横山 直紀
Yokoyama Naoki- 職種
- コンサルタント
たとえば、風邪をひいたとき。医者に行く人もいれば、薬局で自分で薬を買う人もいるし、薬には頼らずポカリスエットを飲んで安静にするという人もいる。風邪薬を取り巻くあらゆる人の行動を調査し、どの行動がどのくらい重なっているのか俯瞰してみたときに、はじめてリアルな人の実態が見えてくるものです。
過去のキャリアのなかで、顧客や市場について徹底的に考え、向き合い続ける日々がありました。だからこそ、顧客理解という言葉を、そう簡単には使えないなって思っています。
そう語るのは、コンサルタントの横山だ。
才流のお客さまと向き合うとき、お客さまの商品・サービスの市場と向き合うとき、横山は深く考える。
「人は本当にこう動くのか?」「その人は何に困っているのか?」「何を求めているのか?」「どうすれば、満足できるのか?」
顧客理解の重要性と難しさを知る横山が、才流の仕事で感じるやりがいとは。
マーケティングの師から学んだ「真の顧客理解」とは
ーこれまでのキャリアのなかで、今の自分にもっとも影響を与えたと思う経験について教えてください。
2社目のFringe81(現Unipos株式会社)にいたとき、「自社の成長のためにはマーケティングを強化すべき」と経営層に直談判し、修行に出させてもらったことは大きな出来事だったと思います。
出向というかたちで株式会社FICCに入り、代表(当時)の荻野さんや、パーセプションフロー®・モデル考案者の音部さんと一緒にクライアントを支援しながら、マーケティングのいろはを学びました。
なかでも衝撃を受けたのは、「顧客理解」に対する基準の高さでした。マーケターとしてどれほど深いレベルで顧客理解をする必要があるのか、その基準が自分が想像もしていなかったほど高かったのです。
たとえば、風邪薬の案件に入ったときは、風邪にまつわる人の行動を調査します。風邪をひいて医者に行く人もいれば、薬局で自分で薬を買う人もいるし、薬には頼らずポカリスエットを飲んで安静にするという人もいる。人間の行動は単純ではないので、同じ人でも状況によって薬を飲んだり飲まなかったり、複数の行動パターンが重なることもあります。
それらをすべて調査して、
- 消費者の行動を俯瞰で見ると、どんなパターンがあるのか
- その行動パターンにはどのくらいの重なりがあるのか
- その中の誰に対して、どのようなコミュニケーションを取ることが最もROIが高いのか
- 選んだ選択肢によって目的を達成できるのか
といったことを一つひとつ、これ以上突き詰められないほどの精度で考えていくんです。
当初、定性調査で100人分の態度変容を全件把握したうえで仮説をつくった後、定量調査でその検証を行うという流れのプロジェクトを提案していました。
そのプロセスのなかで、日本における年間の風邪の罹患者数や、症状別の受診率などのデータがだんだん見えてくるようになるんですね。
ただ、自分なりに理解できたと思って資料にまとめて提出しても、求められる基準にはまったく達していない。そこからまた消費者データの海に潜り、20,000件以上の定量データをさまざまな軸で何度も集計し直しながら、あるべき仮説とロジックを組み直す。その繰り返しでした。
ですが、顧客や市場を理解するというのは、そういうことなんですよね。量と質、両方をとんでもなく深いレベルで考えなければならない。
顧客理解という言葉を、そう簡単には使えないなって思うようになりました(笑)。
出向期間は1年2か月でしたが、間違いなくマーケターとしての自分の根幹となる経験をさせてもらったと思っています。また、その経験で決定づけられた「顧客理解」への向き合い方が、現在のコンサルタントとしての支援スタイルに大いに生かされていると感じています。
コンテンツ作りが苦手。でも作り上げた400ページ超の資料
ー出向期間が終わり、自社に戻ってからはどのような活動をしたのでしょうか。
Fringe81に戻ってからは、新規事業の責任者として業務にあたりながら、個人としては「社内でマーケティングを広げる」というミッションを担っていました。そこで、出向先で学んできた知見やノウハウを資料にまとめ、社内に配布したんです。
