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2年で月次売上10倍達成。「formrun」甲斐氏が語る、解約率を改善した3つの取り組み

BtoBマーケティング
コンサルタント
金森 悠介
  • 無料トライアルからの有料転換率が低い
  • 解約率を改善したい
  • LTVを向上させたい

と悩む、BtoB企業の事業責任者も多いのではないでしょうか。

今回は、企業買収後2年間で売上が10倍アップした、フォーム作成ツール「formrun(フォームラン)」のプロダクトオーナーを務める甲斐雅之氏にお話を伺いました。

  • 解約率改善のために取り組んだ施策
  • 少人数チームならではの工夫

上記を中心にお話を伺っております。特に、BtoBのIT/ソフトウェア企業の事業責任者/マーケターの方には参考になるので、よろしければご覧ください。

ーー 自己紹介と、簡単にサービス紹介をお願いします。

株式会社ベーシックが開発・提供する「formrun」のプロダクトオーナーを務めている甲斐雅之と申します。

「formrun」は、専門知識が不要で簡単にメールフォームの作成や、カンバン形式の顧客管理が実現できるSaaSです。ビジネスモデルとしては、フリーミアムのSaaSとなっており、月額支払いのサブスクリプションモデルを採用しています。

そもそも「formrun」は、株式会社ベーシックが運営元であったmixtape合同会社を2017年12月に事業買収しています。企業買収から2ヶ月後にあたるタイミング(2017年2月以降)から、私がformrunのプロダクトオーナーを務めています。

公開できる範囲で言えば、買収前後で下記のように順調に成長しています。

  • 無料チーム登録数
    • 買収前後:19倍に
  • 有料チーム登録数
    • 買収前後:7倍に
  • 料金プラン
    • 買収前
      • 無料
      • 2980円
      • 9800円
    • 買収後
      • 無料
      • 4980円
      • 12800円

しかしながら、一貫して順調に成長したわけではありません。ここからは、私がformrunのプロダクトオーナーになって以降行ってきた、これまでの試行錯誤を紹介します。

ーー 解約率を改善させるために取り組んだことは何ですか?

SaaSの基本ですが、顧客のLTVをどのようにして高めていくか、これが重要です。また、顧客のLTVを向上させるためには、formrunの場合、有料プランの解約率を改善する必要がありました。また、有料プランの中でも顧客あたりの月間利用額が高いPROFESSINALプランのお客様が増えると、STARTERプランをご利用のお客様に比べて平均継続期間も長くなる傾向がありました。そのため、formrunの場合はPROFESSIONALプランをご利用いただいているチームの増加施策に注力したことで、当然ながらLTVの高い顧客を増やすことができ、結果的に解約率改善を促進させることができました。

その上で、解約率を改善すべく取り組んだことを3つ紹介します。

  • 顧客単価が高いプランのチームを増やす
  • ペルソナを再設定。プライシングに即した適切な機能提供
  • 顧客の「声」を定量化して解約率を改善

一つずつ説明します。

顧客単価が高いプランのチームを増やす

formrunではチームごとに支払いが発生するシステムにて運用されているのですが、顧客単価が高いプランのチーム契約数を増やすべく、機能開発に注力しました。それまでは、PROFESSIONALプランとその他プランにおける明確な差別化ポイントがなく…。3つにプランが分かれている意義を顧客が見出しにくかったため、その違いを明確化しました。

ただし、次第に高機能なサービスへと変容した反面、独自ドメインメールアドレスや広告タグの設定など、利用ユーザーにとって難易度が高く、必要な工程も増えてしまいました。

しかし、我々のチームは小規模のため、人的リソースを割いてサポートできる工数にも限界があります。

  • プロダクトオーナー
    • 正社員:1名
  • カスタマーサクセス
    • 正社員:1名
  • マーケティング
    • 正社員:1名
  • エンジニア
    • 正社員:1名
  • デザイナー
    • 正社員:1名
  • インターン
    • 学生:4名

