
企業サイトは、アップデート型が圧倒的に有利だ。
以前、『サイトリニューアルなんて、悪いこと言わないから止めたほうがいい』という記事を書いたけど、リニューアルはおすすめしないとして、ではどういう進め方が望ましいと思っているか。
結論、スタートアップ企業がプロダクト開発する時のように、コーポレートサイトやサービス紹介サイトも、まずは素早くリリースし、その後、改善を繰り返しながらユーザーに最適化していくかのが理にかなっている。
納品主義からアップデート主義へ
従来のWebサイト制作では、要件定義から納品までの数ヶ月、大きなエネルギーを注ぎ、リニューアル後は、急速に何もしなくなることが多かった。
一方、当社がおすすめしている「アップデート型のWebサイト制作」は、まずは素早くリリースしてしまい、その反応を見ながら即興的に改善を繰り返し、むしろ、その改善活動により多くのエネルギーを割く考え方。
納品型からアップデート型への変化は、敏腕編集者である箕輪厚介さんのブログ記事『アップデートネイチャーの時代』でも紹介されている。
- 編集し切る、から、編集し続ける。
- 編集1.0の発想は関係者だけで完璧な書籍を作って、印刷所に納品し、初めて世の中に出ます。(中略)編集2.0だと、まず作っている過程からツイッターなどで公開してます。(中略)そうやって生煮えの状態で世に出しながら出版までいくのです。
- はじまりも終わりも曖昧で、ずっと完成しないサクラダファミリアのようなコンテンツ
これらの記述にアップデート主義の特徴は詰まっているだろう。
すでにソフトウェア開発の世界は、ウォーターフォール型から、アジャイル、リーンスタートアップ型で作られるようになって久しい。ところが、マーケティング活動の基盤となるBtoB企業のコーポレートサイト/サービスサイトでこの考え方で構築・運営されているところはまだまだ少ない。制作会社側からするとアップデート型は“手離れが悪い”状態になるし、フリーランサーでは継続的な保守・運用体制を作りづらいのが、納品型のWebサイトが残り続ける要因だろう。
※SmarHRさんのサイトは、見るたびにページが変わっているのでアップデート型で作られていると推測してる
リリース後に改良していくことを前提に作る
具体例で説明しよう。
先日、4月2日に当社のコーポレートサイトをリニューアルした。
決めたのは、4月2日にリリースをすることと、サイト内に『DOER NOTE』というメディアを持つこと。それ以外のページは完成度60-70%だったが、後から80→90→100→120%に改良していけば良いので、プロジェクトを進めながら、気づいた課題や要望は「リリース後、改善タスク」としてまとめ、まずは素早いリリースを優先した。
*2019年10月にDOER NOTEを「SAIRU NOTE」に改名
そして、リリースした当日から、ユーザの反応を見ながら、ガンガン改善をはじめ、すでに以下のようなアップデートを行っている。
- タイトル、ディスクリプションの変更
- TOPページ改善
- サービス紹介ページ改善
- デザインパーツの追加作成
- お客様インタビューの実施
- 記事ページのフォントサイズ変更
- いくつかのページのnoindex化
- チャットの導入、撤退
etc
これらをリリース前に計画していたら、リリース日は確実に後ろ倒しになっていた。
リリース後は当初想定していなかった反応や気付きがあり、「リリース後、改善タスク」の優先順位も大きく変わったし、最新のデータに基づいた施策立案ができるようになり、無事、『リニューアル成功』といえる成果が生まれている。
アップデート主義の優位性
個人的に感じる、アップデート型のWebサイトの利点は以下の3つだ。
1.学習しながら作るので効果が出やすい
素早くリリースすることで、顧客の反応が得られ、データが溜まるため、打ち手の精度が高まっていく。結果として、アクセス数や問い合わせ数などのマーケティング成果を出しやすくなる。
2.手数が増えるので効果が出やすい
従来のWebサイト制作のように「作って終わり」ではないので、当然、リリース後も継続して改良していく。当然、1年、2年スパンで見た時の打ち手の数ははるかに多くなる。そして、多くの場合、実行した打ち手の数とWebサイトの成果は比例する。
3.制作側も、発注する企業側も精神的に楽
数ヶ月以上の時間をかけて完璧なものを作ろうとすると、発注する側、受託する側の双方に精神的なプレッシャーが強くかかる。そして、継続的なプレッシャーは生産性を大きく下げる。
その点、アップデートする前提で企業サイトを作れば、仮に80点の物が出てきても「あとで100点にすればいいか」、というマインドセットになりやすく、依頼側、受託側ともにプレッシャー少なく仕事を進められるようになる。そして、適切な心理状態は生産性を大きく上げる。
そもそも、顧客のニーズや社内の状況が変わり続ける中で、「完成品」なんてありえない。変化が早く、不確実性が高まっている現代、「常にアップデートし続ける」というマインドセットが望ましいだろう。
納品主義の企業サイトから、アップデート主義の企業サイトへ
今回、アップデート主義のWebサイト制作を自社で実践してみて、明らかにこのやり方が望ましいと思った。
- 数百万円かけたけど、リリース後はお知らせの更新以外になにもしない。結果、顧客ニーズや自社の表現したいことと、どんどん乖離していくWebサイト
- 「完成品」を追い求めて、いつまでも社内で合意が取れず、1ページをリリースするのに数ヶ月かかってしまったり、もはやリリースもされずお蔵入りになってしまうWebサイト
嘘のような本当の話が世の中には溢れている。
ユーザーペルソナやカスタマージャーニーをしっかり作り、ログ解析や競合分析を精緻に行い、的確な戦略・戦術を立案し、デザインやコンテンツにこだわるのはもちろん大切。ただ、大前提として「試行錯誤し続ける」姿勢・プロセス・体制がなければ、それらは意味をなさなくなる。
まずは、試行錯誤できる状態を作った上で、大局的な戦略をしっかり立てていく。マーケティング上、企業サイト/サービス紹介サイトが重要な会社であれば、アップデート型のWebサイト制作を汎用性高くおすすめしたい。