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会社の理想論から顧客サイドの視点へ切り替え、PMFを達成。ShirofuneのPMFストーリー

新規事業
株式会社才流 代表取締役社長
栗原 康太

BtoB企業のPMF(Product Market Fit)ストーリーを紹介する本シリーズ。14回目となる今回取り上げるのは、Web広告の運用自動化サービス「Shirofune(シロフネ)」を展開するShirofuneだ。現在は上場企業から成長企業まで幅広い広告主や広告代理店が同サービスを活用。Shirofuneに連携されている広告アカウント数は13,000を超える。

プロダクトローンチ直後からコンセプトに共感した企業への導入が徐々に広がってはいたものの、「売上の成長角度」の観点では課題を感じ、試行錯誤の日々が続いていたという。そんなShirofuneがどのようにしてPMFを達成し、大きな成長を遂げたのか。取締役の竹下智視氏に聞いた。

※関連記事:PMF(プロダクトマーケットフィット)達成ガイド~基礎から事例まで、新規事業を成功に導くためのコンテンツ集

「プロの広告運用」をシステムで再現、大手代理店で広がる運用自動化ツール

ShirofuneのWebサイト

ShirofuneはWeb広告の運用を自動化するサービスだ。Google広告やYahoo!広告を筆頭に、Facebook、Instagram、Twitter、LINEなど主要なデジタル広告媒体における広告の運用業務を効率化する。

特徴は「プロの広告運用を再現できるようにシステム化」したツールであること。これまで広告の成果は担当者のスキルや経験に依存することが多かった。その点、Shirofuneの場合はそのノウハウをシステムに落とし込むことで、広告の配信設定や予算管理、入札の最適化、運用改善施策の提案、レポートの作成・分析といった運用業務を徹底的に自動化。運用経験がほとんどない担当者でも、簡単な操作で「プロと同じ品質の広告運用ができる」仕組みを作った。

この仕組みによって、広告パフォーマンスの改善だけでなく煩雑な業務の効率化も見込める。たとえば広告代理店では「1人あたりの担当できるアカウント数が2倍以上になった」といった事例も複数社で生まれているという。

広告主、広告代理店ともに大企業から中小企業まで顧客の幅は広いが、特に近年は大手の代理店における導入件数が増加している。国内のWeb広告の取扱高トップ20社のうち「約6割に活用していただいている」(竹下氏)ような規模にまで広がっており、売上の拡大を後押し。

もっとも、2018年にShirofuneの正式版をローンチした直後から現在のような状況だったわけではない。Shirofuneの前身となる「ADFUNE」の開発を始めてからの約4年、そしてShirofuneをローンチしてからの約2年半はひたすらプロダクトを磨きながら、事業成長に向けて試行錯誤を繰り返す日々だった。「(売上をベースにみると)伸びてはいるものの、じわじわとしか伸びない」。そのような課題を抱えていたという。

広告運用のエキスパート集団による開発がPMFへの起点に

竹下氏によるとShirofuneがPMFに至るまでのプロセスは大きく3段階に分かれるという。最初のステップはADFUNEを2014年に開発し、一定の導入実績を作るまでの期間。当時は一部の機能のみに絞ったプロトタイプという位置づけだったが、それでもコンセプトに共感した複数の企業がサービスを導入してくれた。

第二段階はADFUNEの知見を活用して2018年にShirofuneとしてプロダクトを作り直し(ベータ版は2017年に公開)、事業を広げていった期間。この時期にSaaS型のプロダクトとして本格的に提供を始め、幅広い企業に活用されるようになっていった。

そして竹下氏が「PMFの手応えを感じた」と話す第三段階は、だいたい2020年以降の1〜2年ほどの期間。上述したように大手の広告代理店をメインターゲットに据えて機能や組織体制などをアップデートした結果、売上が大幅に成長した。

株式会社Shirofuneの創業メンバー

そもそもShirofuneはどのような思想から生まれた企業なのか。共同創業者の菊池満長氏(代表取締役)や前田氏(取締役CTO)、竹下氏は、もともとサイバーエージェントグループでデジタル広告運用の現場を経験。その知見とテクノロジーを活用して、業界が抱える構造的な課題の解決を目指して立ち上げたのがShirofuneだ。

「過去の経験から、『デジタル広告の運用』と呼ばれる領域は専門的な知識や十分なリソースがなければなかなか良いパフォーマンスが出せないと感じていました。本来はさまざまな人が使えることこそがデジタル広告の強みのはずなのに、実際はそうなっていない。その状況がもったいないと思ったんです。その状況を変えるためには、今までの延長線上で人ベース(人力)のみのアプローチでやっていては難しい。リソースが限られる企業でも使えるように、人手だけではなくツールというテクノロジーの力を活用しながら、課題解決につながるサービスを作りたいと考えました」(竹下氏)

海外展開の可能性も十分に見込める領域であり、なおかつ自分たちのバックグラウンドも活かせる。そのような考えから立ち上げたのが、Shirofuneの前身となるADFUNEだ。

