BtoBマーケティングにおいて、コンテンツマーケティングは今や欠かせない施策です。多くの企業がブログ記事やホワイトペーパー、オウンドメディアなどのコンテンツを制作し、見込み顧客の獲得や自社の認知向上に役立てています。
しかし、コンテンツを作ること自体が目的化し、「とりあえずコンテンツを量産すればいい」という状況に陥っているケースも少なくありません。営業やマーケティングの担当者が集客や商談の現場で利用しやすいコンテンツを制作することで、事業成長へもっと貢献できるのです。
そこで今回は、ビジネスに貢献できるコンテンツづくりに注力している株式会社SmartHRのコンテンツマーケティング部に取材を実施。同部 コンテンツマーケティングユニット ユニット長の山口 圭輔さんと富士 雅子さんに、取り組みの具体的な内容と、同社におけるホワイトペーパーの役割について話をうかがいました。
聞き手は、才流のマーケター 轟 拓哉です。
この記事は、BtoBマーケティングで成果を出している企業やBtoBマーケターを取材し、BtoBマーケティングに重要なポイントや注意点など、リアルな声をお届けする連載「BtoBマーケティングの履歴書」第4回です。
才流では「リード獲得数を最大化したい」「BtoBマーケティングの戦略を立てたい」企業さまを支援しています。BtoBマーケティングにお困りの方は、お気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら
コンテンツマーケティング部 コンテンツマーケティングユニット
ユニット長
出版社で編集者としてのキャリアをスタート。のちに広告制作・デザイン会社にて、CI・VIといった企業ブランディングに従事。BtoB・BtoC向けオウンドメディアの立ち上げ・運用を通じて、コンテンツマーケティングを経験。2022年7月にSmartHRへ入社。南方の島が好き。
コンテンツマーケティング部 コンテンツマーケティングユニット
ユニット長
専門家メディアの編集者、バックオフィスSaaSのマーケティング担当などを経て、2021年SmartHRに入社。認知〜商談まで、幅広いファネルのコンテンツを制作。現在は戦略的にコンテンツマーケを実践する組織づくりに従事している。
「編集力で事業貢献する」ための環境づくり
轟 はじめに、お二人の担当業務について教えてください。
山口 私は現在、SmartHRのコンテンツマーケティング部にあるコンテンツマーケティングユニットでユニット長を務めています。ホワイトペーパーや記事コンテンツ、導入事例、動画などの制作、そしてオウンドメディア「SmartHR Mag.」などの制作において、コンテンツマーケティング全体の仕組みを改善したり、効果測定がしやすい環境を整えたりするのが主な業務です。
「SmartHR」は、労務管理クラウド6年連続シェアNo.1(※1)のクラウド人事労務ソフトとして多くのユーザーさまにご支持いただいています。最近では、タレントマネジメント領域でも徐々にシェアを伸ばしている状況です。
富士 私も山口さんと同じく、コンテンツマーケティングユニットのユニット長を務めています。「マーケティングファネルを横断し、編集力で事業貢献する」というミッション達成のために、さまざまな取り組みに挑戦しているところです。
轟 「編集力で事業貢献する」とはどういうことか、くわしく教えてください。
山口 「編集力で事業貢献する」とは、コンテンツの持つ力を最大限に引き出して事業の成長につなげることです。
事業に貢献するためには、まずコンテンツを集客やナーチャリング、商談の現場で活用してもらわなければなりません。コンテンツ制作者は、営業やマーケティングなど他部署と連携し、それぞれのニーズを理解したうえでコンテンツを制作することが求められます。
さらに、実際に作ったコンテンツがどのような成果に結びついているのか、誰がそのコンテンツを使ってくれるのか、各部署にどのような目的で使ってもらうのかを意識する必要があるんです。
そこで、どんなコンテンツが必要とされているかを改めて把握するために社内リサーチを行っています。他部署の定例ミーティングに参加し、得られた情報をコンテンツマーケティング部内で共有するようにしました。
