2023年7月11日(火)、当社主催で「PMF CONFERENCE 2023」を開催いたしました。ご参加いただいたみなさま、ご登壇企業のみなさま、誠にありがとうございました。
本記事では、PMFカンファレンス2023のセッション4「アフターPMFの大原則〜“複利的”マーケ戦略を徹底解説」をレポートします。
一度PMFをした企業が、二度目、三度目のPMFを目指すためにはどうすればいいのか。キャディ株式会社の渋谷氏、suswork株式会社の田岡氏、株式会社ユーザーベースの中島氏に、成長戦略やマーケティング戦略を語っていただきました。
※PMFの基本的な考え方と他のセッションについては、以下の記事でご紹介しています。
【PMFカンファレンス2023】開催レポート‐マツリカ・NTT東日本・ビザスク・カオナビ・NewsPicks・キャディ・susworkが登壇
登壇者プロフィール
キャディをグローバルに誇れるブランドに育てるべく、コンセプト立案から企画、広報、デザインまで担うグループのマネージャーを務める。2023年1月末に2万5000人集客の自社カンファレンス「製造業DXカンファレンス」の開催をリードした。
京都大学卒業後、ネスレ社にてネスカフェやミロのブランドを担当。WeWork社ではブランドマーケティング責任者として、2年で業界認知No.1を獲得し急成長に貢献。マーケティング系スタートアップではCMOとして、広報&マーケティングを管掌。数十社以上のデジタルマーケティング・広告支援を統括。現在は、スタートアップから大企業まで数十社に対して、マス/デジタル、B2B/B2C、横断的にマーケティング戦略支援を行う。Markezine、ITメディア、Creatorzineで多数連載、出演。
編集者。筑波大学 情報学類卒業。日本IBMでシステム開発に従事したのち、編集者へ転身。幻冬舎papyrus編集部、ピースオブケイク(現note)cakes編集部を経て、2018年にNewsPicksに入社。 担当した主な連載・書籍に、宇田川元一『他者と働く』、後藤直義・フィルウィックハム『ベンチャー・キャピタリスト』、井上一鷹『異能の掛け算』、石川善樹『フルライフ』、東浩紀『弱いつながり』『チェルノブイリ・ダークツーリズムガイド』、ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』、燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』、有賀薫『スープ・レッスン』など。
PMFした企業が陥りやすい「顧客不在・カテゴリ不在」の罠
本セッションのテーマは、アフターPMFのグロース戦略と“最適”なマーケティング戦略。まずは、susworkの田岡氏からPMFした企業が直面しやすい課題について説明がありました。
「スタートアップで、PMFした後に売上が伸び悩む課題に直面する企業が多いのは事実」と田岡氏は指摘。課題の本質的な原因は「顧客不在の罠・カテゴリ不在の罠」だといいます。
顧客不在の罠とは、「PMFすると顧客の課題をすべて解決できている」「顧客のニーズはこれからも同じである」と勘違いしてしまうことです。
スタートアップ企業がPMFするまでの顧客は、比較的狭い顧客層である「イノベーター」から広がる場合が多い。一方、PMFするとイノベーターからアーリーアダプター、アーリーマジョリティへ顧客層は広がるため、当初の顧客とは課題やニーズが変わってくる場合もあるのです。
顧客の課題を定義できていないままだと、マス層には浸透しないと、田岡氏はいいます。
またカテゴリ不在の罠とは、もともとシンプルだったプロダクトが、さまざまな顧客の要望に応えるなかで機能を追加し続けた結果、何の課題を解決するプロダクトなのかわからなくなることです。
「自分たちのサービスが何かもよくわからず、コアな顧客を定義できていないまま組織が大きくなると、グロース戦略も立てられない状態になりやすいものです」(suswork 田岡氏)
PMF後のグロース戦略とマーケティング戦略を考えるうえでは、新たなコア顧客とカテゴリの定義、創出が重要なポイントなのです。
コアターゲットを絞り込むのは、勇気がいる決断だった
キャディの渋谷氏からは、アフターPMFの際、コアターゲットを決めるまでどのような道のりを辿ってきたか説明がありました。
キャディが展開する製造業の部品調達プラットフォーム「CADDi MANUFACTURING」は、顧客であるメーカーの図面を独自テクノロジーを使って解析し、品質・納期・価格がもっとも適合する加工会社を世界中から選定、検査・納品まで一貫して担うサービスです。