ADFUNEのアカウント連携画面のイメージ

コンセプトへの共感で「プロトタイプでも一定の収益」

初期のADFUNEは「広告代理店の少額アカウントの運用の効率化」を軸に、ごく限られた機能だけを実装したものだった。

プロダクト自体は動くものは存在していたものの、顧客ごとにカスタマイズして提供するような形式。創業メンバーである菊池氏、竹下氏は自身が広告運用の知見は持っていたものの、エンジニアとしての経験があったわけではなかったため、プログラミングを学びながら手探りでプロトタイプを作っていったという。

ただ、プロトタイプの段階でも知り合いや紹介を中心に「コンセプト」に共感して導入を決めてくれる顧客が存在したため、一定の収益が出ていた。

だからこそ必要以上に売上目標などを立てたり、外部の投資家から資金を調達するために計画を作ったりすることなく、「(最初の数年は)物を作るためだけにほとんどの時間を使って、売れるところを見つけながら資金を作り、またひたすら開発をするというのを続けていました」と竹下氏は振り返る。

その期間に得られたフィードバックなどを基に、ADFUNEをフルリニューアルして作り上げたのがShirofuneだ。

Shirofuneの管理画面

Shirofuneでは機能を強化した上で​​SaaS型のプロダクトとしてより幅広い企業に展開した。Webから申し込めばアカウントを作成でき、無料で2ヶ月間試せる。いわゆる「セルフサーブ」と呼ばれる形式で、手厚いサポートなどもないが、その分だけ手軽に使えるようにした。

「もともとの考えにもあったように、十分なリソースや専門知識がある人材を用意できるとなると、一部の人たちに限られてしまいます。それが難しい人たちにも使ってもらえるようなプロダクトを考えると、1社1社個別にセールスをして、じっくりと契約を締結してという方法では実現できない。セルフサーブ型で、なおかつ売り切り型ではなく(継続的に利用してもらう)SaaSモデルで展開しようというのは最初から決めていました」(竹下氏)

SaaS化で顧客拡大も「思うように売上が伸びない」

もともと竹下氏たち自身が業界に明るく、横のつながりもある。さらに2ヶ月間の無料トライアル期間を用意していたこともあり、展示会やチラシ、Web広告などプロダクトの認知を広げるようなマーケティング活動に投資をすると徐々に引き合いが増えていった。

ただ、当初こそうまくいっているように感じていたが、次第に課題を感じるようになる。

「(思い描いていたような角度では)売上が伸びていなかったんです。セルフサーブ型のアプローチだったこともあり、大多数のお客様はSMBの方々。試してくれるお客様は増えているものの、単価も低く、チャーンも高いという状態が続いていました。トライアルが進んで実際に有料契約に至るお客様がいる一方で、解約も発生する。大口のお客様が入って売り上げが伸びたタイミングもあるのですが、全体で見るとなかなか売上が積み上がっていかない。伸びてはいるけれど(成長角度としては)じわっとしか伸びていかない。そのような時期が1年ぐらい続いてしまっていました」

「最初の半年は、順調にトライアルユーザーが増えていたのでなんとなく『うまくいっているんじゃないかな』と感じていました。もともとプロダクト偏重型の思考だったこともあって、プロダクトがもっと良くなればユーザー数はさらに増えて、解約率も改善されるはずだと考えていたんです。ただ、徐々に『このままではうまくいかないかも』と思うようになっていきました。マーケティング面で協力いただいていた才流さんとも議論をする中で、『死の谷』や『CAC』、『チャーンレート』などSaaSの経営指標として使われるものを用いて現状を可視化したことで、少しずつ実態に気づいていったような感覚です」(竹下氏)

思うように売上が伸びない中で打開策を議論した結果、Shirofuneは大きな意思決定を下す。

「幅広い顧客を対象に自社のリソースを分配しながらサービスを展開していく」のではなく、顧客セグメントを細かく分類した上で「優先すべきターゲットを絞って注力する」方針に変えたのだ。

セルフサーブ型から「大手広告代理店」へ優先的にアプローチするエンタープライズ型へ

まずはマーティング面のパートナー企業である才流と連携しながら自社サービスを使っている顧客を「広告主」と「広告代理店」に分け、さらにそれぞれを企業規模などを軸に複数のセグメントに分類した。その上で各セグメントごとにLTV(Life Time Value)や売上の上限などを算出し、優先してアプローチするべき顧客層を徹底的に議論した。

「(業界に詳しかったこともあり)もともとは自分たちが感じていた業界の課題や経験を基に、顧客の理想的な状態を思い描いた上で『このような物を作ろう』と考えながらやっていました。ただ実際に展開してみて、その可能性と難しさの両方を感じて。顧客側から強く求められていて、なおかつビジネスとしてもしっかりと成長できる方法を考えると、実は全ての領域を攻めるのではなく一部の領域に注力しないといけないのではないか。ある意味、理想論のようなもので語ることを一旦辞めて、顧客のことをもっと見るようにしたのが1番変わった点だったと思います」(竹下氏)

