ビジネスの革新を支援する幅広いサービスを提供するTIS株式会社様。システム・インテグレーションやコンサルティング、クラウドサービスなど、グループ全体で約290ものサービスを提供しています。
今回才流がご支援したのは、法人向け経費精算システム「Spendia(スペンディア)」のマーケティング戦略立案と施策実行の伴走です。
「プロのメソッドを社内に浸透させ、部門を超えた共通認識を持って進みたい」―営業・マーケティング・開発の部門を超え、Spendiaの強みを議論し、売るための仕組みを再定義するプロジェクトになりました。
Spendiaの営業を統括する伊丹様、企画・マーケティングを統括する河口様、マーケティングの担当者阿部様にお話を伺いました。
たしかなメソッドのもと、部門を超えた共通認識を作りたい
ー Spendiaは2019年にサービスをリリースし、4年目。事業の成長とマーケティング活動の変遷をお聞かせください。
河口 当事業部門ではコア事業としてERP(会計システム)を提供しており、ERPに経費精算システムを登録するためのフロントシステムとして、オンプレミスの「経理参上(※現在は提供終了)」というサービスを提供していました。
河口 経費精算の事業には長く取り組んでいますが、スマートフォンが普及し、働き方やお金のあり方も変わるなかで、新しいアーキテクチャを用いた次世代の経費精算システムが必要だと考えました。そこで立ち上げたのが「Spendia(スペンディア)」です。
2018年夏ごろから仮説検証を進め、2019年4月にはサービスとしてリリース。立ち上げ後は、既存のお客さまのなかでも比較的大手の企業に対して、地道に営業活動を進めてきました。
また、我流ではありますが、STP分析をしたりペルソナを作ったり。それらに沿ったセールス資料やWebサイトも作り、マーケティング施策を実行してきました。
SaaSですから、サービスをリリースして完成ではなく、プロダクトアウトとマーケットインのバランスをとりながら、改善し続ける必要がある。当初から、マーケティング主導でやっていかなければならないと感じていたんです。
ただ、当社は開発の会社なので、社内におけるマーケティングの認知は高くありませんでした。「そもそもマーケティングって何だろう?」「マーケティングって、プロモーションでしょ?」といったイメージを持つ人も多かったんです。
また、お客さまにサービスを日々デリバリーをしている開発部門からすると、マーケティングの成果はすぐに見えるものではないので、疑問を持つのもわかります。
これまでもコミュニケーションはとってきましたが、これからさらに事業を拡大していくフェーズなので、「各部門でしっかりと腹落ちしてもらい、一緒に進んでいきたい」という気持ちがありました。
ー 才流に依頼するきっかけは、何だったのでしょうか?
伊丹 才流に依頼しようと言いだしたのは、私です。
われわれはSlerの営業、Slerの開発、Slerの企画としてずっとやってきたので、マーケティングに対するたしかなメソッドを持っていなかったんですよね。「GTM(ゴートゥマーケット)が弱いよね」と相談をしていたものの、手探りで進めている部分がありました。
そんなとき、マーケティングについて検索をしていて才流を知ったんです。メソッドがわかりやすく、しかも惜しみなく公開されているのを見て、相談をさせてもらいました。
才流に入ってもらい、まずはSpendiaでメソッドを身につけ、実行したい。そうすれば、他のサービスにも展開できるのではないかという期待もありました。
河口 伊丹さんから話を伺い、私も第三者のプロに入っていただいたほうが、部門間の合意形成がしやすいだろうと考えました。今までやってきたことが間違いだったわけではないんですが、あらためて軸を作りたい。組織の共通認識を持って進みたいという気持ちは強かったですね。
「誰に、どんな価値を提供するサービスなのか?」問い直す
ー プロジェクトでは、具体的にどのようなことを行いましたか。
高橋 TIS様からは「2年後までに、Spendiaのユーザー数を2倍にしたい」とのお話がありました。そこで現状の調査分析をふまえて、プロジェクトのスコープを絞り込みました。
高橋 まずは、大企業向けのマーケティングや営業を強化することです。
大企業のかたにとって使いやすく、興味を持っていただきやすいサービスだという認識はTIS様も持っており、実際の顧客も比較的大きな企業が多いんです。Webサイトやサービス資料などで、その事実を大企業の見込み顧客にしっかりと伝えるべきだと考えました。
そして、見込み顧客にメッセージを伝えるためには、Spendiaの強みも言語化する必要があります。
社内のみなさんに聞いたところ、「Spendiaの強みは柔軟性だよね」という意見が多かったんです。しかし「柔軟性って何なのか」と紐解いていくと、実はみなさんの解釈が少しずつ違っていたんですよね
そこでワークショップで「柔軟性」という言葉についてみなさんで整理したり、バリュープロポジションを作ったりしながら、認識をすり合わせていきました。
誰に、どんな価値を提供するサービスなのか。言語化することで、訴求メッセージが作りやすく、営業のみなさんも売りやすい状態を作れます。
さらに、TIS様の既存取引先へのアプローチ強化もご提案しました。
注力すべき顧客や提供する価値が明確になると、Spendiaは既存取引先との相性が非常にいいことがわかってきたんです。
ただ、営業担当は複数の商材を取り扱っているため、既存顧客に対し十分にリソースを割ける仕組みにはなっていない。まずは、最適な営業の仕組みを構築していくことが重要だと感じました。
そこで、既存のアカウント営業担当にヒアリングをしながら、ABM(アカウントベースドマーケティング)を強化することをご提案しました。
今実際に、アカウントリストを作成いただいているところです。
「強み」が明確になり、営業が自信を持って売れる状態に
ー ワークショップやバリュープロポジションを作成するプロセスは、どのように感じましたか?