富士 私たちが制作するコンテンツは、大きく2種類に分けられます。一つは、コーポレートミッションの実現に向けて、全社方針に沿って制作するコンテンツです。SmartHRは、各種データを連携しながら複数の機能をご活用いただくことで、人事労務領域を広くサポートしていくマルチプロダクト戦略を展開しています。そのため、複数機能を横断してご利用いただく際のユースケースやメリットなどをコンテンツとして発信しています。
もう一つは、現場の課題を解決するためのコンテンツです。
たとえば、ナーチャリングの施策や、インサイドセールスとお客さまとのやり取りのなかでコンテンツが必要になることがあります。お客さまに特定の内容を理解してもらいたい、メリットを伝えたい、認識を変えたい、などのケースが多いですね。そんなとき、ちょうどよいコンテンツを作ってほしいと私たちに相談が来るんです。
そういった現場の課題に対して、コンテンツで解決を図っていくのも私たちの重要な仕事の一つです。トップダウンとボトムアップ、両方の視点を持ちながら、事業に貢献できるコンテンツを提供していくことが求められています。
轟 なるほど。編集力というと、文章の推敲や校正といったライティングスキルを連想しがちです。しかし山口さんたちは、マーケティングファネル全体を見渡して、求められている情報を理解し、適切なコンテンツとして企画・制作することを編集力と位置づけ、事業への貢献に取り組んでいるんですね。
現場で必要とされるコンテンツとは?社内のニーズを徹底リサーチ
轟 編集力で事業に貢献するために、どのようにコンテンツ制作を進めているのかを具体的に教えてください。
山口 現場が積極的に活用したいと思うようなコンテンツの制作には、営業やマーケティングに対するリサーチが欠かせません。
導入事例の制作プロセスを改善した例をご紹介します。SmartHRユーザーさまのご協力のおかげで、制作した導入事例は250本以上におよび、サービスサイトで公開するほか、ナーチャリングや商談時の資料として活用しています。
導入事例はユーザーさまのお時間を頂戴して取材を行い、独自の思いや取り組みを紹介するコンテンツです。そのため、導入事例をできるだけ多くの方にご覧いただきたい、とくに営業活動でもっと活用してほしいと考えていました。ところが、すべての導入事例が同じ頻度で活用されているわけではなかったのです。
そこで、導入事例によって活用のしやすさに差がある理由を探ることにしました。まずは、閲覧数やセールスからお客さまへの送信数といった定量的なデータの調査。さらに、実際にどんなコンテンツが求められているのかという定性的なデータを得るために、セールスのメンバーへヒアリングを行いました。
すると、営業活動においては導入段階の事例ではなく、SmartHRの活用がしっかりと進んでいる段階の事例のほうがお客さまの反応が良く、活用しやすいことが判明したんです。それからは、活用が進んだ段階の導入事例を優先して制作するようになりました。
轟 たしかに。クラウド労務人事ソフトが誕生した初期であれば、お客さまは「なぜ導入したのか?」「導入の流れは?」などが気になります。
一方、認知が広まった今では、お客さまの関心も「どんなふうに活用しているのか?」へ変わっていく。新規導入だけでなく、リプレイスを検討しているお客さまもいらっしゃることを考えると、求められる顧客事例のテーマも変わるのだと思いました。
富士 そのほか、Web記事の導入事例だとお客さまに読んでいただけないケースがあったんです。そこで、1ページにまとめ直したPDFを作成し、メールに添付して送付したり、印刷して持っていけるような形にしました。セールスのメンバーがより活用しやすい工夫を行っています。
定量と定性、両方を細かく高頻度で調査・分析し、活用されやすいコンテンツについて仮説を立てる。そうすることで現場で重宝されるコンテンツの制作ができるようになりましたね。
轟 社内のニーズに沿ったコンテンツを制作・提供してきた結果、具体的にどんな効果がありましたか。
山口 ニーズをヒアリングして制作したコンテンツは、閲覧数やダウンロード数が明らかに高くなっています。定量的な効果として現れていますね。
他部署との定例ミーティングで、お客さまによってはボリュームのあるコンテンツよりもコンパクトなコンテンツが好まれること、また、1冊のホワイトペーパーよりも複数の細かいコンテンツにしたほうが現場で活用しやすいことを把握しました。そのニーズに合わせてコンテンツを改善したところ、商談獲得につながったケースもありました。
