デジタル時代の総合商社として、デジタルマーケティングやECのワンストップ支援、コールセンター事業などを展開するトランスコスモス株式会社様。
同社が提供するデジタルマーケティングプラットフォーム「DEC CMS(デック シーエムエス)」は、顧客のサイト構築から運用までを包括的に支援し、LINE配信など独自機能も備えるエンタープライズ向けのSaaS型CMSです。
リリースから3年。会社が持つ強い営業基盤のもと一定の顧客獲得をしてきたDEC CMSですが、これまで取り組んでこなかったマーケティング戦略の必要性を感じていたそうです。
また社内の営業担当者からは「説明が難しく価格も高い商品」というイメージを持たれており、価値をしっかりと理解してもらうことも課題でした。
才流(サイル)では、2022年3月まで約半年間、戦略立案と伴走支援を実施しました。トランスコスモスのみなさまに、率直な感想や得られた成果、社内の変化などを伺いました。
トランスコスモス 株式会社
顧客のデジタル・トランスフォーメーション・パートナー(デジタルマーケティング、コールセンター、ECワンストップサービス、ビジネスプロセスアウトソーシング、ビックデータアナリティクス、グローバルサービス)/1966年創業/グループ従業員数 69,512名(国内:43,839名、海外:25,673名)※2022年3月末現在
【ご依頼前の課題】
- 新規顧客獲得のために、マーケティングに取り組みたいが、知見が不足していた
- 柔軟性や機能性が高い商品ゆえに、顧客や営業担当者に理解してもらうのが難しい
- 営業担当者の中で「売りにくい商品」だと思われていた
「機能は十分、でも売りにくい」営業担当者の認知に課題
ー 才流に依頼する以前のマーケティングの状況や課題について教えてください。
横山 DEC CMSは、当社が持つ独自の営業ネットワークと社内の営業部門の提案力に頼り、エンタープライズ企業を中心に販売をしてきました。
しかし、これからさらに多くのお客様に使っていただくためには、営業に売ってもらうのを待つだけではなく、マーケティングに取り組みたいと考えたのです。 ただ、これまで本格的にマーケティングに取り組んだことはなかったこともあり、才流にご相談をさせていただきました。
石田 トランスコスモス様は営業が素晴らしく強い会社ですし、顧客も多くいらっしゃる。これまでは、ある意味「マーケティングの必要がなかった」と、言ってもいいかもしれませんね。
横山 そうですね。社内の販売体制としては、お客様にご提案するのは営業部門、見積もりはわれわれサービス部門が行っています。
「どの商品を使って、お客様の課題を解決するのか」ストーリーを考えるのは営業担当者なので、まずはそこで選ばれる必要があるわけです。
しかし、機能性や柔軟性が高いゆえに、営業担当者からは「説明が難しい」「お客様に提案しにくい商品」というイメージを持たれていました。
まずは営業担当者にコストに見合う商品の価値を理解してもらい、「お客様に届けたい」と思ってもらうことも課題だと感じていました。
ブレストで、顧客と社内の「視点」のギャップが浮き彫りに
ー 今回の支援では、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。
石田 最初の2か月でユーザーインタビューや競合の調査などを行いました。
既存のお客様や、大規模サイトを運営されている企業の方、過去に競合の製品を購入された方。あわせて、トランスコスモス様の営業担当者にもお話を伺いました。
商品購入時にどのような検討プロセスを踏んでいるのか、どんな課題を持っているのか。少しずつ顧客像が見えてくる中で、トランスコスモス様のみなさんが思っている顧客像とのギャップも見えてきたんです。
そこで、顧客像や製品の強みを整理するブレストを実施しました。
横山 ブレストでは、弊社側から出た言葉と、才流のおふたりから出た言葉がまったく違っていたのが、印象に残っています。
私たちは特徴的な機能をアピールする「プロダクトアウト」の視点が中心になっていたんですが、石田さん、中澤さんは徹底して顧客視点をベースにお話をされていたんです。
田中 私も、ブレストは驚きが大きかったですね。私たちは、ものづくりを行ってきた者としての視点が中心になっていて、「お客様がどのように使うのか」「どのような比較検討を経て、この商品が選ばれるのか」まで考えが及んでいなかったと感じました。
大きく考え方を変えなければいけないと、気付かされましたね。
本多 商品を作る際、私たちも基本的な市場調査を行っていたんですが、生のお客様の声を聞くアプローチは、勉強になりました。
われわれサービス部門は開発側の人間で、どうしても機能面に視点が偏っていたところがあったと思うんです。そこを、顧客視点で一緒に考えられたことで、気づくことが多くありました。
今本 私は、このプロジェクトが走り出した当初は少し不安もありました。
われわれの商品をどこまで理解をいただけるのか。第三者視点で手法を考えていただくことは本当に可能なのだろうか、と思っていたからです。
しかし、インタビューやブレストを通じて、明確に顧客視点を軸にご提案されるので、とても納得感がありました。 顧客のニーズをふまえて 「誰に、どのように提供すべきか」を整理すること自体が、マーケティングであり、社内を動かす力になる。そんな共通認識を持てたことは、次のステップに進む土台になったと思います。