顧客は半導体製造装置や工作機械、各種産業機械メーカーなどさまざまで、ビジネスモデルも変化しやすいという特徴があります。サービスの価値を一言で表現するのは難しく、当初はコアターゲットも決められなかったといいます。
結局、コアターゲットを決定したのはサービスの開始から約4年後。「会社のミッションに立ち返って議論したことが重要だった」と渋谷氏は振り返ります。
「当社は『モノづくり産業のポテンシャルを解放する』というミッションを掲げています。そのためには、まず物量が多い大企業のお客さまのサプライチェーン(※)を改革していくべきではないか。大企業にフォーカスすれば、おのずとほかのお客さまも変わっていくんじゃないかと考えました」(キャディ 渋谷氏)
※サプライチェーン:調達、製造、販売、消費などの一連の流れ
同社は、サプライチェーンを変革するために、大企業の中でも産業機械メーカーをコアターゲットに絞る決断をする。ここがPMF後のターニングポイントだったといいます。
これに対し田岡氏は、以下のように語っています。
「サプライチェーンという言葉が出てきたのが印象的です。どこからモノづくりの未来を変えていくんだと考えたときに、日本の製造業においては、サプライチェーンというのは切っても切り離せない。(中略)やっぱり大企業から変えないといけない。今回の場合は、このロジックがすごく大事ですね」(suswork 田岡氏)
また田岡氏は、一度PMFをした後に、顧客への解像度が上がらない(広すぎる、複雑な)定義をしてしまっている企業も多いと指摘します。
創業時は、経営者が顧客に会い、話を聞きながらプロダクトを作るケースが多いため、顧客の定義はしやすい。一方PMF後は顧客が増えると、すべての顧客に対し解像度を高めるのは難しくなっていく。
「キャディが産業機械メーカーをコアターゲットに決定したように、シンプルに顧客を定義することが重要ですね」(suswork 田岡氏)
「いろんな人に会うと多くのお客さまに価値を提供したいと思い、顧客を絞りきれなくなります。顧客を絞るというのは、勇気のいる決断ですよね」(キャディ 渋谷氏)
自社のミッションに立ち返ることで、勇気を持ってコアターゲットを絞り込んだキャディ。顧客が増えるほどコアターゲットを定義するのは難しくなりますが、最後は決め切ることが大事だと渋谷氏はいいます。
グロース戦略のカギはWHOとWHATを決めること
事業が継続的に成長していくために、PMFは一度きりではなく、二度目、三度目を追い続ける必要があります。しかし、一度PMFした事業が新しい市場を開拓するために、新しい顧客とカテゴリを再定義するのは容易ではありません。
田岡氏は、シンプルに「顧客は誰か?私たちのサービスは何か?」を突き詰めるべきだといいます。
また、顧客とカテゴリの定義は組織が一体となって合わせることが重要だと強調します。
「経営者も巻き込んで定義を合わせていくことが重要。バラバラのままだと何も仮説検証がなされることがありません」(suswork 田岡氏)
また、渋谷氏も「自社が誰(WHO)に、どんな(WHAT)価値を提供するのか」常に探索しているといいます。
「キャディという会社をシンプルに表現する必要性を感じます。キャディは事業が二つありますが、変に二つの最大公約数を求めるとぼんやりしてしまう。だからこそ、最初から自社の価値定義を『サプライチェーンのパートナー』という形で統一しています」(キャディ 渋谷氏)
PMF後の成長戦略は「WHO」と「WHAT」を言語化し、誰に、何を提供するのかを定義すること。そして社内で共通認識を持つことからはじめる必要があります。
カンファレンスはWHOとWHATを検証する役割も果たす
では、アフターPMFに最適なマーケティング戦略はあるのでしょうか。まず、PMFした後のキャディの取り組みを渋谷氏が説明しました。
キャディは長い歴史を持つ製造業の中では若い会社であるため、まずは製造業の企業に振り向いてもらえるように、カンファレンスの開催に注力しようと考えました。そして、2022年2月に第1回を開催したのです。
「キャディは製造業のDXを進めたい、製造業をもっと良くしていきたい会社であるということをちゃんと知ってほしいと考えていました」(キャディ 渋谷氏)
大規模なカンファレンスは、費用対効果を考えるとリスクのある試み。しかし、まずはやってみることが大事と捉え、認知してもらうことは「複利的に効く」という判断で開催を決めたとのこと。2023年1月には2回目のカンファレンスも開催しました。
田岡氏は、BtoBマーケティングにおいては、カンファレンス開催は認知の拡大だけでなく、グロース戦略の策定時に考えたWHOとWHATを検証する役割も果たすといいます。
「カンファレンスを開催して、企業としての仮説を主張してみる。それに対して、それぞれのお客さんからフィードバックをもらいながら、手応えを掴んでいくこともまた大切です」(suswork 田岡氏)
