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顧客から信頼を得るために営業パーソンがとるべきアクション

法人営業
コンサルタント
宮戸 章光

多くのトップセールスが成功要件に「信頼関係」を挙げます。一方で、それを実現するための方法については言語化されておらず、組織展開に苦労されているというお話をよく耳にします。

また「ペーシング」や「ミラーリング」の実践を促す専門家や書籍もよく見かけます。才流(サイル)では、これまで多くのトップセールスに信頼関係構築のための具体的な方法について伺ってきました。しかし、これらの実践を挙げられた方は一人もいません。彼らは口をそろえて「いちサプライヤー(仕入先)ではなく、仲間だと思ってもらうこと」「頼りになる存在として認識してもらうこと」と言います。

では営業パーソンが顧客から信頼を得るには、どのようなアクションをとればいいのでしょうか。本記事では判断のメカニズムや顧客心理に基づいて、解説していきます。

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顧客と信頼関係を構築できている状態とは

「顧客と信頼関係を構築できている」とは、どんな状態を指すのでしょうか。具体的なアクションに触れる前に、まずは営業パーソンが目指したい姿について説明します。

以下の4つが当てはまれば、顧客はあなたを信頼しています。ぜひセルフチェックしてみてください。

  1. 自分のアポイントを優先してもらえる
  2. コンフィデンシャルな情報、競合には話さない情報を提供してもらえる
  3. 無駄な駆け引きが発生しない
  4. プライベートな話をしてもらえる

信頼を寄せる営業のアポイントであれば、顧客は優先的に調整します。自分にとって有益な時間になることを理解しているからです。時には組織編成や新プロジェクトの発足など、センシティブな情報も提供してくれます。

また、商談では保険をかけた納期や予算の提示はせずに、「真の要件」を駆け引きなしで伝えてくれます。さらに趣味や休日の過ごし方はもちろん、他人には話しづらいような、仕事から離れた話をされることもあります。

難易度が高く、理想に近い状態ですが、営業パーソンが目指したい姿です。

判断のメカニズム

「顧客から信頼を得る」とは、言い換えれば「信頼に値する営業パーソンであると判断してもらう」ことです。顧客はどのような心理に基づいて判断を下すのか? 前提として「傾聴」することが重要ですが、ここでは人の判断のメカニズムについて解説します。

人は、以下の3つの基準をもって判断を下します。

判断のメカニズム

合理的判断

「この営業は有益な情報を提供してくれる」「この営業は課題解決の役に立つ」など、自分にとって有益か、否かで判断することです。

感情的判断

「価値観の共鳴」「尊敬」など、頭ではなく心で判断することです。経験値の低い新人営業が熱弁する人生観や仕事観に共感し、応援・信頼する経営者などがその一例です。

無意識的判断

比重は軽いとされていますが、「見た目」「人相」といった情報から無意識に判断することです。たとえば「スーツを着こなす容姿端麗なシニア」を見た際に、無意識に「優秀なビジネスパーソン」であると認識してしまうようなイメージです。

これら3つの判断基準を意識して、顧客とコミュニケーションをとっていきましょう。

余談ですが、経営学者のピーター・ドラッカーも、コミュニケーションにおいて信頼を獲得するには「価値観」「欲求」「目的」に合致することが不可欠であると述べています。「欲求」「目的」は「合理的判断」、「価値観」は「感情的判断」です。同じことを説いているといえるでしょう。

3つの判断基準に沿ったアクション例

3つの判断基準を満たすために、営業パーソンはどのようなアクションをとるべきなのか。各判断基準ごとに例を示します。

合理的判断

有益であると判断してもらうために取り組むべきことは、以下の4つです。

1.顧客の顧客を理解する

まずは顧客の顧客の課題、実現したい理想を理解することが大切です。そのうえで、自社の商品・サービスが「顧客」や「顧客の顧客」それぞれにどのような価値を提供できるのかを言語化し、訴求しましょう。そうすることで、顧客も商品・サービスを販売する際の具体的な訴求方法を簡単にイメージできるようになります。

2.情報を提供する

情報提供は、新商品やお役立ち情報を送るだけではありません。膨大な情報が飛び交う現代においては、数ある情報から顧客にとって有益なものを選別、簡素化し、提供することも有効です。

また場合によっては、営業パーソン自身が所属する業界の情報を提供することも効果的です。たとえば、人材派遣企業は定期的に自社が保有する人材の質・量を顧客へレポートします。顧客の計画的なリソース配分、突発的な採用が必要になった際に役立つためです。

顧客の競合顧客の業界のトレンド自社の業界の状況などについて整理し、役立つ情報がないか点検してみましょう。

3.ネクストアクションを提示する

顧客が次にどのような行動をとるべきかを示すことも重要です。たとえば情報提供時に「情シスの○○部長に渡し、△△について意見をもらってください」といった具体的なアクションを伝えます。

顧客自身が次に何をすべきか分かっていないというケースはよくあります。顧客に思考させずにネクストアクションを示すことで、その道のプロ、優れた営業パーソンであると認識してもらえるのです。