Shirofuneが最初に注力することにしたのが、国内でWeb広告の取扱高がトップ20位に入ってくる企業を中心とした「大手の広告代理店」だ。

従来のプロダクトは大手の広告代理店向けにフォーカスをしていたわけではなかったため、顧客の視点では「必ずしも(プロダクトのスタンスと)彼らが求めるものが合っていなかった」と竹下氏は話す。

そこでまずは代理店が「業務フロー上で使いやすい」ように機能面や料金面などを見直した。機能についてはレポートで分析できる項目を充実させたり、あまり複雑化しすぎない範囲で細かい設定を追加できるように調整した。

それまでのShirofuneは「簡単な操作でさまざまな業務がまるっと自動化される」ことがウリの1つだったが、いくら便利でも、代理店としては顧客となる広告主の意向に合うかたちでサービスが展開できなければ使い勝手が悪い。

機能の選定については特定の企業だけではなく普遍的なニーズとして存在する物を軸に取捨選択しつつ、大手の代理店でも満足して使えるような製品を目指した。料金についてもそれまでは「月額広告費の5%」をツール利用料としていたが、提供の仕方や伝え方を変えた。

機能、価格、コミュニケーションの最適化で大手企業へ相次ぎ導入が決定

顧客に合わせる形で見直したのはプロダクト面だけではなく、顧客とのコミュニケーションの方法も同様だ。

以前はセルフサーブ型で「良い製品であれば顧客が自発的に使ってくれる」というスタンスだったが、国内でWeb広告の取扱高が上位20社に入るような企業に対しては「エンタープライズセールス」と言われるように、1社ごとに時間をかけて関係性を作るようにした。

実際にメインターゲットを絞った上で顧客へのアプローチの方法を変えてしばらくすると、取扱高がトップ5の企業のうちの2社に相次いで導入が決まった。この2社については担当者が1年以上をかけて顧客と接し、料金体系なども含めて社内で稟議を通しやすいように柔軟に設計したという。

最大手20社に続く大手150社ほどに向けてはマーケティング面の取り組みを強化。顧客の検討プロセスに合わせた各種コンテンツを充実させながら、それまでは手付かずだったインサイドセールス体制の強化とCRM・マーケティングオートメーション活用にも着手した。 

「ようやくプロダクトの売り方や提供する際の切り口みたいなものが、自分たちの中でもわかってきたので、次はそれがきちんとターゲットへと流通していくように施策をやり続けました。すると半年から1年後くらいにポンポンと成果に繋がるようになったんです」

「何か特別なことをやったわけではなくて、いわゆるSaaSやBtoBのプロダクトを展開していく上で本当にやるべきことを丁寧に組み立てて、オペレーションを磨き込んだだけ。SaaS企業にとっては当たり前のことだと思うのですが、実は広告代理店の業界はそのようなモデルが浸透していませんでした。オフラインが主流の業界だったからこそ、デジタルマーケティングにもしっかりと取り組むことで、業界内でのプレゼンスを高めることにもつながったのではないでしょうか」(竹下氏)

冒頭で紹介したように、今では取扱高トップ20社のうち約6割がShirofuneの顧客だ。単に顧客の数が増えただけではなく、大手の顧客が広がったことが「成長ドライバー」となって事業全体の売上も急ピッチで拡大している。

「もともとは(導入までに)1年くらいの時間がかかっていたところが2〜3ヶ月に短縮されて、導入までのコストも大幅に削減できています。また継続して新たなお客様も増え続けているような状況を迎えて、ようやく『これは多分PMFしたんだろうな』という感覚になりました」(竹下氏)

自分たちの現状を客観視できる仕組みを用意した上で、顧客視点に振り切って考えてみる

今後Shirofuneでは既存の方向性で事業を拡大しながら、再び顧客層を広げるチャレンジにも取り組む計画だ。

もともとは「知識やリソースを問わず、あらゆる人が成果を出せる仕組み」を見据えてプロダクトを立ち上げた。これまでは十分にアプローチできていなかった地方や中小規模の代理店のほか、広告主側への提供にも力を入れていく。エリアという観点では国内だけでなく、海外企業向けに展開する計画もある。

Shirofuneの英語版管理画面

Shirofuneとしてはこれから新たな顧客層やエリアにおいて「次のPMF」を目指していくことになる。最後に今回のPMFに至る過程の中で得られた教訓を聞いた。

「僕たちの経験としては、1回(当初の)理想論から顧客サイドの視点へと頭を振り切ったことがPMFの大きなきっかけになったと思います。その前提にあったのが、基盤となる共通認識のようなものを作ること。Shirofuneの場合は、先ほどの『死の谷』や『CAC』、『チャーンレート』など、いわゆるSaaSのメトリクスと言われるようなものと照らし合わせることで、自分たちの状況を客観視することができました。もちろん事業に対するパッションや理想論のようなものも持っていなければダメですが、実際の現状がどうなのかを的確に認識できているか。その上で具体的なアプローチを検討する際に、顧客サイドに振り切って考えてみたことが良かったと思います」(竹下氏)

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