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競争優位性を見いだせなかった新規事業が「プロダクト×人」で突破口を見つけた話

新規事業
インハウスエディター
安住 久美子

新規事業に取り組んでいると、多くの壁にぶつかります。なかでも乗りこえるのが難しいのは「サービスやプロダクトの優位性を見つけられない」「PMF(※)までの道のりが見えない」という壁です。

※PMF:Product Market Fitの略。顧客を満足させる商品を、正しい市場に提供していること。

勝ち筋が見つからないため売上が伸びず、なかなか追加予算や開発ができない。大規模なプロモーションが展開できない。売上目標だけは会社から決められているのに、打ち手が増やせない

さまざまな制約の中で、理想と現実のギャップを抱えている新規事業担当者の方は多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、大企業での新規事業立ち上げ、スタートアップ創業などの経験を持つ才流の新規事業部門責任者 石田にインタビュー。「新規事業で競争優位性が見いだせない場合に、どのような打ち手が考えられるのか?」ヒントを探っていきます。

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才流 石田

話し手
石田 啓 / Ishida Tasuku(才流 新規事業部門責任者)
株式会社ディー・エヌ・エーでEC事業部で新規営業、事業開発グループで中国EC市場やシニア市場の新規事業調査などに従事したのち、株式会社ユニラボを共同創業。BtoBポータルサイト「アイミツ」で営業、カスタマーサポート、マーケティングの立ち上げを行う。ベルフェイス株式会社では、オンライン商談システムのプロダクトマネージャーを務める。

※関連記事:PMF(プロダクトマーケットフィット)達成ガイド~基礎から事例まで、新規事業を成功に導くためのコンテンツ集

※関連動画:新規事業の理想と現実【ギャップを埋める突破口】を見つけた話

「すぐにPMF」が理想だが、時間もリソースもない現実

ー 才流では新規事業のマーケティングを支援していますが、お客様からはどのようなご相談をいただくことが多いのでしょうか。

石田 さまざまなケースがあるため一概には言えませんが、比較的多いのは「PMFを目指して事業を立ち上げたがうまくいかない」というご相談です。サービスやプロダクトの強み、優位性を見つけられていない、強みに確信を得たい、などの理由から弊社にご相談をいただいています。

企業規模はまちまちですが、新規事業を立ち上げてから1〜2年間模索を続けており、なかなか先行きが見えない状態だという方が多いです。展示会に出展したり、広告運用をしたり、考えうるアクションは行ったものの成果が出ないと、課題をお持ちなんですよね。

課題の背景には、どのようなことが考えられますか?

石田 背景には、事業立案時の仮説検証の弱さがあると思います。新規事業を生み出す際は、スモールスタートで仮説検証を繰り返すのが定石です。

才流の新規事業開発部門 責任者 石田

世の中に必要とされること、プロダクトとして優位性があることを立証できるまでは、無理に拡大路線をとらず、水面下で虎視眈々と事業を磨く。これにより、事業の成功確度を上げられるのです。

この手法はスタートアップでも推奨されており、売れる手応えをつかんでから資金調達を行い、事業成長にシフトする企業が増えています。

ところが、大手企業の場合は、組織の制約や要望があり、十分な仮説検証期間が取れないことも多いようです。中期経営戦略や事業計画上、「売れる手応え」の有無にかかわらず、売上拡大を求められることが多いのです。

また、大企業でよくあるのが、既存事業で優秀な成績を残した担当者に新規事業の責任者を任せるケースです。

既存事業の場合、これまで培ってきた経験があり、ベテラン担当者がいて、安定した顧客基盤があります。一方新規事業には、実績も顧客基盤もありません。事業推進のアプローチでやるべきことは、既存事業とはまったく違うのです。

これらを留意せず、既存事業から新規事業担当に異動し、慣れない仮説検証のフェーズで苦労する方が多いんです。

仮説検証が甘いために、思うように事業運営が進まない。しかし、事業計画・目標を達成するために、目下の売上を作ることにばかり動き、なかなかPMFまでのロードマップを描けない。結果、売上が伸びないので予算の確保も難しいこうした負のループに陥ってしまう会社は多いですね。

※関連記事:新規事業を成長軌道に乗せるBtoBマーケティング【才流ウェビナーでのQ&Aを公開】

「ポーターの3つの基本戦略」は理想だが、着手できない現実

ー 新規事業がなかなかPMFしない場合、どういうアプローチが考えられるでしょうか。

石田 アプローチは多岐に渡りますが、有名なフレームワークのひとつである「ポーターの3つの基本戦略」を検討している例は多いと思います。

「ポーターの3つの基本戦略」とは、アメリカの学者マイケル・ポーターが提唱したもので、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つを指します。

