商談につながるリードがとれない。
ナーチャリングの優先順位がわからない。
マーケティングとインサイドセールスによくある課題です。
この課題に対し、株式会社マネーフォワード のクラウドERP本部では、リードの獲得経路と商談や受注のデータを紐づけたデータ基盤を構築。商談化の期待値が高いリードの傾向を分析し、リードジェネレーションやナーチャリングに活用しているといいます。
この取り組みを手がけてきた同部のマーケティング部 部長の米山 恵太さんに、その具体的な内容と、戦略立案・施策のポイントについて話をうかがいました。
聞き手は、才流のコンサルタント・土山 勇人です。
この記事は、BtoBマーケティングで成果を出している企業やBtoBマーケターを取材し、BtoBマーケティングに重要なポイントや注意点など、リアルな声をお届けする連載「BtoBマーケティングの履歴書」第2回です。
才流では「リード獲得数を最大化したい」「BtoBマーケティングの戦略を立てたい」企業さまを支援しています。BtoBマーケティングにお困りの方は、お気軽にご相談ください。⇒サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら
マネーフォワードビジネスカンパニー
クラウドERP本部マーケティング部 部長
Webメディアの広告営業や、デジタル広告代理店の営業、プランナー、ディレクターなどを経て、2020年にマネーフォワードへ入社。同社の広告運用のインハウス化プロジェクトに関わり、運用コストの削減に貢献する。2021年より、マネーフォワード クラウドERPのマーケティングを担当。
「マーケ施策が受注へつながっているか?」を追うためのデータ基盤整備
土山 はじめに、マネーフォワード クラウドERPの詳細と、米山さんの担当業務を教えてください。
米山 マネーフォワード クラウドERPは、会計から人事労務まで、バックオフィス全体をシームレスに連携し、面倒な手作業を自動化するコンポーネント型クラウドERP(※)です。上場準備、中堅〜上場企業を中心に、ご利用いただいています。
私は、2020年にマネーフォワードに入社し、2021年からはマネーフォワード クラウドERPのマーケティング責任者として、マーケティングとインサイドセールスの両方を担当してきました。2023年5月からはマーケティングに専念し、さらなるグロースに注力しています。
※ERPとは:Enterprise Resources Planningの略。人や物、カネ、情報などの企業経営の基本となる経営資源を適切に分配し、有効活用するという考え方。または、それを実現するシステムを指す(参考:ERPとは?ゼロからわかりやすく解説)
土山 では、米山さんが取り組んできたマーケティングとインサイドセールスの施策についてうかがいます。まずは、どんな課題があったのか教えてください。
米山 マーケティング部のKPIは商談数なのですが、リードの獲得経路と商談や受注データの紐づけができていないことが課題でした。
私は、マーケティングを考えるうえで「施策が受注へつながっているか?」までを追うことを大切にしています。
組織として再現性の高いマーケティングや営業活動を実現するためには、現状がどうなっているか?を正確に把握し、商談や契約につながる勝ちパターンを見つけることが必要です。
しかし、過去のリードや商談分析を行うと、獲得経路がわかるリードは全体の6割で、商談にいたっては半分しか経路がわかっていない状態だったんです。
土山 「受注まで追う」という考え方に、とても共感します。「もっともリード獲得単価(CPA)が低く、コンバージョン数が多い経路」が、実は受注に繋がっていないことって、よくありますよね。
米山 その通りです。リード獲得単価が安くて受注効率がよいケースは少ないですね。むしろ、プロダクトの説明セミナーのようにリード獲得単価が高い施策のほうが、受注につながりやすい傾向があります。
そこでデータを整備し、ダッシュボードで可視化することで、マーケティングのメンバーが数字を確認できる環境をつくったのです。
具体的には、リード獲得の経路と商談を紐付けるため、MAやCRMなどのデータ基盤を整備しました。一部、実装は外部パートナーにも支援していただきました。
今では、全リードのうち9割は、獲得経路と商談の紐づけができています。
チャネル ✕ CTA ✕ 属性 の組み合わせで、商談化の期待値が高いリードを判別
土山 データ基盤を整えたことで、どのような成果が現れましたか。
米山 チャネル ✕ CTA(コンテンツ※)✕ 属性の組み合わせ経路ごとに、商談化率の実績を算出し、それに基づいてリードの質を判定できるようになりました。
※ここでは、リードを獲得するきっかけとなったオファーコンテンツを意味する
土山 どのリードをフォローするか、優先順位がつけられますね。
米山 そうです。インサイドセールスは、商談化の期待値が高いリードからフォローアップできるようになりました。