私はコンテンツ作りが得意なほうではなく、好きでもなかったので、資料作成中は本当に大変でした。でも、自社の成長のためにはどうしても必要なことだと思っていましたし、ひとつの事業を大きくするうえで、マーケティングの方法を公式化できれば武器になる。課題が発生したときに立ち返れるものが欲しかったんです。気づけば資料は400ページを超えていました。
資料をもとに社内研修も開催して、「社内の新規事業として立ち上がっていたUnipos(SaaS事業)でもマーケティングに取り組みたい」という話がきたときは、本当に嬉しかったですね。
誰に言われたわけでもなく、自分でやると決めたことを、しっかりと全うできたのは自分にとっての自信にもなります。自己決定と自己効力感(目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること)が、仕事をするうえで重要だと気づく経験でした。
他方で、自発的に手を挙げてくれたUniposのメンバー、自チームのメンバー、そして後押ししてくれる経営陣やカルチャーに支えられた側面のほうが実は大きく、そういった周囲への感謝も常に忘れずにいたいと思いました。
才流のメソッドに共感し、メソッドの価値を実感
ー400ページを超えるマーケティング資料を作成した話は、才流のメソッドに通じるところがありますね。
まさにそうですね。「メソッドカンパニー」という才流のビジョンを目にしたとき、この会社で、メソッドづくりをしたいと思いました。
実際に入社してからも、あらためてメソッドの価値を実感しています。
才流のコンサルティングは、新規事業の立ち上げ、マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、BtoB領域のほぼすべてをカバーしているので、自分が強い領域もあれば、経験したことがない領域も出てきてしまうんですよね。
しかし、専門性の高いメンバーが各自の強みを持ち寄りながらメソッドを開発しているので、自信を持ってお客さまに提案できます。
一方で、自分自身の知識や経験をメソッドとして体系化できていない部分もあるので、具体的な形にしていけるように、引き続き取り組んでいこうと思います。
とくに、1年間継続してお客さまのご支援に入った「全社横断のマーケティング組織」については、知見はかなり溜まってきました。
全社横断のマーケティング組織は、各事業部の支援や全社のマーケティング施策の実行、知見の蓄積、教育・研修など役割が多岐にわたります。経営層や社内での認知獲得、人間関係の構築など、いち事業を伸ばすマーケティングとはまた違った難しさもあります。
まだまだ世の中に出ている情報も少ないので、できるだけ早くメソッドとしてまとめていきたいですね。
「卒業証書いただいてもいいですか」何より嬉しかった一言
ーこれまで横山さんが担当した案件の事例から、お客さまの声を引用してご紹介します。
株式会社クラウドワークス様
- みんなが独り立ちできるように、育ててもらったと感じています。プロジェクトの最初は答えを教えてくれて、後半ではいずれ訪れる卒業を見越して、答えではなく考え方を教えてくれて。マーケ人材の育成を考えている企業にもおすすめだと思います/小野様
- 私たちの自立を支援してもらえたことを、何よりも感謝しています。卒業証書、いただいてもいいですか?(笑)/野村様
株式会社ネルプ様
- プロジェクトのスコープ外の話題が出ても「興味があったので調べてみました」と持ってきてくださる。言われたからやるのではなく、自分も興味を持ったと積極的に取り組んでいただけたことがすごく嬉しかったです。本当に僕らのことを考え、一緒にサービスを伸ばしたいという想いが伝わってきました/後藤様
- 僕たちのリズムに合わせて伴走いただけたので助かりました。また個別に壁打ちの時間を設け、いろいろなお話ができたのもありがたかったです。壁打ちを通じて自分の考えがアップデートされていく感覚がありました/森様
- 私は途中からプロジェクトに参加したので、わからないことも多かったのですが、何でも相談できるオープンで親しみやすいコミュニケーションに何度も助けられました。「弊社と貴社」という関係性ではなく、同じチームの一員という感覚で楽しくできたことが結果につながったのだと思います/中村様
株式会社日立ソリューションズ様
