・解約率を改善したい
・LTVを向上させたい
と悩むBtoB企業の事業責任者/マーケターの方も多いのではないでしょうか。
今回は、国内No.1のアプリ市場分析ツール「App Ape(アップエイプ)」を提供するフラー株式会社CMO・杉山信弘氏にお話を伺いました。
- セルフサービスを始めて1年の取り組み
- LTV向上に向けた施策と結果
- 価格設定の失敗
上記を中心にお話を伺っております。特に、BtoBのIT/ソフトウェア企業の事業責任者/マーケターの方には参考になるので、よろしければご覧ください。
ーー簡単な自己紹介とApp Apeの紹介をお願いします。
フラー株式会社CMO・杉山信弘
フラー株式会社CMO(最高マーケティング責任者)の杉山信弘です。前職は、博報堂でメディアプランニングや営業などの仕事をしており、2年前から現職です。現在はアプリ市場分析ツール「App Ape」の事業管轄をしています。
App Apeは、データ提供型のSaaSです。スマホアプリの実利用データに加え、ストア情報や属性情報など横断的なデータを提供しており、市場・競合調査を始めとするアプリの企画・マーケティングに幅広くご利用いただいております。データは国内のみならず、世界7カ国に対応しております。
ビジネスモデルとしては、フリーミアムのSaaSです。たまに、調査案件やショットでのレポーティング案件などもあります。
前提として共有すると、App Apeは約3年半前からエンタープライズ向けにSaaSとしてのサービス提供を始めています。そして、約1年前からSMB(中小企業)向けにセルフサービスでのサービス提供を始めました。約1年で、エンタープライズと同等の社数まで導入いただいています。
エンタープライズとSMB向けで、営業手法や対象顧客が異なるので整理します。
| エンタープライズ | SMB |
売上の割合 | 80% | 20% |
導入社数割合 | 50% | 50% |
顧客単価 | 高い | 低い |
解約率 | 低い | 高い |
顧客業種 | アプリパブリッシャー、広告代理店、金融機関 | アプリパブリッシャー 新規事業検討層 |
営業手法 | インサイドセールス+フィールドセールス | セルフサービス チャット |
契約期間 | 1年契約(初回のみ半年〜) | 単月契約 ※クレジットカード決済 |
いつから | 3年前から提供開始 | 1年前から提供開始 |
エンタープライズ・SMBの比較表
ーー App Apeのターゲットはどんな企業ですか。
App Apeのコアターゲットは3つあります。アプリの企画やマーケティングに携わるアプリパブリッシャーや広告代理店などの支援企業、そしてヘッジファンドをはじめとする金融機関です。
メインは、ゲームなどのアプリパブリッシャーです。ただし、アプリパブリッシャーは広告代理店や金融機関に比べて、比較分析するタイトル数が多くなく、競合アプリを一度分析したら満足してしまうのが課題です。
広告代理店は、競合プレゼンやコンサルティングの際に開示可能なデータを使用するためです。
そして、なぜヘッジファンドがApp Apeを導入するかと言うと、株価予測です。いくつかのカテゴリでユーザー数と業績、そして株価が連動しており、彼らとしては四半期開示の先行指標として使っているようです。メルカリが上場したタイミングで、ニーズが顕在化しました。ユースケースが明確なので、投資回収ができている限り継続利用してくれます。この使い方は、私たちも想定していませんでした。
ーー LTV向上のために、どんな施策を行い、どのような成果につながりましたか?
