BtoBマーケティングの一施策として、導入事例を作成する企業は増えています。
導入事例は、実際に商品やサービスを利用した顧客の声で、検討までのプロセスや、利用した感想、成果を伝えてもらうコンテンツです。特に、導入までの意思決定フローが複雑で、口コミが生まれにくいBtoB製品・サービスにとって、理解を促進するために有効な手段だと言えます。
しかし、「いつ、どのような内容で作ればよいのか」「インタビューはしたものの、うまくまとめられない」など、課題を抱えている方も多いようです。
本記事では、導入事例を作成する目的や効果、目的別の型を紹介します。また、導入事例インタビューのテンプレートも用意しました。自社の製品・サービスに合わせてカスタマイズし、ご活用ください。
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BtoB導入事例を公開する目的と効果
BtoBの導入事例には、主に「認知獲得」「サービス理解や社内検討促進」という2つの目的があります。自社の目的は何なのか、まずは明確にしておきましょう。
導入事例の制作過程では、迷うことが多々あります。「どの顧客に依頼をすれば良いのか」「どんな訴求をすれば良いのか」。目的が明確であれば、こうした疑問に対し、正しい判断がしやすくなります。
認知獲得
知名度やターゲットへの影響力が強い顧客の導入事例は、自社のサービスの認知拡大に貢献します。
例えば見込み顧客が、同業他社にあたる顧客の社名を足がかりに導入事例を見ることで、自社サービスを認知する場合もあります。
サービス理解や社内検討の促進
導入事例は、見込み顧客が製品・サービスから得られる成果を理解し、社内で稟議を通す際の説明材料にもなります。
法人の意思決定は非常に複雑です。担当者のみでは意思決定ができない場合が多く、既存サービスからのリプレイスの場合はコストやリスクも高い。さらにサービスによっては、導入の成果や実感が長期間得られないこともあるため、意思決定が複雑化します。
- 自社が導入しても再現性のあるサービスなのか
- 成果を出すためのポイントは何なのか
- 実際、どのような成果が生まれるのか
など、見込み顧客の気になるポイントを導入事例を通じて解消することで、検討を促すことができます。
また、上記に挙げた2つの目的以外に副次的な効果として、自社の商品・サービスを導入後の顧客と直接話をする機会が得られることがあります。
デジタルマーケティングの重要性が増している現代、顧客と話をする機会が少ないマーケターの方も多いようです。事例の取材で顧客と直接話をすることで、マーケティング活動上の課題に気づけたり、サービスへのフィードバックも期待できます。
マーケターは積極的に事例取材に参加し、顧客の本音を引き出す場にできると良いでしょう。
BtoB導入事例の目的別3つの型
最適な導入事例の形式は、事業の戦略によっても変わります。
本稿では、アメリカの著名なコンサルタントであるM・トレーシーとF・ウィアセーマによって書かれた「ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング」において提唱された優良企業の3つの価値基準に沿って、導入事例の型を紹介します。
重視する戦略によって、事例コンテンツの方向性や見せ方が変わります。自社がいずれの戦略に重きをおいているのか、事例を作成する前に定めておきましょう。
1.プロダクト・イノベーション(製品のリーダーシップ)
プロダクト・イノベーションとは、革新的な新製品を開発して、差別化を図ることです。
出典:https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11980.html
この戦略を重視している商品・サービスであれば、単純な便益はもちろん、商品・サービスを通じてお客様がいかなる体験をしたのか、体験の中でどのような感動を覚えたのか、表現する必要があります。
2.オペレーショナル・エクセレンス(経営実務面での卓越性)
オペレーション・エクセレンスとは、企業が価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げること。商品や顧客との関係性ではなく、品質やスピード、コストによる優位性が競争の源泉です。
出典: https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11736.html
導入事例では、導入の容易さや得られた便益、具体的な成果について、明確に示すことが求められます。また、導入事例そのものの件数や業界別・職種別などカテゴリごとのユースケースなども期待されます。
3.カスタマー・インティマシー(顧客との親密性)
カスタマー・インティマシーとは、顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで囲い込み、長期に安定的で良好な関係を築く考え方。
出典:https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11733.html
提供した商品・サービスの内容に加え、提供過程や結果によって、企業と顧客がどのような関係性を築くことが出来たのかを表現するコンテンツが求められます。広告代理業やコンサルティングといった事業体がイメージしやすいでしょう。
定量だけではなく、定性的な情報が求められるため、写真や動画を活用したコンテンツも有効です。
BtoB導入事例の制作プロセス
次に、導入事例を公開するための段取りを具体的に解説します。
1.ご協力いただける既存顧客を見つける
顧客の中から、インタビューにご協力いただける方を探します。ポイントは、受注前から準備をしておくことです。営業担当者が受注前の時点で「事例取材にご協力をいただけるか?」を顧客に確認するプロセスを構築しておきましょう。
なお、導入事例取材の許諾についてはSAIRU NOTEの「導入事例を制作するための取材許諾の取り方~依頼メール・文書のテンプレート掲載」で詳しく解説しています。併せてご活用ください。
2.取材の準備をする
前述した「BtoB導入事例の目的別3つの型」を意識して、導入事例の構成を決めておきます。インタビューで顧客からどのような話を伺うべきか、質問内容を取り決めてから臨みましょう。取材までに確認しておきたい内容は、次のとおりです。
