BtoBマーケティングにおいて、ターゲット顧客を選定することは非常に重要です。
ターゲットが定まっていなければWebサイト、広告など諸々のマーケティング施策の効率は良くなりません。
一見、「ターゲットを定めるなんて、当たり前だ」と思われがちですが、ターゲット顧客が明確になっていないBtoB企業も案外多いのではないでしょうか。
本記事では、ターゲット顧客を定める意思決定を下し、顧客体験を磨き込むことで解約率を5分の1、顧客単価を15倍にアップさせたBtoB SaaS企業の事業責任者の方にお話を伺いました。
- ターゲット変更の理由と、その過程
- セルフサーブ型からの脱却
- 価格設定の変更
上記を中心にインタビューを行っています。
解約率が高く、プロダクトマーケットフィット(※)している実感の無い事業責任者や、マーケターは、ぜひ参考にしてみてください。
※参照:プロダクトマーケットフィットとは、顧客の課題を満足させる製品(プロダクト、サービス)を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態
ーーターゲット選定によって、どんな成果がありましたか?
弊社のサービスは、Googleアナリティクス関連のサービスで、リリースしてから4年目のプロダクトになります。
前提として「ターゲットを定める」という言葉自体が、SaaSのUX、CX(顧客体験)の設計においては曖昧で、解像度が低い言葉だと個人的に感じていました。この仮説をもとに、これまで実行したこと、数字としての結果をお伝えします。
半年ほど前に、Web制作会社のみをターゲットにしたところ、
- 顧客単価が15倍
- 解約率が5分の1
になりました。
ーー以前の状況について教えてください。
それまでは、事業会社とWeb制作会社含む代理店の両者をターゲットにおいていました。
しかし、全体の解約率は高く、決して良い数値ではありませんでした。
そこで、事業会社をターゲットにおくのを戦略的にやめました。
というのも、
- 事業会社は、Googleアナリティクスの運用者のリテラシーの振れ幅が大きい
- その振れ幅に、弊社のサービスの価値が比例してしまう
- 顧客にとっての「成功の定義」が大きく違い、再現性が低い
ためです。
一方で、Web制作会社をターゲットにおいた理由としては、事業会社と比べて
- 平均単価および継続率が高かった
- 顧客のインサイトと、サービスの価値が深く結合していた
- 顧客の「成功の定義」が類似しており、再現性が高い
とわかったからです。
ーーターゲットを定める際は、どのような施策を打ったのでしょうか。
まず、解約率の低い企業ジャンルに
- なぜ、弊社のサービスを継続利用してくれているのか
一方で、解約率の高い企業ジャンルに
- なぜ、弊社のサービスを解約したのか
等を、それぞれ30社くらいに電話でヒアリングを行いました。
30社くらいヒアリングを行うと、それぞれの業種ごとの、業務プロセス上の課題、抱えているインサイトがわかってきました。
※ユーザーヒアリングに加え、サービスのUXを可視化。改善すべきペインポイントと、再現すべきWow!モーメントを抽出して、UXの改善を実施。(社名非公開のインタビューのため画像調整を行なっております)
ーーWeb制作会社をターゲットに定めてからは、具体的にどんなことを行ったのでしょうか?
サービス提供形式と、それに伴いサービス利用料も変更しました。
以前までは、セルフサーブ型で、顧客あたりの平均単価は5,000円〜10,000円くらいでした。
Web制作会社のみをターゲットにすると定めてからは、
- セルフサーブ型から、ツール+プロの人の「SaaS+コンサルティング」モデル
にサービス内容とコアバリューを深掘りしました。
※サービス内容とコアバリューを深掘り(社名非公開のインタビューのため画像調整を行なっております)
同時に、利用料を変更させたので顧客あたりの平均単価が
- 変更前:5,000円〜1万円(従量課金制)
- 変更後:65,000円(基本利用料5万円+従量課金制)
と、大幅に上がりました。
ツール単体の提供から、「ツール+プロの人」にした理由
ツール提供だけでなく、プロのWeb解析士をつけた理由としてはヒアリングを行う中で、Web制作会社に
- 受注の取れる商談設計ノウハウが欲しい
- Googleアナリティクスを使えるようになって、顧客に良い提案をしたい
- プロに相談して、改善の具体的なノウハウが欲しい
といったインサイトが存在すると判断したからです。
「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しい」ということです。
そこで、プロのWeb解析士によるサポートが含まれて基本料5万円と、それに加えてツールを利用した分だけお金をいただく、従量課金制に変更しました。
何よりお客様から「これで5万円なら安いです!」とお声をいただけるようになりました。
SaaSの価格設定で「死の谷」と言われている、月間の利用料が5万〜30万のプロダクトは価格競争が起こりやすく、顧客の社内での優先順位が低いとすぐ解約されてしまう、と言う話があります。
この問題に対して、意図的に顧客の業務上での優先順位を高くするサービス価値、コミュニケーションに修正し、定性と定量の両方で成果が生まれたのは、事業戦略の判断としては間違っていなかったと感じます。
ーー現時点で成果の出ているセールス or マーケティング施策はありますか?
ウェビナーの商談化率は45%
ウェビナー(Web上で行われるセミナー)は、とても成果が出ています。
Web制作会社だけでなく、パートナーを希望する会社や事業主も参加してくださいます。
弊社では、ウェビナーからの商談化率が45%あります。
なぜ、商談化率45%という高さを出せるかというと、ウェビナーのコンセプトを明確にしているからだと思います。
意思決定者層の反応が良いように「売上150%増、残業75%減」と、コンセプト(タグライン)を整えています。
コンセプトの変更
ちなみに、ターゲット選定に伴いコンセプトも変更しています。
どのようにコンセプトを変更したかというと、まず、顧客のインサイト、ベネフィット、弊社サービスの機能、バリューを合計100個くらい出しました。
※洗い出した時のリスト(社名非公開のインタビューのため画像調整を行なっております)
そこから、顧客に訴求するポイントを3つに絞りました。
- 受注数・売上を増やしたい
- 残業時間を減らし、創造的な時間を作りたい
- 若い人に教育する時間がない
これらを解決するベネフィットがあるサービスだとシンプルに、常に伝え続けるようにしています。
そのため、ウェビナーの商談化率が高いのだと類推しています。
コンセプトも以前から変更したので、ちょうど現在新たにランディングページを制作しているところです。
解約率も大幅に下がり、マーケットに支持いただいているファクトがあるので、今後しっかりマーケティング投資を行っていくフェーズです。
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インタビューは以上となります。
個人的に面白いと感じた点は、
- ターゲット選定で、解約率が5分の1、顧客単価15倍
- セルフサーブ型から、「ツール+人」型への変更
- ウェビナーの商談化率が45%
このあたりです。
今回取材した方は、戦略的に事業会社をターゲット外にするという意思決定を下し、大きな成果をあげています。
ターゲット選定や、解約率、そして価格設定などに悩む事業責任者、マーケターの方はぜひ参考にしてみてください。
【無料ダウンロード】BtoB企業のマーケティング戦略立案ToDoリスト