事業を取り巻く環境の変化や人材の流動化が進むなか、営業組織には、個人に依存した営業活動から脱却し、営業成果を最大化する仕組みづくりが求められています。
そこで才流(サイル)では、営業組織が変わろうとするときを「営業組織のブレイクスルー」と捉え、成長企業・注目企業の経営者や営業パーソンの皆さまを取材します。
今回お話をうかがったのは、「採用管理システムsonar ATS」を軸に、HRTech領域で複数のサービスを展開する、Thinkings株式会社の遠藤 薫さんです。
現在、sonar ATSの導入実績は1,400社を突破(2023年3月時点)。2020年と比べ、2倍以上になっています。
その急成長の背景には、営業組織をThe Model型に再編し、組織の全体最適化を図りながら、体制を調整していくという取り組みがありました。
遠藤さんに、The Model型の組織を安定運用するためのポイントや、営業の人材育成についてうかがいました。
聞き手は、才流コンサルタントの井出 孝尚です。
[sonar ATSの営業組織のブレイクスルー]
- 営業の体制を、アカウント営業からThe Model型へ再編
- 部署間の情報共有を重視し、お客さまへ最適な提案、支援ができるような仕組みを構築
- 事業フェーズにあわせて組織を変更。成長の機会を逃さない体制をつくり続ける
お話をうかがった方
Thinkings株式会社
sonar ATS Sales Div. General Manager
遠藤 薫さん
人材業界にて法人営業、採用支援などに従事したのち、経営コンサルタントとしてターンアラウンド領域を担当。成長領域における事業拡大に関わりたいと考え、Thinkingsへ入社。
営業組織をアカウント型営業からThe Model型へ再編
井出 はじめに、sonar ATSについて教えてください。
遠藤 sonar ATSは、企業の採用業務を効率化する採用管理システム(Applicant Tracking System)です。上場企業から中小企業、新進気鋭のベンチャー企業まで、1,400社以上の導入実績があります(2023年3月時点)。
井出 導入実績社数を大きく伸ばしている背景に、営業組織の再編が影響しているとうかがいました。どのような再編を行ったのでしょうか。
遠藤 Thinkingsは、2020年1月にsonar ATSの開発を担当していたインフォデックスと、イグナイトアイが経営統合して設立した会社です。
もともとイグナイトアイでは、セールス1人でお客さまを担当するアカウント営業の体制をとっていました。セールスがアポどりから商談、オンボーディングまで対応し、新規の商談も1人で40件ほど担当していたんです。
アカウント営業は、1社1社と深くお付き合いができるメリットがありますが、多くのお客さまへsonar ATSをご紹介するためには、より効率的な方法を取り入れる必要性があります。
そこで、営業組織をThe Model型へ再編したのです。
インサイドセールスをマーケティングの部署に置く理由
井出 続いて、現在の体制を教えてください。sonar ATSの事業は、4つのチームにわかれているんですね。
遠藤 まずセールス機能として、大手企業を担当するエンタープライズセールスと、ミッドマーケットやSMBを担当する、sonar ATSセールスのチームにわかれています。
The Model型の組織として連携しているのは、マーケティング/インサイドセールス&PRとsonar ATSセールスのチームです。
マーケティング/インサイドセールス&PRのチームでは、リードや商談創出ための各活動をしています。
創出されたリードは、sonar ATSセールスチームへ渡され、フィールドセールス(以下、FS)が商談・受注のプロセスを担当します。
そして、カスタマーサクセス(以下、CS)が、契約したお客さまのオンボーディングやsonar ATSの運用活用の支援、その後のアップセルやクロスセルのご提案まで担っています。
各チームには管掌する執行役員がおり、私はその下でGMとしてsonar ATSセールスのチームをみています。
井出 インサイドセールス(以下、IS)をマーケティングとセールスのどちらの組織に置くか?は、組織設計のうえで悩みやすいところです。Thinkingsでは、どのような理由からISをマーケティングチームに置いているのでしょうか。
遠藤 採用活動には、季節要因やお客さまごとのスケジュールが関係します。たとえば、「再来年度の新卒採用のために情報を収集している」ようなケースもあります。
つまり、リードから案件化までのタイムラグがあるのです。
