案件の獲得が常に必要か、既存顧客からのリピートで成り立っているかどうかは事業のフェーズや商材のカスタマイズ性、特殊性で異なります。営業が既存顧客の案件に対応しながら、新しい引き合いへの対応や顧客開拓のための取り組みもしているようなケースはこのパターンとして考えて問題ありません。
とくにカスタマイズ性が高い商材の場合は、顧客ごとの仕様や環境といった情報を管理することの重要度が高くなります。
商材の例
特殊なセンサー、モーターなどのカスタマイズ品、金属・樹脂加工品、板金加工品などの加工業、小規模の設備など。
ビジネスの特徴とマーケティングの役割
パターンAと同様、「案件を営業に供給し続ける」ことが重要です。とくに営業メンバーが既存顧客の対応をしながら、片手間で新規開拓をしているケースが多いと思います。この場合、営業のリソースを確度や重要度が高い案件、顧客との接点に使えるように支援するという視点で設計すると、バランスのよい役割分担になります。
カスタマイズ性が高い商材は、仕様を決めるために初回接触から受注まで複数回の面談や打ち合わせが必要です。また、新規取引においては、顧客企業からの信頼獲得や新規取引における各種手続きなども求められるため、複数回のやり取りが必要です。
さらに、一度失注した場合も1年後に改めてチャンスがやってくる、というケースも往々にしてありえるため、マーケティングチームが失注顧客からの案件の掘り起こしを担うと商談機会の取りこぼしを減らせます。
取り組みのポイント
- 案件を獲得し続けるために、コンテンツマーケティングなどで1万件のリード獲得を目指す
- リードナーチャリング※に活用できる事例、ノウハウなどのコンテンツを用意する
- 検討のタイミングを把握するためのナーチャリング施策に取り組む
※リードナーチャリング:獲得した見込み顧客の購買意欲を高めて、商談につなげていくこと
取り組むべき施策
現在の取り組み内容や事業上の課題などによって実際の施策は異なりますが、以下のようなテーマに優先的に取り組んでおくことが望ましいです。
新規顧客のリードを獲得するためには、事例や用途例、ノウハウをコンテンツ化して配信するコンテンツマーケティングが有効です。新規顧客に対して自社の技術力や実績、ノウハウをPRすることで取引前の信頼構築にも寄与するため、自社の得意な領域を積極的に文章化したり、事例の写真を用意してWebで配信しておきましょう。
機密性が高く、事例の許諾が得られないことも多い業界なので、以下のような工夫も検討してみてください。
- 社名や案件詳細を伏せた状態での事例の公開
- 業界別の用途例・アプリケーション例のコンテンツ化
- 値引きに協力する代わりに事例掲載の許諾を得る
また、検索での流入が少ない商材の場合は、Webでのインバウンドだけではリードが不足することも想定されます。能動的に案件を発掘できるように、エリアや業界を絞ってターゲットリストを用意し、郵送やFAXなどの紙でのDM、テレアポを使った新規開拓も併せて検討してみてください。
ツールは顧客ごとの情報蓄積が重要なのでCRM(シーアールエム/Customer Relationship Management)※を導入し、営業名義での1to1メールを送りましょう。なるべく担当営業の顔が見える定期的な接点を設け、デジタルを生かした効率的な関係構築と案件発生時に相談を得やすくすることが大切です。
※CRM:Customer Relationship Managementの略。見込み顧客の状況を可視化し、最適なコミュニケーションを実現するための仕組みのこと。
パターンC:低単価・既存顧客リピート型
新規獲得よりも既存顧客からのリピート発注や次期案件の開拓が多いビジネスを想定しています。
商材の例
センサー、画像センサー、キャスター、ポンプ、モーターなどの規格品で、市場にある程度製品が浸透しているケース。
ビジネスの特徴とマーケティングの役割
パターンA・Bとは異なり、既存顧客からの案件を取りこぼさず、継続的に獲得し続けることが重要です。エリアが決まっている地場の商社や代理店、特定領域メーカー向けのサプライヤー、市場に浸透しきった製品を取り扱うメーカーなどが該当します。
具体的には、営業がルートセールスとして、既存顧客に定期訪問しているような企業です。
よくある課題は以下のようなものです。
- 顧客に新製品をなかなか認知してもらえない
- 顧客ごとに担当営業が決まっており、その人にしか分からない状況になっている
- 営業によって提案の質がバラバラ
- 既存顧客が多く営業が回りきれていない、あるいは顧客との接点の状況が分からない
- 大手顧客の深耕営業、他の商材も提案をしたいが取り組めていない
マーケティング活動では、これらの課題解決が大きなテーマになります。
取り組みのポイント
- 顧客情報を一元管理できるCRM、メールマーケティングツールの導入
- 顧客接点の情報を正しく記録、蓄積
- メールマーケティングでノウハウコンテンツやキャンペーンを案内
具体的に取り組むべき施策
以下のようなテーマに優先的に取り組んでおくことが望ましいです。
顧客基盤に基づいた売り上げの最大化が重要なポイントです。そのため、CRM構築とCRMへの顧客情報の蓄積、メールマーケティングを通じた顧客接点の強化、購買のきっかけを見つけるといった取り組みが効果的です。
また「営業が属人化しており、顧客情報を蓄積できていない」という課題もよく聞きます。顧客情報を取得したら、決まったルールで蓄積していく取り組み、制度設計をしておきましょう。急な退職などによる引き継ぎロスを減らすことも可能になります。組織として営業をしている、という状況をつくることも重要です。
そのうえで、ECサイトを使った販路拡大、新規の顧客接点の獲得や、売り上げの元となる新規事業の開発、という流れがつくれると攻めのアプローチも強化できます。
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おわりに
BtoB製造業のマーケティング活動は、「Webで検索しても良い事例が見つからない」という声をよく聞きます。また一般的なマーケティング支援サービスは自社には合わないと感じるケースも多いようです。
今回の記事が、取り組み内容や優先度を検討する際のヒントとなれば幸いです。なお、取り扱う商材の市場の成熟度やシェア、現在の取り組み状況やリソースなどでも内容は変わってきます。
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