阿部 高橋さんが言っていたように、ワークショップをやる前は「柔軟性」という言葉の解釈が、それぞれ違っていたと思います。
営業のかたは営業しているなかで感じることがありますし、開発、マーケ側も考えていることがある。それぞれにとって使いやすく、便利なものとして「柔軟性」という言葉が存在していたわけです。
私自身もSpendiaのマーケティングを担当して間もないころだったので、正直「柔軟性って何だろう」と思いながらワークショップに参加しました。
でも、ワークショップや才流とのミーティングを通して、Spendiaの本当の価値がとてもクリアに見えるようになったと感じます。各企業が経費精算システムに求める特有の要件があり、フィットさせられるプロダクト特性や支援体制が強み。ここから、「Fit to Company」という言葉も生まれました。
いまは、この言葉をもとに訴求メッセージの改善などを進めています。
河口 これまでは、「柔軟性とは」のようにピンポイントにテーマを絞り、ディスカッションする機会はありませんでした。ストラクチャーで考えていき、ピンポイントで深く検討していく才流のやり方は新鮮でしたね。
メンバーも自分なりの考えをまとめてのぞみますし、それぞれの立場からの観点も理解でき、とても有意義だったと思います。
伊丹 結果として、びっくりするような内容が出てきたわけではないんですが、みんながうすうす思っていたことを、しっかり言語化できた。これが非常に大きな成果なんです。自分たちだけでは、なかなかできないことですね。
現場の営業担当も、Spendiaの価値が明確になったことで、自信を持てるようになったと思います。「お客さまにはここが刺さっているよね」とそれぞれ考えていたことが、共通認識として言語化されましたから。
高橋 いま、明確になった訴求メッセージに合わせて営業資料も作成していただいています。まさにこれから、それを使って多くの方にお伝えするフェーズということですね。
顧客の声を聞き、事実を積み上げていくことの重要性を実感
ー プロジェクトを通じて、印象に残ったことはありますか?
河口 既存顧客に直接インタビューをして、ファクトベースで議論し、改善するという一連のプロセスは非常に印象に残っています。顧客に話を聞く手法は、今後われわれも取り組んでいきたいと思います。
阿部 私も、才流の進め方は印象に残っています。
前職ではBtoCのマーケティングをしていたので、統計データから予測していくような方法でした。BtoBではそれだけではなく、一貫して顧客理解のために情報を集め、信憑性を確かめ、一段一段積み上げていくのが特徴なんだなと。半年間一緒にやらせていただいて実感してるところです。
伊丹 顧客インタビューを通して、自分たちでは気づいていなかったこと、うすうす感じていたけれど言語化できていなかったことを確認できました。Spendiaの「柔軟性」という強みもそうですし、TISに対し、SIerの対応力とか安心感みたいなものをお客さまは感じているということ。それが後押しになって契約をされているということもあらためて実感しました。
組織で共通の軸を持ち、同じ方向を向いて進む準備が整った
ー プロジェクトを通して、一番の成果は何だと思いますか?
