大手企業の新規開拓・既存顧客の取引拡大に有効な戦略として、ABM(Account Based Marketing[アカウント・ベースド・マーケティング])が注目されています。
そこで才流では、全6回にわたり『ABM 入門と実践ガイド』として、ABMの基礎知識から実践方法までを体系的に解説します。
第6回は、モニタリング(ABMの評価指標の設計と管理)です。
モニタリングとは、ある事象や活動を継続的に観察、測定、評価することです。成果が出るまでに時間がかかるABMのモニタリングでは、評価指標の設計が難しいといわれます。
本記事では、ABMを4つのフェーズに分け、各フェーズにKPIを設計し、すべてのKPIを同時に計測していく方法を紹介します。さらに、数値の変化だけでなく、「顧客理解が深まった」「部署間の連携が深まった」など、定性的な変化もABMの評価指標にできます。
才流では、「ABMに興味があるが、自社に適しているかわからない」「ABMを始めているが、成果が見られない」とお困りの企業さまを支援しています。才流のABMコンサルティングは、マーケティングから営業までを一貫して支援できる点が強みです。ABMのお悩みや不明点がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら
ABMの評価指標は変化する
モニタリングとは、ある事象や活動を継続的に観察、測定、評価することです。モニタリングを行うことで、現状の把握やリスク管理、意思決定の支援などができます。
面談機会や商談の創出、受注といった成果が出るまでに時間のかかるABMのモニタリングでは、とくにプロセス評価を意識しましょう。プロセスに対して適切なKPIや評価指標を設計し、アカウントプランに沿ったアクションが実行され、成果に結びついているかを確認していきます。
ABMの評価には、活動と評価指標にズレが起きやすいという課題があります。
たとえば、ターゲットアカウントとの接点づくりに注力する時期は、ターゲットアカウントのリード数や面談数、新規名刺獲得数が重要です。
一方、ターゲットアカウントとの接点がつくれ、キーパーソンとの関係を深めていく時期では、「より高い役職層とのコンタクトが取れているか」「具体的な提案ができているか」「パイプライン金額はいくらか」などの指標による評価が求められます。
このように、ABMは全体の進捗に応じて重要視する評価指標に変化が伴います。現時点でのABMで追うべき指標は何かを念頭におき、自社にとって最適な評価指標を設計していきましょう。
組織の前向きな変化もABMの評価に含めよう
また、ABMに取り組むにあたっては、組織の変化も評価対象に含めることがポイントです。
ABMは、営業とマーケティング、そして関連する部署が一丸となって取り組みます。「営業とマーケティングで定例会議をするようになった」「マーケティングが営業を一緒にセミナーの企画を考えるようになった」。このような変化も、ABMに取り組んだことによる成果として評価できます。
定性的な評価指標として、社内アンケートや面談を通して組織の変化も追い、評価してください。
ABMのプロセスを4フェーズに分けて評価する
ABMの評価指標として紹介したいのは、ABMの活動を「リード獲得期」「案件創出期」「案件育成期」「案件獲得期」の4つのフェーズに分ける方法です。
また、営業活動の「面談」「提案」「商談」とは具体的にどんな活動か?を定義し、関係者の認識をそろえましょう。
営業活動 | 活動の内容 |
---|---|
面談 | 顧客とのすべての打ち合わせの機会(商談化前と商談を含む) |
商談 | 商談化以降の顧客との打ち合わせ |
提案 | 商談プロセスのなかで行われる、実際に提案を行う機会 |
1.リード獲得期
では、各フェーズで追う行動、評価指標を解説します。
リード獲得期では、営業、マーケティングともにターゲットアカウントに対する活動数を追います。
マーケティングのKPIは、ターゲットアカウントの管理職以上のリード数です。営業は、ターゲットアカウントとの面談数とターゲットアカウントからの新規の名刺獲得数をKPIにします。面談数は、さらに企業別、役職別、活動内容別に分類しましょう。
2.案件創出期
ターゲットアカウントから創出された案件金額を追います。
個人・組織ごとに月次・四半期・年間などで目標を設定してください。自社の商品・サービスのLTV目安が3,000万円以上となるアカウントをターゲットとするABMラージモデルになると、営業担当者個人で月次を達成するのが困難なケースも出てきます。そのような場合は、四半期で見るなどの調整が必要です。