sonar ATSのISでは、ナーチャリングをしながら、「リードから案件化までどのくらい時間がかかりそうか」も判断しています。タイミングを見計ったほうがよいリードは、引き続きISでナーチャリングを行い、商談化できそうならばFSへ渡しています。
この商談配分のプロセスがあるため、現在のフェーズではマーケティング側にISを置くほうがよいという判断をしています。
業務の専門性が高まりノウハウが蓄積。評価軸も明確に
井出 The Model型の組織となり、営業活動にはどのような変化がありましたか。
遠藤 まず、1人で担当していた仕事が分業化され、とても効率的になりました。営業活動の各プロセスにおける専門性が高まり、個人としても組織としても、情報や業務のノウハウが蓄積されています。
アカウント営業時代は、新規の商談も既存のお客さまの対応も1人で対応していましたから、リソースがどうしても足りないときがありました。
対してThe Model型の組織では、CSがオンボーディングや既存のお客さまの支援を担当するため、FSは新規商談に集中できています。
井出 マネジメント面はいかがでしょう。
遠藤 The Model型の組織では、マーケティングならリード獲得、FSなら商談といったように、各プロセスでやるべきことが決まっています。個人の仕事がダイレクトに数字に反映しますから、目標設定が明確になり、マネジメントがしやすくなりました。
アカウント営業時代では、人によって得意不得意の分野があり、何を軸に評価をしたらよいのか迷うときもありました。今は、評価もわかりやすいです。
営業体制が整うと、マーケティングも加速できる
井出 営業組織の再編の結果、どのような成果がありましたか。
遠藤 現在、マーケティングに大きく投資し、新規のお客さまとの接点を増やしているところです。
ウェビナーの実施や広告出稿を積極的に行い、数年前とは比べられない数のリードや商談が生まれています。
商談件数は昨年と比べて倍近くありますが、FSがしっかりと対応できており、現在の導入実績社数の伸びにつながっています。
井出 営業体制が整ったからこそ、マーケティングに注力できるんですね。
遠藤 さらに、ISやFSの活動量が増え、市場に「sonar ATSの勢いがある」という情報や認知がじわじわ広がっているんです。失注したリードが、後から商談化するケースも増えています。好循環が回ってきていますね。
直接のお問い合わせやお客さまからのご紹介案件もあり、市場にsonar ATSの存在感が出てきていると感じます。
The Model型組織を安定運用する3つのポイント
井出 The Model型の組織を安定運用するために、Thinkingsではどのようなことに気をつけていますか。
遠藤 大きく3つあります。1つ目は、お客さまの情報を部署間で正しく共有するために、必要な情報はフォーマット化し、抜け漏れのない状態をつくることです。
たとえば、FSとCSの間には、オンボーディングをする際に必要なお客さま情報を共有するフォーマットがあります。
オンボーディングでは、お客さまの採用目的や採用スケジュールなどを前提に、sonar ATSで実現したいことの優先順位をつけていく、期待値調整を行います。
しかし、お客さまとFSの間でsonar ATSの活用に関する認識の違いがあると、お客さまは「知らなかった」「聞いていない」という反応になってしまいます。
井出 「〇〇ができると思っていたのに」という期待値のズレが起きてしまう。
遠藤 そうです。ですから、FS側も商談時に期待値調整を行うことはもちろん、お客さまが気にかけていることをヒアリングし、カスタマーサクセスへ共有することが大切です。情報の抜け漏れがないようにヒアリング内容をフォーマット化し、CSがすぐに確認できる状態にしています。
井出 情報共有の仕組み化で、情報の分断を防いでいるんですね。
遠藤 2つ目は、SFAに情報を蓄積することです。採用活動には季節要因があるとお話したように、失注の理由にも「sonar ATSがお客さまの採用活動に合わない」ではなく、「提案の時期が違う」というタイミングの問題があります。
採用は1年に1回のサイクルで回っているため、失注であっても次の時期に再度検討いただける可能性がある。ですから、次回のアプローチにつながる失注情報もしっかりとSFAに残しています。
そして3つ目は、用語の意味を定義することです。
過去に、マーケティングとセールスで使う「新規商談数」の意味が異なっていて、受注率の数値が違っていた、ということがありました。
だいぶ解消はされていますが、部署間における言葉の意味のズレには気をつけています。
トークシナリオや商談プロセスの型化でセールスを育成