渋谷氏はカンファレンスを「会社としてありたい姿を見せていく場」と捉え、KPIやROIにこだわり過ぎないようにしているとも語っていました。
大規模な施策は意思を持って、みんなを巻き込むことが大事
カンファレンス開催のような大規模な施策は、他部署の理解や協力が欠かせません。田岡氏は「みんなで作っていこう」という意思を持って、それを社内に伝えることが大事だといいます。
「『一石三鳥をやろうよ』と言っていましたが、ブランディングはマーケティングだけでなく、セールスやカスタマーサクセスにもいかされる。みんなでブランドを作っていくためには、巻き込んで取り組むのが重要です。(中略)また、カンファレンスなどのイベントは、村における“祭り”みたいなものだと考えています。なので、続けることが重要です。継続してやるから文化になり、認知が広がり、新たなカテゴリの創出にもつながると思います」(suswork 田岡氏)
渋谷氏は、カンファレンスを開催する際、他部署からの協力を得るために各部署が追っている目標に合わせて、メリットを感じてもらえるよう提案するといいます。ほかにも、盛り上げる役を担ってくれるような社内のキーパーソンを見つけて、仲間にすることも大事だと話しました。
複利的効果を生む施策は意思次第で作れる
渋谷氏は、キャディがPMF後、カンファレンス以外に実施した主な施策として、NewsPicksへの広告出稿で行った記事連載を紹介しました。
この連載は「中長期的に読んでもらえる骨太のコンテンツを作ろう」という想いで始まった企画で、キャディ代表の加藤氏と製造業界を牽引する企業のトップの対談シリーズです。
渋谷氏は連載開始前から、「この企画は“複利的効果”がある」と考えていたそうです。会社の認知を広めるだけでなく、現在は営業や採用の場面でも活用されているといいます。
田岡氏は、“複利的効果”を生む施策は“意思”があればできると話します。業界への課題啓蒙と信頼醸成が重要だと考え、短期で成果が出なくても施策を続けるという意思です。
運用型クリエイティブクラウドのリチカのCMOを務めていた際にも、NewsPicksに出向した際も、複利的な効果を見込んで、施策を行っていったと田岡氏はいいます。
NewsPicksの中島氏は当時を振り返り、以下のように語っています。
「リチカさんからは、マーケティングにも効き、ブランディングにも効き、営業ツールにもなるような、“一石三鳥”の企画をやりたいという要望をいただきました。結果、トップインタビューから、Yahooさんとのダブルインタビューや、複数の事例企業のインタビューなど、さまざまな企画でご一緒させてもらいました。課題啓蒙と信頼醸成につながるような施策になったと思います」(NewsPicks 中島氏)
「接点を最大化させること」に重きを置く企業が多いために、なかなかこのような施策を実行できない企業が多いと田岡氏は指摘します。
「企業が課題を世の中に啓蒙したり、信頼を獲得したりしていくことは、スポットの投資ではなくアセットとして積み上げていくものです」(suswork 田岡氏)
渋谷氏と田岡氏が話すように、企業の施策は中長期的な視点を持つことが重要です。しかし、コスト意識が高い企業では、短期的なKPIやROIを重視する傾向があるため、中長期的な施策は敬遠されるケースもあります。
これについて田岡氏は、中長期的なROIを掲げたうえで、それを達成するためのKPIを細かく設定することで社内メンバーの理解を得やすくなると話します。
「本来KPIは少ないほうがわかりやすいですが、カンファレンスやブランド施策など大きな施策は部署ごとに細かく設定することによって、いろんなチームメンバーを巻き込めます」(suswork 田岡氏)
本セッションの最後に、田岡氏は「マーケティング施策は企業が一体となって意思を持ってやることが重要」と締めくくりました。
「PMFの実態調査」も公開中
当社で実施した「PMFの実態調査」レポートを公開中です。同調査は、2023年4月にインターネットによるアンケート方式で、BtoB領域でビジネスのグロースにかかわったことがある134名の方を対象にPMF達成までの期間や組織、必要な取り組みなどを聞いたものです。
また、PMFの経験がない方にも、当時の組織体制や取り組みについて聞き、PMF未達の要因を探っています。これからPMF達成を目指す方、新規事業が軌道に乗らず課題を抱えている方は、ぜひPMFへの理解を深めていただければ幸いです。
調査レポートの詳細は、以下の記事から個人情報の入力なしでダウンロードできます。
【PMFの実態調査レポート】PMFを達成できた事業は、顧客視点で商品・サービスを見直していた