そこで、FAQサイト「formrunFAQ」や、formunに関する活用Tipsを発信する「formLab」などコンテンツを発信する体制を強化し、何か課題があったときにユーザー自身で解決できる仕組み作りをしました

  • FAQサイト「formrunFAQ」は、リテラシー面の課題をマイナス(ー)からゼロ(0)にする
  • Tipsサイト「formLab」は、リテラシー面の課題をゼロ(0)からプラス(+)にする

このように2つのサイトの棲み分けを行っています。

ペルソナを再設定。プライシングに即した適切な機能提供

「formrun」買収時のサービスが取り巻いていた状況は、下記のように整理できます。

  • ペルソナ
    • 主にブロガー群やスタートアップ企業のエンジニア/デザイナー/ディレクター
  • 価格設定
    • FREEプラン:0円
    • STARTERプラン:2,980円
    • PROFESSIONALプラン:9,800円
  • マーケティング
    • 口コミや紹介中心
  • 成果
    • 新規無料チーム登録数が二次関数的に上昇

買収直後のマーケティングの課題

順調に無料チーム数は増えたものの、LTVの課題や事業としての持続可能性を考えたときに、機能ベースではありますが、当時のプライシング設計では問題があると気付きました。というのも、無料チーム登録から有料チームへの転換率も低く、かつ有料チームの解約率も高かったからです。

こうした事象の背景としては、ユーザー層がブロガーさんを始めとした個人事業主の予算規模であったこと、マーケティング担当者が個人のクレジットカードで決済処理を行い、領収書を経理部に提出する形で支払いを行っていたライト層であったことが大きな要因であったと見込んでいます。ご利用中のお客様が所属する企業が、コーポレート部門や事業部長に届けを出すといったプロセスを経ることなく、事業運営として「formrun」に投資していた訳ではなかったとの結論に辿り着きました。

プライシングの変更

こうした課題を踏まえて、買収後の2017年3月に、まず値上げを行いました。

価格設定

  • FREEプラン:0円
    • 変わらず
  • STARTERプラン:2,980円
    • 4,980円に変更
  • PROFESSIONALプラン:9,800円
    • 12,800円に変更

このタイミングの解約率が最も高かったです。そこから約半年後、マーケティング軸の変更に乗り出しました。

ペルソナやクリエイティブ変更による成果

しかるべき顧客層に適切な情報を届けるべく、ペルソナを組み直したり、カスタマージャーニーを引き直したりと、マーケティング軸の変更に取り組みました。この組み直し、引き直しを行った際には、1ヶ月に10名以上の既存顧客にヒアリングを行い、顧客のインサイトを掴むための時間を重点的に設けるようにしました。

結果的に、当時の利用状況や満足度の高かった機能、データ処理における課題や改善ポイントを具体的に集めることができたため、ペルソナやクリエイティブを実情に即した形へとアップデートすることができ、下記のような成果を得ることができました。

  • 事業買収時より月次の売上が約10倍に増加
    • 月次の有料チーム登録数:約2倍増加
    • 月次の解約率:最悪の時の約半分に改善

新規無料チーム登録数の伸び率も、オウンドメディアからの流入やインターネット広告の最適化に取り組み続けたことにより、安定した伸び率を記録し続けています。

顧客の「声」を定量化して解約率を改善

こちらはプロダクト改善の話になります。

解約率を改善するために行ったこととしては、下記の2つです。

  • カスタマーサクセス主導で、プロダクトが抱える問題を定量的に可視化
  • 改善課題をチーム内に浸透させるための機会/共有会議を設置

具体的に説明します。

カスタマーサクセス主導で、プロダクトの問題を定量的に可視化

  • 顧客からの問い合わせ
  • 既存顧客からのご要望/不満の声
  • 社内でformrunを利用している部署からの質問/要望

これら3方向から集まった声を「N=1」としてカウントするよう、カスタマーサクセスチームで関数の入ったシートを構築しました。例えば「フォームの消し方が分からない」などの質問が、月に何件問い合わせがあるか、といった具合です。

