コロナ禍で起きたパラダイムシフトは、営業活動やマネジメントにも大きな変化をもたらしています。急遽、テレワークや業務のデジタル化を進めることになり、困惑する現場も多いのではないでしょうか。
当社にも、オンライン営業にまつわる下記のような相談が増えています。
- オンライン営業に苦戦している
- メンバーのマネジメントが難しい
- テレワークを会社が認めてくれない
そこで、テレワークでもしっかりと成果を上げる営業部長に、他社でも応用できるノウハウを伺ってきました。
話を伺ったのは、100名以上の営業組織を持つ大手ICTベンダーの営業部長。コロナ禍による全社員のテレワーク移行後も、着実に成果を上げています。テレワーク移行後、どのように営業戦略を変えたのか、また営業メンバーとのコミュニケーションやマネジメントはどうしているのでしょうか。
他社でも参考にできるポイントがありますので、ぜひ参考にしてみてください。
【インタビュー企業の特徴】
- 全国で100名以上の営業組織。全国に拠点あり
- ある地方拠点は営業組織は10名程度
- 営業手法は各拠点に委託
- 大手ICTマルチベンダー。さまざまな競合他社製品を扱うため、提案の幅が広く、価格にも優位性を持つ
- コロナ以前からオンライン商談ツールを導入済。当時の2割はオンラインで商談
- コロナ以降、全社テレワーク。現在のオンライン商談は10割
テレワーク移行後の成果を教えてください。
1年ほど前にオンライン商談ツールを導入し、少しずつテレワークも進めてきました。
テレワーク完全移行後の成果としては、売上・粗利・売上純増(売上~解約)の3指標において、季節要因で未達の12・1月を除き、すべての月で達成できました。
売上規模が大きいのは、既存顧客のアップセル・クロスセルで、9割以上を占めています。
要因としては、これまでフォローできていなかったお客様からの受注が増えているためです。
我々の組織は営業が100名以上いますが、お客様の数は数万社あり、1人あたりの担当数は多い人で200社を超えます。当然すべてのお客様に足を運んでご挨拶するというのは難しく、いわゆる「ホットではない」お客様に対しては、十分にケアができていない状態でした。
オンライン商談により、取りこぼしていたお客様をケアしやすくなり、そこから受注が生まれています。
テレワーク以前と比較し、営業体制や目標に変化はありましたか?
以前までの状況をお伝えすると、現場の営業がテレアポから訪問、クロージングまで行う営業スタイルでした。ただ、約1年前にオンライン商談ツールを導入して以降、体制は少しずつ変わってきました。なぜオンライン商談ツールを導入したかと言うと、我々がお客様にオンライン商談ツールの導入提案をする立場だったこともあります。
営業現場でもオンライン商談を活用しはじめたことで、オンライン商談は全体の20%になりました。そして、コロナ禍で全社テレワークとなってからは、ほぼ100%オンライン商談です。
数値目標はテレワーク以前と変わっていません。元々、個人としては1日2商談がマストです。オンライン商談を活用するようになったことで、移動時間や商談時間が削減され目標以上の数を追えるようになりました。一方営業チームとしては、年間粗利目標9000万円を月ごとに分け、10名で追っています。
先ほども申した通り、これまであまりケアできていなかったお客様との商談数を増やすことで、以前より営業数字は上がっています。
テレワーク移行後、受注獲得をする上で直面した課題はありましたか?
訪問ができなくなったことで、お客様との何気ない会話から生まれていた受注がなくなったことです。
お客様は必ずしも、自社の課題を自覚しているわけではありません。フィールドセールスが訪問し、他愛のない会話をする中で課題を言語化し、お客様に気づいていただく動きをしていたんです。
しかし、オンライン商談だとわざわざ雑談をすることは難しいので、これまで案件として拾えていた受注がなくなりました。
もう一つ課題があります。当社が利用中のオンライン商談ツールは、基本的に1対1で使うように推奨されていて、複数人数で使うと通信品質の問題が出てしまいます。そうなると、先方の上司やキーマンが同席できません。止むを得ないので、他ツールに切り替えて使用していますが、効率的とはいえないですね。
課題に対してどんな対策をとっていますか?