案件は、リードソースごとに分類しましょう。案件金額の推移を追跡するだけでなく、営業施策とマーケティング施策のどちらが案件創出に貢献しているのかも分析しやすくなります。また、効果の高い施策も把握できるため、施策の改善にもつながります。
3.案件育成期
ターゲットアカウントから創出された案件の、期待収益額を追います。
期待収益額とは、案件創出額に対し、案件の進捗ごとの成約可能性に応じた掛け目(受注確度)をつけて合算した値を指します。たとえば、1,000万円の案件があるとき、その案件の進捗が初期段階で受注確度を20%とした場合、期待収益は200万円とみます。
ポイントは、商談フェーズを定義し、各フェーズが計測できている状態をつくることです。たとえば、セールスフォース・ジャパン社では、商談を8段階にフェーズ分けしています。
セールスフォース・ジャパン社の商談8段階フェーズ
4.案件獲得期
ターゲットアカウントからの受注金額を追います。
4フェーズのKPIは同時に計測する
この評価設計は、4フェーズに設計された各KPIを同時に測っていく点がポイントです。
ABMの活動とは、ターゲットアカウントの組織内で自社の認知を広げ、商品・サービスで貢献できる機会をつくっていくことです。同一のターゲットアカウントであっても、A部署に対してはリード獲得期、B部署に対しては案件育成期というように、4フェーズが同時に動いていきます。
また、ABMはプロセス評価が大切です。リード獲得期が落ち着き、見た目の数値に大きな変化がない一方、案件創出期では数値が伸びているケースもあります。期待収益額がすべて案件受注額にならないとしても、案件育成期までの評価は必要です。
そのため、各カテゴリのKPIを同時に測っていくことが、ABMの活動全体がどうなっているか?の評価につながるのです。
ABMは、成果が出るまでに時間がかかります。目標を設定するときは、初めからすべての指標の達成を求めないようにしてください。
まずは、注力するポイントを決め、そこに集中します。
ABMの初期段階では、ターゲットアカウントの管理職以上のリード獲得ができているか、ターゲットアカウントとの接点がつくれているか、活動が実行されているかに注力します。これらが軌道に乗ってきた段階で、初めて案件進捗(期待収益の進捗)に目を向けましょう。
並行して管理職は、4つのフェーズをつねに計測しておきます。進捗具合やボトルネックを把握し、メンバーに注力してもらうポイントを適切に変えていくことが重要です。
営業活動は「開拓」「商談」「問い合わせ」「そのほか」の活動別に登録
営業活動はSFAなどを用いて登録し、数値としてすべて計測できるようにしましょう。
登録した営業活動の登録は、開拓活動・商談対応・問い合わせ対応・そのほかの4つに分類することをおすすめします。すると、何に時間を使っているかが可視化できます。あわせて、「いつ登録するか」のルールまで決めましょう。
活動登録ルールの例
管理職は、ダッシュボードで次のポイントを確認してください。
- 全体の活動数の目標に対する進捗が基準内か
- ターゲットアカウントに対する活動数・活動種類の割合が基準内か
- 対応すべき顧客とは、定期的に面談を行っているか
管理職の確認も、スケジュールを決めて行います。記入漏れや間違いがあるときは、営業担当者に声をかけ、1営業日中に修正をするように促しましょう。
営業活動に対するフィードバックのポイント
管理職は、各営業の活動を見ながらサポートをしていきます。
次のグラフは、営業活動の数とその内訳(開拓活動、商談対応、問い合わせ対応)と活動割合を、担当者別に表したものです。各担当者について、どのような状況が読み取れるでしょうか。
Aさんは、ほかの人に比べて活動数が少ない傾向にあります。活動の内容を見ていくと、やや問い合わせ対応が多いことがわかります。このとき管理職は、「重い問い合わせ対応がある?」「アプローチに困っている?」と推測し、Aさん本人に理由を確認しましょう。活動数が増えるようなサポートが必要です。
続いてBさんは、一定の活動数がある反面、問い合わせ対応が大半で、開拓活動や商談が少ないです。管理職は、問い合わせが多い背景を聞き、問い合わせ対応を下げるサポートをしましょう。
Cさんは、活動数も多く、開拓活動や商談と前向きな活動ができています。Cさんの取り組みは、ぜひ社内でも展開したいです。どんな工夫をしているのかヒアリングしましょう。あわせて、問い合わせ対応が少ない背景も確認してください。
