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現場を観察し続けたから見えてきた、本質的なニーズと刺さる訴求。コドモンのPMFストーリー

BtoBスタートアップのPMF(Product Market Fit)ストーリーを紹介する本連載。本記事で扱うのは、本記事で扱うのは、全国約11,000施設で活用されている幼保・教育施設向けICT「コドモン」をはじめ保育者採用支援「ホイシル」保育オンライン研修「コドモンカレッジ」保育用品EC「コドモンストア」等を運営する株式会社コドモンだ。。保育施設からの要望を基に受託開発したシステムを発展させる形でCoDMONを立ち上げたものの、「市場から支持されない時期」も経験。そこからヒアリングを重ね、プロダクトの機能やメッセージの打ち出し方を進化させ続けたことが、後の“時流の変化”を味方につけた急成長につながったという。
※出典:MarkeZine / 公開日: 2021/07/09 

製品改良を進める中でマーケットが変化し、成長軌道に

コドモンの代表取締役を務める小池義則氏が会社を創業したのは2009年のこと(2018年11月に新設分割する形でコドモンを設立)。最初はWebシステムの企画やデザインなど受託開発を事業の軸としており、その際に顧客からの依頼で開発したのが、保育業務支援システム「CoDMON(コドモン)」の前身となる保育施設向けのシステムだ。約1年をかけて作り込んだ製品は顧客からの評価が高く、これをより洗練させてプロダクト化する形で2015年にCoDMONが誕生した。

現在は保育園や幼稚園で働く先生と保護者がゆとりを持って子どもたちと向き合えるような支援ツールとして複数の機能群を実装。2021年4月時点で全国約8,000施設・保育士約14万人が利用するサービスに成長している。

コドモン 代表取締役 小池義則氏

コドモンが急成長する最初のきっかけを掴んだのが2016年。ヒアリングを重ねながら各機能やサービス内における言葉の使い方などを改善し続けたところに、保育園がICTシステムを導入する際に補助金が支給されるようになるという「時流の変化」(小池氏)が訪れた。結果的にはこの時にPMFを達成していたことで、勢いに乗って事業を成長させることに成功。補助金が出た初年度だけで導入施設数は約400施設まで広がった。

もっとも、そこに至るまでの道のりは決して簡単なものではなく、調整を繰り返しながらまさに“製品と市場をフィットさせる”過程が存在した。CoDMONがいかにPMFにたどり着いたか。その過程に迫っていこう。


コドモンのPMFアクション

好評価を得たシステムを製品化したはずが、思うように支持されず

もともとCoDMONの前身となるシステムは、2種類の保育園の要望に応えるために開発された。

1つは東京都認証保育所を複数運営する事業者の「請求周りの情報が現場でブラックボックスになっている」という課題に対するソリューションだ。すべての情報が紙で管理されているため煩雑になり、本部に上がってくる情報の正確性にも不安がある。現場に負荷をかけない形で上手く状態を可視化できないか。そんなニーズに対応する機能を作った。

そしてもう1つが認可外保育所の「保護者に対する付加価値を提供したい」という声に対応したもの。認可外保育所は自治体などからの補助がないため、保護者からある程度高額の保育料をもらって施設を運営している。そのため「保護者はお客様」という意識が高く、自分たちを選んでもらうための付加価値を必要とされる。その一環として、自分の子どもの保育内容をしっかりと把握できる連絡機能を搭載したアプリが欲しいというリクエストが届いた。

1年かけて作り上げたシステムは双方から評判が良く、CoDMONはこれらの機能を他の保育施設でも使えるようにクラウドサービス化。だからこそ小池氏も自信を持っていたが、蓋を開けてみると「園長先生や現場の保育士さんからはまったく支持されなかった」(小池氏)。多くの保育施設が保護者向けのアプリに興味を示さず、導入に至らないケースが続いたという。