井出 続いて、営業組織の人材育成の取り組みを教えてください。
遠藤 営業の人材育成は、トークシナリオや商談プロセスの型化を行なっています。
たとえばトークシナリオは、お客さまの採用課題やATSの利用状況に合わせて型化しています。
また商談プロセスも、デモサイトや動画の活用など、さまざまなノウハウや成功事例を蓄積し、型化しています。商談プロセスは更新を行い、つねにベストプラクティスの状態にしています。
井出 トークシナリオや商談プロセスの型化は、誰が担当しているのでしょうか。
遠藤 私が全体を取りまとめ、実務は各セールスチームのマネージャーたちが分担しています。チームが違っても、セールスの人材育成の課題は共通ですから、チーム横断でプロジェクト的に取り組んでいます。
たとえば、「このテーマなら、あのチームの誰と誰に成功事例をヒアリングしよう」のように、チームを超えて情報を共有し、型化を進めています。
井出 チーム間での協力体制ができていますね。
遠藤 チームが分かれているからこそ、横のつながりは意図的に作っているんです。弊社はフルリモートですし、何もしなければ交流が少なくなってしまいます。情報が流通し、コミュニケーションが生まれるような連携ができるよう、働きかけています。
私自身も、社長の吉田とマーケティング部門の執行役員の松村が参加する、毎週1回の定例ミーティングを行っています。お互いの組織の状況を把握しあい、何かあったらすぐに施策を打てるようにしています。
事業の拡大フェーズにあわせ、組織の最適解を探る
井出 おわりに、今後の展望についてお聞かせください。
遠藤 The Model型で安定した営業体制が築けていますが、組織の壁がないわけではありません。商談・受注につながる新たな方法論を確立するなかで、壁にぶつかり、乗り越えてきました。
ここ1年で起きた組織の変化は、パートナーセールスの専任部署の立ち上げです。The Model型の組織のままではスケールが難しい領域だと判断しての取り組みです。
また、CSも求められる役割が進化しています。sonar ATSの活用を通してお客さまの採用活動を支援しながら、より付加価値の高いご提案ができるように取り組んでいます。
このように、事業の拡大フェーズにあわせて試行錯誤しながら、組織の最適解を探っています。組織の壁は都度現れるもの。乗り越えるための変化は必要です。
sonar ATSがお客さまの採用活動のパートナーとなるよう、セールス部門は一丸となって機能を強化し、次のステージへと向かいたいです。
才流コンサルタントが要点を解説
The Model型を採用する背景はさまざまです。Thinkingsさんのケースでは、「支援できるお客様を増やす」という明確な目的がありました。
セールスパーソンひとりがすべてを対応するアカウント型営業から、The Model型による機能分化を進め、増え続けるリードへの対応が停滞しない体制を築いた事例です。
現在、マーケティングに大きく投資し、新規のお客さまとの接点を増やしているところです。ウェビナーの実施や広告出稿を積極的に行い、数年前とは比べられない数のリードや商談が生まれています。
Thinkings 遠藤さん
商談件数は昨年と比べて倍近くありますが、FSがしっかりと対応できており、現在の導入実績社数の伸びにつながっています。
マーケティング投資によって商談が増え続けることを予期し、それに対応できる体制に切り替えたことが急成長につながりました。
また、課題起点で体制のありかたを検討し続けている点も参考になります。「The Modelの導入後も、パートナーセールスの専任チームを立ち上げるなど、事業のフェーズや課題にあわせて、組織体制をチューニングすることで壁を乗り越えてきました」と、遠藤さんは話していました。
営業組織の改善において、「どの体制がベストプラクティスか」という質問をいただくことがあります。まずは自社が今後どうなっていきたいか、そのうえでどんな顧客対応が望ましいのかを起点とし、組織を構築することが重要だと再認識する事例でした。
Thinkingsの遠藤さん、ありがとうございました。
連載「営業組織のブレイクスルー」
第1弾 ベルフェイスに聞く、エンタープライズ営業の生産性を最大化する営業プレイブックのつくり方
第2弾 ビジネスモデルに適した営業組織と「当たり前をやり切る」で成長を続けるBOXIL SaaS
才流では、あるべき営業の進め方を整理し、営業の属人化の解消を支援しています。属人的な営業活動からの脱却や営業担当者の早期成長をご希望の方は、お気軽にご相談ください。
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