LTV向上のために、一年程前から下記2つを新たに取り組んでいます。
- ①コンテンツの拡充
- ②BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとの繋ぎ込み
それぞれ詳細に説明します。
コンテンツの拡充
まず、売上ランキングなどのレポートを週次配信しています。そして4,5ヶ月に1つは、ボリュームのある調査レポートを出します。有料顧客には実数付きで、無料顧客には実数非公開でレポートを配信しています。この施策は、解約率低下に貢献していますね。
また、SMB向けの施策は人的リソースも少ないのでテックタッチに振り切り、有益なコンテンツを自動配信。セルフサービスを始めてから約一年が経ち、解約率はいまだに課題ですが、セルフサービス経由で獲得した顧客の登録翌月解約率は、当初の半数程度まで減少しています。
BIツールとの繋ぎ込み
こちらは、エンタープライズの顧客を対象に行っている施策です。App ApeのデータとクライアントのGoogle データポータル、TableauなどのBIツールをAPI連携させることで、経営層がMAUやデモグラフィックなどを瞬時に理解できます。
サポート自体は無料で、API・データフィード連携が有料です。今後は有償コンサルティングも視野に入れています。
この施策により、下記のような効果がありました。
- 顧客に会う機会に
- アップセル
- 解約率の低下
結果として売上は約15%増加しています。
実は、毎月顧客に会うことがエンタープライズの解約率低下に予想以上に貢献しています。以前は顧客を訪問する理由を作るのに苦労していましたが、APIは利用の幅が広いのでいかようにでも理由が作れます。現在はCSを増員して2ヶ月に1度は顧客に会うことをルール化しました。合わせて新機能のヒアリングもさせていただいております。
ーーうまく行ったマーケティング施策や、反対に失敗した施策はありますか?
成功した施策:App Ape Awardの開催
App Ape Awardという人気アプリを表彰する自社イベントは成功していますね。目的はアプリ業界自体の活性化です。知見を共有して日本のアプリパブリッシャーが世界で勝てるように互いに情報交換をする、その中で自然とリード獲得もできるコンセプトで運営しています。開催コストも数百万円はかかりますが成果が出ているので、3年間続けています。
思いの外、認知やブランディングの効果も高いです。例えば、表彰企業がアプリストア内に「Google Play Award受賞」と同じ位置付けで「App Ape Award受賞」と書いたり、アプリ受賞のプレスリリースを書いたりしてくれることもあります。さらには、メディアがアプリ紹介の際に「App Ape Awardで受賞した〇〇」と記載してくださることもあって。社員のモチベーションも上がりますね。
※参照:https://www.advertimes.com/20190507/article289956/
失敗した施策:海外SMB向けの価格設定
海外SMB向けの価格設定は大失敗しました。当初、韓国のSMB向けに一律1万円/月のセルフサービスで提供していました。正直、クレジットカード決済のセルフサービスで売れる自信が無く、「PDCAを回すためにも、売れてから値上げをすれば良い」と考えていたんです。
しかし、蓋を開けてみると顧客数自体は想定より積み上がったものの、ビジネスとしては全く成り立たず。さらに悪いことに、韓国のエンタープライズがSMB向けの月1万円プランがあると気づき、契約更新月で解約したり、値下げ要請につながったりしました。
その反省を活かし、今はアプリ市場の大きさごとにデータ提供の価格を変えています。具体的には、アプリ市場データを見るためには日本とアメリカは5万円〜/月、韓国とそれ以外の市場は3万円〜/月としています。
ちなみに、Stripeを導入したことでオンライン上でクレジットカード決済ができるので、海外のSMB向けにセルフサービスで売れる状況を作り出せたのは良かったです。実際、韓国のSMBは日本のSMBより導入社数が多いです。
ーー 今後のプロダクト展開について教えてください。
アプリ軸の分析以外にも進出し、分析ツールとして縦に深ぼる予定です。そもそもApp Apeの仕組みとしては、数十万のパネルユーザーからアプリの利用データを集め、利用者の数や属性、アプリの売り上げ規模、最頻起動時間などを推定しています。
そのため「20代男性のゲーム好きは、◯◯というメディアをよく見る」などの分析が可能です。特定ユーザーを対象にしたアンケート配信も可能です。今後はマーケティング施策と成果の橋渡しになることを目指し、他社との共同開発も積極的にしていきます。
まとめ
インタビューは以上です。
特に興味深いと感じたのは、こちらの3点です。
①金融機関がApp Apeを導入する理由
→ 企業側が想定していなかったユースケースを、顧客側が見出している
②「Stripe」を導入したことで、海外SMB向けにセルフサービスで売れる状況を作れた
→問い合わせの手間なしに、顧客自身で支払いまで完結できる
③価格設定の失敗
→SMB向けに低価格で提供した結果、エンタープライズの顧客離れを招いた
②に関しては特に、他社にも応用できるメソッドと言えるでしょう。
また、「当社の創業メンバーは高専出身なのでテクノロジーで何とかしようとしがちですが、セールスを増員したことで明確に売上が上がりました。」と杉山さんがおっしゃっていたのも強く印象に残っています。
【写真撮影:安東佳介(Senobi)】