2023年7月11日(火)、当社主催で「PMF CONFERENCE 2023」を開催いたしました。ご参加いただいたみなさま、ご登壇企業のみなさま、誠にありがとうございました。
本記事では、PMFカンファレンス2023のセッション1「激しい競争環境でのPMF〜どのように参入し、どのように勝ち抜くか〜」をレポートします。
厳しい競争環境において、どのようにPMFを達成し勝ち抜いてきたのか。株式会社マツリカの黒佐氏、株式会社セレブリックスの今井氏にリアルな経緯を語っていただきました。本記事では、セッション内のマツリカ 黒佐氏のパートをお伝えします。
※PMFの基本的な考え方と他のセッションについては、以下の記事でご紹介しています。
【PMFカンファレンス2023】開催レポート|マツリカ・NTT東日本グループ・ビザスク・カオナビ・NewsPicks・キャディ・susworkが登壇
登壇者プロフィール
ニューヨーク州立大学バッファロー校卒業後、積水ハウス株式会社にて個人向けの企画提案、法人・資産家向けの資産活用提案、海外事業開発において企画営業及びマネージャーに従事。2011年に株式会社ユーザベースに入社し、営業開発チームの立ち上げを担当。以来、営業部門、マーケティング部門及び顧客サポート部門の統括責任者を歴任し、SPEEDA販売促進・保守、営業・マーケティング戦略の立案及び執行を担当した後、2015年に株式会社マツリカを共同設立。
売れない原因は“顧客ニーズとのズレ”にあった
本セッションのテーマは「激しい競争環境でのPMF〜どのように参入し、どのように勝ち抜くか〜」。まずは黒佐氏から、マツリカの創業からPMFまでのストーリーについて説明がありました。
2015年の創業以降、テクノロジーを活用して働く環境づくりを支援してきたマツリカ。創業から1年後、組織ナレッジ活用型AI搭載の次世代営業支援ツールとして、「Mazrica Sales(マツリカセールス、旧Senses)」をリリースしました。
背景には、黒佐氏自身が営業・マーケティングの現場で感じていた課題を解決したいという想いがあったといいます。しかしその想いとは裏腹に、初めてのプロダクトは「笑ってしまうほど」売れなかったそうです。
「はじめはCRM・SFAという言葉を使わずに、あくまでも“顧客の課題を解決したい”という思想を前面に打ち出してプロダクト開発に取り組んでいました」(黒佐氏)
プロダクトをリリースしたところ、その思想に賛同してくれる顧客は多くいました。しかし、実際に顧客が選定のタイミングでMazrica Salesと比較する対象は、既存のCRM・SFAだったのです。
そもそも黒佐氏は、「CRM・SFAを作っているつもりがなかった」といいます。当然基本の機能は足りておらず、顧客から選んでもらえない日々が続きました。
これまでの方針を転換するかどうかの選択を迫られた黒佐氏は、2017年にCRM・SFAの既存市場に参入することを決意。新たにプロダクトを開発、提供を開始しました。
このピボットが功を奏し、2018年には従業員数が数百名規模のSmall Marketにおいて、2020年には従業員数が数千名規模のMid MarketにおいてPMFを達成しました。
「2018年のSmall MarketでのPMFでは、月次の契約金額が1年前の100倍を達成しました。数字の面で大きなインパクトがあったので、今でも覚えていますね」(黒佐氏)
参入市場が決まって競合が明確になったことで、開発を進めやすくなったという黒佐氏。カテゴリを明確にして競合調査を行い、自社のプロダクトの立ち位置をはっきりさせることはPMF達成にとって重要なポイントになるでしょう。
レッドオーシャンへの参入。100社以上へのヒアリングで得た確信
すでに多くの先発企業や競合企業が存在する市場に参入した裏側には、どのような意思決定があったのでしょうか。実際、出資者からも「なぜそんなに競争が激しい市場に参入するのか?」という質問を受けたそうです。
黒佐氏は、レッドオーシャン市場に参入した理由として、以下の3つを挙げました。
- 市場規模の大きさ
- 未成熟な市場の競争環境
- 課題解決に向けた強い意志
まず、SaaS市場の規模が圧倒的に大きいこと。ビジネスを立ち上げるかどうかを決めるのに、市場規模の大きさは重要な判断材料になります。市場規模が大きければ大きいほどビジネスを進めやすいからです。また、市場の成長率が高いかどうかもチェックすべきポイントです。
次に、日本市場の競争環境が未成熟であること。日本は世界でも特殊なマーケットで、CRMやSFAの分野では圧倒的なシェアを占める企業が存在します。しかし、これは日本がまだ競争原理の働いていない未成熟な市場である証拠。黒佐氏は「日本において、CRM・SFAの分野はこれから競争が始まっていくだろう」と予想したのです。
そしてなにより、顧客の課題を解決したいという強い意志があったこと。CRM・SFAは長い歴史のあるカテゴリです。しかし、満足して使用しているユーザーは少ないのではないか。この課題を解決するために、黒佐氏は市場への参入を決めたといいます。