中澤 どうしても内部にいると、商品を知りすぎてしまうがゆえに、機能面ばかり訴求してしまうケースはよくあると思います。外の人がフラットに見たほうがわかりやすい場合もありますよね。
弊社ではマーケティングの戦略を立てる際、必ず顧客視点をインプットするところからスタートしています。そうすれば、戦略を実行する際にもぶれずに進められます。
モデルケースの仮説を立て、サービス紹介リーフレットを作成
ー 次のステップとして、着手されたことは何ですか。
石田 マーケティングの施策は、サイト改善や広告出稿、訴求メッセージの変更などさまざまなことが考えられます。ただ、トランスコスモス様の場合は、現在のフェーズや予算、営業力などを考慮し、まずは強い営業力を最大限に活かすことをご提案しました。
横山 そうですね。ブレストで整理した内容を、営業担当者が理解しやすく、お客様に説明しやすいシンプルな形にまとめましょうとご提案いただきました。
そこで、業界ごとにモデルケースと優位性を示すリーフレットを作成したんです。
目指していたのは「DEC CMSをくわしく知ってもらう」のではなく、興味を持っていただき「くわしく聞かせてください」と言っていただけるような情報です。
石田 プロダクトに柔軟性や高い機能性があるのは素晴らしいことですが、お客様にとっては「どういうシーンで必要なのか」「どうやって使うのか」という疑問は当然出てきますよね。
これは営業担当者も同じです。どんなセグメントに向けて、どんなユースケースで売ればいいのかわからないんです。
ですから、リーフレット1枚で営業担当者が「これなら売れる!」と思ってもらえる情報にすれば、動いていただけるだろうと考えました。
横山 実は営業部門からは、「事例を出してほしい」とよく言われていたんですが、現状、お出しできる事例は多くなかったのです。
でも、事例がなくても、業界ごとのモデルケースを出せば、お客様の課題に合ったご提案がしやすくなりますね。
「これならお客様も喜んでくれる」営業の協力体制も整った
ー リーフレットを見て、営業部門のみなさんの反応はいかがでしたか。
田中 「これなら確かに刺さりそう」「この情報量であれば、ご訪問の際に展開できる」など、ポジティブな反応が得られました。
もちろん「このような企業様は導入が難しいのでは」という声もありましたが、代替案を含めて、次の展開を一緒に話し合えたので成果があったと感じています。
最終的には私たちの取り組み趣旨を理解し、積極的な協力を約束してもらえました。仮説を立て、実際にリーフレットを作成し、対話のきっかけを作れたからこそだと思っています。
石田 私も営業部門のみなさんとの打ち合わせに同席させていただきましたが、役員の方からも「これならお客様に選んでいただける」と言っていただけたのは、大きかったですね。
特にトランスコスモス様のような大規模な組織では、社内から理解と協力を得ることはとても重要です。ここから社内のコミュニケーションが加速し、好循環が生まれることを期待しています。
本多 リーフレット作成のプロセスで、いかにわれわれがプロダクトの中身しか見ていなかったかのか、よくわかりました。何度も才流のおふたりからNGをもらって作り直しをする中で、お客様の気持ちに立って表現する感覚を少しずつ理解できたと思います。 まだつかみきれたとは思っていませんが、考え方やマーケティングの視点、姿勢を学べたことは、今後にも役立つと思います。
「マーケティングだけでなく、意識や取り組み方にも変化」
ー あらためて、才流と仕事をして良かったことや変わったことをお聞かせください。
田中 才流のおふたりは、プロジェクトが進行する中で、私たちの現在地や今後の課題を一つ一つ丁寧に共有しながら進めてくださいました。
「マーケティングとは?」からのスタートでしたが、才流のメソッドをインストールいただき、何を考えてどのようなことをやっていくべきか明確になりました。
横山 マーケティングのご支援はもちろんのこと、私たち自身の気持ちや取り組み方にも大きな影響を与えていただきました。
正直に言いますと、営業担当者が持つ「商品の売りにくさのイメージ」を払拭することは難しいのではないかと、諦めそうになったこともあったんです。
でも、石田さんと中澤さんに背中を押され「やはり営業部門を巻き込まなければ前に進めない」と向き合えました。
実際に対話も前進し、営業部門内で “DEC CMS” というキーワードをよく耳にするとの声もあがっています。
まだまだ最初の一歩を踏み出したばかりなので、ここからさらに取り組みを加速させていきたいです。才流にはこれからもご支援をいただけるとありがたいです。
横山 石田さん、中澤さんはコンサルタントだからと言って「こうあるべき」を押し付けることはなく、常に「どう思いますか」と問いを与えてくれました。われわれに考える機会をくださるのは、ありがたかったですね。
今本 常に取り組みの主導は私たちですよね。私たちがしっかりとやりきるために、どのようなやり方が最適か、どのようなスケジュールや情報が必要かを真剣に考えて提案してくださる印象です。
本多 当初 “コンサルタント” という存在に対して抱いていた印象とは違っていましたね。非常にフランクで、相談しやすい環境をつくっていただけたと思っています。
(撮影/矢野 拓海 取材/伊藤秋廣(エーアイプロダクション)文/永田 遥奈 編集/安住 久美子、前田 絵理、森 駿介)