- いつもレスポンスが早く、情報量が多いので助かりました。私の視野が狭まっているときは全体を俯瞰したアドバイスをもらえるので、目的に立ち返ることができました/上保様
- 素晴らしい提案をされても実行できないと意味がありません。その点、才流はこちらの状況を踏まえ、寄り添ったコンサルティングをしてくれるところも良かったですね/西津様
- スピード感を持ってさまざまなインサイトをくれるところに本当に満足しています。メソッドの量が多いので、何か質問をすると、すぐに資料を送ってもらえる。それを確認した上で、自社に当てはめたケースの質問ができるので、スピード感が全然違うんです/大羽様
ークラウドワークス様の事例の「卒業証書いただいてもいいですか」という言葉は印象的ですね。
お客さまが才流の支援から卒業し、「自分自身で自信を持って進んでいける」と思っていただけたことは、何よりうれしいですし、やりがいを感じる瞬間です。
コンサルタントとしては、ご支援して成果が出ることはもちろんうれしいですが、ご支援は永久に続くわけではありません。だからこそ、プロジェクトのなかでお客さまに渡せるものをすべて渡して、才流がいなくなってからも自信を持って自走してもらいたいと思っています。
これは400ページ超えのマーケティング資料を作ったときの、自分の経験からきていることでもあります。自分で決めて、自分でやりきることで、また次のステップに進めますよね。
ーお客さまをご支援する際に意識していることはありますか。
意識していることは2つあります。1つ目は、お客さまに寄り添うこと。2つ目は、期待以上の成果を返すことです。
「お客さまに寄り添う」というのは、お客さまの個別の事情にしっかりと向き合うということですね。
事業の成功のためにやったほうがいいことは山ほどあります。リソースの問題でやりたくてもできないこと、社内の事情でどうしても変えられないことなど、さまざまなハードルが存在します。
いくらメソッドがあっても、理想的な道が見えていたとしても、お客さまが「できない」と言っているのに、正論をぶつけても何も進みません。プロジェクトといっても進めるのは「人」と「人」。できないならばできないなりに、ベストな方法を見つけてあげたいですし、少しでも前に進んでもらいたい。この点が、過去の経験で培った顧客理解へのスタンスが生かされているポイントの1つです。
もちろん、プロジェクトを推進するうえで欠かせない要素はきちんとお伝えしますが、現実的にお客さまができる方法を示したうえで提案しなければ意味がありません。
もう1つの「期待以上の成果を返す」というのは、お客さまの適切な期待値を設定し、それをまっとうに超えようねという話です。これは、パーセプションフロー®・モデルを設計するなかで散々考えていた「満足の設計とは何か」というテーマにも通じています。
まずは適切な期待値を設定することが重要で、その期待値を超える成果があって、人ははじめて満足する。100点の期待値を設定し、100点の結果だと満足にはつながらないんです。
ですから、お客さまをご支援する際も、常に期待値を超える成果を返せるように意識しています。
持続可能な環境で、「人」にフォーカスした支援を続けたい
ーお客さまに寄り沿って、期待以上の成果を出すというのは、簡単なことではないですよね。
そうですね。だからこそ、とても疲れることがありますね(笑)。
才流は水曜日の午後はお休みなので、疲れが溜まったときは回復にあてる時間が確保できます。そのおかげで、次の日からまた全力でお客さまに向き合えるので、非常にありがたい環境だと感じています。
ー最後に、これからの抱負を聞かせてください。
顧客を深く理解しようとすればするほど、一人ひとりに寄り添うことが求められます。お客さま一人ひとりの課題、想い、置かれている状況。知識やノウハウがあっても実行できない背景には、実はそういう「人」の状況が大きく関係していたりするからです。
私がコンサルタントとして入ることで、少しでもその人の状況を改善し、背中を押したい。それが会社としての成果にもつながります。
知識やノウハウだけでなく、「人」にフォーカスしたご支援ができるコンサルタントでありたいです。それができれば、AIには代替できない価値を感じていただけるのではないかと思っています。
(撮影/植田 翔、取材・執筆/安住 久美子)