取材日時・場所
リモートワークで普段は出社をしていないという会社も増えています。どの場所で取材できるのか、確認しておきましょう
参加者の確認
人数が多すぎると、記事にする際まとめるのが難しい場合があります。目的や内容に応じて、人数を絞ることも検討しましょう。また自社からも営業担当者や責任者の同席が必要か、確認しておきましょう
所要時間
大抵、1時間あれば質問はできます。参加人数が多い場合は発言数が増えるため、余裕を持って時間設定をしておきましょう
撮影の許可
会社のロゴの前など、撮影したい場所を伝え、事前に許可をとっておきましょう。大手企業などでは、事前に撮影の申請が必要な場合があります
カメラマン・ライターの手配
外部のカメラマン・ライターに依頼をする場合は、前もって手配しておきましょう。事例取材は自社の商品やサービスの理解が重要になるため、ライターとは事前に打ち合わせを行いましょう。また顧客に関する留意事項なども、併せて共有しておきましょう
当日の集合場所
カメラマンやライターとの待ち合わせ場所や、オンライン参加などの有無も事前に確認しておきましょう
インタビュー内容
基本的な質問項目は、インタビューテンプレートにまとめていますので、カスタマイズし、ご利用ください。また質問内容は顧客にも事前に共有しておくと、インタビューがスムーズに進行します
前日のリマインド
取材日前日に、顧客と社内の関係者、ライター・カメラマンなどにリマインドしましょう
3.取材を実施する
取材当日は、議事録と並行して動画の撮影や音声の録音を行いましょう。また、撮影や録音については、事前に顧客に一言お伝えしておくと安心です。
インタビュー、撮影を終えたら、顧客に今後のおおまかなスケジュールを顧客に伝えておきましょう。
4.記事を書く、編集する
インタビュー内容をもとに、記事を執筆します。ポイントは、あくまでも前述の3つの戦略に沿った記事を仕上げることです。
例えばカスタマー・インティマシーを重視している企業が、数字的な成果ばかりを強調しても、顧客との長期的な関係性を訴求できません。自社が導入事例を作成する目的に立ち戻り、どのような訴求が必要か見極めましょう。挿入する写真も同様です。
またインタビューでいただいた顧客の「生の声」は貴重です。淡々と事実のみを紹介するのではなく、顧客が商品・サービスを使ったことで得られた「気づき」「感動」「学び」「感謝」なども記事に盛り込むことで、共感しやすく、読みやすい記事になります。
誤字・脱字
特に顧客の社名、サービス名、担当者名などは念入りにチェックしましょう
文体の統一
「です・ます」「~だ・である」など文体は統一しましょう
一文の長さとわかりやすさ
一文が長すぎると、内容がわかりにくくなります。適宜文章を切りながら、リズムをつけましょう
難しすぎる漢字、2つ以上の意味を持つ漢字、業界用語、略語はないか
漢字はひらく、業界用語は注釈を加える、略さないなど、誰が読んでもスムーズに読み進められるか。意識してチェックします
- 自社の商品・サービスを知らない人が読んでも、理解できるか
- 社内での編集完了後は、必ず顧客にチェックを依頼する
なお、誤字・脱字などは、社内での複数人がチェックすると同時に、Wordの校閲機能やオンラインの校正サービスなどを利用することをおすすめします。
5.公開する
制作した導入事例を公開します。公開前には、写真に誤りがないか、原稿は最新のものか最終チェックを行いましょう。公開日が確定したら、顧客にもお伝えしておきましょう。
また、Webサイトに公開するだけでなく、見込み顧客に効果的に届けられるよう、次の対応もしておきます。
- プレスリリースの配信
- SNSでのシェア
- メールマガジンの配信
- 業種や業界、企業規模別の事例集PDFを作成し活用
BtoB導入事例についてよくある質問と回答
Q. 導入事例に協力してくれるお客様が見つかりません
事例許諾を獲得するポイントは「導入事例を制作するための取材許諾の取り方~依頼メール・文書のテンプレート掲載」で詳しく解説しています。
- お客様への依頼方法とタイミング
- 社内調整
ポイントはこの2つです。それぞれ現状と課題を洗い出し、適切な対策をとりましょう。
Q. サービス特性上、社名NGの企業が多く困っています
顧客情報を伏せた上で、課題解決事例としてコンテンツを作成しましょう。課題や解決までのプロセスをわかりやすくすることで、見込み顧客が必要とする情報になるでしょう。
さらに、業種や社員数など、見込み顧客の関心事である情報を付与することで、会社名がなくとも事例として十分な品質のコンテンツになります。
Q. 導入事例は何件程度集めれば、十分でしょうか?
サービス内容やターゲットによって、求められるコンテンツ量は変動します。
株式会社WACULの研究レポートによれば、事例コンテンツは最低12件、必達30件を目指すことでコンバージョン率に好影響を与えると言及されています。弊社でも参考数値としてよく提示しています
■SaaSを扱うB2Bサイトにおける事例紹介ページの改善策の提言(株式会社WACUL)
Q. 内製化すべきでしょうか?外注すべきでしょうか?
リソースに合わせて適切なオペレーションを構築すれば、内製・外注、どちらでも問題ありません。
例えば、才流の導入事例は、ライター・編集・カメラマンは業務委託メンバーと協力して制作しています。
プロダクト・イノベーション、カスタマー・インティマシー、この2つの型におけるインタビューは、お客様とサービス提供に関わる担当者が直接話をする形式が求められるでしょう。
一方、オペレーション・エクセレンスな戦略を重視しており、定量的な情報を複数掲載したい場合、外部人材を活用してコストや収集速度の最適化を目指しても良いと考えます。
BtoBマーケティングにおいて、導入事例の作成は必須と言ってもよいでしょう。個人的には、規模や導入数に関わらず、最も早い段階で取り組むべき施策の1つであると考えています。
本記事により導入事例作成がスムーズに進み、見込み顧客に良質な情報提供ができる一助となれば幸いです。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、マーケティング戦略立案から施策実行まで支援しています。マーケティング活動で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)