さらに、インサイドセールスのオンボーディングも進めやすくなっています。
土山 インサイドセールスのオンボーディングですか。
米山 マネーフォワードERPには、複数のターゲットペルソナを設定しています。インサイドセールスには、各ペルソナの課題やニーズを参考に、お客さまへ適切なプロダクトを提案することが求められますが、マネーフォワード クラウドERPはプロダクトが多く、経理から人事労務まで幅広い専門知識が必要です。
そのため、インサイドセールスのオンボーディングや、一定の経験を積むまで時間がかかっていました。
ですが、データ基盤を整えたことにより「この“チャネル✕CTA✕属性情報”で獲得したリードは、Aというターゲットペルソナに近い」が予測できるようになったんです。
事前にリードのターゲットペルソナが予測できていれば、課題やニーズを踏まえたトークシナリオが準備できます。
そこで、インサイドセールスのオンボーディングでは、ターゲットペルソナ別にリードを分けて、対応するようにしたのです。中途入社が多いインサイドセールスも、業務に早く慣れるようになりました。
土山 なるほど。すばらしい取り組みです。
では、ナーチャリングのタイミングはどうしていますか? 「サービスサイトのどのページを見たらコールする」のようなトリガーがあるのでしょうか。
米山 料金ページなど、特定のページを閲覧した場合には、インサイドセールスへ通知が入る仕組みになっています。トリガーとなるページの判断は、MAツールのWebトラッキングの機能をもとにしています。
「料金ページはトリガーにする」「アポが取りにくいページはトリガーから外す」というように、細かくトライアンドエラーをくり返しています。
土山 インサイドセールスのフォローでは、どんな工夫をしていますか。
米山 ユーザーフォーカスの観点で丁寧に向き合っています。いきなりコールするのではなく、まずはメールでご連絡することもありますし、その次に送るメールでも「前回こういった連絡をさせていただきましたが、その後はどうですか?」のような言葉を添え、お客さまとの対話を重視した定期連絡などを行っています。
やみくもに、とにかくアプローチするのではなく「マネーフォワードを検討している」「話すことが次につながる」と判断できるときだけ、コールしていますね。
「資料をDLしてがっかり」はNG。価値あるコンテンツ提供が第一
土山 続いて、リードジェネレーションの施策について教えてください。
米山 まずは、準顕在層、潜在層へのリーチ拡大として、お役立ち情報をはじめとしたホワイトペーパーとウェビナーの質を改善し、発信量を増やしました。採用を強化し、内製の体制を整えながら、コンテンツを作っています。
チャネルもいろいろと試しています。ウェビナー集客の効果を感じたのは、Facebook広告とPeatixのメール広告で、とくにPeatixはウェビナーの集客単価が低かったです。
土山 逆に、効果が出なかった施策はありますか?
米山 比較サイトやメディアにホワイトペーパーを掲載する施策です。メディアによって、効果に違いがありました。
とくにIT・テックメディアでは、比較的リード獲得単価を抑えられた一方、商談にはつながりづらく、担当するプロダクトには合わなかったようです。
インサイドセールスのヒアリングによると、「マネーフォワードの情報が欲しかったのではなく、偶然資料をダウンロードしただけ」というお客さまが多い傾向にありました。そのため、商談につながりにくかったのではないか、と考えています。
仮説ですが、掲載メディアにあわせたホワイトペーパーを作ることも必要だったかもしれません。
土山 コンテンツ制作はどうしていますか。外部パートナーへ依頼しているのでしょうか。
米山 マネーフォワードには内製のカルチャーがあり、基本は自分たちでコンテンツを作っています。ビジネスやサービスに対して同じ解像度を持つメンバーと、「スピーディに何度も試す」が実現できる点は、内製の大きなメリットです。場合によっては、社内でディレクションし、制作は外部へ依頼するケースもありますよ。
土山 社内に知見がたまることも、内製のメリットですよね。では、コンテンツを作るうえで、どんなことを大切にしていますか。
米山 お客様にとって、価値のあるコンテンツを作ることです。たとえばホワイトペーパーの場合、ダウンロードしてもらいやすいテーマを考えつつ、その後もちゃんと読んでいただけるかまで考えています。
ホワイトペーパーもウェビナーもリードを獲得するための施策ですが、価値ある情報や体験を持ち帰っていただけているか?という観点で、コンテンツを作っています。やはり、コンテンツを読む、参加するという体験を通じて、好意度をどれだけ高められるかが大切だと考えています。
事業戦略に基づいてマーケティング戦略を立てるべき
土山 BtoBマーケターは、「戦略をどのように立てるか」で困っている方が多いように見受けられます。米山さんが意識していることはありますか?