ただ、あくまでも仮説だったため、正しいかどうかの検証が必要でした。そこでマツリカは100社以上のさまざまな属性の顧客にヒアリング・調査を実施。その結果、既存のCRM・SFAに満足していない顧客は依然として存在すること、満足している顧客も大きなコストに悩んでいるという事実を確認しました。
「ヒアリングによって私たちの仮説が正しいという確信を持てました」という黒佐氏。ヒアリングを通じて顧客ニーズの検証を行い、真に顧客の課題を解決するためのプロダクトを作ったことがPMF達成の要因になったといえるでしょう。
顧客の課題を一つひとつ掘り下げて見つけた自社の価値
新規事業では、自社が提供できて競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したバリュー・プロポジション(※)を明確にするのが大きなポイントです。競合との競争の中で、マツリカはどのように自社の差別化要素を見つけ、作り上げたのでしょうか。
黒佐氏は、独自のポジショニングをするために、強烈な顧客の課題意識から出発し、なぜ解決されていないかを理解することが重要だといいます。
「何十年も解決されていないような大きな課題には、必ず理由があるはずです。その理由を探るために調査を繰り返して可能なアプローチを見つけ出し、ソリューションを開発することがわれわれの役割であり、差別化にもつながると考えました」(黒佐氏)
課題の特定と掘り下げに膨大な時間を費やしたことで、「やることが明確になった」と語った黒佐氏。このようにマツリカは、CRM・SFA領域の既存のプレーヤーが解決できていない問題を解決するというアプローチで差別化とポジショニングを行ってきました。
また、常に「現場ファースト」の思想を持ち、BtoCのように使いやすい製品を作ることを目指してきたのも差別化の大きなポイントかもしれません。
「BtoBのSaaSは管理するためのツールが多いので、管理者や経営者が必要としているケースが大半です。しかし、入力するのは管理者ではなく現場。実際に使う人が使いやすい、そんな当たり前を目指しています」(黒佐氏)
※バリュープロポジション:企業が顧客に提供する価値を表したもの。才流では「自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したもの」と定義している。
※関連記事:バリュープロポジションとは?作り方と事例~テンプレート付きで解説~
「誰のために、何のために」地道に追求し続けることが成功への道筋
新規事業を成功させて売上を増やし、競争相手に勝つ。そのために欠かせないのは、事業としての成功の道筋=勝ち筋を見つけることではないでしょうか。
しかし、勝ち筋を見つけることは簡単ではありません。
マツリカが既存の市場でやってきたのも、最小単位でターゲットを絞り込んで、細かくPMFさせるというとても地道な取り組みでした。
「まずは中小企業にターゲットを絞り、そのニーズを考えフィットさせ、徐々にターゲットとなる企業規模を広げていきました。また、事業領域をセールスからマーケティングへと少しずつ広げていく取り組みも行ってきました」(黒佐氏)
顧客ニーズや組織の状況はターゲットのセグメントによって変わるもの。そのため、プロダクト開発に限らず、営業・マーケティングの体制もセグメントごとに変更していく必要があります。
マツリカでは、セグメントが変わるたびに体制やKPIを変更し、プロダクト開発・機能リリースを繰り返してきました。プロダクトが誰のために、何のために必要とされるのかを追求し続ける。この地味で地道な取り組みによって、プロダクトをマーケットにフィットさせてきたのです。
「ターゲットによってその都度営業体制を変えて……といったことをやり続けるのは、かなり苦労した点です。正直、とても大変でした」(黒佐氏)
黒佐氏が視聴者に向けて最後に語ったメッセージには、新規事業でPMFを達成するためのエッセンスがつまっていました。
「PMFを達成するためには、持続的な取り組みが必要です。マーケットは常に変化する生き物で、それに対してプロダクトをフィットさせ続けることが重要だと思います。このセッションをきっかけに、この取り組みを続ける決意を新たにしました」(黒佐氏)
「PMFの実態調査」も公開中
当社で実施した「PMFの実態調査」レポートを公開中です。同調査は、2023年4月にインターネットによるアンケート方式で、BtoB領域でビジネスのグロースにかかわったことがある134名の方を対象にPMF達成までの期間や組織、必要な取り組みなどを聞いたものです。
また、PMFの経験がない方にも、当時の組織体制や取り組みについて聞き、PMF未達の要因を探っています。これからPMF達成を目指す方、新規事業が軌道に乗らず課題を抱えている方は、ぜひPMFへの理解を深めていただければ幸いです。
調査レポートの詳細は、以下の記事から個人情報の入力なしでダウンロードできます。
【PMFの実態調査レポート】PMFを達成できた事業は、顧客視点で商品・サービスを見直していた