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アメリカ進出を計画する日本企業が最初に考えるべきこと

BtoBマーケティング
コンサルタント
水落 真之

海外の事業進出を考えているが、どんな準備が必要?

海外展開の前に考えておくべきことは?

才流(サイル)ではまれに、海外進出を計画している企業様からこのようなご相談をいただくことがあります。その中でも、アメリカ市場への進出を考えている企業が多い印象です。

そこでこの記事では、海外事業に携わったご経験のある複数の方々に監修をいただき、アメリカ進出を計画している企業が最初に考えなければいけないことをお伝えします。

才流では海外への事業進出を考えていらっしゃる企業さまを支援しています。海外展開におけるマーケティング戦略でお困りの方はお気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら

アメリカ進出で考慮すべき日本とアメリカの違い・共通点

越境ECや海外マーケティングを支援する世界へボカン株式会社の徳田社長によると、日本企業がアメリカへの事業進出を検討するにあたっては、十分な準備とリサーチが必要だといいます。まずは前提として知っておくべき、日本とアメリカの違い・共通点について解説します。

図解:日本とアメリカの違いは「活用できる経営資源」「企業としての知名度」「製品の輸送にかかる時間」「ビジネス上のコミュニケーション」、日本との共通点は「マーケティング手法」

最大の違いは「活用できる経営資源の差」

日本企業がアメリカへ進出する際にもっとも意識しないといけないことは、国外に出た途端に活用できる経営資源が大きく減るということです。

顧客リスト、取引先との関係性、拠点や設備、人員といったリソースが国内では潤沢にある企業も、国外にそのまますべてを持ち出すことはできません。

アメリカの場合、国内時差も3時間ほどあるくらい国土が広く、一人の営業担当あたりの顧客数、負担、依存度は高くなります。必然的に、少ない人数で多くの顧客をカバーするような少数精鋭型の体制を求められることになります。

日本のトップ企業でも知名度は通用しない

日本企業が海外に進出するうえで、国内との差がもっとも顕著に出る要素の一つは「企業としての知名度」です。

競争地位の4類型(※)でいうと、国内ではリーダーポジションでも、国外へ出るとニッチャーやチャレンジャーポジションからスタートすることになります。

図解:競争地位の4類型。日本ではリーダーでも海外ではニッチャー・チャレンジャーからのスタートになる

日本では業界シェアNo.1で社名を出すだけでもアポイントが取れるようなポジションにある企業だったとしても、国外へ出るとまた1からのスタートです。明確なアポイントを取る理由や先方のメリットを提供できなければ、商談へ進みづらい状況になり得ます。

※米国の経営学者フィリップ・コトラーが提唱した競争戦略理論。マーケットシェアの観点から企業をリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つに分類し、競争地位に応じた戦略目標を提示したもの。

※参考:野村総合研究所|コトラーの競争地位戦略|用語解説

物理的な製品の輸送に時間がかかる

考慮しておかなければならないのが、輸送にかかる時間です。

製品を日本からアメリカに物理的に輸送する場合、船便を使うと約3か月程度(※)かかるといわれています。

たとえば、クリスマスシーズンの11月後半〜12月を狙って商品を販売したいとするなら、その3か月前、8月〜9月には商品が出来上がっていないとならず、企画や生産を考慮すると4月〜5月には商品企画に着手している必要があります。

このように、輸送にかかる時間を考慮して逆算したスケジュールを、日本国内の場合よりも長めに取るようにしましょう。

※情勢やさまざまな要因で変動します。

アメリカ人とのビジネスコミュニケーションのコツ

ミヨシ油脂で海外事業開発を担当する山本氏によれば、アメリカ人とのビジネスコミュニケーションは、日本人相手の場合とは異なる場面が出てくることも多いようです。

ここで特筆すべきは「アメリカのビジネスマンは忙しい」ことと「感情表現が大きい文化」ということです。

相手に見てもらえるメールを意識する

アメリカ市場は、世界でも有数の競合性の高さを持っています。アメリカのビジネスマンは多忙であるにもかかわらず、秘書やアシスタントがいないことがほとんど。大量のタスクを日々自分でこなす必要があります。

そのため、メールを見てもらえない可能性があることを知っておきましょう。メールで連絡をするならば「見てもらえる」「読まれる」件名を意識することが大事です。読まれやすいメールの件名については、以下の記事で解説している「メールマガジンの件名の付け方」を参考にしてください。

※関連記事:メールマガジンで成果を出すためのベストプラクティス

大げさな感情表現もある程度は必要

アメリカ人の特徴として、自分の意見や感じたことをとても分かりやすく表現する文化があります。そのため、ビジネスの場面でも多少大げさに感情表現をすることは必要です。

日本人は謙虚であることを美徳とする傾向があるため、大げさな感情表現が苦手な方もいるかもしれません。しかし、気持ちのこもっていない表現やリアクションでは相手にしてもらえないこともあります。