河口 今回のプロジェクトで、共通の軸を持ち、やるべきことの優先順位を明確にできたのは大きな成果だと思います。
阿部 私も、それぞれの部門でやるべきことが明確になり、整理して進められるようになったと実感しています。
「Webだったら、この数字を見ていきましょう」とか、「代理店戦略は、今回の施策とは切り離して違う目線でやっていきましょう」などの会話ができる。ABMを進めるうえでも、営業チームはまだどうやっていいかわからない状況にあると思うので、うまくサポートしていきたいです。
部門ごとの目標感も、寄り添ってきたと感じますね。これまでは営業は受注、マーケはMQLをそれぞれ追ってきたわけですが、いまは「どうリードを広げていくか」「見込み顧客をどう増やしていくか」に注力するようになった。同じ目線で会話ができるようになったと感じます。
野田 営業・マーケティング・開発の3部門それぞれに思いがあり、それぞれの役割を持っていらっしゃる。そのなかで、共通の軸をもとに進める体制が整ったのではないでしょうか。
われわれのプロジェクトはきっかけにはなったのかもしれませんが、各部門のみなさまが「事業を成長させたい」「良い方向に変えていきたい」という思いがあったからこその成果だと思います。
伊丹 マーケティングの人たちも、以前より営業チームによく入ってきてくれるようになりましたよね。
才流の手法に触れて、「メソッドに落とし込むとこういう結果が出るんだ」というのを体感できたことは、いろいろな思考の基礎になりました。Spendiaだけでなく、他のサービスで戦略を立てるときにもいかせると思います。
河口 あとは、プロジェクトにかかわっていないマネジメント層や他部門の人に対しても、「プロが言っている」というのはとても説得力がありました。そういう意味でも、才流に依頼をした意味があったと思っています。
一方通行のレクチャーではなく、一緒に考えるから身につく
ー 才流のコンサルタントのコミュニケーションについては、どのような印象を受けましたか?
伊丹 とても丁寧に説明や確認をしてくれますし、期待値を超えた情報提供をしてくれたと思います。
レクチャーではなく、話を引っ張り出してくれて、一緒に考えてくれるのもよかったです。ただ一方的に教えられるだけでは、メンバーが手法を身につけることはできません。自分で考えて言葉にしないと、そのあとも使えるものにはならないですよね。その点も、ありがたかったです。
阿部 高橋さんには、フロントでさまざまなコミュ二ケーションをとっていただき、私の悩みごともこっそり相談させてもらっていました(笑)
野田さんは縁の下の力持ちという感じで、「実はここが大事だよ」というポイントでアドバイスをくださって、とても安心感がありました。
二人いるからこそ、今の形ができていると思いますし、私もTISもすごく助けられてると思います。高橋さん、野田さんに担当いただいてよかったです。
とても丁寧で、メンバーが相談をしやすい雰囲気を作ってくださいました。親身になって考えてくれているのがわかったので、われわれも腹を割って相談ができました。
河口 才流との定例会には、部門を超えて毎回10名くらい参加していたので、進めにくい部分もあったとは思います。そのコミュニケーションをスムーズに進めてくださったのも素晴らしいと思います。
高橋 ありがとうございます。プロジェクトを通じて、各部門のみなさんがもっとご活躍できる状態、もっと成果が出る状態になれば嬉しいです。
マーケティングの文化をこれから作りたい会社におすすめ
ー もし才流の支援を他の会社におすすめするとしたら、どのような課題やフェーズの会社にフィットすると思いますか?
河口 才流に丸投げしてやってもらうというスタンスの会社ではなくて、「自分たちで身につけて、自走していけるようになりたい」と思っている会社のほうがフィットするし、成果も出やすいと感じますね。
伊丹 私は、マーケティングを強化したいけれど、社内に有識者やプロがいないような会社にはいいと思いますね。われわれがまさにそうだったので。マーケティングのプロって、なかなかいないですよね(笑)。
特にサービスを爆発的に伸ばしていきたいときは、外部のプロに頼るのはいいと思います。われわれのようなレガシーのSIerにもおすすめです。
阿部 老舗メーカーとかも、いいかもしれませんね。今まで自分たちが得意としていた商材でずっとやってきたんだけれど、急に立ち行かなくなるみたいなことがあると思うんです。私もそういう会社を担当したことがあります。
社内でどうにかマーケティングに取り組みたい、社員の教育をしたいとき。才流のメソッドを当て込んでいくといいかもしれないですね。社員の意識醸成に、すごく役立つと思います。
伊丹 たしかに、教室でレクチャーを受けるという感じではなく、自発的に考えるのをサポートしてくれる。そういう意味では、文化の醸成にも貢献してくれますね。
阿部 われわれも今回得たものを、うまく組織に広げていきたいです。すぐに100点をとるのは無理かもしれませんが、型は理解できたので。下敷きに沿って、最初は60点、70点ぐらいからでも、自分たちで組み立てていこうと思います。
(撮影/関口 達朗 取材・執筆・編集/安住 久美子)