PMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)とは、顧客のニーズを満たしたプロダクト(商品・サービス)が正しい市場に提供されている状態のこと。ビジネスがPMFに到達すると「顧客からの問合せに追われる」「顧客からの要望に体制が追い付かない」という、極めてポジティブな状態になります。
しかし、PMFしているかどうかの判断にはそうした定性的なものだけでなく、定量的な指標の活用も有効です。本記事ではPMFを測る4つの指標と留意点について解説します。
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PMFを測る4つの指標
事業がPMFしているときは、問い合わせ数の多さなどから明確にPMFを実感できると言われています。しかしながら、事業責任者や立ち上げを推進している人は、なんらかの明確な指標で現在の立ち位置を知りたいものでしょう。
PMFを測るときに参考となる4つの軸を紹介します。
虚栄の指標 (実はPMFに関係がないので要注意)
先行指標 (事業の立ち上げ初期フェーズ向き)
定性的な指標(事業の立ち上げ初期フェーズ向き)
遅行指標 (事業を走らせてから半年〜1年ほど経過した、中期フェーズ向き)
虚栄の指標
まずは、PMFの指標とならないものをおさえておきましょう。一見、事業が順調に推移している、あるいはその兆しのように思えますが、PMFにはほとんど関係ない虚栄の指標です。以下は、その代表例です。
- SNSでの言及数
- プレスリリースの掲載数
- PV数
- アクティブ化や有料化につながっていないユーザー数
- イベント登壇数
- ピッチイベントでの入賞
- 資金調達の成功
- 資金調達の調達額
- 従業員数
たとえば、プロダクトの特別無料プランやクーポンなどをフックに新規ユーザーを集めている場合には注意してください。そのユーザーが「お金を出してでもプロダクトを利用したい」と思っているか、わからないからです。
数年前の話ですが、スマートフォンアプリの新規ユーザー獲得方法として「ブースト」という手段がありました。ポイントなどの報酬をアプリダウンロードに付与し、一気にダウンロード件数を伸ばす方法です。ユーザーはポイント欲しさにアプリをダウンロードしますが、必ずしもそのアプリを継続利用するとは限りません。実際に、翌月以降のアクティブ率が大幅に低下したという事例もあります。
先行指標
先行指標は、事業立ち上げの初期フェーズ(半年未満)でもPMFを計測できるもの。
以下の3つの方法で検証してみましょう。
ショーン・エリステスト
ショーン・エリスとは、オンラインストレージサービスのDropboxを成功に導いたアメリカのグロースハッカーです。
ショーン・エリス式のテストでは「このプロダクトが使えなくなったらどう感じるか?」をユーザーに聞くことでPMFを検証します。
「とても残念」「まあ残念」「あまり残念ではない」「無回答(もうこのプロダクトを使っていない)」の4つの尺度で聞くのが特徴です。「とても残念」の回答が4割を超えたら、PMFに到達していると判断します。
ショーン・エリステストでは「過去2週間以内に、2回以上そのプロダクトを使ったことがある顧客を対象にすること」が推奨されています。
NPS
NPSとは、Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)のこと。顧客のロイヤルティを測定する指標です。顧客推奨度と呼ばれることもあります。プロダクトを友人や知人に薦めたいかどうかを「0(まったく思わない)」〜「10(非常にそう思う)」の11段階で聞きます。9と10を選択したユーザー(推奨者)の割合から、0から6までを選んだユーザー(批判者)の割合を引いた数がNPSになります。
エンゲージメント
エンゲージメントは、新規ユーザーの利用率などからPMFを測る方法。健全なアクティブ率の目安はプロダクトによって異なります。人事労務や経費精算ソフトであれば月に1回程度かもしれませんし、メールアプリやニュースアプリであれば1日にどれくらい利用されているかが重要でしょう。
以上3つの先行指標は、短ければ2週間程度でPMFに到達しているかどうか判断できます。
定性的な指標
事業を立ち上げたばかりの段階ではユーザー数が少なく、定量的な判断に十分なサンプルが得られないケースもあるでしょう。その場合は、以下のような定性的な指標が役立ちます。
- プロダクト完成前なのに契約が取れる
- プロダクトの熱狂的なファンが存在する
- 社長しか売ることができなかったプロダクトが、新卒やインターン生でも売れるようになる
PMFの考えを広めた、世界的な投資会社Andreessen Horowitzの創業者マーク・アンドリーセン氏は、以下のように語っています。
顧客が製品に価値を感じていない、口コミが広がっていない、利用量がそれほど急速に増えていない、プレスリリースへの反応もイマイチ、ぼんやりしている、セールスサイクルが長い、案件がなかなか成約しない、といった状況はPMFが起こっていないと判断できる。
参考:スタートアップへの Pmarca ガイド「唯一の重要なこと」
遅行指標
遅行指標はPMFを測る指標としては有効ですが、実際に事業を走らせてみないとわからないタイプのものです。半年や1年以上、事業を運営しているケースでは役に立つため、参考になる3つを紹介しておきましょう。
リテンションレート
リテンションレートは、プロダクトが継続して使われているかどうかを測る指標。具体的には「何日後に何%のユーザーが残っているか」を計測します。たとえば toC向けなら、1日後、7日後、30日後(28日後)で測るといった具合です。toB向けの場合は、年次や月次の解約率を使うことが一般的です。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミコスは顧客・製品・店舗などの1ユニット(単位)あたりの経済性です。SaaSビジネスでは一般的に顧客あたりで計測され、以下の計算式で求められます。
顧客生涯価値(LTV)÷顧客獲得コスト(CAC)
※LTV:Life Time Valueの略。1顧客が生み出す粗利の合計(顧客生涯価値)のこと。
※CAC:Customer Acquisition Costの略。顧客獲得のためにかかるコストのこと。
一般的にはユニットエコノミクスが3以上であれば、健全なビジネスであるといえるでしょう。
レベニュー
レベニューとは、プロダクトが創出している収益のことです。SaaSでは「T2D3」という指標があります。
2年目:3倍(Triple)
3年目:3倍(Triple)
4年目:2倍(Double)
5年目:2倍(Double)
6年目:2倍(Double)
上記のようなペースでARRが成長している企業は、ユニコーン企業になれるとされています。
※ARR:Annual Recurring Revenueの略。年間経常収益のこと。
※ユニコーン企業:時価総額1,000億円以上の企業のこと。
PMFを測るときの留意点
PMFを計測するさまざまな指標を紹介しましたが、計測するうえで留意するべき点も2つお伝えしておきましょう。
業界内の他商品や平均と比較する
リテンションレートやユニットエコノミクス、NPSなどは業界やプロダクトによって目安となる数値が異なります。競合他社が上場している場合などは、決算資料にこれらの指標が記載されているケースもあるので、参考にしましょう。
しかし、必ずしも数字が高い必要はない
意外かもしれませんが、数字が高ければよいというものではありません。名だたるグローバル企業であってもNPSがそれほど高くないケースもあります。
グローバルIT企業が提供するサービスのNPS | |
-21 | |
Yahoo! | 9 |
11 | |
Amazon | 25 |
Google Play | 30 |
YouTube | 59 |
PMFを測るときには、定量・定性、業界・競合他社との比較など多面的な観点から分析する必要があります。また、PMFは一度きりではありません。市場は常に変化します。顧客課題を常に突き詰めながら、今回ご紹介したPMFの測り方もうまく活用していただければ幸いです。
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