富士 商談が止まってしまったお客さまが、ホワイトペーパーをきっかけに、商談を再開することもあります。
轟 コンテンツの効果が数字として現れているのは素晴らしいですね。定量的に評価するにあたって、コンテンツマーケティング部としてはどのようなKPIを設定しているのでしょうか。
富士 KPIは多岐にわたっていて、ダウンロード数、MQL(※2)数、商談獲得の貢献数など、さまざまな評価軸があります。また、オウンドメディアであれば記事ごとの目的に合わせた数値の測定をしています。
コンテンツの目的によってKPIは変わります。たとえば、インサイドセールスに使ってもらうホワイトペーパーであれば、商談獲得数を見るようにしています。
轟 作るべきコンテンツが際限なくあるなかでは、制作の優先順位をつけることが必要ですよね。
富士 そうですね、本当に事業貢献につながるか部内で見極めるようにしています。
優先順位が高いのは、商談獲得などの事業に与えるインパクトが大きい、かつ過去に制作したことがないコンテンツです。さらに、既存のコンテンツを活用し、新しい要素を追加したり、アウトプットを変えたりして、工数を抑えるような工夫をしています。
認知向上から商談化まで。コンテンツマーケを支えるホワイトペーパーの役割
轟 SmartHRは、お役立ち資料として、サービス紹介や人事労務領域のトレンド・ノウハウ、業界別の導入事例集など、多種多様なホワイトペーパーを制作しています。マーケティングファネルにおけるホワイトペーパーの役割について教えてください。
富士 当社では、ホワイトペーパーがマーケティングファネルの各段階で幅広い役割を担っています。プロダクトがまったく登場しない、認知向上を目的としたものから、すでに検討段階に入っているお客さま向けのものまで、さまざまなホワイトペーパーを用意しています。
たとえば、人事評価に課題を抱えていて、評価制度の構築を検討しているお客さまの場合、SmartHRのプロダクトそのものにはまだ興味をお持ちでないケースも多いです。その場合、まず評価制度設計に関するお役立ち情報のホワイトペーパーをご提供しています。
山口 認知向上のためのホワイトペーパーを作る際は、オウンドメディア「SmartHR Mag.」で公開されている記事を再編集するケースが多いです。既存のコンテンツを上手く取り入れることで、工数を抑えながら制作できます。
富士 お客さまの興味・関心は本当にさまざまです。プロダクトの領域全体に興味がある方もいれば、特定の機能だけを知りたいという方もいます。そのため、あらゆる粒度のコンテンツを作っています。
ナーチャリングのフェーズでも、幅広いテーマのホワイトペーパーが求められます。離職率の改善、配置や評価の業務効率化、人的資本開示義務化への対応など、お客さまが抱える課題は多岐にわたるためです。実際に当社のインサイドセールスは、お客さま一人ひとりに寄り添って課題やニーズを引き出し、それぞれに合ったホワイトペーパーを送っています。
それから、ユーザーさま向けのホワイトペーパーも作っています。契約中のお客さまに対して、「すでにご利用の機能で蓄積したデータを、この機能で活用できますよ」といったご案内もしています。
轟 そのほかにはどのようなホワイトペーパーを用意していますか。
富士 検討段階のお客さまには、不安を取り除くためのコミュニケーションを目的としたホワイトペーパーが有効です。これまでに、人事システムの選び方の解説や、APIなどのデータ連携の方法、ITに不慣れな従業員が多い場合の対応事例などを紹介するホワイトペーパーを用意しました。
また、商談の最終フェーズにあるお客さまに向けては、稟議や上申の場面で活用できるような比較表などのホワイトペーパーを制作しています。
山口 つい先日も、セールスからの要望に応えてホワイトペーパーを制作したところ、「おかげで商談のフェーズが進展したよ」とうれしい報告を受けました。
コンテンツがビジネスに与える直接的な影響を数値化するのは難しいです。特定のコンテンツが商談獲得にどの程度貢献したのかを正確に測定することは、他の要因も関わってくるため容易ではありません。
しかし、数値化は難しくても、商談に貢献しているというセールスからのフィードバックは増えてきています。コンテンツが確実にビジネスに貢献している手応えを感じられるようになりましたね。