「世の中の保育園の大半を占めている認可保育園は、当時保護者を『お客様』としてではなく、『ご利用者』として捉えていることが多かったんです。つまり、補助も出る上に、待機児童の問題などもあって(ものすごく園児募集に力を入れなくても)園児が集まってくる。むしろ職員の採用のほうに大きな課題を感じていらっしゃったので、保護者に何らかの付加価値を提供するというよりも、まずは職員の負担を軽減したという気持ちが先行していたんです。特にPCに不慣れな方の多い業界ですので、機能のご案内を始めた途端、『保育士の負担が増えるのでこれまで通り紙で運用します』とお断りをされることも多くありました」(小池氏)

当時からダイレクトメールなどのマーケティング活動に取り組んでいたが、反応があるのは認可外保育園ばかり。業界全体での普及を目指す上では、認可保育園の支持を得ることは不可欠だった。

「自分自身が親目線で保護者アプリを広げたいという想いも強く、当時は『デジタル連絡帳』のようなキャッチコピーで訴求していたのですが、認可保育園からは反応がなかった。『保護者に満足していただけますよ』と伝えても関心を持たれないことが続いて、マーケットのニーズと乖離があることに気づきました」(小池氏)

顧客の声を聴きながら、製品改良と「言語の変換」に没頭

そこから数ヵ月間は顧客の声を聞き、マーケットの解像度を高めながらプロダクトの改良に没頭した。CoDMONがPMFに至る上で、この期間は不可欠だった。

機能開発はもちろんのこと、小池氏が時間を費やしたのが「言語の変換」だ。サービス内で用いる言葉に加えて、マーケティング施策の中で用いる言葉についても、試行錯誤を重ねたのだという。

「たとえば『保護者満足度』という言葉は業界には似つかわしくなく、訴求軸として使わないようにしたほか、保育業務の『効率化』といった表現も控えるようにしました。この業界では保育の効率化=保育の質を下げるという印象につながりやすいので、『省力化』という言葉に変えてセールス活動やマーケティング活動をやってみる。実際にお客さまの反応を見ながら自分の発言を微調整していくというプロセスを繰り返していました」(小池氏)

上述した通り、まさにプロダクトの改良を続けていった先のタイミングでCoDMONに「補助金という時流の変化」が訪れ、事業は成長軌道に乗ることになる。そこでトリガーとなったのが、ユーザーへのヒアリングを基に「保護者の満足から保育士の業務省力化へとプロダクトの軸を変換させられたこと」と「保育園の書類業務をサービス上で管理できる機能を用意したこと」だった。

「補助金のタイミングと重なったことは幸運だったのですが、保育士の業務を省力化できることが要件だったので、結果的にはその時点でPMFがある程度完了した状態を作れていたことが大きかったと思っています。もし『連絡帳アプリ』だったら、そもそも補助対象になりませんでしたから」(小池氏)

それ以来、コドモンも“上り坂で大きな岩を押していた状態が、あるときから下り坂で岩が勝手に転がりだすようになる”というPMF前後の変化を体験する。時間帯によっては電話が止まらないような状態が続き、周囲の環境が一変した

補助金活用をフックに、まずはイノベーター層が動き出し、検索エンジンやDM経由でも問い合わせが急増。もともとWebマーケティングの知見があり、兼ねてからSEOなど基本的な施策に取り組んできていたことも功を奏した。

現場に足を運び顧客を理解することが、本質的なニーズへの近道

メンバーが増え、組織体制が拡充されたことで若干アプローチが変わった部分はあれど、今でも現場の声に耳を傾けることを大事にしている。

たとえば月に1回ほどのペースで既存ユーザーには何らかのアンケートを実施し、プロダクトの改良点を探る。新機能については既存ユーザーへの一斉アンケートに加え、ヘビーユーザーやターゲットユーザーに対してより掘り下げたヒアリングも行う。

マーケットのニーズを正確に掴む上では、実際に顧客の元へ足を運び、現場を観察することが欠かせません。たとえば学童保育向けに販売を強化するにあたっては、すでに関係性のある事業者さんにお願いをして現場を観察させてもらい、現場のお悩みや課題、解決の方向性についてリサーチしました。現場の先生方は指導が職業ということもあり、質問をすると快く教えていただけるというのも非常に助かっています」(小池氏)

現在CoDMONは600以上の学童保育で使われているが、その背景にはお迎え予約機能を始めとした“他の会社が対応していなかった機能”を積極的に取り入れていったことも影響している。