プロダクトに関する「要望が何」で「何件集まっているか」を可視化することで、問題の重要度を見極めるようにしています。

というのも、少ないリソースでプロダクトの改善に取り組む必要があり、施策や開発の優先度を決める確たる根拠がないと、まずどの部分から手を付ければ良いのか、三者三様の解釈で決まってしまうからです。そのため、我々のチームではプロダクトに対する要望をN数として計測し続けることで、プロダクトが抱える問題を定量的に捉え、取り組みの重要度を見極めてから、プロダクトの改善に取り組んできました。

なお、全ての問題を「N=1」と数えるのではなく、要件に落とせず次のアクションにつながらない要望はヒアリングして、問題として数えるべきか判断しています。

しばしば、顧客や現場の人間が「問題」と感じているものは「現象」にすぎず、問題の根にたどり着いていない意見である場合が存在します。たとえば、「〇〇のツールと連携して」と言われたとしても、そのツールを導入することが必ずしも最適解ではなく、フローを自動化してツールに流し込めればOKである場合があります。

このような場合、ツールを連携せずとも、Googleスプレッドシートに自動出力可能な機能開発を行い、該当するデータを適切に転送する、あるいは取り込むことができれば、ツールを連携せずとも、改善要望を解決できる場合があります。

隔週でレビュー会を実施。問題をチーム内に浸透させる

また、隔週でチーム全員が参加し、要望や問い合わせ対応のレビュー会を実施しています。顧客が抱える問題に対し、チームメンバー全員が同じ認識で向き合えるように、「現象」を「問題」に落とし込み、定義し直すための時間です。

このレビュー会を開催し始める以前は、エンジニアやデザイナーから、「この施策によってどれだけインパクトがあるの?」と言われても、ビジネスサイドで根拠のある事実を集めることができていなかったり、顧客が抱える本質的な課題を提言することができなかったりと、今取り組むべき明確な答えを用意できていませんでした。

しかし、このレビュー会によって「お客さんからこれだけ声が来ているのに、やらない選択肢がありませんよね」と、定量的かつ、情緒的にチーム改善を訴えることができ、改善の優先順位を適切に決められるだけではなく、顧客と距離が遠い職種のメンバーに対しても、改善の実感を持ってもらいやすくなりました。

事実、毎月多く集まりがちであった顧客の声を改善した際に、翌月以降の問い合わせ数が綺麗に0を更新し続けたことも多く、チームの一体感も生まれる非常に良い施策であったと思います。

ーーベンチマークにしているところはありますか?

AtlassianやSlackですね。formrunの事業運営上、特に参考にしているのはSlackです。Slackは、FAQや事例を豊富に用意しています。これは、海外展開するにあたり問い合わせがなるべく来ないように、ユーザー自身で課題を解決してもらえるよう、仕組みを整えているのだと考えています。formrunも小さなチームでサポートリソースも限られたサービスなので、このあたりは意識していますね。

まとめ

インタビューは以上です。

特に興味深いと感じたのは、こちらの2点です。

  • マーケティングの軸を変更したことで、事業買収時より月次の売上が10倍に増加
  • プロダクトの問題を可視化すべく、各方面から寄せられる声を集計。問題と認識すべく、チーム内に浸透させた

ちなみに、導入して良かったツールとして、「Appcues」と「Stripe」、「Benchmark Email」を挙げていました。参考までに、導入してよかった点を記載いたします。

  • 「Appcues」
    • 管理画面上にポップアップを表示有料プランのメリットを訴求することで無料から有料プランへの転換率がアップ
  • 「Stripe」
    • エンジニアがプライシングの設定や繋ぎ込みをする際にリファレンスが豊富に落ちている、エンジニアフレンドリーなサービス
    • 有料チームの顧客データのダッシュボードが見やすい
    • フリーミアムモデルのサービスが導入、運用しやすい構造になっている
  • 「Benchmark Email」
    • ユーザー登録起点でステップメールを配信できるように。顧客のオンボーディングに効果あり

プライシング変更や、解約率改善に取り組む事業責任者、プロダクトオーナーの方は、是非参考にしてみてください。

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