ポーターの3つの基本戦略

コスト・リーダーシップ戦略

価格競争。他社より価格を安く提供することで、優位性を見い出す戦略

差別化戦略

競合他社が簡単にまねできない状態まで自社の商品・サービスを差別化し、顧客に認知してもらう戦略

集中戦略

特定のターゲットや市場セグメント、特定の流通チャネルなどに集中する戦略

「ポーターの3つの基本戦略」は有名ですし、重要性を認識している方も多いと思います。ただ、実際には、なかなか着手できないんですね。

例えばコスト・リーダーシップ戦略では「ちょっと安い」程度ではなく、「圧倒的に安い」を実現しなければ優位性があるとは言えません。大幅な値下げには、プロダクトの開発プロセスや仕組みから変えていく必要があるため、なかなか踏み出せない企業が多いのです。

価格を下げることで、LTV(※)が低くなる懸念もあり、マーケティングの打ち手を狭めてしまうリスクもありますよね。

※LTV:エルティーブイ/Life Time Valueの略。1顧客が生み出す粗利の合計(顧客生涯価値)のこと。

LTVが低いと、マーケ施策の採算が合わず、選べる打ち手も少ない
※関連記事:LTV・CACの計算方法とよくある質問への回答

差別化戦略は、競合と違う機能や特徴を追加するために投資が必要ですが、ただの機能開発では意味がありません。顧客が魅力を感じ、認めてくれる独自性を付加しなければならないからです。

しかし現実的には、仮説検証に時間をかけられないジレンマを抱えている企業が多く、独自性を見つけるのは簡単ではないでしょう。

また、集中戦略に踏み切れない一因としてあるのは、「市場を絞ると商品の可能性も狭まってしまうのでは?」という恐怖です。

例えば、集中戦略で市場を絞ると、対象とする市場以外の売上を捨てることになります。決断はなかなか難しいですよね。

まだ顧客がいない場合は、情報が少ないので精度の高い市場選択が難しく、結果的に集中戦略には踏み出せない企業も多いようです。

競争優位性を見いだせなかったSaaSが突破口を見つけた話

ー 理想と現実には大きなギャップがあるのですね。では、このギャップを埋めるためにはどのような打ち手が考えられるでしょうか。

石田 私が過去に支援した新規事業の例を1つあげてみましょう。その会社では、在庫管理SaaSを新たに開発したものの、販売できたのは既存プロダクトの顧客数社のみ。なかなか売上が伸びませんでした。

競合他社の商品と比較して誇れる優位性はなく、価格の強みもない。販売実績が少ないために社内で追加予算の承認も下りず、新機能開発も積極的な広告投資もできない。まさに八方塞がりの状態で、なんとか突破口を探っていたのです。

在庫管理SaaSが持っていた課題

ご相談をうけて、最初に「ポーターの3つの基本戦略」に沿って考えました。

しかし、コスト・リーダーシップ戦略は難しいと判断。これ以上プロダクトの価格を下げてしまうと赤字になり、事業計画の達成から遠のいてしまうからです。

プロダクト単体での差別化戦略も難しく、集中戦略では既存顧客、顧客基盤、社内人材・人脈、地域や商流など、企業資産を活用できないか検討しました。しかしこちらでも、優位性がある切り口は見つけられなかったのです。

ー すべての戦略を検討しているので、次の打ち手を探すのには苦労しそうですね。どのようにその道筋を描いたのでしょうか?

石田 事態を解決に導いてくれたのは、同時に進行していた見込み顧客インタビューでした。「在庫管理SaaSは導入が複雑で、非常に苦労した」という声があったのです。

くわしくヒアリングや調査をしてわかったのは、既存の販売管理システムや基幹システムとの連携がうまくいかず、導入が失敗に終わったケースがあるということでした。

「導入」が課題になっているのであれば、導入をスムーズに進めるためのサポートが顧客にとっては価値になるのではないか。

それまで同社では、優位性をプロダクトのみで考えていました。しかし、顧客にとってサポートが重要なプロダクトは、「プロダクト×人」で優位性を作れるものだと気づいたんです

そこで、サービスページを刷新し、「手厚いサポート」というあいまいな表現ではなく、カスタマーサポートの範囲や具体的な内容を明示しました。「プロダクト×人」の価値訴求をして、差別化したのです。ここから実績を積み上げ、オペレーションを最適化できれば、十分に勝ち筋があると判断しました。

このように、プロダクトの競争優位性を柔軟にとらえなおすことが重要だと思います。

プロダクトと人。サービス全体で競争優位性を見い出す考え方

ー なるほど。プロダクトと人を組み合わせて、価値をあげていくということですね。他にも、とらえ方はあるのでしょうか?