たとえば、どうしても取引したい企業へ連絡する場合、

「貴社の製品を◯◯という展示会で見ました。今までにないくらい素晴らしい製品なので、今すぐにでも日本で売りたいと思いました」のような最上級の表現を使うなど、相手が特別であるということを多少大げさにでも伝えることが重要です。

マーケティング手法は日本と変わらない

マーケティングという概念や手法は、もともと海外から日本に持ち込まれたもの。外国だから、アメリカだから特別な手法というものはありません。具体的には、運用型広告、展示会、ホワイトペーパーなど、日本国内で一般的な手法がアメリカでもそのまま適用できます。

ターゲット設定や顧客理解がもっとも重要

日本と同様に、手法よりもまず重要なことはターゲットの設定と顧客理解です。

国土の広いアメリカでは、地域や業界などによってビジネスの状況は大きく変わるため、入念な市場調査・分析に基づいたターゲット設定が重要です。また、マーケティング戦略や施策を立案する場合、顧客が抱えている課題や求めていること、どのようなステップで購買に至るのかを理解している必要があります。

顧客理解の具体的な方法については、以下の記事を参照してください。

※関連記事:顧客理解を深めるための12の手法

アメリカならではの重要チャネルはない

GoogleやMicrosoftなど、巨大テック企業のほとんどがアメリカ発。アメリカ=デジタルに強い、というイメージから「Webマーケティングがとくに重要なのでは?」と考えている方も少なくないでしょう。

アメリカと日本では文化やビジネス習慣が異なるため、トレンドの施策や使用ツールに細かい違いはあります。しかし、マーケティングという枠の中で、アメリカならではの重要チャネルは存在しません。日本と同様、製品カテゴリや業界によって有効な施策は変わる、という実態があるだけです。

もちろん国土が広いため、Webでのコミュニケーションの重要性は比較的高く、2020年のコロナ以降はその傾向がより強くなったという側面はあります。とはいえ、ビジネスとして「信頼できる相手なのか?」を重視するのは、日本もアメリカも変わりません。

信頼を得るために、実際に現地の展示会に足を運んで対面でコミュニケーションすることが必要な場面もあれば、リアルのコミュニケーションをアシストするWebコンテンツを充実させる必要もあります。つまり、実行する戦術は日本の場合とほとんど変わらないのです。

アメリカで有効なマーケティング施策

アメリカへ事業進出する際に有効なマーケティング施策として以下の2つのパターンについて解説します。

  • 在米日系企業に向けて販売する
  • 現地向けにローカライズして販売する
図解:アメリカ進出で有効なマーケティング施策は「在米日系企業に向けて販売」と「現地向けにローカライズ」の2つ

在米日系企業に向けて販売する

アメリカに進出している日系企業の支店・海外拠点を顧客として事業展開するパターンです。相手が日本人であることが多いため、コミュニケーションや商習慣の面でハードルが低いというメリットがあります。一方で、母数が少なく事業としての大きなスケールが期待できないのがデメリットです。

現地向けにローカライズして販売する

いわゆる「海外進出」という言葉で連想する事業展開のパターンです。

現地向けに製品やサービスをローカライズする際、一番多い失敗は「ただ日本語を英語に置き換えただけ」というものです。機能に対するニーズ、好まれるデザインなどは文化の違いによって異なるため、現地に合わせたプロダクトやプロモーションが必要になります。

ローカライズを行ううえで重要なことは、顧客理解のプロセスです。

現地在住のアメリカ人や何度も渡米して仕事をしている人など、実際の市場に詳しい人を探してインタビューやユーザーテストを行うとよいでしょう。

また、翻訳に関しても注意が必要です。翻訳会社を入れると長文になる傾向があるため、日米のバイリンガルの人に依頼するのをおすすめします。そして翻訳後、ネイティブスピーカーに読んでもらって最終確認ができると理想的です。

【メルカリのアメリカ進出

フリマアプリを運営するメルカリが、アメリカに進出した際のローカライズの事例を紹介します。

メルカリは、日本では「フリーマーケットアプリ」という買い手視点のネーミングを打ち出していました。しかし、アメリカでは「The Selling App(売るアプリ)」という、売り手視点のネーミングで展開しています。

