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「フィールドセールスだけが未達」から受注率が2倍に。FORCASの事例に学ぶABMの基本

法人営業
コンサルタント
政次 貴弘

ABM(Account Based Marketing:アカウント・ベースド・マーケティング)に取り組む企業を取材し、ABMを実践するなかで乗り越えてきた課題やその対策、注意すべきポイントなどをご紹介します。

今回は、株式会社ユーザベース営業DXソリューション「FORCAS」事業部を統括する田口 槙吾さんを取材しました。

聞き手は、才流の営業コンサルタントとして、ABM実行の支援を手掛ける、政次 貴弘です。前後編でお届けします。

前半では、ABMにまつわる誤解と適切な取り組み方、そして、FORCASがABMを始めたきっかけや成果、現在の状況についてうかがいます。

株式会社ユーザベース FORCAS事業 執行役員 CEO
田口 槙吾さん

2016年にユーザベースに参画し、経済情報プラットフォームSPEEDAの営業リーダーを経験後、営業DXソリューションFORCASの創業メンバーとして新規事業立ち上げに従事。FORCAS CRO(Chief Revenue Officer)などを経て、2021年よりCEO就任。ユーザベース参画前は、複数のIT企業にて営業マネジャーや新規事業立ち上げなどを経験。2021年4月より現職。

ABMは、BtoBマーケティングの施策ではない!?

政次 才流では、ABMを次のように定義しています。

ABMとは、ターゲットをアカウント(企業)レベルまで定め、アカウントからのLTV最大化を目指すときに最適な手法です。営業・マーケティングを中心に各部門連携のもとで、アカウントの課題解決を行います。ターゲットアカウントは、既存顧客・新規顧客を問いません。

近年、事業成長の打ち手としてABMに注目が集まっていますが、「ABMとは何か」「ABMでは何をするのか」について、会社や組織ごとに認識や解釈が異なり、成果に結びついていないという課題があると感じています。

才流にも、「ABMに関心がある」「ABMをやっているが成果が出ない」というご相談を多くいただくのですが、ヒアリングをしていくと、「マーケティングチームのみでやろうとしている」「バイネーム(具体的な企業名まで指定すること)のターゲティング企業リストを作っていない」などの状況が見受けられます。

株式会社ユーザベース FORCAS事業執行役員CEO 田口槙吾さん(右)と、才流の営業コンサルタント・政次 貴弘
ユーザベース FORCAS事業執行役員CEO 田口 槙吾さん(左)と、才流の営業コンサルタント・政次 貴弘

田口 おっしゃるとおり、ABMは誤解されやすいですよね。たとえば、大手企業の開拓やBDR(※)の組織を作るなど、「特定の手法をやることがABMである」と捉えている企業は少なくありません。

本来ABMとは、顧客戦略のもと、バイネームの単位までターゲット企業をしぼり、その個社に対してマーケティング、営業企画、営業が一丸となってアプローチしていくことです。

それらの前提があって、初めて展示会やCXOレター、エンタープライズに特化した組織作り、BDRの立ち上げなどの手法を考えていきます。

ABMを検討する皆さんには、「特定の手法=ABMではない」と強く伝えたいですね。

ABMのドーナツ化とは手法ありきで、戦略体制構築ができていないことをいう

政次 ABMに限らず、新しい手法に取り組むと、行動しているという満足感が得られやすいです。また、新しい手法を現状を変えられる魔法のように考えてしまうケースもよくあります。

結果、戦略や体制なしに、手法やツールの導入で満足してしまい、思うような成果が得られないのだと考えます。

とはいえ、自社が適切にABMを実施できているか?の判断は難しいものです。

「ABMに取り組んでいるが成果が見られない」という企業は、まず次の5つのポイントをチェックしてみてほしいですね。

チェックリストは営業部門とマーケティング部門の双方で確認がおすすめ

目標未達から受注率2倍を実現した、FORCASのABM

政次 続いて、FORCASのABMについてうかがいます。聞くところによりますと、ローンチ当初のFORCASは、明確に顧客のターゲティングをしていなかったそうですね。

田口 はい。FORCASは、「ABMソリューション」というサービスメッセージで、2017年6月にリリースしました。

初めは、さまざまな業界の企業に導入いただけると考え、とにかくリードを集めるところからスタートしているんです。

当時は、マーケティング、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)の体制を敷き、私はFSを担当していました。各チームのKPIは、マーケティングがリード数、ISは商談獲得数、そしてFSは受注数でした。

田口 おかげさまで、契約企業は順調に増えていったのですが。次第に伸び悩み、ローンチから1年後には、受注が横ばいの状態が続くようになったんです。でも、マーケティングもISも目標は達成している。FSだけが未達でした。

私もメンバーも、1日に何件も商談しているのに、受注できない。そんな状態が3か月続いた頃、各チームの責任者で集まり「今のモデルでの成長は限界だから、ターゲット企業を絞ろう」と決めたんです。

政次 どのようなセグメントでターゲティングしたのですか。

田口 これまでの商談化率と受注率を分析したところ、2つのセグメントが見えてきました。

1つ目は、SalesforceやMarketoなどのSFAやMAを導入しているSaaS企業。2つ目が、当時デジタルマーケティングに注力し始めていた総合人材業界の企業です。

どちらのセグメントも、商談化率と受注率が高く、さらにFORCAS導入のオンボーディングをはじめとしたカスタマーサクセスも、取り組みやすい傾向がありました。

このセグメントをFORCASで抽出すると、SaaS企業が250社、総合人材企業が350社の、合計600社ありました。そこで、「この600社以外は狙わない」と決めたのです。