石田 はい、考えられるパターンは3つあります。

ひとつずつ、ご説明したいと思います。

新規事業で競争優位性を見つける突破口

まずプロダクトがフックで、人がエンド商品となるケースです。プロダクトは価格を下げて広く使ってもらい、そのあとで人による高単価のサービス(コンサルティングなど)を導入してもらうためのフックにするのです。

例えばAWSの総合支援を行っているクラスメソッド株式会社。AWS活用の最適化、セキュリティ環境の構築、請求管理など、人による総合的な支援を行っています。AWSの正規パートナーであるため、AWSが安く提供できるというプロダクトのメリットをフックに、導入後のサポートを充実させ、競争優位性を高めています。

事例
出典:クラスメソッド株式会社 AWS総合支援サービスサイト
新規事業で競争優位性を見つける突破口

次に、先ほどご紹介した在庫管理SaaSのような「プロダクト×人」で価値を生み出すパターンです。

マーケティングツールと運用支援を提供するReproでも、以下のコピーからもわかるように「ツールと人の力」をセットで訴求しています。

出典:Reproのプレスリリース
新規事業で競争優位性を見つける突破口

最後に、人がフックになり、プロダクトの価値を高めるケースです。

サブスクリプション統合プラットフォーム Bplats® Platform Edition v3(※)を提供するビープラッツ株式会社は、「人がフック商品、プロダクトがエンド商品」の好事例だと思います。

同社の子会社であるサブスクリプション総合研究所は、サブスクリプションビジネスを中立的な立場で研究・啓蒙し、コンテンツ発信を行っています。ユーザーは、“サブスクリプションのスペシャリストが提供するプロダクト”という点に価値を感じ、購買しているのではないでしょうか。

※サブスクリプション統合プラットフォーム「Bplats®(ビープラッツ®)」は、2022年10月に「Bplats® Platform Edition v3」と名称を変更しています。

出典:株式会社サブスクリプション総合研究所

つまり、顧客はサービスに対価を払っているのであり、プロダクトはサービスの一部分。機能はプロダクトの一部だと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。

小さくても「優位性を高める切り口」を徹底的に探すことから

ー 新規事業が軌道にのらないと悩んでいる方は、まず何からはじめればいいでしょうか。

石田 新規事業を初めて立ち上げる方にとって、打ち手の見つからない状況はとても苦しく、大きな不安が押し寄せるものだと思います。会社や組織の事情で十分に予算を確保できない、人員が足りないなどの制約があれば、不安はなおのことでしょう。

僕が新規事業と向き合ううえで一番大切にしているのは「優位性が見いだせる切り口」を徹底的に探すことです。

大きな切り口でなくても構いません。小さくても良いので、現状を打破できるアプローチを探すことが重要です。

そして、そのためには頭のなかで考えるだけではなく、顧客、市場、自社が持っている企業資産などをくまなくリサーチしましょう。

もちろんプロダクトによっては集中戦略を選んだほうが良いケースもありますし、可能なのであればコスト・リーダーシップ戦略も有効です。ケースバイケースではありますが、もし新規事業で行き詰ってしまったら…「プロダクト×人」で価値をとらえなおす方法は、突破口を探すヒントになるはずです。

ぜひ参考にしていただけたらと思います。

才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、新規事業の立ち上げからPMFに至るまで一気通貫で支援しています。新規事業で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)


インタビュー・執筆 

鈴木 詩乃/Suzuki Shino(ライター・編集者)
1995年生まれのライター、編集者。多摩美術大学美術学部を中退後、デザイン専門学校在学中にライターとして活動を開始。現在は医療DXプラットフォームで働きながらフリーランスのライター、編集者としてインタビュー記事やエッセイなどの執筆に携わる。函館・東京・京都での三拠点生活を行いながら心地よい暮らしの在り方も実験中。

スライド作成

トヨマネ|パワポ芸人 @toyomane

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