また、以下のように積極的なローカライズを行っているのも注目すべきポイントです。

ブランドカラーの変更

アメリカで「信頼性と公平さを想起させる色」である青色を採用

アメリカ独自の機能を追加

需要に応じた自動値下げ、商品の売れ筋予測の表示など

※参考:メルカリ米国事業が好調に 「ローカライズ」「コロナ特需」が成長のカギ|ITmedia NEWS

アメリカの法律・法令・規制対応

アメリカ進出に先駆けて意識しておくべきこととして忘れてはならないのが、法令・規制の確認と対応です。

2015年度に経産省海外事業支援事業プロデューサーを務めた溝口氏によると、アメリカでビジネスを行う際は、各種法規制、とくに契約法に十分注意を払う必要があるため、アメリカの法律に精通した弁護士や専門家の協力が必要になるといいます。

なお、アメリカでは弁護士が対応できる州はどの州で資格を取得したかによって異なるため、依頼する際は注意しましょう。

州ごとの規制は要チェック

アメリカは全部で50の州があり、州ごとに法令や規制が異なります。たとえば、ある州で認可されている薬剤や原材料が、他の州では認可されていないようなケースはよくあることです。

州ごとの法律の違いに対応するには、専門家の協力が不可欠になります。もしくは、いきなりアメリカ全土で事業を展開するのではなく、まずは1つの州や地域からスモールスタートすることを検討してもよいかもしれません。

特許・商標の確認は必ず行う

特許、商標、著作権などの知的財産については、アメリカへ事業進出する前に入念に調査を行いましょう。

日本で商標登録、特許登録をしていたとしても、アメリカでもすでに同じ名前や仕組みのものが登録されている可能性があります。とくに、デジタル・ITにおけるビジネスモデルなどはアメリカが先行しているケースも多いため、日本国内でオリジナルだと思っていたものがアメリカではすでに存在していたということも考えられます。

労働法関係のリスクも考慮する

現地で従業員を雇用する場合、労働法に関する備えも必要です。とくにアメリカでは、人種や性別などにまつわるハラスメント系の事案の訴訟の頻度が日本よりも多くあります。

労働法についても州ごとに法令が異なるため、その地域で対応可能な資格を持った弁護士の協力のもと、法的リスクを最小限に抑える努力が必要です。

事業の撤退基準についても考えておく

アメリカへの事業進出を検討するのであれば、成功しなかった場合の撤退基準についても考えておく必要があります。撤退の判断ではさまざまな側面を考慮する必要がありますが、目安となる期間について、溝口氏に伺いました。

成果を見るまでに3年は必要

アメリカに進出したら、成果が出たと実感できるまでに最低でも3年の期間は必要です。

小規模な企業が補助金を利用して進出したものの、1年で補助金が尽きて撤退した事例もありますが、結果を出す時間としては1年はとても短いです。

アメリカは世界でもっとも競合性の高い市場の一つであり、それ以外の国へ展開するうえでもアメリカで成功したことが後ろ盾になるケースはあり得ます。挑戦する以上は3年はやり続けられる体力と準備をしておく必要があります。

才流では海外への事業進出を考えていらっしゃる企業さまを支援しています。海外展開におけるマーケティング戦略でお困りの方はお気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら

監修

世界へボカン株式会社 代表取締役社長
徳田 祐希(とくだ ゆうき)

Twitter:@yukimeru0305
YouTube:越境EC・海外WEBマーケティング_世界へボカン

「日本の魅力を世界へ届ける」というミッションのもと、日本企業の海外マーケテイングを15年に渡って支援する。越境ECで売上34億円→800億円、ゼロから年商1億越えの越境EC事業の支援をするなど、数多くの実績を残す。YouTube海外Webマーケティングチャンネルで年間100本動画を配信する他、JETROにて海外Webマーケティングの講師、中小機構アドバイザーも務める。著書『はじめての越境EC・海外Webマーケティング(WAVE出版)』

C.E.ユナイテッド 代表取締役
溝口 浩司(みぞぐち こうじ)

横浜ゴム北米事業本部にてマーケティング・新商品企画等に従事後、AIG、JTB、ソフトバンク、MTV、AOL、マイクロソフト、EMIミュージック、ローソン等にてSVPポジションにて多種ネット関連ビジネスの立上げ・事業再生等事業拡大に貢献。2011年より独立、マーケティングと海外事業支援を軸にいなば食品、東京ガス、エイジェック、GMO他2C+2B双方に於ける多種企業とのプロジェクトに従事。 2015年度経産省海外事業支援事業プロデューサー。2020年より大学講師。

ミヨシ油脂株式会社 海外開発部シニアオフィサー
山本 隆夫(やまもと たかお)

大手食品企業・外資食品企業の社長・ジェトロ(参事として)勤務を経て、現ミヨシ油脂で海外事業開発を担当。グローバルB2B食品業界の経験30年以上。日系食品企業の欧米への海外進出支援(輸出・展示会サポート・チャネル構築)とインテリジェンスの専門家で、海外企業・海外機関の人脈豊富。慶應義塾大学卒業。兵庫県神戸市出身。

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