政次 すると、各チームの施策も「600社に向けて」が大前提となりますね。

田口 そうです。マーケティングのKPIをターゲット企業リスト内のリード数に、ISのKPIをターゲット企業の商談数に変えました。すると、それぞれの部署の活動が明確に変わったのです。

たとえば、ISはマーケティングが獲得していたリードからとにかく商談のアポをとることに注力していましたが、ターゲット企業リスト内のリードの商談化や、商談に至らなかったリードのフォローをするようになりました。

さらに、ターゲット企業リストの中から商談につながると思われる企業を抽出し、社内のネットワークを使って、電話をしたり手紙を書いたりと、BDRのような活動を行ったんです。

投資を受けていたベンチャーキャピタルへ、ターゲット企業のCEOやCMOを紹介してほしいと依頼し、私も商談へ行きました。社内外で使える手段を総動員し、ターゲット企業へのアプローチに振り切りましたね。

すると、商談化率も受注率も2倍近く上がったんです。受注までのリードタイムも、3か月から2週間へと大幅に短くなり、完全にパラダイムシフトが起きました。

マーケティング施策もターゲット企業との接点作りに振り切る

田口 マーケティングチームの施策も、ターゲット企業と接点を作るための施策に変わりました。セミナーだったら、ターゲット企業が参加したくなる内容にするのです。

具体的な例を挙げると、Marketoユーザー会の歴代チャンピオン(※)3名を呼んで、Marketoの使い方を語っていただくイベントを行い、120名近いMarketoユーザーが集まりました。来場者のほとんどがFORCASのターゲットリードになります。このイベントをきっかけにFORCASを導入くださった企業が多数いらっしゃいました。

政次 ターゲット企業リストを作り、その企業しか追わないと決める。そして、マーケティングもISも、ターゲット企業からのリードや商談獲得に注力する。ターゲット企業に対し、徹底して行動している点が印象的です。

田口 ターゲット企業リストを作ったら、そのターゲットを狙う活動だけに集中する。ABMで大事なことの1つです。

しかし、せっかくバイネームで企業リストを作ったのに、「1回アプローチしてだめだったので、ターゲットを変えて違うリストをつくります」と諦めてしまうケースは多いですね。

政次 リードを獲得する思考のままになっているんですよね。田口さんは、なぜだと考えますか。

田口 リード獲得を前提としたマーケティングは、営業の着地がわかりやすいからだと思います。「1,000リード獲得できたら、商談化率が10%で、さらに受注率が50%。50社は受注できる」というように、活動の目標が立てやすいじゃないですか。

政次 しかし、その1,000リードのなかに、自社のサービスが貢献できるターゲット企業が入っていなければ、徒労になってしまいますよね。思考や施策を「ターゲット企業にアプローチするには?」へ切り替えることは、ABMの非常に重要なポイントです。

田口 おっしゃるとおりです。ABMをやると決めたら、「ターゲット企業とどうやって商談の機会を作り、受注につなげるか?」を考えなくてはなりません。

ターゲット企業リストを更新するタイミングは?

政次 現在FORCASでは、どのような取り組みをしているのでしょうか。とくに、ターゲット企業リストの更新についてうかがいたいです。

田口 ターゲット企業の定義は、機能のアップデートやマーケットの変化で変わっていくものです。

FORCASがローンチした直後のマーケティングメッセージは「ABMプラットフォーム」でしたが、2020年の4月には「顧客戦略プラットフォーム」に変えています。

その理由は、顧客インタビューでFORCASの新しい価値を見つけたことにあります。

顧客インタビューでFORCAS活用の状況をうかがったところ、嬉しいことにとても評判が良かったんです。さらに話を深ぼっていくと、FORCASがマーケティング以外でも活用されていることがわかりました。

たとえば、経営合宿の前にFORCASのデータを見たり、新規事業開発の担当者にもアカウントを発行したりと、お客さまは私たち以上にFORCASの価値を見出して、活用されていたんです。さらに、その傾向はロイヤルユーザーに多かった。

この事実から、「FORCASの活用場面はマーケティング以外にも存在する」と価値を捉え直し、「顧客戦略プラットフォーム」というメッセージに変えました。

政次 さらにFORCASは、2023年1月から「営業DXソリューション」とメッセージを変えていますよね。変更の背景も教えてください。

田口 機能アップデートもありましたが、何よりターゲット企業やマーケットが抱える、本質的な課題にアプローチするためです。マーケティングや営業企画だけではなく、営業まで含めた組織が変わらなければ、事業成長は加速しません。

そのため、「FORCASは、デジタル化(= DX)による営業組織のプロセス変革を強くサポートすることが価値である」という文脈で「営業DXソリューション」へ変更しました。

政次 ABMを進めるにあたって、ターゲット企業リストを更新するタイミングがやってきます。

FORCASでは、プロダクトやサービスの機能アップデート、そして市場や既存のお客さまの課題に応じて、価値を届けられる対象に変化があったときに、リストを更新されていたんですね。

後編の記事「ABMの成功の第一歩は、マーケティングと営業の連携から」に続く


ABMを実践するうえで、マーケティングと営業の連携は欠かせません。しかし、マーケティングと営業の間には隔たりがあり、さらにABMの推進を阻む2つの壁があると田口さんは話します。つまり、組織運営に大きな課題があるのです。

後編では、ABMを成功に導く組織の体制とコミュニケーションのポイントについて解説します。

後編の記事:「ABM成功の第一歩は、マーケティングと営業の連携から」

(撮影:関口 達朗)

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