米山 事業戦略に基づいてマーケティング戦略を立てることです。
そのため、まずは事業戦略をしっかり理解する。具体的には、目標とする顧客層に対してどのようにアプローチし、どのようなプロダクトを開発していくのか。それが事業戦略のなかで、どういった位置を占めるのかを理解することです。そして、中長期的な視野をもとに「今やるべきこと」を考えていきます。
どの顧客に対して露出を増やすのか、どの媒体を利用するのか、どのようなメッセージが響くのか。そういったことを考え、予算と人材の両面でのリソース投入のバランスを考えることが必要だと考えます。
土山 なるほど。米山さんのこれまでのお話ともつながります。まずは受注や商談まで全体の流れを見るために、データ基盤を作り、施策を試す体制を整える。そして、施策を試しながら商談に基づく振り返りを行う。これらが戦略立案の要なんですね。
米山 データをしっかりと見て考えなければ、結局は机上の空論になってしまいます。
しかし、どうしてもデータだけではわからない部分も出てくる。そこは経験値や感覚、いわゆる「センス」が必要になってきます。
データには現れていないけれど、「成功につながる可能性がある」と感じたときに追求する姿勢も大切です。
BtoB商材は検討期間が長いため、裾野を広げる認知活動と受注を増やす活動の両方を、中長期で一緒に進めていく難しさはあります。でも、そこにBtoBマーケティングの面白さを感じますね。
失敗を恐れずにチャレンジできる環境が、成功も人材も呼び込む
土山 おわりに、今後の展望について聞かせください。
米山 今後の成長に向けて、ABM(Account-Based Marketing)の重要性を再認識しているところです。ハウスリストにおけるターゲット企業のシェアや商談案件の割合、占有率、受注率などを把握しながら、リードジェネレーションを行いたいと考えています。
また、マネーフォワードは2021年度から2024年度にかけて、売上高成長率30%〜40%の達成を目指しています。そのためには、同じことを磨き続けるだけでなく、非連続のチャレンジが重要です。「日本で一番のBtoBマーケティング組織」になりたいですね。
土山 米山さんは2020年にマネーフォワードへ入社されたとのことですが、一人のBtoBマーケターとして、マネーフォワードという企業には、どのような魅力を感じますか?
米山 まずは挑戦できる環境があることです。それこそ、社長の辻(マネーフォワード代表取締役社長 CEO 辻庸介氏)が『失敗を語ろう』(日経BP社)という本を出版しているように、マネーフォワードには挑戦の文化があると思っています。
マーケティングは「必ず成功する施策」がありませんから、チャレンジできる会社のほうが成長もしやすいはずです。
そして、ほかの事業部(※)のマーケターと意見交換できる機会があることも、魅力的です。複数事業を展開している強みといえますね。
また私たちは、テクノロジーの力をいかした会社です。マーケティングとエンジニアリングの両方を理解し、コーディングもできる「マーケエンジニア」という職種のメンバーがいるのも心強いです。
※マネーフォワードは社内カンパニー制をとっており、米山さんが所属するクラウドERP本部はビジネスカンパニーの部署。ビジネスカンパニー内にも複数の事業部がある。
土山 社内に相談できる頼もしい相手がいることはいいですね。社内でマーケターが1人しかいないと、煮詰まってしまうとよく聞きます。
米山 マネーフォワードには、事業部ごとにマーケティング部があり、それぞれ組織のフェーズが異なります。すると、マーケターの役割も変わるんです。立ち上げ期のプロダクトを担当するマーケターであれば、ジェネラリストのように、広告もイベントも担う役割が期待されます。
成熟してきたプロダクトであれば、マーケター経験者も集まってくるので、専門領域を見つけて磨き込むこともできる。社内でキャリア選択が幅広いことも魅力ですね。
マーケターは積極的に募集していますので、興味がある方はぜひお問い合わせください。
才流コンサルタントが解説
マネーフォワードのマーケター米山さんに、マネーフォワード クラウドERPのリードジェネレーションとインサイドセールスの施策についてうかがいました。
- リード獲得経路と商談・契約データをつないだことで、商談化率の高いリードの傾向が可視化
- インサイドセールスのフォローアップの優先順位が明確に
上記の一連の取り組みからは、各データの紐づけが重要であることを、あらためて実感しました。
さらに、「チャネル」×「CTA」×「属性」のリード獲得経路から、ターゲットペルソナが予測でき、インサイドセールスの業務効率化や提案の質の向上、オンボーディングの促進につながっている点も、素晴らしいです。
リードジェネレーションに課題を持つかたは、ぜひ参考にしてください。米山さん、ありがとうございました。
(執筆:長谷川賢人 撮影:ヤマダヤスヒコ)
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