4.利害を一致させる

顧客が商品・サービスを導入することで、営業パーソンは売り上げを創出できます。一方、顧客は課題を解決できます。さらに、顧客は進行中のプロジェクトを推進できる、サービスを利用して成果を出すことで社内の評判が向上する、といったメリットまで得られる場合があります。利害が一致しているかどうかも意識するようにしましょう。

感情的判断

心で判断されやすいのが、以下の2つです。

1.圧倒的なスピードと質で提供する

たとえば、1週間の納期で依頼された提案書を3日で、しかも高品質な状態で作成することです。圧倒的なスピードと質は「信頼貯金」につながります。

特に新規顧客の場合は、強く意識することを推奨します。既存顧客に比べて解像度が低いことから攻略の糸口が不鮮明、かつ知見が必要になるからです。チームを挙げて協力する風土やシステムを設計しましょう。

2.相手の価値観に共鳴する

言葉ではなく、行動で価値観を共鳴させることが大切です。

たとえば、時間に厳しい顧客の案件で納期に遅延すれば不信感を持たれます。“要求以上の成果を出すこと”を重要視している顧客に対しては、要求以上のアウトプットで対応することで信頼を獲得できます。

無意識的判断

1.見た目

2.人相

心理学者のアルバート・メラビアンの「メラビアンの法則」では、人の印象は「視覚情報55%」「聴覚情報38%」「話の内容7%」という割合で影響を与えるとされています。

営業のオンライン化により、画面越しのみのコミュニケーションが増えてきました。服装や表情だけでなく、背景画面などにも注意を払うことが大切です。

信頼獲得のメカニズム

相手を理解するために有効な「ソーシャルスタイル理論」

人の判断基準は先述の3つですが、顧客によって重要視するポイントはさまざまです。顧客に合わせて柔軟にチューニングできるようにしておきましょう。

その際に有効なのが、アメリカの産業心理学者であるデビッド・メリル氏が提唱した「ソーシャルスタイル理論」です。「感情」「意見」の4象限マトリクスで、人の言動を以下の4つに分類しています。

Web上で診断することも可能なので、顧客がどれに当てはまるのか、ぜひチェックしてみてください。

ソーシャルスタイル

なお、この理論では、「アナリティカル」「ドライバー」は合理的判断。「エクスプレッシブ」は感情的判断、「エミアブル」は合理的判断と感情的判断のミックスといえそうです。

ソーシャルスタイルの診断はこちらから(『WOW COMMUNICATIONS』より)

ソーシャルスタイルに合わせたコミュニケーション例

各ソーシャルスタイルごとに必要なアクションを整理します。先述の「3つの判断基準に沿ったアクション例」と併用することで、さらに効果が高まります。

アナリティカル

意見を聞く特徴があるため、積極的に情報を提供し、想定されるリスクも提示しましょう。

ドライバー

単刀直入で、結論と根拠を明確にしたコミュニケーションが必要です。同時に自分の意見を主張したいタイプのため、提案は複数行ない、選択肢を与え、自ら意思決定させる配慮が求められます。

エミアブル

意見を聞く姿勢を持ちながら、主張もします。提案やネクストアクションを提示をしつつ、意見も求めましょう。

エクスプレッシブ

主張が強い傾向があります。しっかりと傾聴、共感しながらも意見を要約する姿勢を持ちましょう。

ソーシャルスタイルに対するアクション

新人や若手でも成果が見込める「カチッサー効果」

「顧客の顧客理解」や「ネクストアクションの提示」は、新人や若手には少し難易度が高いかもしれません。そこで推奨したいのが、「カチッサー効果」です。

テープレコーダーの再生ボタンを“カチッ”と押すと“サー”と音が流れることに由来する「カチッサー効果」は、ある働きかけによって、深く考えずに判断・行動してしまう心理現象を指します。以下の6つの要素があります。

カチッサー効果

「好意」の事例を一つ挙げます。幻冬舎の見城徹社長が、若き編集者だったときのエピソードです。

見城氏が大物作家の石原慎太郎氏に対し、氏の2編を丸暗記して本人の前で暗唱し、口説き落としたことがありました。石原氏が見城氏の熱意や行動力に対し、好意を抱いたことは想像に難くありません。

各要素において「若いからこそ」「自分だからこそ」できることを熟考し、行動するのも有効です。

余談ですが、カチッサー効果の6要素も感情的判断、無意識的判断に分類できます。物事の本質が共通していることが分かります。

最後に

今回は「顧客との信頼関係構築」にフォーカスし、営業パーソンがとるべき具体的なアクションについて解説しました。

人が判断を下す際には「合理的判断」「感情的判断」「無意識的判断」の3つの基準があり、顧客を理解する際には、相手の「ソーシャルスタイル」を知ることが重要です。顧客のソーシャルスタイルにあわせたコミュニケーション、そして3つの基準を満たすアクションを実践してみてください。

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