お客さまの課題とプロダクトを紐付けてストーリーを作る面白さ
轟 コンテンツマーケティングというと、目的にリード獲得を想起しやすいです。しかし、今回のお話から、コンテンツの役割や貢献の範囲は幅広く、それを引き出す編集力や企画力の高さがエディターに求められているなと感じました。お二人は、SmartHRでコンテンツマーケティングに携わる魅力はどのようなところにあると思いますか。
山口 大規模な体制になっても、既存の手法に縛られず柔軟に挑戦しやすいところですね。
SmartHRでは、複数の製品を展開するマルチプロダクト戦略を掲げており、人事労務領域とタレントマネジメント領域のプロダクトのほか、アプリストアSmartHR Plusで取り扱う他社さま・グループ会社のプロダクトと、多くのプロダクトを提供しています。
お客さまへ提案するプロダクトの組み合わせやアプローチの方法が増えていくなかで、届けるコンテンツの形やその内容も多様化しているんです。
私自身、これまで「勝ちパターン」だと思っていたコンテンツマーケティングの手法は、実は事業の成長フェーズに合わせて変えていく必要があるんだと気づかされました。コンテンツマーケティングで未知の領域に挑戦できるのは、とても魅力的だと感じています。
富士 事業会社でインハウスのコンテンツマーケターとして働く面白さは、プロダクトを理解し、それをいかにお客さまのニーズにつなげていくかを考えるところにあります。
たとえば、離職防止という課題からプロダクトに落とし込むようなストーリー性のあるコンテンツを作る場合。ユーザーの課題を深く理解したうえで、プロダクトを活用することでどのように課題が解決されるかまでをストーリーとして描く必要があります。これは、日ごろからユーザーさまとプロダクト双方に対する理解を深めていなければできないことです。
轟 事業会社のコンテンツマーケティングの醍醐味でもありますよね。では最後に、コンテンツマーケティング部の今後の展望について聞かせてください。
富士 私たちの部署では、担当者がホワイトペーパーやオウンドメディア、導入事例などに専任で割り当てられているわけではありません。もちろん、それぞれ得意とするものはあるのですが、全員がどんなコンテンツ制作にも対応できるようになることを目標としています。
山口 仮にキャリア意向による新たな挑戦や産休・育休などで部署に変化が生まれた際に、他のメンバー同士でしっかりカバーし合えるようなサスティナブルな組織づくりに取り組んでいます。
富士 今後はコンテンツ制作以外にも身につけるべきスキルについて、チームで認識をそろえて高めていけたらいいなと思っています。たとえば、他の部署へ異動しても経験を生かして新たな価値を生み出せるように、多様性をもって成長できる環境をつくりたいです。
※1 デロイト トーマツ ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2023年度版」労務管理クラウド市場・出荷金額(2023年度見込)
※2 エムキューエル/Marketing Qualified Leadの略。マーケティング活動によって得られた確度の高い優良な見込み顧客のこと。
才流のマーケターが解説
SmartHR コンテンツマーケティング部の山口さんと富士さんに、事業貢献につながるコンテンツづくりのポイントをうかがいました。
事業に貢献するコンテンツ制作のポイント
- コンテンツが生み出す成果を意識する
- 社内・ユーザーの課題やニーズを把握する
- 定量・定性の両面でデータを分析し、コンテンツを改善する
- 優先順位を判断し、効率的にコンテンツを制作する
- プロダクトへの理解を深め、コンテンツに反映させる
コンテンツが生み出す成果を意識し、データにもとづいて改善を続けながら、現場のニーズに合わせた多様なコンテンツを制作する。事業貢献につながるコンテンツを作るためには、社内連携と徹底した調査・分析が必要なのだと実感しました。
チャレンジングで興味深いお話を聞くことができました。山口さん、富士さん、本当にありがとうございました!
(取材:水谷 真智子 撮影:植田 翔)
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