このように、営業の活動をSFAに登録、可視化していくと、営業個々の活動傾向がわかり、弱み・強みが明らかになります。
管理職は、データを参考に各営業へフィードバックを行い、サポートできるようにしましょう。
リーダーの姿勢がABMの成功を左右する
課長や係長などの現場に近い管理職やリーダーは、現場と上位管理職の橋渡し的な存在であり、組織の業績に直接影響を与える重要な役割を担います。この層の立ちふるまいは、ABMを実践し成功を目指すうえで、非常に重要です。「ABMをやる」と決まったら、現場に近い管理職層が率先して動かなければ、組織も動けません。
新たな取り組みを行う場合、すぐに全員が同じ方向へ動くことは難しいもの。ときには、現場から「なぜABMをやるのか」と疑問の声が出てくることもあるでしょう。
そのような場面があったとしても、現場に近い管理職やリーダー層は、メンバーにネガティブな言葉を言わないように心がけてください。
「なぜそう思うのか」の確認にとどめ、課題があれば改善に努めることが職務です。部門責任者や上位管理職は、ABMは時間がかかることを理解し、課長や係長レイヤーのサポートを意識してください。
新しい取り組みは、まず計画通りに100%実行することが大切です。そうでなければ、検証ができず、ABMをこのまま進めるべきか、見直すべきかの判断もできません。ABMは事業戦略ですから、部門責任者がしっかりとコミットし、まずはアカウントプランをやりきることに注力しましょう。
ABM実践企業にアンケート|ABMによる変化
才流では、株式会社ユーザベース協力のもと、同社の営業DXツール「FORCAS(現・スピーダ 顧客企業分析)」を導入し、ABMを実践している企業にABMの実態調査を行いました。その一部の結果を紹介します。
「ABM実践企業への調査」調査概要
調査地域 | 全国 |
調査方法 | インターネットリサーチ |
調査時期 | 2024年4月4日〜4月19日 |
調査対象 | 営業DXツールFORCAS(現・スピーダ 顧客企業分析)のユーザー |
有効回答数 | 62件。このうち、「ABMの関連業務を行う部署、担当者がいる」「専任の部署、担当 者を置く準備を進めている」と答えた50件の回答をまとめた。 |
ABMの実践期間
まずは、ABMを実践している期間です。
ABMは単発の施策ではなく、継続して取り組む戦略であることがうかがえます。
ABMの影響を感じた時期
続いて、ABMの影響(数字的な成果や組織の変化)を感じた時期を聞きました。
さらに、「まだ(ABMの)影響を感じていない」と答えた26件のABM継続期間を見ました。
「まだ影響を感じていない」の回答のうち、ABM開始1年未満は18件でした。ABMを始めて1年未満は、ABMの影響を感じにくいことがうかがえます。
ABM実施による定性的な変化
続いて、ABMに取り組むなかでの定性的な変化を聞きました。
なお、「まだ(ABMの)影響を感じていない」と答えた26件については、「顧客理解が深まった」「戦略に沿って活動できるようになった」の回答が多く、売上などの数値への影響が見られなくとも、ABMの取り組みによってポジティブな変化が起きているとうかがえます。
ABMの評価指標(自由回答)
また、「ABMの取り組みに対し、どのような評価を行っていますか(自由回答)」と聞いたところ、評価指標に以下の4つの傾向が見られました。
リード関連指標
- ターゲットアカウントリストからのリード数
- MAによるリード創出
- ハウスリスト外のリストを利用した新規リード獲得
商談関連指標
- 商談数受注数
- コンバージョン率(リードから商談、商談から受注)
- ターゲットアカウントとの商談化率・受注率(非ターゲットアカウントとの差異)
受注・売上関連指標
- 受注数
- 受注金額
- 受注単価
- 売上貢献
- リードごとの売上
エンゲージメント関連指標
- アカウントカバレッジ(ターゲットアカウントとの関係性)
- ターゲットアカウントとのアポイント数
- ターゲットアカウントとの接触状況(電話での反応など)
才流では、ABMの基礎知識から実践方法を1つのコンテンツとしてまとめた『ABM 入門と実践ガイドブック』を無料でダウンロード配布しています。ABMを実践し、成果を出している企業の事例を交えながら、ABMの基礎知識、実践方法、組織体制と評価指標の設計を解説しています。ぜひ、ご参考にしてください。
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