まずは商談時間を短くして、商談数を増やすことです。
何気ない会話での案件化は難しくなりましたが、お客様もテレワークが多くなっているので、むしろアポイントは取りやすいです。訪問の際は60分近く使っていたところから、15分程度の短時間の商談を設定するようにしました。営業担当の負荷も少なくなるので、1人1日2商談だったものを4商談まで増やすことができています。
またアポを取る際には、「画面共有で、情報交換だけさせてください」という声がけをしています。
「オンライン商談をお願いします」と言われると、身構えてしまうお客様が多いですし、顔を映すのは抵抗があるとか、セキュリティ的に社内を映したくないというお客様もいます。
そこで最初から「画面共有がメインで、お客様のほうは映さなくてもどちらでもいいです」ということを伝えると、「まあ、それなら…」とOKしてくださる方が多い。心理的なハードルが下がるんですよね。
実際にオンライン商談ツールをつないだら、サービスを一覧にした資料を画面共有します。画面でパッと見ても理解しやすいようにイラストでまとめていて、ご案内しながら商材ごとに話を聞く。
例えば「〇〇の業界ではこういう動きをしている会社さんもありますが、御社ではお困りごとはないですか」「こういう対策はしていますか」「これで解決できそうですが、いかがですか」という感じで、資料を見ながら事例から引き出していくというスタイルです。
この方法で、既存のお客様であれば7割は案件化しています。
他には、既存顧客や名刺交換をした方に対しメール配信を行っています。テレワーク以降は、メールマガジンの配信数も増やしています。
内容としては、「こんなお困りごとはないですか?」というものや、業界ごとの導入事例などです。導入事例は、業界別で顧客やベンダーさんに送り、課題に共感し、気づいていただくようにしています。
テレワーク移行後、営業メンバーをマネジメントする上で課題はありましたか?課題に対してどんな対策をとっていますか?
営業ノルマに対して、ドライになってきています。
メンバーによって、格差が生まれてしまう懸念があります。
今までは社内にいたことによって、たとえ成果が出ていなくても「まぁがんばっているから…」という評価があったと思うんです。でも、オンライン商談ではその過程は見えないですよね。
会社としてはある意味フラットな評価で良いかもしれませんが、メンバーにとってはどうなのか懸念しています。
また、出社していたときは、ランチやアポで同行する際にそれとなくメンバーの様子を知れましたが、今はそれができません。そのため、意識的にコミュニケーション数を増やしています。
週に1度、1on1ミーティングを行い、そこでは、ビジネスとプライベートで、それぞれ「今、頭の中を占めていることは何か」を聞いています。良い話、悪い話どちらでも今一番ひっかかる話を聞きます。
他にも、ランチタイムに、オンラインで任意参加のオープンな場を設けたり、マネージャーと親しいパートナー企業とのオンラインミーティングをオープンにしたりと。メンバーにも、マネージャーの仕事が見える化されたのは良かったと思っています。
テレワーク移行がスムーズにできた成功要因は何でしょうか。
コロナ以前からテレワークの経験値があったため、全社テレワークにもスムーズに対応できたと思います。そもそも、我々が販売する商材がテレワークに関するものが多く、まずは自分たちがうまく使えなければお客様にも納得感がないということで、以前から少しずつテレワークに挑戦していた結果です。
また当社の場合は、営業手法などはある程度現場に委ねられていますが、全社テレワークはトップの判断で決まりました。やはり文化を変えるためには、トップダウンで決めることが一番有効だと思います。
当社のセミナーでもよく話をしますが、デジタルシフトを進めるためには「ツールと文化」の両輪が大事です。
例えば、情報システム部門の人が「クラウドのほうが安全」と言っても、社長や上役が古くからのやり方のほうが良いと思っていると、そこが障壁になってしまいます。
当社の営業が経営層の方に直接説明しにいくこともありますが、ボトムアップによる改革は難しいです。まずは社長の意識を変えにいくことが重要だと思います。
【まとめ】テレワーク移行後の営業で意識すべき3つのこと
今回インタビューした企業様は、「ホットではない」既存顧客にオンライン商談を活用してアプローチすることで、着実に成果をあげています。
また、オンライン商談に抵抗のある顧客に対し「画面共有するだけ」と伝えてハードルを下げたり、イラストのわかりやすい資料を共有したりと、顧客視点に立った配慮も印象的でした。
【テレワーク移行後の営業で意識すべき3つのこと】
- オンライン商談だからこそできるメリットを活用する
- 自社の商材や提供サービスの特徴を整理し、オンライン商談の型を作る
- 意識的に社内コミュニケーションの量を増やし、質を高める
自社の営業戦略・施策を検討する際に、ぜひご活用いただければ幸いです。
才流では、営業・マーケティング活動のオンライン化・デジタル化を支援しています。これまでの支援実績をふまえ、実践的な解決方法をご提案可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
<文/安住 久美子@081123tadatama 取材・編集/金森 悠介@user_id_us>