「必ずしも顧客自身が本質的な課題を言語化できるわけではないですし、単なる質問だけでは不十分です。自分たち自身が現場のオペレーションを理解しないことには、本質的なことは見えてこないと思うんです」(小池氏)

NPSは対象をカスタマイズしながら適切な方法を模索

顧客からのフィードバックについては担当者間のコミュニケーションだけでなく、NPSを用いた計測も実施している。小池氏によると年に1回ほどのペースで全ユーザーを対象にNPSの調査を行っているが、最近ではユーザーの導入フェーズによってもNPSの捉え方が異なるのではないかという仮説のもと、「オンボーディングの完了段階に近い時期に1度測定する」などのカスタマイズも加えているそうだ。今後はNPSも含めてユーザーからのフィードバックや利用状況といったデータの活用方法をさらに模索していく計画だという。

「CoDMONは、保育や教育施設向けに特化した、いくつかの機能群から成り立つ複合的なプロダクト(Software Suite)です。コミュニケーション関連の機能もあれば、請求関連の機能もある。それぞれによって活用方法や活用度合いも異なりますので、NPSという指標の先にロイヤリティという指標も必要かもしれません。まさに(サービスを改良していく上で)どのような数値や指標を活用していくべきかというのを議論しているところです」(小池氏)

最初は思い込みからのスタートでも良い

取材の最後、小池氏に自身の体験も踏まえてPMFに到達するためのポイントを聞いた。

「ある種『思い込み』って大事だと思うんですよね。はじめから情報過多になって顧客に寄り添いすぎると、却って動けなくなってしまうこともある。特にアーリーステージでは、ある程度情報を絞った上で思い切って走ってみることも必要だと思っています」(小池氏)

もともとCoDMONも最初の段階で膨大な事業者にヒアリングをしたわけではなく、小池氏の想いを重視してアクセルを踏んだ。一方で、それだけではマーケットとフィットしない場合もある。

「最初のエンジンとしてある程度顧客層が広がった段階で、改めてしっかりとユーザーと対話をした上で、本質的なサービスの軸を整理したり、(使っている)言語をユーザーに合わせていく行為がものすごく大事になります。『こういうサービスを作りたい』と自分たち目線でスタートしたとしても、どこかでユーザーが使っている言葉に切り替えて、ユーザーにとってのあるべき姿を基にプロダクトや行動を変容させていくことが、PMFにつながっていくのではないでしょうか」(小池氏)

今後はプラットフォーマーとして、他社サービスとも連携しながらCoDMON上でできることを拡充していく計画、と小池氏。コドモンの今後に注目だ。


コドモンのPMFアクション(再掲)

取材後記

本記事で取材させていただいたCoDMONさんですが、受託開発したシステムをきっかけに生まれたようです。

私はコンサルティング会社を経営していますが、お客様からマーケティング強化のご相談をいただく中で、CoDMONさんのように「受託開発からはじまったヒットサービス」に度々出くわします。受託開発からはじまったサービスは、少なくとも1社はお金を払ってくれる顧客がいた、ということ。もしかするとその後、PMFに至る確率が高いのかもしれません。

CoDMONさんの場合は、プロダクトをリリースした後、営業活動、マーケティング活動、ユーザーヒアリング、既存ユーザーへのアンケート、顧客の元へ足を運んだ現場の観察など、あらゆる手段を使って顧客からのフィードバックを得て、顧客が求める状態にプロダクトをフィットさせに行ったことが伺えます。徹底した顧客理解への取り組みがあったからこそ、1社の依頼からはじまったシステムが2021年4月時点で全国約8,000施設・保育士約14万人が利用するサービスになったのでしょう。

本記事は、事業責任者・マーケターが「現場に足を運べているか」、「顧客の声を聞けているか」、「広告などの各種クリエイティブは顧客に届く言葉遣いになっているか」などを自問自答するきっかけとして、読んでいただければ幸いです。

著者/ 栗原 康太
株式会社才流 代表取締役社長

東京大学卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。「メソッドカンパニー」をビジョンに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。著書に『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。

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